上 下
18 / 202
第2章:アリス

第7話:村

しおりを挟む
 辺りにめぼしい食料が無いことを知ったアンドレイ=ラプソティたちは西へ西へと向かう旅を再開せざるをえなくなる。水分補給を終えたことで、いくばくか体力と神力ちからを取り戻したアンドレイ=ラプソティはコッシロー=ネヅの背中をアリス=アンジェラに返すのであった。

 コッシロー=ネヅの背中に乗ったアリス=アンジェラはうっつらうっつらと頭を前後左右に動かし始める。その様子を横目に見ていたアンドレイ=ラプソティは彼女に眠ってしまえば良いのでは? と提案するのであった。

「いけまセン。今のアンドレイ様では、何かあった時に対処できまセン! ここはボクが何としてでもアンドレイ様をお守りせネバッ!」

 アリス=アンジェラのその言葉を受けて、アンドレイ=ラプソティは苦笑せざるをえなくなる。自分の愛しきレオン=アレクサンダーから天命を奪い取っておきながら、いけしゃあしゃあとそう言えるアリス=アンジェラがどうしても憎めない存在となってきている。もし、あんな最悪な出会い方が無ければ、もっとアリス=アンジェラとはわかりあえる気がしてならないアンドレイ=ラプソティであった。

 しかし、それはアンドレイ=ラプソティがアリス=アンジェラがどんな天使なのかを理解してないからこその想いである。彼女自身の思考回路が何故、イカレているのかをアンドレイ=ラプソティが知ることになるのは当分先のことになるが、それでも、この時点ではアンドレイ=ラプソティはアリス=アンジェラという存在を自分ながらに理解しようと努めていた。

 コッシロー=ネヅの背中に乗っているアリス=アンジェラは頭だけでなく上半身も前後左右に揺れ始める。アンドレイ=ラプソティはそんな彼女を微笑ましく思いながら、見て見ぬ振りをする。ここで声をかければ、アリス=アンジェラが気合を入れ直すのは眼に見えていたからだ。コッシロー=ネヅもまた、アンドレイ=ラプソティと共に黙って西へ向かって歩を進める。そして、ついにコッシロー=ネヅのふわふわもこもこの背中の感触に負けたアリス=アンジェラはコッシロー=ネヅの後頭部に自分の顔を埋める形で堕落してしまうのであった。

「ようやく寝ましたね。あの照りつく太陽の下、塩の大地をこんな少女が文句ひとつ言わず、歩いていたのです。そりゃ、疲れて当然でしょう」

「いや、文句はタラタラだったでッチュウ。記憶を美化するのはやめるのでッチュウ」

 コッシロー=ネヅの返答にハハッ! と軽快に笑うアンドレイ=ラプソティであった。愛しきレオンをアリス=アンジェラに殺された時は、もう笑うことは出来ない身体になってしまったと思い込んでいた。そして、それをした彼女のことで笑ってしまうことなど、本来なら言語道断なはずである。しかし、それら一切を置いておいて、何故かアンドレイ=ラプソティはアリス=アンジェラに惹かれてしまうものがあった。

「コッシロー殿。私はレオンを失いましたが、その怒りは誰にぶつけるのが正解なのでしょうか?」

「それはアンドレイ様自身が決めることでッチュウ。自分たちは創造主:Y.O.N.N様によって創られた存在でッチュウけど、『自由意志』は与えらえているのでッチュウ」

 コッシロー=ネヅの言うことは哲学めいていた。創造主:Y.O.N.Nの創造物である存在ならば、あるじである創造主:Y.O.N.Nの言うことが全て正しいはずである。しかし、親と子は独立した魂である関係と同じく、創造主:Y.O.N.Nと天使たちは独立した個である。そして、それを口酸っぱく天使たちに説いているのも創造主:Y.O.N.Nご自身であった。

 アンドレイ=ラプソティの怒りと悲しみの感情は、あの地に残されたバケモノとなった身体が引き受けてくれたのだろうとそう思うことにしたアンドレイ=ラプソティであった。しかし、チリチリと火傷のような痛みが左胸に走るのも事実である。この引っかかりに似た感情がアリス=アンジェラに関心を寄せてしまうきっかけになっているのであろうと考えるアンドレイ=ラプソティであった。

 アリス=アンジェラがコッシロー=ネヅの背中で眠り始めてから1時間後、大空でその主張を燦々と主張し続けていた太陽は段々と地平線に向かって進み始めていた。それもあって、空気自体はまだまだ温かいが太陽からの光による熱放射はかなり柔らかなモノへと変化しつつあった。

 しかしながら、太陽の光が和らいでいくのとは対照的に、アンドレイ=ラプソティとコッシロー=ネヅの眉間には段々と深いシワが刻まれることになる。それもそうだろう。やっと村にたどり着いたと言うのに、そこにはひとっこひとり居なかったからだ。怪訝な表情なままに村の中央へと歩を進めたアンドレイ=ラプソティたちであったが、ここでついに足を止めてしまうことになる。

