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第2章:アリス
第6話:ラプソティ子爵家
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それほど広くない池に溺死したかのように水面付近をプカプカと浮かぶアンドレイ=ラプソティとコッシロー=ネヅであった。少女は誰しも引き締まった身体でありながらも、出るところは出てほしいという願望を持っている。それを無碍に否定した男連中が悪いのは当然であり、そうされて当然だとアリス=アンジェラはそう思うのであった。
池の水面付近をプカプカと浮かび続けるアンドレイ=ラプソティたちを余所にアリス=アンジェラは先に池から外に出て、水を珠として弾く肌をうっとりと見つめる。そして、水に濡れた子犬のように身体を細かくプルプルと振動させて、余分な水分を身体から弾け飛ばす。
太陽は地平線の向こう側に消えるような時間までにあと3~4時間はかかりそうであった。11月3日と言っても、ここはエイコー大陸中央部の1年中、乾いた空気が支配する土地であった。ここから数百キュロミャートル南下すれば、地平線の彼方にまで続く砂砂漠が存在する。その砂砂漠の存在が影響して、この周辺の気候も乾燥させていたのである。
非常に残念なことに、アリス=アンジェラが着こんでいる天使の羽衣は、その乾燥した空気にさらされ、だんだんと余計な水分が周りの空気に溶け込んで行ってしてしまっていく。それに伴い、うっすらと透けていた彼女の桜色の乳輪もまた、外からは見えなくなってしまうのであった。
気絶してから十数分後も経つと、口から大量の水をゲホゲホゴホガハッ! と吐き出しながら、ようやく目覚めるアンドレイ=ラプソティとコッシロー=ネヅたちであった。彼らは頭からびしょ濡れになったまま、池の外へ這い出ることになる。彼らはぜえぜえはあはあと肩で息をしながら、まるでオオサンショウウオが水面から陸地に上がってくるかのようにのっそりのっそりと鈍すぎる動きをみせる。
「水はもう要りません……。何か他の物をお腹に入れたいですね」
「右に同じなのでッチュウ。アリスちゃん、何か食べれそうな物が無いか、辺りをスキャンしてもらえるでッチュウ?」
天使と言えども、半日以上も何も腹に入れなければ、腹が減るのは地上界のニンゲンたちと同様であった。喉が水で潤った後に欲するのは食物である。しかしながら、アリス=アンジェラにぎったんぎったんのばったんばったんにされたアンドレイ=ラプソティたちにそれを探すだけの余力は残されていない。ここは若い子に任せるべきだとアンドレイ=ラプソティとコッシロー=ネヅは暗黙の了解を得合う。
「ボクのスキャンでは魔物、野獣、そして申し訳ない程度の木に成っている果物だけデス。どれをご所望でショウカ?」
アリス=アンジェラが自分を中心に周囲1キュロミャートルをスキャンしてみたのだが、自分たちのすぐ後ろには塩の大地が広がっていることもあり、食料として候補にあがるモノがそれくらいしかなかった。運良く、集落でも見つけられれば良かったが、そういう時こそ期待にそぐわない結果しか得られないものである。
「魔物は心情的に嫌……ですね」
「自分はへっちゃらだけど、アンドレイ=ラプソティ様とアリスちゃんはダメそうでッチュウね」
コッシロー=ネヅがアリス=アンジェラに他に何かめぼしい食料が無いか、もう1度スキャンしてもらえるように頼む。アリス=アンジェラはやっても無駄だと思うんですけどと不平不満を言いつつも、再スキャンを開始し始める。それを待っている間にアンドレイ=ラプソティはずっと疑問に思っていたことをコッシロー=ネヅたちに問うことになる。
「いい加減、フルネームで私のことを呼ぶのは止めてほしいのですが。何かその辺り、こだわりがあるんです?」
そう問われた側のコッシロー=ネヅとアリス=アンジェラはふと互いの眼を見つめ合い、互いに首級を傾げ合うことになる。その所作を見て、訝し気な表情になるのがアンドレイ=ラプソティであった。
「ラプソティ子爵様と呼ぶのは何かこそばゆい感じもしますし、かと言って、アンドレイ様と呼ぶのもおこがましいような気がするのデスヨ」
「天界の十三司徒とも呼ばれるアンドレイ=ラプソティ様をどうお呼びするのが妥当なのか、こちらも困っているのでッチュウ」
