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薄氷の上でワルツを
七十三.
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”成り代わり”は文字通りターゲットに成り代わる術である。
方法は”成り済まし”と然程変わらず、違うのは成り代わる相手の脳みそを食らう点であろうか。
脳みそを食べる事でターゲットの記憶や情報を手に入れると言う事だ。
「・・・・・・では、本当のカルロ殿下は赤ん坊の頃に食べられてしまった、と・・・・・・」
混乱する中、聖堂騎士達が何とか魔女を捕獲して事態を収拾したが、勿論それで終わる筈も無いのでグィード達は現在王城の客室へと半ば軟禁状態で押し込められていた。
押し込められた、と言ってもグィードの家くらいの爵位の貴族への客室として考えるなら、十分すぎる広さの部屋に今はルシフェール達と共に居た。
置かれている家具も嫌味の無いシンプルな色調とデザインで揃えられているし、壁紙も淡いベージュとゴールドの組み合わせの落ち着いた物だ。
グィード好みの濃いグリーンのカーテンの向こう側は、もうとっぷりと日が暮れていた。
頼めば軽食くらいは持って来てくれるらしいが、流石に今は何か食べる気も起らない。
同じく、国王と大臣達は医者を呼んだり、会議を開いたりと大忙しで彼等も食事所では無い筈だった。
「そうです、赤ん坊は記憶や経験、情報なぞ殆ど持っておりませんから、食べたゴブリンは何もかもリセットされて自身をカルロ・ベンティチェンティだと思って生きてきたのでしょう」
ゴブリンとは、元々は妖精の国から夜の間に人間の世界に遊びに来た妖精が、朝日が昇る前に帰るのを忘れ、または帰りそびれた者が人間界に留まっている間に穢れ、醜い姿になった怪物だと言われている。
人間の大人の膝位、または幼児くらいの小柄な姿で尖った耳と悍ましいくらいに醜い容姿をしており、枯れ掛けた木の葉の様な茶色がかった緑色の肌をしているのが特徴だ。
一匹一匹は非力だが、恐ろしい程狡猾で集団で行動する為中々に性質が悪い怪物である。
「それで・・・・・・あんなに凡庸としていたのですね」
呆れたように呟いた。
確かに、ゴブリン王子は王族としては余りにも何も出来ない王子であった。
学業は平凡、剣の腕はまあ習いたての見習いよりマシ、程度で。これが平民ならまだ何か生きる道があったかもしれないが、王族としては困ったものであった。
ただ、立ち振る舞いは王族として見ればきちんとしているから、勉強等苦手は多いがやればできる子、と言うやつなのかもしれない。
「しかし、これでカルロ・・・殿下がゴブリンだと判明すれば彼の処刑は免れないですね」
そして自分達の扱いがどうなるのかも気になる所だが、それは会議に参加しているジュリオとベリアドが頑張ってくれるであろう。
頑張ってもらわないと、何せ下手をすれば口封じに今回参加した貴族全員が処刑も有り得るからだ。
取り敢えず、今日中には帰れないだろう事は確実だ。ラウラが邸に居なくて本当に良かった。
「グィード様」
錆を含んだ様な、低い声がグィードの背後で聞こえた。
「ダエーワ卿!」
声の主が誰だか分かったグィードは、振り返って嬉しそうに立ち上がっていた。
「お待たせ致しましたな、お迎えに参りましたぞ」
そう言って恭しくその大きな手を差し伸べて来た。グィードがその手を取り、引き寄せられながら振り返るとルシフェールが座っていた場所に『自分』が座っていた。
「うむ、後の事は我らに任せるが良い」
ルシフェールの口調で喋る自分に驚いて唖然としていたら、ルシフェールの隣に座っていたベルゼビュートがくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
そして同じく、頭上からくすくすと忍び笑う声が降ってくるので見上げると、ダエーワが目を細めながら此方を見下ろしていた。
「我ら悪魔のその身は変幻自在故・・・・・・しかしそれにしても我らが主もお人が悪い」
そう言いながら壊れ物を扱う様に引き寄せ、その腕の中にグィードを納めた。
