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第1章:堕天

第6話:バケモノ

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「これでトドメだっ! お前を殺し、犯し終えた後は天界に昇り、創造主:Y.O.N.Nの心臓をレオンがされたように握りつぶしてくれようっっっ!」

 アンドレイ=ラプソティは4本の長剣ロング・ソードを一振りするたびに、身体と心の奥底から呪力ちからが溢れ出していた。そして、身体と心は溢れ出す呪力ちからと共に、そのサイズを肥大化させていく。今やアンドレイ=ラプソティの身体は身長150センチミャートル程度しかないアリス=アンジェラの10倍以上にまで膨れ上がっている。

 アンドレイ=ラプソティの身体の変化はそれだけではなかった。まるで神魔一体の様相を見せており、下半身は4本足を持つ獅子の胴体となっており、上半身は6本腕にまで増えていた。まさにバケモノと言ってしまっても過言ではない状態へと変形していた。さらにはその6本腕の先にある手で、長剣ロング・ソード、長槍《ロング・スピア》、戦斧バトル・アクス大剣クレイモア、そして余った2つの手で長弓ロング・ボウと長大な矢を携えていた。

 アンドレイ=ラプソティにはすでに天使の面影はひとつも残されていなかった。背中に生えていた美しい天使の6枚羽はとっくの昔に石の悪魔ガー・ゴイルのような骨で出来た羽根へと変わっていた。ズッシンズッシン! と獅子の足で大地を踏みしめ、亀裂を走らせながら、愛するレオン=アレクサンダーを殺したアリス=アンジェラへ近づいていく。

 アリス=アンジェラは長大な長剣ロング・ソード大剣クレイモアをその身に打ち付けられて、満身創痍の身体へと変えられてしまっている。彼女が着こむ天使の羽衣は所々が破れ、切り裂かれ、彼女の貧相な身体の半分しか覆い隠せなくなってしまっている。

 その露出する肌には切り傷、青あざが浮かび上がっている。しかし、そんな状況にありながらも、アリス=アンジェラはアンドレイ=ラプソティに向かっての直接的な攻撃を控えていた。そんなアリス=アンジェラを叱り飛ばす存在が居た。彼女を天界から地上界へと運びこんできた天界の騎乗獣であるケルビムであった。彼はアリス=ロンドの襟元を口で咥え、大空に舞い上がり、アリス=アンジェラに向かって放たれた致命の一撃から救うことになる。

「アリスちゃん、何をやっているのでッチュウ! あれはもうアンドレイ=ラプソティ様じゃないのでッチュウ!」

「コッシローさん、あれはアンドレイ=ラプソティ様デス。真に討つべきはアンドレイ=ラプソティ様でなく、アンドレイ=ラプソティ様をあの姿にした存在なのデス」

 天界の騎乗獣こと、コッシロー=ネヅは切歯扼腕となる他無かった。こうもボロ雑巾のようにされながらも、それでもアンドレイ=ラプソティ様を庇うアリス=アンジェラが理解不能であった。コッシロー=ネヅは知っていた。アリス=アンジェラであれば、今の姿に変貌する前までなら、彼女の神力ちからで、アンドレイ=ラプソティ様を倒すことが出来たことを。

 しかし、アリス=アンジェラはアンドレイ=ラプソティが変貌していくことすら止めようともせず、ただただ、防戦一方の戦いをし続けたのである。それがどれほどに愚かだったことはアリス=アンジェラ自身もわかっているはずなのに、彼女はコッシロー=ネヅの言葉を『否定』するのみである。

 コッシロー=ネヅは首級くびをぐるんと捻り、アリス=アンジェラを自分の背中に乗せる。そして、この場は逃げの一手に限ると言いのける。しかし、ボロ雑巾のような姿になったアリス=アンジェラはまたしてもコッシロー=ネヅの言葉を『否定』する。

「アンドレイ=ラプソティ様なら『天命』の重大さをきっとわかってくれマス。そのためなら、ボクはアンドレイ=ラプソティ様に殺されても良いのデス」

「それは間違っているのでッチュウ! 『天命』というのであれば、アリスちゃんにも『天命』が下されているでッチュウ!」

 天界の騎乗獣であるケルビムことコッシロー=ネヅはアリス=ロンドとほぼ同じ内容の指令を創造主:Y.O.N.Nから与えられていた。実際に天界へ天使であるアンドレイ=ラプソティを連れ帰るには、天界へ通じる福音の塔を使用するか、もしくは天界の騎乗獣の背中に乗って、天界へ昇る方法しかない。アリス=アンジェラに与えらえた指令は天命を終えたレオン=アレクサンダーから天命自体を回収することと、彼の守護天使であるアンドレイ=ラプソティを天界に連れ帰ることである。

 そして、コッシロー=ネヅに与えられた指令はアンドレイ=ラプソティが天界に昇るための騎乗獣となることであった。それぞれに創造主:Y.O.N.Nから役目を与えられているアリス=アンジェラとコッシロー=ネヅであったが、コッシロー=ネヅはもうすでに天使として認識してはいけない今のアンドレイ=ラプソティを討つべきだとアリス=アンジェラに主張したのである。

 だが、それを根本的に『否定』し続けたのがアリス=アンジェラであった。アリス=アンジェラもわかってはいた。今のアンドレイ=ラプソティがどんな状態であるか。それを口にすれば、『認めた』ことになってしまうために差し控えていた。結果、それを先にコッシロー=ネヅに言われてしまう始末となる。

「アリスちゃん、アンドレイ=ラプソティ様は『堕天』してしまったのでッチュウ! 堕天使が天界に戻ることは出来ないのでッチュウ! いい加減、眼を覚ますべきなのでッチュウ!!」

「ボクにはアンドレイ=ラプソティ様が『堕天』してしまったようには見えませんっ! あの方はまだ『堕天移行状態』なのデスッ!」

「それは言葉遊びでッチュウ! そのふたつの言葉には何の違いがあるというのでッチュウ!? まさか、ここから天使へと戻れるとでも言いたいのでッチュウ!?」

「その通りデス! さすがはコッシローさんなのデス。ボクの言いたいことを理解してくれているなら、やることはひとつなのデス!!」

 コッシロー=ネヅは心の奥底から嘆息せざるをえなかった。アリス=アンジェラの言っていることは詭弁に近しいものである。『堕天移行状態』が初期の段階なら、まだ打つ手があったかもしれない。しかし、今や高さ15ミャートル、全長20ミャートルのバケモノへと変貌してしまっているアンドレイ=ラプソティのどこをどう見たら、通常の天使へと戻せるというのか? わざと言っているのならば、大馬鹿か大物のどちらかである。

「アリスちゃんの言う通り、『堕天移行状態』で、それを防ぎ、さらには通常の天使へと戻せるっていう証拠を見せてほしいのでッチュウ!」

「証拠はありまセン。もちろん、確かなる根拠もありまセン。ただひとつ言えることは、アンドレイ=ラプソティ様は『天界の十三司徒』なのデス。そんな方がたかだか『堕天移行状態』からの復帰なぞ、簡単に成し遂げてくれるはずなのデス」

「アリスちゃん、それはただの希望的観測なのでッチュウ……」
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