アンドレイ=ラプソティはやはりそこか……とがっくしと肩を落とす他無かった。地上界のニンゲンたちにとって、あくまでもアンドレイ=ラプソティは熾天使という高位の天使としてしか捉えていない。天界の身分など知らぬニンゲンたちには、ラプソティ家のすごさがわからぬゆえに、割とフランクにアンドレイ殿とか、ラプソティ様と呼んでくれてはいる。
しかし、アンドレイ=ラプソティの眼の前にいる2人は事情が違う。天界におけるラプソティ子爵家がどれほどまでに権勢を誇っているかを知っているのである。実家を離れてから30年近くも経っているというのに、天界事情はそれほど移り変わりなどしていないことが2人の反応から伺い知れるアンドレイ=ラプソティであった。
天界の三大貴族として、三公爵が存在するが、そのパワーバランスを取っているのがラプソティ子爵家であった。ラプソティ子爵家に一言、話を通しておかなければならないと天界議会では、上手く事が運ばないのが常態化していたのである。
そして、創造主:Y.O.N.N様がそんな状態を嫌ってなのか、ラプソティ子爵家の御曹司でもあるアンドレイ=ラプソティを地上界のレオン=アレクサンダーという男の守護天使として指名したのだろうと、当初のアンドレイ=ラプソティはそう思っていた。
いくら、地上界と天界に流れる時間的なモノの流れが違うからと言って、地上界で30年も経てば、天界事情も少しは変わるモノだとばかり思っていたアンドレイ=ラプソティであった。しかし、実際にはますますラプソティ子爵家は隆盛を確かなモノにしていることをコッシロー=ネヅたちから聞かされることになる。
「アンドレイ=ラプソティ様の妹君たちは公爵家の長子に嫁いだのでッチュウ。派閥の壁なぞ存在せぬかのように振る舞う現当主様ですけど、それは天界の権勢を一手に集めようとしているのは、誰の眼から見ても明らかなのでッチュウ」
「父上……。敵を作るのは嫌う性格でしたが、歳を取るごとにそれがさらに悪化してしまったのですね。表立っての争いこそ起きぬかもしれませんけど、天使と言えども権力争いは必ず起きると再三に忠告したはずなのに」
「まどろっこしい社交ダンスよりも、拳で語り合ったほうが早いのデス! ボクがアンドレイ=ラプソティ様の父君をぶっ飛ばしてきまショウカ?」
「いえ……。あの頑固頭は殴ったところでどうこう出来るシロモノではありませんよ。物理の力でわからせることが出来るくらいだったら、私でもどうにか出来てます。その話は置いておいて、今後はアンドレイ様と、姓の方は省略してください……」
池の水面付近をプカプカと浮かび続けるアンドレイ=ラプソティたちを余所にアリス=アンジェラは先に池から外に出て、水を珠として弾く肌をうっとりと見つめる。そして、水に濡れた子犬のように身体を細かくプルプルと振動させて、余分な水分を身体から弾け飛ばす。
太陽は地平線の向こう側に消えるような時間までにあと3~4時間はかかりそうであった。11月3日と言っても、ここはエイコー大陸中央部の1年中、乾いた空気が支配する土地であった。ここから数百キュロミャートル南下すれば、地平線の彼方にまで続く砂砂漠が存在する。その砂砂漠の存在が影響して、この周辺の気候も乾燥させていたのである。
非常に残念なことに、アリス=アンジェラが着こんでいる天使の羽衣は、その乾燥した空気にさらされ、だんだんと余計な水分が周りの空気に溶け込んで行ってしてしまっていく。それに伴い、うっすらと透けていた彼女の桜色の乳輪もまた、外からは見えなくなってしまうのであった。
気絶してから十数分後も経つと、口から大量の水をゲホゲホゴホガハッ! と吐き出しながら、ようやく目覚めるアンドレイ=ラプソティとコッシロー=ネヅたちであった。彼らは頭からびしょ濡れになったまま、池の外へ這い出ることになる。彼らはぜえぜえはあはあと肩で息をしながら、まるでオオサンショウウオが水面から陸地に上がってくるかのようにのっそりのっそりと鈍すぎる動きをみせる。
「水はもう要りません……。何か他の物をお腹に入れたいですね」
「右に同じなのでッチュウ。アリスちゃん、何か食べれそうな物が無いか、辺りをスキャンしてもらえるでッチュウ?」
天使と言えども、半日以上も何も腹に入れなければ、腹が減るのは地上界のニンゲンたちと同様であった。喉が水で潤った後に欲するのは食物である。しかしながら、アリス=アンジェラにぎったんぎったんのばったんばったんにされたアンドレイ=ラプソティたちにそれを探すだけの余力は残されていない。ここは若い子に任せるべきだとアンドレイ=ラプソティとコッシロー=ネヅは暗黙の了解を得合う。
