上 下
95 / 202
第10章:アルピオーネ山脈

第3話:2人の罪

しおりを挟む
「うわっ……。さすがのアリスもドン引きなのデス……。メシア派は狂信者ゆえに、アリスは手加減の一切をしてきませんでしたけど、腹違いと言えども、血を分けた兄弟デスヨ?」

「アリス嬢ちゃん。これが純血の天使の悪癖だ……。自分が正義だと思えば、おこなった行為全ても正義にしちまう悪人だっ!!」

「シャラーーープッ!! アリス殿にドン引きされるのは100歩譲って、許しますけど、七大悪魔に悪人呼ばれされる筋合いはありませんっ!」

 次代の王の首級くびを左手に持ったまま、レオン=アレクサンダーは父王の前に進み出る。父王は半狂乱となり、あの愚か者を討ち取れと、王の間に集まる貴族たちに命令する。しかし、誰一人、王の言葉に耳を貸す者は居なかった。それほどまでに、マケドナルド王国は他国から苦渋を飲まされてきた。そして、王が代わる度に、領土を失ってきたのだ。

 これ以上の他国との弱腰外交を認めることなど、マケドナルド王国の貴族たちには出来なかったのだ。国王が他国に譲歩すると言うことは、貴族たちが真っ先にその損害を被る。そして、その失った自分たちの領地を取り戻してくれるのは、他でも無い、レオン=アレクサンダー様だったのである。彼の守護天使であるアンドレイ=ラプソティは、ベリアルの言う通り、『悪人』そのものであった。だが、マケドナルド王国の貴族たちにとっては『善人』そのものである。

 ここが歴史の面白いところである。他者の眼から見れば、確かにアンドレイ=ラプソティは『悪人』である。しかし、当事者目線で見れば、アンドレイ=ラプソティとレオン=アレクサンダーが結託することは、『望まれた』ことなのである。そして、ひとびとに望まれてやる行為は即ち『正義』なのである。ヒトの視点や立ち位置で、『正義』と『悪』は入れ替わると言って良い事例でもあった。

「ボクは何が正義で、何が悪なのか、わからなくなってきまシタ」

「チュッチュッチュ。人々が望むのであれば、それは善であり、正義なのでッチュウ。さすがはアンドレイ様なのでッチュウ。ベリアル以上に、口車に乗せられないように注意を払っておくのでッチュウ」

「なあ、言ったろ? 悪魔の方がよっぽどマシだって! ほら、アリス嬢ちゃん、我輩と契約して、堕天しようぜ!?」

「シャラーーープ!! アリス殿には立派な天使になってもらうのです。ベリアルはことあるごとに難癖つけて、アリス殿を堕天させようとしないでください!」

 ベリアルからの余計なツッコミをもらいつつも、アンドレイ=ラプソティは話を続ける。何故、アンドレイ=ラプソティがこの話を続けるかと言えば、一番に、アリス=アンジェラがその手で回収した天命の持ち主がどんな人物かを知ってほしいからである。アリス=アンジェラがレオン=アレクサンダーから天命を回収するように命じたのは、創造主:Y.O.N.N様である。

 それゆえに、アリス=アンジェラは『悪』では無い。だが、それでも、アンドレイ=ラプソティにはアリス=アンジェラに知ってほしいのだ。レオン=アレクサンダーがどんな人物であったのかを。さらには、考えてほしいのだ。アリス=アンジェラにも『自由意志』が与えらえている意味を。ただ命じられたままに、その意味を考えずに実行するのは『愚か者』なのだ。アリス=アンジェラは『賢者』にならなくてはならない。

 しかし、アンドレイ=ラプソティは、この時点では気づきもしなかった。創造主:Y.O.N.N様がアリス=アンジェラを本当はどうしたいのかを。それがアンドレイ=ラプソティの不幸であり、アリス=アンジェラにとっては幸せそのものであると、アンドレイ=ラプソティ自身が知るまでに、まだまだ時間がかかったのである。

 話を戻そう。アンドレイ=ラプソティはあの頃を懐かしみながら、レオン=アレクサンダーの奇行をアリス=アンジェラたちにくどくどと解説していく。雪中行軍をおこない、次代の王を討ち、さらには父王を追い詰めたレオン=アレクサンダーはさらにその行動を速めていく。

 玉座で崩れ落ちていく父王を前にしたレオン=アレクサンダーは、首級くびだけで、自分の守護天使に命令を出す。命令を下された守護天使は、両手の上に載せられた紫の布のさらに上に載せられた黄金こがね色に輝く鞘に収まった短剣ダガーをずずいと父王の前に差し出す。この意味を知った父王は怒り狂い、守護天使が捧げてくる短剣ダガーを奪うように手に取り、さらには黄金こがね色の鞘から短剣ダガーを抜き取る。

