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薄氷の上でワルツを
六十五.
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季節は廻り、夏休みを経て二学期が始まった。
学園では授業が始まる頃にひとつの噂で持ちきりになっていた。
「オネスティ令嬢が退学ですって」
「聞きましたわ、何でも平民の女生徒に暴力をふるったとか・・・・・・」
そう、ルイスがあの日カテリーナに話しかけた時に、カテリーナは平民が気安く話掛けてきた事に腹を立ててルイスを突き飛ばした挙句、足蹴にしたのである。
其処を偶然、カルロとエリカが通り掛かり助けた事で話が大きくなったのだ。
その後カテリーナは一足早い夏休みと言う名の謹慎処分を食らい、話を聞き付けた母方の祖父エンツォが大いに怒ってカテリーナを遠くの貴族の元へと嫁がせたのである。
「ご自分の父親とそう年の変わらない方の元へと嫁がされるなんて、可哀そうですわね」
勿論、学園を卒業するまで待ってくれなどと言う願いは却下されてそのまま退学して行った。
ルイスはこれでカテリーナを操る、と言う計画は潰えたが偶然とは言えカルロ達に近付けたのだからある意味ではラッキーだったと言えるだろう。
しかし、アルバーノは娘のカテリーナが遠方へと嫁がされて計画が半分潰れてしまった。ルイスに王国を乗っ取らせて、更には自分の娘とダリオの結婚後、彼等にバルディーニ領を与えて鉄道の経営権などを手に入れ、裏から操って思うままに富を貪る計画がこれではおじゃんになってしまうだろう。
「・・・でも、これでバルディーニ令嬢も安心でしょう。あの方、未だにダリオ第二王子殿下に付きまとってたらしいじゃありませんか」
まだ夏の日差しを纏った空を避ける様に、学園のカフェテラスにてパラソルの付いたテーブルの下で仲の良い令嬢達とラウラはランチをしていた。
不意に話を振られたラウラは、口許に微苦笑を浮かべながらそうね、と肩を竦めた。
「正直言えば、バルディーニ令嬢以外にもホッとした方は多いでしょう?」
他の令嬢がそう言えば、その場に居た者皆が同意せざる得ない顔をした。
確かに、カテリーナには大なり小なり嫌がらせを受けていた令嬢は多い。まあ。意地悪な令嬢はカテリーナ以外にも何処にでも居るが。
「あら・・・バルディーニ令息ですわ」
ラウラの背後を見ながら令嬢のひとりが口許に手をやり、頬を赤らめた。ラウラが背後を振り返れば、兄のグィードがカルロと生徒会の役員達と共にランチに現れたようだった。
それぞれの手には食事の乗ったトレーを持って、適当に空いた席に座っていた。
「そう言えば、バルディーニ令息には婚約者はおられませんの?」
「ええ、実はまだ居ないのよ」
「まあ、引く手あまたでしょうに」
確かに、引く手数多所の騒ぎでは無いのだが当の令嬢達が「自分より美しい夫はちょっと・・・・・・」と嫌がったり隣に立つのを避けるのである。
「確かに、バルディーニ令息・・・美しい方ですものね」
烏の濡れ羽色のような黒髪に宝石のアメジストのような妖艶な紫眼の端正な面立ちに、抜けるように白い肌はまるで誰も踏み荒らしていない新雪のように清らかで。
物腰は柔らかくも清廉な騎士然とした礼儀正しい青年だ。思いを寄せる令嬢は多い。
「食事姿も麗しいですわあ」
などと溜息を吐く令嬢に、見慣れてしまった兄の姿でしかないラウラは首を傾げるしかない。
「本当、私もバルディーニ令嬢みたいに見慣れてみたいものですわ」
そう言ってころころと鈴の転がる様な笑い声を響かせる令嬢達。
何やらラウラ達が居る席が賑やかだな、とグィードは横目で見ながら楽し気にしている様子に安堵する。
カテリーナの噂は、当然グィードの耳にも入っている。
とっとと何処かへと消えてくれたので無用な殺生をしなくて済んだと思っていたのだ。
