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第9章:クロマニョン王国
第4話:半兎半人の親子
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「そんなに落ち込むなって。どこかの暇人が言い広めてくれるかもしれんぞ? 何百年後になるかは知らんけどなっ!」
歴史に名を残すにはふたつの条件がある。ひとつは『常識外れ』であること。もうひとつは『常識に埋もれてしまわない』ことだ。実は、このふたつは表裏一体なのである。いくら偉人や天才が偉業を成し遂げたとしても、それらは後世において、『当たり前』のことにされてしまう場合がある。その時代においては確かに『偉業』なのだが、時が経つにつれて、『普通』のことにされてしまうのだ。
とある発明家が偉大な発明をしたとしよう。それが世の中に広まることで、劇的に生活が変わるのは至極当然のことである。しかし、その発明が素晴らしいと感じるのは当時のニンゲンたちだけなのだ。後世のニンゲンたちにとっては、普段の生活にありふれすぎているために、それがあることが『普通』になってしまう。そのため、その発明家の名前すらも忘れ去られてしまうのが『歴史の妙』なのだ。
だからこそ、そんな『当たり前」となってしまったことをヒトから頼まれもしないのにわざわざ調べてくれる『歴史家』の存在が欠かせないのだ。『今ある常識』は、過去に人々が血で血を洗う戦いを通じて、手に入れたモノであることを知らずに今の世を生きているのである。
翻って、偉人は後世では『悪人』にされやすい。もしかすると、西エイコー大陸から大陸中央の半分を占領したレオン=アレクサンダー帝も後の世では『恐怖の大王』という言葉だけが残るかもしれない。改革をもたらした人物はその偉業よりも、その悪名しか残らないのがまさに『歴史の妙』なのだ。
話を戻そう。カゲツ=ボーリダックと共に旅をしている彼の娘は、気落ちする父親に代わり、アリス=アンジェラに深々とお辞儀をし、ならず者を殺してくれたことについて、感謝の念を伝える。アリス=アンジェラは気恥ずかしいのか、もじもじと身体をくねらせる。
「何だか、こそばゆいのデス。こう面向かって、ありがとうと言われるのは久方ぶりな気がするのデス」
「お姉様は素敵な方です。お父ちゃんが殴られたっていうのに、他のひとたちは、お父ちゃんを助けようともしてくれなかったのです」
「チュッチュッチュ。耳が痛い話でッチュウ。アリスちゃんを止めることに必死だったでッチュウから」
半兎半人の娘は眼をキラキラと輝かせながら、アリス=アンジェラの右手を両手で優しく包み込んでいた。そうされたアリス=アンジェラはますます赤面してしまう。アリス=アンジェラとしては、あのならず者を殺すようなことをする気はなかった。シャイニング・デコピンはあくまでも身体から魂を天界にまで、ぶっ飛ばす御業であることは変わりない。しかし、それはあくまでも一時的な話なのだ。
ちょっとだけ気絶してもらう予定であったのだが、後頭部が弾けるように吹き飛び、そこから脳漿が飛び散る様は、アリス=アンジェラですら、やっちまったなぁ! という感想しか抱けなかったのである。何故、アリス=アンジェラが過剰な防衛力を発揮してしまったのかは、アリス=アンジェラ自身もわからなかった。しかしながら、それでも、感謝感謝と頭を下げまくってくるこの娘を見ていると、自分は正しいことをしたのだと思ってしまう。
「あの、お名前を聞いていませんでした。よろしければ、わたしの英雄である貴女様の御名前を教えてもらえませんか?」
「さっきから名前が出ている気がしますけど、改めて……。ボクの名前はアリス=アンジェラなのデス! ボクの方こそ、名前を教えてもらいたいのデス!」
「はいっ! わたしの名前はユーリです! 将来、ボーリダック商会の代表になるつもりです!」
「おいおい。ユーリ。まだそんなこと言っているのか? 14歳になっても、夢物語を言っているのはやめておくんだ」
「お父ちゃんこそ、幹部止まりで良いなんて言わないでほしいのっ! そりゃ、一族の中ではひどい扱いを受けてるけど、お父ちゃんが新たな商路を作ろうとしていることは立派なことなのにっ!」
「ユーリ……。創造主:Y.O.N.N様。私は立派すぎる志を持つ娘をお与えになったことを誇りに思います」
ユーリの父親であるカゲツ=ボーリダックは両手を握り合わせ、創造主:Y.O.N.N様に対して、感謝の念を伝える。その所作を見た娘もまた、両手を握り合わせ、父親の出世と、素敵なお姉様に出会わせてくれたことに関して、感謝の念を創造主:Y.O.N.N様に伝えるのであった。