「レオン! 貴様はわしを越えていくが良いっ!」

「父上。見事なりっ!」

 父王であるルクス=アレクサンダーは両手を用い、逆手にその短剣ダガーの柄を握る。その短剣ダガーが割いたのは、レオン=アレクサンダーでもなく、彼の参謀である守護天使でも無かった。父王は自分の見識の甘さを呪ったのだ。そして、間違いを犯した者には罰を与えねばならない。父王は息子の前で、散々に自らの腹奥に向かって、その短剣ダガーを深々と突き刺していく。

 その姿を哀れに思ったのか、息子は腰の左側に佩いた鞘から銀色に輝く長剣ロング・ソードを抜き出す。そして、これ以上の苦しみを父王に与えてはならぬと、父王の横に立ち、父王の首級くびを叩き落とすのであった。

「父殺しの罪は俺が背負った。だが、この罪は2人でわかちあわねばならぬ。この長剣ロング・ソードを帯刀せよ、アンドレイ=ラプソティ!!」

「ははっ! これより、レオン=アレクサンダー様には覇道を進んでもらいます! 今日この日、この場から、一睡も出来ぬことを御覚悟なさいますようにっ!」

「異母弟をこの手にかけ、さらには父を殺めたことは後々も、俺をさいなませてくれよう……」

 ここで、アンドレイ=ラプソティのレオン語りは一度、止まることになる。アンドレイ=ラプソティは聴衆たちから、控えめな拍手をもらう。アンドレイ=ラプソティはニコリと微笑み、要らぬ一言を彼らに告げる。

「うわあ……。レオン=アレクサンダーは最悪デスネ。不眠症になるかと思えば、三日後にはグースカピースカ、鼻提灯を作って爆睡デスカ!?」

「チュッチュッチュ。さすがは『覇王の天命』を創造主:Y.O.N.N様から授かっているだけはあるのでッチュウ。天使でも、そこまで図太い天使は早々にお目にかかれないでッチュウよ?」

「なるほどなぁ。うちの大将が、レオン=アレクサンダーを魔人にしようか、アンドレイ=ラプソティを堕天させようか、どうしようか悩んでいたのも頷けるエピソードだわ」

「かなり引っかかることをベリアルが言っていますけど……。私を堕天させようとしていたのは、実はもののついでだったりしたんです?」

「いんや。両方とも、魔界に招待しようとしてたぜ。だが、それよりも先に動いたのが、創造主:Y.O.N.Nだ。あの時点でアンドレイが堕天しかけたのは、こっちとしてはもらい事故だ。創造主:Y.O.N.Nの面目躍如と言ったところなのか……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ店員二人に、マッサージと称して喉奥責められながらおまんこほじられて上も下も強制快感責めされる女の子の話

ちひろ
恋愛
前回のマッサージのお話の続きです。 今回は村上くんも加わって、喉奥責められて喘げないのにいっぱいおまんこイかされちゃうし潮吹きでお顔びしょびしょになっちゃう話です。お楽しみくださいませ。

睡眠開発〜ドスケベな身体に変えちゃうぞ☆〜

丸井まー(旧:まー)
BL
本人に気づかれないようにやべぇ薬を盛って、毎晩こっそり受けの身体を開発して、ドスケベな身体にしちゃう変態攻めのお話。 なんかやべぇ変態薬師✕純粋に懐いている学生。 ※くぴお・橘咲帆様に捧げます!やり過ぎました!ごめんなさい!反省してます!でも後悔はしてません!めちゃくちゃ楽しかったです!! ※喉イキ、おもらし、浣腸プレイ、睡眠姦、イラマチオ等があります。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

【R18】先生が、なんでもお願い聞いてくれるって言ったから【官能】

ななこす
恋愛
痴漢に遭った谷珠莉(たにじゅり)は、かねてから憧れていた教師、村瀬智生(むらせともき)に助けられる。 ひょんなことから距離の縮まった珠莉と村瀬の、禁断関係の行く末を見守る話。 *官能表現、R-18表現多くなる予定です。ご容赦下さい。

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

その令嬢は兵器である

基本二度寝
恋愛
貴族の子女だけを集めた舞踏会。 その場で王太子は婚約破棄を宣言した。 傍らに、婚約者令嬢の従妹を侍らせて。 婚約者は首を傾げる。 婚約の破棄などしてもよいのかと。 王太子と従妹は薄ら笑いを浮かべている。 彼らは愚かな事をしたことに、気づかずに。 ※若干のR表現 ※タイトル【凶器】→【兵器】に変更しました。 ※ちょこちょこ内容変更しまくってすいません…。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

ヒーローの末路

真鉄
BL
狼系獣人ヴィラン×ガチムチ系ヒーロー 正義のヒーロー・ブラックムーンは悪の組織に囚われていた。肉体を改造され、ヴィランたちの性欲処理便器として陵辱される日々――。 ヒーロー陵辱/異種姦/獣人×人間/パイズリ/潮吹き/亀頭球

処理中です...