「神隠しというやつですかね?」

「それならまだマシかもしれないでッチュウ。アリスちゃんを叩き起こすでッチュウ?」

「いえ。もしかすると、神聖マケドナルド帝国軍の行軍に恐れおののいて、村民が避難しているだけかもしれませんし。もう少し、辺りの様子を探ってからのほうが良いかもしれません」

 アンドレイ=ラプソティたちが辿り着いた村は規模からして200人前後が生活をしていたように感じることが出来た。だが、その村の中で動くものを見つけることが出来ないでいた。ニンゲンはおろか、馬や牛、さらには猫や犬といった、ニンゲンの集落でなら必ず目にするような類のモノを発見することはなかった。

 アンドレイ=ラプソティは失礼しますと言いながら、家屋の扉を開けていく。そこには夕飯の支度を今まさにしていたのだろうと思われる痕跡が残されていた。厨房には火にかけられた鍋がそのままにされている。そして、それはこの家だけでなく、他の家でも同様であった。家々の煙突からはもくもくと炊事のために起こったであろう煙が立ち昇っているのだ。だが、ひとっこひとりとして見つからないこの村には不気味さのみが残されていた。

「ダメでッチュウね。自分のスキャンでも、周囲300ミャートル以内に生き物らしい反応は見つけられないのでッチュウ」

「悪魔が何かをしでかしたのであれば、それらの痕跡が見つかるはずなのですが、それすらもひっかからないというのがますます怪しいですね……」

 コッシロー=ネヅたちはスキャンをかけながら、村の中心部へと向かう。そして彼らが眼にしたのは、さらなる異様な光景であった。アンドレイ=ラプソティはそれを見て、思わず目を背けてしまう。

「これはひどい……。生者がいないならば、私たちのスキャンに何もひっかからないはずです」

 村の中心部には村民たちに知らせを告げるための鐘台があった。しかし、その鐘台に群がるようにかつてはこの村の居住者たちであったモノが纏わりつき、重ね合いながら背の高い塔を造り上げていたのである。村民たちや馬や牛たちの肉塊で出来た塔はアンドレイ=ラプソティたちに向かって何も語り掛けてくることは無かった。ただただ不気味さだけを醸し出すのみであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ店員二人に、マッサージと称して喉奥責められながらおまんこほじられて上も下も強制快感責めされる女の子の話

ちひろ
恋愛
前回のマッサージのお話の続きです。 今回は村上くんも加わって、喉奥責められて喘げないのにいっぱいおまんこイかされちゃうし潮吹きでお顔びしょびしょになっちゃう話です。お楽しみくださいませ。

睡眠開発〜ドスケベな身体に変えちゃうぞ☆〜

丸井まー(旧:まー)
BL
本人に気づかれないようにやべぇ薬を盛って、毎晩こっそり受けの身体を開発して、ドスケベな身体にしちゃう変態攻めのお話。 なんかやべぇ変態薬師✕純粋に懐いている学生。 ※くぴお・橘咲帆様に捧げます!やり過ぎました!ごめんなさい!反省してます!でも後悔はしてません!めちゃくちゃ楽しかったです!! ※喉イキ、おもらし、浣腸プレイ、睡眠姦、イラマチオ等があります。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

【R18】先生が、なんでもお願い聞いてくれるって言ったから【官能】

ななこす
恋愛
痴漢に遭った谷珠莉(たにじゅり)は、かねてから憧れていた教師、村瀬智生(むらせともき)に助けられる。 ひょんなことから距離の縮まった珠莉と村瀬の、禁断関係の行く末を見守る話。 *官能表現、R-18表現多くなる予定です。ご容赦下さい。

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

その令嬢は兵器である

基本二度寝
恋愛
貴族の子女だけを集めた舞踏会。 その場で王太子は婚約破棄を宣言した。 傍らに、婚約者令嬢の従妹を侍らせて。 婚約者は首を傾げる。 婚約の破棄などしてもよいのかと。 王太子と従妹は薄ら笑いを浮かべている。 彼らは愚かな事をしたことに、気づかずに。 ※若干のR表現 ※タイトル【凶器】→【兵器】に変更しました。 ※ちょこちょこ内容変更しまくってすいません…。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

ヒーローの末路

真鉄
BL
狼系獣人ヴィラン×ガチムチ系ヒーロー 正義のヒーロー・ブラックムーンは悪の組織に囚われていた。肉体を改造され、ヴィランたちの性欲処理便器として陵辱される日々――。 ヒーロー陵辱/異種姦/獣人×人間/パイズリ/潮吹き/亀頭球

処理中です...