妹にも無駄な心労が増えなくて済んだ。
しかも遠くへ嫁いだ為アルバーノの計画が半分潰れたのが痛快である。色々な事が良い方向に進みつつある、とグィードの機嫌は良かった。
学園では授業が始まる頃にひとつの噂で持ちきりになっていた。
「オネスティ令嬢が退学ですって」
「聞きましたわ、何でも平民の女生徒に暴力をふるったとか・・・・・・」
そう、ルイスがあの日カテリーナに話しかけた時に、カテリーナは平民が気安く話掛けてきた事に腹を立ててルイスを突き飛ばした挙句、足蹴にしたのである。
其処を偶然、カルロとエリカが通り掛かり助けた事で話が大きくなったのだ。
その後カテリーナは一足早い夏休みと言う名の謹慎処分を食らい、話を聞き付けた母方の祖父エンツォが大いに怒ってカテリーナを遠くの貴族の元へと嫁がせたのである。
「ご自分の父親とそう年の変わらない方の元へと嫁がされるなんて、可哀そうですわね」
勿論、学園を卒業するまで待ってくれなどと言う願いは却下されてそのまま退学して行った。
ルイスはこれでカテリーナを操る、と言う計画は潰えたが偶然とは言えカルロ達に近付けたのだからある意味ではラッキーだったと言えるだろう。
しかし、アルバーノは娘のカテリーナが遠方へと嫁がされて計画が半分潰れてしまった。ルイスに王国を乗っ取らせて、更には自分の娘とダリオの結婚後、彼等にバルディーニ領を与えて鉄道の経営権などを手に入れ、裏から操って思うままに富を貪る計画がこれではおじゃんになってしまうだろう。
「・・・でも、これでバルディーニ令嬢も安心でしょう。あの方、未だにダリオ第二王子殿下に付きまとってたらしいじゃありませんか」
まだ夏の日差しを纏った空を避ける様に、学園のカフェテラスにてパラソルの付いたテーブルの下で仲の良い令嬢達とラウラはランチをしていた。
不意に話を振られたラウラは、口許に微苦笑を浮かべながらそうね、と肩を竦めた。
「正直言えば、バルディーニ令嬢以外にもホッとした方は多いでしょう?」
他の令嬢がそう言えば、その場に居た者皆が同意せざる得ない顔をした。
確かに、カテリーナには大なり小なり嫌がらせを受けていた令嬢は多い。まあ。意地悪な令嬢はカテリーナ以外にも何処にでも居るが。
「あら・・・バルディーニ令息ですわ」
ラウラの背後を見ながら令嬢のひとりが口許に手をやり、頬を赤らめた。ラウラが背後を振り返れば、兄のグィードがカルロと生徒会の役員達と共にランチに現れたようだった。
それぞれの手には食事の乗ったトレーを持って、適当に空いた席に座っていた。
「そう言えば、バルディーニ令息には婚約者はおられませんの?」
「ええ、実はまだ居ないのよ」
「まあ、引く手あまたでしょうに」
確かに、引く手数多所の騒ぎでは無いのだが当の令嬢達が「自分より美しい夫はちょっと・・・・・・」と嫌がったり隣に立つのを避けるのである。
「確かに、バルディーニ令息・・・美しい方ですものね」
烏の濡れ羽色のような黒髪に宝石のアメジストのような妖艶な紫眼の端正な面立ちに、抜けるように白い肌はまるで誰も踏み荒らしていない新雪のように清らかで。
物腰は柔らかくも清廉な騎士然とした礼儀正しい青年だ。思いを寄せる令嬢は多い。
「食事姿も麗しいですわあ」
などと溜息を吐く令嬢に、見慣れてしまった兄の姿でしかないラウラは首を傾げるしかない。
「本当、私もバルディーニ令嬢みたいに見慣れてみたいものですわ」
そう言ってころころと鈴の転がる様な笑い声を響かせる令嬢達。
何やらラウラ達が居る席が賑やかだな、とグィードは横目で見ながら楽し気にしている様子に安堵する。
カテリーナの噂は、当然グィードの耳にも入っている。
とっとと何処かへと消えてくれたので無用な殺生をしなくて済んだと思っていたのだ。
妹にも無駄な心労が増えなくて済んだ。
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