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第3章:星皇の重い愛

第2話:魔物の大行進

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「ふざけたことばっかり言ってると、あんたの顔を粉々に粉砕するわよっ!」

「ベル様。ボクの耳がキーーーンって鳴っていマス。あと、星皇様との通信は切れていマス」

 ベル=ラプソティは心の奥底から沸き上がる怒りをアリス=ロンドが頭に被るオープン型フルフェイス・ヘルメットの右側面にぶつける。通信自体はアリス=ロンドとベル=ラプソティのモノと混線していたが、地上界から天上界からへの声はアリス=ロンドが被っているオープン型フルフェイス・ヘルメットからのみであった。それゆえにアリス=ロンドの右側頭部に叩きこむようにベル=ラプソティは汚い言葉で星皇を罵ったのである。

 しかし、星皇との通信が切れたことで、ベル=ラプソティは怒りの矛先をぶつける先を見失ってしまう。そんな彼女をドウドウと宥めるのはいつものことであるがカナリア=ソナタの役目であった。カナリア=ソナタの介添えもあり、ベル=ラプソティは3分も経過すると、いつものベル=ラプソティに戻り、星皇がアリス=ロンド用に贈ってくるプレゼントの位置へと視線を向ける。

 するとだ。その方角からネズミの大軍が走ってきて、ベル=ラプソティたちの足元をすり抜けていく。ベル=ラプソティたちはそんな慌てふためくネズミたちを踏んでしまわないようにその場で跳ね回る。そして、ネズミが走り去ったと思ったら、次は野ウサギ、野犬、猪、そして狼たちが我先とばかりにベル=ラプソティたちの下へと走り寄ってくる。

「な、何が起きているの!?」

 ベル=ラプソティたちは動物たちの大行進に巻き込まれぬようにと、近くにあった幌付き荷馬車の荷台へと飛び込むことになる。乗り遅れたクォール=コンチェルト第1王子が動物たちが作る大波に攫われそうになるが、天界の騎乗獣のサイズに戻ったコッシロー=ネヅがクォール=コンチェルト第1王子を口で咥えこみ、大空へと舞い上がり、難を逃れることになる。

 ベル=ラプソティたちがホッと安堵するや否や、ペッとコッシロー=ネヅはクォール=コンチェルト第1王子を吐き出し、ベル=ラプソティたちが乗っている幌付き荷馬車の荷台へと放り込んでくる。

「ちょっとぉ! いくら何でもクォール様の扱いが雑すぎるわよっ!」

「そんなことを言っている暇は無いでッチュウ! ベル様、戦闘態勢を取るでッチュウ!」

 幌付き荷馬車の中へクォール=コンチェルトを放り投げたコッシロー=ネヅは、すぐに自分の背中にベル=ラプソティたちが乗るようにと急かす。何をそんなに急かしてくるのかがわからないベル=ラプソティたちであったが、コッシロー=ネヅの背中に乗り、彼が大空へと上昇したことで、彼が急かしてきた理由をすぐに知ることになる。

「動物たちの次は魔物モンスターの群れ!? じゃあ、動物たちが我先へと逃げていたのは、魔物モンスターの大移動が原因だったってこと!?」

「それはわからないでッチュウけど、何かが起きようとしているのは確かなのでッチュウ! クォール様が軍の指揮を執れない今、僕たちが最前線に立たないといけないでッチュウ!」

 ベル=ラプソティ、カナリア=ソナタ、アリス=ロンドの3人娘を背中に乗せたまま、コッシロー=ネヅは大空を駆けに駆ける。あっという間に3人娘たちは一団の最前線へと送り込まれる。

「ねえ……。わたくしの眼から見て、魔物モンスターも何かに怯えて、それから逃げているように見える……けど」

「ボクにはわかりまセン。ベル様ほど、感受性が強いわけではありませんノデ」

「どうなんでしょゥ。感受性うんぬんはともかくとして、魔物モンスターの群れが大移動をしていることは事実なのですゥ。この数を止めるのは無茶すぎるのですゥ」

「わたくしの勘が当たっているなら、自我を失って、一団の真正面へと突っ込んでくる奴らだけに対処すれば良いはずよっ! コッシロー、カナリアと共に空中から支援攻撃をしてっ! でも、魔物モンスターの流れを変に狂わせないでねっ!」

 ベル=ラプソティはそう言うと、アリス=ロンドの右腕を掴み、コッシロー=ネヅの背中から飛び降り、地面に着地する。そして、戦乙女ヴァルキリー・天使装束の襟元のスイッチを押すことで、その辺りからせせり出てきたオープン型フルフェイス・ヘルメットによって、ベル=ラプソティは頭部を護る。

 頭がオープン型フルフェイス・ヘルメットに包まれた次の瞬間には、ベル=ラプソティはヘルメットの前面部分に映る映像をチェックし、自分の推測の正しさを知ることになる。

「やっぱり、この流れというか、大移動は不自然すぎるわっ! アリス、最小限の動きで、一団にぶつかってこようとしている奴らのみを打倒するわよっ!」

「ハイ。ベル様の御言葉は星皇様の御言葉デス。アリスはそれに従いマス。ソード・ストライク・エンジェルモード発動しマス!」

 ベル=ラプソティが大剣クレイモアほどの大きさがある刃を持つ光槍を手にする。それとは対照的に、ドラゴンを真正面から真っ二つにしてしまいかねないほどの大きさを持つ光刃を両手で構えるアリス=ロンドであった。ベル=ラプソティとアリス=ロンドは共闘を開始し、一団へと真正面から突っ込んでくる魔物モンスターのみをばっさばっさと切り伏せていく。

 彼女たちは魔物モンスターの返り血を浴びて、それぞれの天使装束は一瞬でその色を変えてしまう。それでも、自分たちの身のことなど一切、省みることはせずにベル=ラプソティとアリス=ロンドは3分間で延べ100匹以上の魔物モンスターを斬り倒す。

「ベル様ァァァ! 気をつけてくださいィィィ! 前方からコカトリスが走ってきていますゥゥゥ」

 コッシロー=ネヅの背中に乗り、戦況をつぶさに観察していたカナリア=ソナタが、地上で戦うベル=ラプソティたちに向かって大声を張り上げる。コカトリスは口から吐く煙に毒が含まれている。しかも、そのコカトリスは非常に興奮しており、コッシロー=ネヅが右眼から真っ白な光線ビームを放っているというのに、いっこうにその勢いを減じさせることは出来ないでいた。

 それもそうだろう。光線ビームは煙を透過しにくい性質を持っている。コカトリスは興奮状態のままに緑色の煙を吐き散らし、それを防御膜として、コッシロー=ネヅの放つ光線ビームを減衰させていたのである。さらにそのコカトリスは高さ4メートル、全長10メートルとドラゴンさながらの巨体を誇っており、減衰されたコッシロー=ネヅの眼から光線ビームでは、到底、止めようも、進路変更も出来ずじまいに終わってしまう。

 ベル=ラプソティはチッ! と盛大に舌打ちしてしまう。コカトリスの毒はいくら戦乙女ヴァルキリー・天使装束に身を包むベル=ラプソティであったとしても、その毒の悪影響を受けてしまうほどの猛毒であった。ベル=ラプソティはコカトリスに接近される前に、右手に持つ大剣クレイモア並みの刃が先端に付いている光槍で貫こうとした。

 ベル=ラプソティは槍投げのように、前へと走り、右手に持つ光槍をぶん投げる。ベル=ラプソティの手から放たれた光槍はコカトリスの真正面へとぶち当たり、コカトリスの前進はようやく止まることになる。
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