腕の中にすっぽり納まったグィードは一瞬自身がふわりと浮いたと思ったら、意識が暗転した。
方法は”成り済まし”と然程変わらず、違うのは成り代わる相手の脳みそを食らう点であろうか。
脳みそを食べる事でターゲットの記憶や情報を手に入れると言う事だ。
「・・・・・・では、本当のカルロ殿下は赤ん坊の頃に食べられてしまった、と・・・・・・」
混乱する中、聖堂騎士達が何とか魔女を捕獲して事態を収拾したが、勿論それで終わる筈も無いのでグィード達は現在王城の客室へと半ば軟禁状態で押し込められていた。
押し込められた、と言ってもグィードの家くらいの爵位の貴族への客室として考えるなら、十分すぎる広さの部屋に今はルシフェール達と共に居た。
置かれている家具も嫌味の無いシンプルな色調とデザインで揃えられているし、壁紙も淡いベージュとゴールドの組み合わせの落ち着いた物だ。
グィード好みの濃いグリーンのカーテンの向こう側は、もうとっぷりと日が暮れていた。
頼めば軽食くらいは持って来てくれるらしいが、流石に今は何か食べる気も起らない。
同じく、国王と大臣達は医者を呼んだり、会議を開いたりと大忙しで彼等も食事所では無い筈だった。
「そうです、赤ん坊は記憶や経験、情報なぞ殆ど持っておりませんから、食べたゴブリンは何もかもリセットされて自身をカルロ・ベンティチェンティだと思って生きてきたのでしょう」
ゴブリンとは、元々は妖精の国から夜の間に人間の世界に遊びに来た妖精が、朝日が昇る前に帰るのを忘れ、または帰りそびれた者が人間界に留まっている間に穢れ、醜い姿になった怪物だと言われている。
人間の大人の膝位、または幼児くらいの小柄な姿で尖った耳と悍ましいくらいに醜い容姿をしており、枯れ掛けた木の葉の様な茶色がかった緑色の肌をしているのが特徴だ。
一匹一匹は非力だが、恐ろしい程狡猾で集団で行動する為中々に性質が悪い怪物である。
「それで・・・・・・あんなに凡庸としていたのですね」
呆れたように呟いた。
確かに、ゴブリン王子は王族としては余りにも何も出来ない王子であった。
学業は平凡、剣の腕はまあ習いたての見習いよりマシ、程度で。これが平民ならまだ何か生きる道があったかもしれないが、王族としては困ったものであった。
ただ、立ち振る舞いは王族として見ればきちんとしているから、勉強等苦手は多いがやればできる子、と言うやつなのかもしれない。
「しかし、これでカルロ・・・殿下がゴブリンだと判明すれば彼の処刑は免れないですね」
そして自分達の扱いがどうなるのかも気になる所だが、それは会議に参加しているジュリオとベリアドが頑張ってくれるであろう。
頑張ってもらわないと、何せ下手をすれば口封じに今回参加した貴族全員が処刑も有り得るからだ。
取り敢えず、今日中には帰れないだろう事は確実だ。ラウラが邸に居なくて本当に良かった。
「グィード様」
錆を含んだ様な、低い声がグィードの背後で聞こえた。
「ダエーワ卿!」
声の主が誰だか分かったグィードは、振り返って嬉しそうに立ち上がっていた。
「お待たせ致しましたな、お迎えに参りましたぞ」
そう言って恭しくその大きな手を差し伸べて来た。グィードがその手を取り、引き寄せられながら振り返るとルシフェールが座っていた場所に『自分』が座っていた。
「うむ、後の事は我らに任せるが良い」
ルシフェールの口調で喋る自分に驚いて唖然としていたら、ルシフェールの隣に座っていたベルゼビュートがくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
そして同じく、頭上からくすくすと忍び笑う声が降ってくるので見上げると、ダエーワが目を細めながら此方を見下ろしていた。
「我ら悪魔のその身は変幻自在故・・・・・・しかしそれにしても我らが主もお人が悪い」
そう言いながら壊れ物を扱う様に引き寄せ、その腕の中にグィードを納めた。
腕の中にすっぽり納まったグィードは一瞬自身がふわりと浮いたと思ったら、意識が暗転した。
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