このほんわかとした優しい世界に嫌な顔を示すのがベリアルであった。この敬虔な親子に対して、意地悪を敢行したくなるのは、『七大悪魔』の役目である気がしてならないのであった。だからこそ、この親子を堕落させ、創造主:Y.O.N.Nへの嫌がらせをしてやろうと思ったのである。
そして、そう思ったのなら、実行に移すのがベリアルである。さっそく、親の方を堕落させるための動きを見せる。袖振り合うも他生の縁とも言いたげに、大きな都市に着くなり、アンドレイ=ラプソティとカゲツ=ボーリダックを酒場に誘ったのである。時刻はちょうど夕暮れ。乗り合い荷馬車を咎める者も居ないと見るや否や、ベリアルはアンドレイ=ラプソティとカゲツ=ボーリダックの腕を掴んで、無理やりに酒場へと消えていく。
そして、その後を追うようにアリス=アンジェラとユーリも続く。さすがにユーリは14歳ということもあり、飲酒しないようにと彼女の父親が注意をする。しかしながら、エイコー大陸で成人とされる16歳のアリス=アンジェラはベリアルの開いた酒盛りに参加したのであった。
ユーリはオレンジジュースの入ったガラス製のグラスを恨めしそうに睨んでいた。
「お姉様と同じモノが飲みたいのに、お父ちゃんの意地悪っ!」
「ガーハハッ! 父親ってものは、目の上のたんこぶなんだよ、しっかし14歳にもなったら、こんなに父親にべったりってのも珍しいよな??」
「そうですニャン。あちきは親にこっそり隠れて、12歳の頃からお酒をたしなんで……」
「ミサ殿。それ以上は言ってはいけません。ベリアルは堕落の権現様なのです。この男の口車に乗ってはいけません」
ミサ=ミケーンは御年26歳。女としての艶がますます乗ってくる年頃だ。大きなおっぱいを上下に揺らしながら、ゴクゴクと木製のジョッキに注がれている麦酒を半分ほど一気に平らげる。ベリアルはゴクリッ! と生唾を飲み込んでしまう。
そして、そぉぉぉっと空いた左手をミサ=ミケーンのおっぱいの下へと忍び込ませていくのだが、その左手を手刀で叩き落とされてしまう。
「残念でしたニャン。あちきの身体の隅々を触っていいのはアンドレイ様だけですニャン」
「チッ! アンドレイは朴念仁みたいな奴なのに、きっちり女を確保してやがるっ!」
「誤解を招くような表現はやめてくれませんか? これは職務上、仕方のないことなのです。私と『七忍の御使い』は契約を結んでいるがゆえに、私自身もどうにもならない事情があるだけです……」
歴史に名を残すにはふたつの条件がある。ひとつは『常識外れ』であること。もうひとつは『常識に埋もれてしまわない』ことだ。実は、このふたつは表裏一体なのである。いくら偉人や天才が偉業を成し遂げたとしても、それらは後世において、『当たり前』のことにされてしまう場合がある。その時代においては確かに『偉業』なのだが、時が経つにつれて、『普通』のことにされてしまうのだ。
とある発明家が偉大な発明をしたとしよう。それが世の中に広まることで、劇的に生活が変わるのは至極当然のことである。しかし、その発明が素晴らしいと感じるのは当時のニンゲンたちだけなのだ。後世のニンゲンたちにとっては、普段の生活にありふれすぎているために、それがあることが『普通』になってしまう。そのため、その発明家の名前すらも忘れ去られてしまうのが『歴史の妙』なのだ。
だからこそ、そんな『当たり前」となってしまったことをヒトから頼まれもしないのにわざわざ調べてくれる『歴史家』の存在が欠かせないのだ。『今ある常識』は、過去に人々が血で血を洗う戦いを通じて、手に入れたモノであることを知らずに今の世を生きているのである。
翻って、偉人は後世では『悪人』にされやすい。もしかすると、西エイコー大陸から大陸中央の半分を占領したレオン=アレクサンダー帝も後の世では『恐怖の大王』という言葉だけが残るかもしれない。改革をもたらした人物はその偉業よりも、その悪名しか残らないのがまさに『歴史の妙』なのだ。
話を戻そう。カゲツ=ボーリダックと共に旅をしている彼の娘は、気落ちする父親に代わり、アリス=アンジェラに深々とお辞儀をし、ならず者を殺してくれたことについて、感謝の念を伝える。アリス=アンジェラは気恥ずかしいのか、もじもじと身体をくねらせる。
「何だか、こそばゆいのデス。こう面向かって、ありがとうと言われるのは久方ぶりな気がするのデス」
「お姉様は素敵な方です。お父ちゃんが殴られたっていうのに、他のひとたちは、お父ちゃんを助けようともしてくれなかったのです」
「チュッチュッチュ。耳が痛い話でッチュウ。アリスちゃんを止めることに必死だったでッチュウから」
