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冒険は小舟で

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予想通り、乗って10分でグロッキーになった。
だから嫌だっつったのに。


「サイ。おめえそんな弱かったか?」
「嵐でも平気な顔してたよな?」
「うっぷ。でっかいのとちっこいのじゃ揺れが違うじゃないっすか。」


俺のあんまりな様子にヤジスさんと同じく諜報係のミランさんが呆れている。
しょうがないじゃないか。小さい船は揺れがダイレクトにくるんだよ。


しかも、こっちの海は赤くて鉄臭い。
余計気分が悪くなるっつうの。血の池地獄か。


昔、親父に連れてかれた沖釣りは死ぬかと思った。
しかし、今日は何か発見するために乗っている。


いつまでも死人のようにグッタリしてる場合じゃない。
何にも出来なかったら船長に殺される。


「すん、ません。水筒、取ってもらって、いいですか?」
「ああ?これか?おやっさんにもらってたな。」
「ありがとう、ございま。うっっっ。す。」


「おめえ大丈夫か?」
「…島につくまでには何とかします。おやっさんにこれもらったんで。」
「それなんだ?酒か?」


おやっさんにもらったミントレモン水でこみ上げる吐き気をどうにかなだめ、ミランさんに礼を言う。
俺が普通にしゃべれるようになると、ヤジスさんが水筒の中身に興味を持った。


「いえ。レモンやらミントやら付け込んだ水です。すっきりするからって。…ちょっとマシになりました。」
「おお。ちゃんと喋れるようになったな。すげえなその水。」
「人によると思いますけどね。俺には効きました。」


おやっさん特製のミントレモン水を頼りに何とか地獄の道中を乗り切ると、目の前にそびえたつ赤茶けた崖が見えてきた。


「…高いっすねえ。」
「ああ。ここでいいか。ミラン。」
「おお。」


一定の所まで来ると、ミランさんに船を任せ、ヤジスさんが分度器に定規がついたようなものを出して計測を始めた。
崖の高さを測ってるな。ここから見ても、ざっと5m。船は無理か。


「ん~。4.7。無理だなこりゃ。」
「波の間から岩がごろごろ見えますねえ。」
「おめえ。よく見えんな。俺は見えねえよ。」
「ここの岩って赤っぽいから、わかりにくいですね。」


「近づくと危ねえかもなあ。あの辺波が荒そうだし。」
「あっちってどうなってるんですか?」
「あっちも崖だったと思うが、どうだ?ヤジス。」
「そうだな。あっちの方は座礁がねえみたいだし。行ってみっか。」


そのまま右に方向転換して、崖の出っ張ってる先に船を進める。
岬っていうには小さすぎる出っ張りだ。


出っ張りを越えると、真ん中が抉れるような形で、左から右になだらかに崖が低くなって岬の方に続いていた。
岩は見たところなさそうだ。棒でつついて座礁がなければ船が止められる。


「下を調べて何も無けりゃいけそうだな。」
「ああ。船から板を渡しゃいけそうだ。」
「そうですね。それなら上陸も楽ですね。にしても、鳥も巣を作ってるし、のどかなとこですねえ。」


崖から白い大きな鳥が出て来たのを見て思わず和む。
だが、俺以外には見えなかったみたいだ。


「あ?鳥?どこにいるよ?」
「あれっすよ。あの白いやつ。」
「ん~。あれは…洞窟カモメっ。おいっ。サイっ。どっから出て来たっ。」


え?あれカモメか?
ずいぶん小っさいカモメだな。カモメってでかくて凶悪だぞ?


「えっと。あそこです。崖の真ん中の中腹あたり。」
「ん~。ミランこのまま回り込んでくれ。俺が下をつつくから。」
「あいよ。サイ。そっから目を離すなよ?」


カモメがどうしたって言うんだ。
まあでも命令だ。しっかり見ときますよ。
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