「ボクのスキャンでは魔物、野獣、そして申し訳ない程度の木に成っている果物だけデス。どれをご所望でショウカ?」
アリス=アンジェラが自分を中心に周囲1キュロミャートルをスキャンしてみたのだが、自分たちのすぐ後ろには塩の大地が広がっていることもあり、食料として候補にあがるモノがそれくらいしかなかった。運良く、集落でも見つけられれば良かったが、そういう時こそ期待にそぐわない結果しか得られないものである。
「魔物は心情的に嫌……ですね」
「自分はへっちゃらだけど、アンドレイ=ラプソティ様とアリスちゃんはダメそうでッチュウね」
コッシロー=ネヅがアリス=アンジェラに他に何かめぼしい食料が無いか、もう1度スキャンしてもらえるように頼む。アリス=アンジェラはやっても無駄だと思うんですけどと不平不満を言いつつも、再スキャンを開始し始める。それを待っている間にアンドレイ=ラプソティはずっと疑問に思っていたことをコッシロー=ネヅたちに問うことになる。
「いい加減、フルネームで私のことを呼ぶのは止めてほしいのですが。何かその辺り、こだわりがあるんです?」
そう問われた側のコッシロー=ネヅとアリス=アンジェラはふと互いの眼を見つめ合い、互いに首級を傾げ合うことになる。その所作を見て、訝し気な表情になるのがアンドレイ=ラプソティであった。
「ラプソティ子爵様と呼ぶのは何かこそばゆい感じもしますし、かと言って、アンドレイ様と呼ぶのもおこがましいような気がするのデスヨ」
「天界の十三司徒とも呼ばれるアンドレイ=ラプソティ様をどうお呼びするのが妥当なのか、こちらも困っているのでッチュウ」
アンドレイ=ラプソティはやはりそこか……とがっくしと肩を落とす他無かった。地上界のニンゲンたちにとって、あくまでもアンドレイ=ラプソティは熾天使という高位の天使としてしか捉えていない。天界の身分など知らぬニンゲンたちには、ラプソティ家のすごさがわからぬゆえに、割とフランクにアンドレイ殿とか、ラプソティ様と呼んでくれてはいる。
しかし、アンドレイ=ラプソティの眼の前にいる2人は事情が違う。天界におけるラプソティ子爵家がどれほどまでに権勢を誇っているかを知っているのである。実家を離れてから30年近くも経っているというのに、天界事情はそれほど移り変わりなどしていないことが2人の反応から伺い知れるアンドレイ=ラプソティであった。
天界の三大貴族として、三公爵が存在するが、そのパワーバランスを取っているのがラプソティ子爵家であった。ラプソティ子爵家に一言、話を通しておかなければならないと天界議会では、上手く事が運ばないのが常態化していたのである。
そして、創造主:Y.O.N.N様がそんな状態を嫌ってなのか、ラプソティ子爵家の御曹司でもあるアンドレイ=ラプソティを地上界のレオン=アレクサンダーという男の守護天使として指名したのだろうと、当初のアンドレイ=ラプソティはそう思っていた。
いくら、地上界と天界に流れる時間的なモノの流れが違うからと言って、地上界で30年も経てば、天界事情も少しは変わるモノだとばかり思っていたアンドレイ=ラプソティであった。しかし、実際にはますますラプソティ子爵家は隆盛を確かなモノにしていることをコッシロー=ネヅたちから聞かされることになる。
「アンドレイ=ラプソティ様の妹君たちは公爵家の長子に嫁いだのでッチュウ。派閥の壁なぞ存在せぬかのように振る舞う現当主様ですけど、それは天界の権勢を一手に集めようとしているのは、誰の眼から見ても明らかなのでッチュウ」
「父上……。敵を作るのは嫌う性格でしたが、歳を取るごとにそれがさらに悪化してしまったのですね。表立っての争いこそ起きぬかもしれませんけど、天使と言えども権力争いは必ず起きると再三に忠告したはずなのに」
「まどろっこしい社交ダンスよりも、拳で語り合ったほうが早いのデス! ボクがアンドレイ=ラプソティ様の父君をぶっ飛ばしてきまショウカ?」
「いえ……。あの頑固頭は殴ったところでどうこう出来るシロモノではありませんよ。物理の力でわからせることが出来るくらいだったら、私でもどうにか出来てます。その話は置いておいて、今後はアンドレイ様と、姓の方は省略してください……」
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