半兎半人の娘は眼をキラキラと輝かせながら、アリス=アンジェラの右手を両手で優しく包み込んでいた。そうされたアリス=アンジェラはますます赤面してしまう。アリス=アンジェラとしては、あのならず者を殺すようなことをする気はなかった。シャイニング・デコピンはあくまでも身体から魂を天界にまで、ぶっ飛ばす御業であることは変わりない。しかし、それはあくまでも一時的な話なのだ。
ちょっとだけ気絶してもらう予定であったのだが、後頭部が弾けるように吹き飛び、そこから脳漿が飛び散る様は、アリス=アンジェラですら、やっちまったなぁ! という感想しか抱けなかったのである。何故、アリス=アンジェラが過剰な防衛力を発揮してしまったのかは、アリス=アンジェラ自身もわからなかった。しかしながら、それでも、感謝感謝と頭を下げまくってくるこの娘を見ていると、自分は正しいことをしたのだと思ってしまう。
「あの、お名前を聞いていませんでした。よろしければ、わたしの英雄である貴女様の御名前を教えてもらえませんか?」
「さっきから名前が出ている気がしますけど、改めて……。ボクの名前はアリス=アンジェラなのデス! ボクの方こそ、名前を教えてもらいたいのデス!」
「はいっ! わたしの名前はユーリです! 将来、ボーリダック商会の代表になるつもりです!」
「おいおい。ユーリ。まだそんなこと言っているのか? 14歳になっても、夢物語を言っているのはやめておくんだ」
「お父ちゃんこそ、幹部止まりで良いなんて言わないでほしいのっ! そりゃ、一族の中ではひどい扱いを受けてるけど、お父ちゃんが新たな商路を作ろうとしていることは立派なことなのにっ!」
「ユーリ……。創造主:Y.O.N.N様。私は立派すぎる志を持つ娘をお与えになったことを誇りに思います」
ユーリの父親であるカゲツ=ボーリダックは両手を握り合わせ、創造主:Y.O.N.N様に対して、感謝の念を伝える。その所作を見た娘もまた、両手を握り合わせ、父親の出世と、素敵なお姉様に出会わせてくれたことに関して、感謝の念を創造主:Y.O.N.N様に伝えるのであった。
このほんわかとした優しい世界に嫌な顔を示すのがベリアルであった。この敬虔な親子に対して、意地悪を敢行したくなるのは、『七大悪魔』の役目である気がしてならないのであった。だからこそ、この親子を堕落させ、創造主:Y.O.N.Nへの嫌がらせをしてやろうと思ったのである。
そして、そう思ったのなら、実行に移すのがベリアルである。さっそく、親の方を堕落させるための動きを見せる。袖振り合うも他生の縁とも言いたげに、大きな都市に着くなり、アンドレイ=ラプソティとカゲツ=ボーリダックを酒場に誘ったのである。時刻はちょうど夕暮れ。乗り合い荷馬車を咎める者も居ないと見るや否や、ベリアルはアンドレイ=ラプソティとカゲツ=ボーリダックの腕を掴んで、無理やりに酒場へと消えていく。
そして、その後を追うようにアリス=アンジェラとユーリも続く。さすがにユーリは14歳ということもあり、飲酒しないようにと彼女の父親が注意をする。しかしながら、エイコー大陸で成人とされる16歳のアリス=アンジェラはベリアルの開いた酒盛りに参加したのであった。
ユーリはオレンジジュースの入ったガラス製のグラスを恨めしそうに睨んでいた。
「お姉様と同じモノが飲みたいのに、お父ちゃんの意地悪っ!」
「ガーハハッ! 父親ってものは、目の上のたんこぶなんだよ、しっかし14歳にもなったら、こんなに父親にべったりってのも珍しいよな??」
「そうですニャン。あちきは親にこっそり隠れて、12歳の頃からお酒をたしなんで……」
「ミサ殿。それ以上は言ってはいけません。ベリアルは堕落の権現様なのです。この男の口車に乗ってはいけません」
ミサ=ミケーンは御年26歳。女としての艶がますます乗ってくる年頃だ。大きなおっぱいを上下に揺らしながら、ゴクゴクと木製のジョッキに注がれている麦酒を半分ほど一気に平らげる。ベリアルはゴクリッ! と生唾を飲み込んでしまう。
そして、そぉぉぉっと空いた左手をミサ=ミケーンのおっぱいの下へと忍び込ませていくのだが、その左手を手刀で叩き落とされてしまう。
「残念でしたニャン。あちきの身体の隅々を触っていいのはアンドレイ様だけですニャン」
「チッ! アンドレイは朴念仁みたいな奴なのに、きっちり女を確保してやがるっ!」
「誤解を招くような表現はやめてくれませんか? これは職務上、仕方のないことなのです。私と『七忍の御使い』は契約を結んでいるがゆえに、私自身もどうにもならない事情があるだけです……」
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