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薄氷の上でワルツを
六十八.
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期末試験を乗り越え、皆が待望の冬休みを迎える頃。
学園のカフェテリアでは、生徒達にささやかなクリスマスプレゼントとしてクッキーを配ったりと、皆がこれから迎える年越しムードをほんの少し盛り上げた。
貰ったクッキーを手に、前の時間軸ではこう言う事を楽しむ事が出来なかったな、と思い返す。
グィードが二年生の今頃、魔女の結界のせいで瘴気を吸った結構な人数の生徒や教師が体調不良を理由に、中退したり休職したりと大変だったのだ。そして自分も謎の体調不良と戦いながら学園を休み休み通い、王子達と対立して程度の低い喧嘩を繰り返していた。
多分、学業だって成績が相当悪かったんじゃないだろうか。学園の年中行事も、延期からの中止ばかりを繰り返していた。こうして何とか思い出しても碌な思い出では無いな、とグィードは苦い気分になった。
今はと言うと、存分に実力を発揮して成績は常にトップをキープ中だ。
カルロは・・・・・・前の時間軸ではどうだったのかは分からないが、現在は少なくともトップテンはおろか五十位内にもその名は無いようだった。
グィードは、ジンジャーパウダーに、アニスやシナモンなどの香辛料を入れたジンジャークッキーを一口齧った。
そしてやや固焼きの、蜂蜜で甘みを付けたサクサクとした素朴な味わいのクッキーを紅茶で流し込む。
復讐を考えなければ、こんな風な時間を過ごす事も出来なかったのかと思うと矢張り魔女と大臣の事は許し難いと思った。
もう直ぐ冬休みだ。聖女認定の儀式の日はルイスとカルロ、そしてアルバーノを一度に叩きのめしてやるチャンスである。
お膳立ては全て向こうがしてくれる。此方はただ待っていればいい。
ひとり優雅に食後の紅茶を楽しんでいると、声を掛けて来る者があった。
「グィード令息」
「ああ、ダリオ殿下! ラウラも一緒かい」
此方の存在に気付いたらしいふたりが席を移動して来たのだ。
「良ければご一緒しても?」
「ええ、勿論」
グィードの向かいにふたりは腰掛けると同じ様にクッキーと紅茶を持っていた。
「このクッキー、素朴で美味しいですね」
ダリオがカフェテリアのシェフ手作りのクッキーをお気に召したらしい、明るく屈託のない笑顔でそう言った。
冬休みのダリオとラウラの予定は、聖女認定の儀式の頃にはふたりは隣国へ初外交の為欠席だと聞いていた。
もしかすると陰惨な事故が起きるかもしれない場にふたりは居ないと言う事だ。
それで良いとグィードは思う。実の兄の断罪の場に立ち会う必要は無い。
三人が食後の紅茶を楽しんだ後、それぞれ教室へと戻って行った。
授業は少々退屈だが、その退屈ささえも奪われていたのを思えばそれを楽しむ余裕のある今は幸せであった。
教室の窓から見える曇天模様は雪が降りそうで降らない。バルディーニ領なら今頃雪が降り積もっている頃だ。
そう思いだしたら自領の雪景色と相棒の狼達に無性に会いたいな、と考えていた。雪に塗れ乍ら狼達との戯れが恋しい。
暖かい暖炉の前でスパイスを効かせたショコラショーを飲んだり、従兄たちと雪掻きしたり・・・・・・。
帰郷するには列車はまだまだ時間が掛かりすぎる。だから、卒業までは帰れない。
学園のカフェテリアでは、生徒達にささやかなクリスマスプレゼントとしてクッキーを配ったりと、皆がこれから迎える年越しムードをほんの少し盛り上げた。
貰ったクッキーを手に、前の時間軸ではこう言う事を楽しむ事が出来なかったな、と思い返す。
グィードが二年生の今頃、魔女の結界のせいで瘴気を吸った結構な人数の生徒や教師が体調不良を理由に、中退したり休職したりと大変だったのだ。そして自分も謎の体調不良と戦いながら学園を休み休み通い、王子達と対立して程度の低い喧嘩を繰り返していた。
多分、学業だって成績が相当悪かったんじゃないだろうか。学園の年中行事も、延期からの中止ばかりを繰り返していた。こうして何とか思い出しても碌な思い出では無いな、とグィードは苦い気分になった。
今はと言うと、存分に実力を発揮して成績は常にトップをキープ中だ。
カルロは・・・・・・前の時間軸ではどうだったのかは分からないが、現在は少なくともトップテンはおろか五十位内にもその名は無いようだった。
グィードは、ジンジャーパウダーに、アニスやシナモンなどの香辛料を入れたジンジャークッキーを一口齧った。
そしてやや固焼きの、蜂蜜で甘みを付けたサクサクとした素朴な味わいのクッキーを紅茶で流し込む。
復讐を考えなければ、こんな風な時間を過ごす事も出来なかったのかと思うと矢張り魔女と大臣の事は許し難いと思った。
もう直ぐ冬休みだ。聖女認定の儀式の日はルイスとカルロ、そしてアルバーノを一度に叩きのめしてやるチャンスである。
お膳立ては全て向こうがしてくれる。此方はただ待っていればいい。
ひとり優雅に食後の紅茶を楽しんでいると、声を掛けて来る者があった。
「グィード令息」
「ああ、ダリオ殿下! ラウラも一緒かい」
此方の存在に気付いたらしいふたりが席を移動して来たのだ。
「良ければご一緒しても?」
「ええ、勿論」
グィードの向かいにふたりは腰掛けると同じ様にクッキーと紅茶を持っていた。
「このクッキー、素朴で美味しいですね」
ダリオがカフェテリアのシェフ手作りのクッキーをお気に召したらしい、明るく屈託のない笑顔でそう言った。
冬休みのダリオとラウラの予定は、聖女認定の儀式の頃にはふたりは隣国へ初外交の為欠席だと聞いていた。
もしかすると陰惨な事故が起きるかもしれない場にふたりは居ないと言う事だ。
それで良いとグィードは思う。実の兄の断罪の場に立ち会う必要は無い。
三人が食後の紅茶を楽しんだ後、それぞれ教室へと戻って行った。
授業は少々退屈だが、その退屈ささえも奪われていたのを思えばそれを楽しむ余裕のある今は幸せであった。
教室の窓から見える曇天模様は雪が降りそうで降らない。バルディーニ領なら今頃雪が降り積もっている頃だ。
そう思いだしたら自領の雪景色と相棒の狼達に無性に会いたいな、と考えていた。雪に塗れ乍ら狼達との戯れが恋しい。
暖かい暖炉の前でスパイスを効かせたショコラショーを飲んだり、従兄たちと雪掻きしたり・・・・・・。
帰郷するには列車はまだまだ時間が掛かりすぎる。だから、卒業までは帰れない。
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