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薄氷の上でワルツを
五十四.
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「────それでは、ダリオ第二王子殿下とラウラ・バルディーニ侯爵令嬢の婚約発表は来年の春花祭の時に、と言う事で決まりました」
議長を務めた黒髪で豊かな口髭を蓄えた大臣の言葉に、その場に居た参加者達は賛同の拍手をした。
「ふむ、何時もこのようにすんなりと決まれば良いのですがな」
「ははっ、今日は何時もの邪魔が入らなかったから尚更そう思いますな」
邪魔、と言うのはアルバーノ・オネスティの事だった。今日はダリオとラウラとの婚約に関する事での重要な会議だと言うのに、アルバーノは参加していなかった。
否、参加させてもらえなかった、と言う方が正しいかもしれない。
会議に参加させないのもとんでもない話だが、アルバーノの方も、ダリオとラウラを婚約させまいときっと無駄に議会を引き延ばそうとしたり妨害をしてくるに違いないので、わざと嘘の会議室と時間をアルバーノに教えておいて自分達だけでさっさと決定してしまったのである。
それもこれも、アルバーノの娘であるカテリーナをダリオと婚約させない為であった。
カテリーナの悪評判は城で働く者達だけで無く、大臣達も把握していた。何度も忠告され、仕舞には警告されても無視をして城に上がり、ダリオとその周辺に迷惑を掛け続けているのである。
此処迄くれば、流石に王子妃候補として外されて当然であった。しかし、本来であればオネスティ家の曾祖母が降嫁してきた関係もあってカテリーナは王子妃の候補としては申し分ない身であったのだ。
余計な事をしなければ、候補としてラウラと競う事になるだろうがそれでもまだ何かやりようはあっただろうに、自ら道を途絶えさせたのだからどうする事も出来ない。
そして当のアルバーノはと言えば、彼方此方会議室を探して奔走していた。周辺に居たメイドや文官らしき者達に聞いても知らぬ存ぜぬで使えないと憤っていた。よもや自分が除け者にされている等とは思いもしていないようだ。
メイドや文官達はアルバーノが会議室の場所を聞いて来ても知らぬ存ぜぬで通せと通達されていたのだ。
アルバーノは苛々と親指の爪を噛んだ。
今回の会議で、魔女から貰った人心を操る指輪と言う物で大臣達を操り、先ずはダリオとカテリーナの婚約を決めるつもりで居たのだ。
それから城中の者達を操り、カルロと魔女────ルイスを結婚させて後にバルディーニ家を滅ぼし、バルディーニ領を自らの領にして鉄道事業等を乗っ取るつもりでいたのだ。
その取っ掛かりとなるであろう会議に遅刻どころか間に合わぬと言う事態に、アルバーノは焦った。
「クソッ、一体どこで会議をしているんだ?」
そう呟いた時であった。
「おや、オネスティ大臣ではありませんか」
聞き覚えのある声に振り返ると、会議を終えた大臣達が部屋からぞろぞろと出て来るところであった。
「ラ、ライモンディ大臣・・・・・・ッ」
「こんな所で何をしているのです? 会議はもう終わりましたぞ」
会議の前半戦が終わっただけで会食を挟んで午後も会議は続く。アルバーノは、まだ婚約の話が決議されていない事に一縷の望みを掛けたが、聞き出す前に絶望的な事を言われてしまった。
「おお、そうだ。 午前の会議でダリオ殿下とバルディーニ侯爵令嬢の婚約発表は、来年の春花祭の頃に決まりましたぞ」
「・・・・・・はっ!?」
婚約発表だと、とアルバーノは目を剥いた。
「ま、待って下さい、まだ正式に婚約していないのに何故もう婚約発表が決まったのです?」
「まあ確かに慌ただしいですが、婚約は年明け頃にしてそのまま春花祭に発表しようと決まったのですよ」
アルバーノは啞然とした。それはそのまま、本来であればカテリーナとの婚約でそうしようと思っていた事であったからだ。
何故だ・・・・・・何故・・・・・・。
そう考えた所で答えなぞ出る筈も無く、アルバーノは通り過ぎる大臣達を呆然と見送るしかなかった。
議長を務めた黒髪で豊かな口髭を蓄えた大臣の言葉に、その場に居た参加者達は賛同の拍手をした。
「ふむ、何時もこのようにすんなりと決まれば良いのですがな」
「ははっ、今日は何時もの邪魔が入らなかったから尚更そう思いますな」
邪魔、と言うのはアルバーノ・オネスティの事だった。今日はダリオとラウラとの婚約に関する事での重要な会議だと言うのに、アルバーノは参加していなかった。
否、参加させてもらえなかった、と言う方が正しいかもしれない。
会議に参加させないのもとんでもない話だが、アルバーノの方も、ダリオとラウラを婚約させまいときっと無駄に議会を引き延ばそうとしたり妨害をしてくるに違いないので、わざと嘘の会議室と時間をアルバーノに教えておいて自分達だけでさっさと決定してしまったのである。
それもこれも、アルバーノの娘であるカテリーナをダリオと婚約させない為であった。
カテリーナの悪評判は城で働く者達だけで無く、大臣達も把握していた。何度も忠告され、仕舞には警告されても無視をして城に上がり、ダリオとその周辺に迷惑を掛け続けているのである。
此処迄くれば、流石に王子妃候補として外されて当然であった。しかし、本来であればオネスティ家の曾祖母が降嫁してきた関係もあってカテリーナは王子妃の候補としては申し分ない身であったのだ。
余計な事をしなければ、候補としてラウラと競う事になるだろうがそれでもまだ何かやりようはあっただろうに、自ら道を途絶えさせたのだからどうする事も出来ない。
そして当のアルバーノはと言えば、彼方此方会議室を探して奔走していた。周辺に居たメイドや文官らしき者達に聞いても知らぬ存ぜぬで使えないと憤っていた。よもや自分が除け者にされている等とは思いもしていないようだ。
メイドや文官達はアルバーノが会議室の場所を聞いて来ても知らぬ存ぜぬで通せと通達されていたのだ。
アルバーノは苛々と親指の爪を噛んだ。
今回の会議で、魔女から貰った人心を操る指輪と言う物で大臣達を操り、先ずはダリオとカテリーナの婚約を決めるつもりで居たのだ。
それから城中の者達を操り、カルロと魔女────ルイスを結婚させて後にバルディーニ家を滅ぼし、バルディーニ領を自らの領にして鉄道事業等を乗っ取るつもりでいたのだ。
その取っ掛かりとなるであろう会議に遅刻どころか間に合わぬと言う事態に、アルバーノは焦った。
「クソッ、一体どこで会議をしているんだ?」
そう呟いた時であった。
「おや、オネスティ大臣ではありませんか」
聞き覚えのある声に振り返ると、会議を終えた大臣達が部屋からぞろぞろと出て来るところであった。
「ラ、ライモンディ大臣・・・・・・ッ」
「こんな所で何をしているのです? 会議はもう終わりましたぞ」
会議の前半戦が終わっただけで会食を挟んで午後も会議は続く。アルバーノは、まだ婚約の話が決議されていない事に一縷の望みを掛けたが、聞き出す前に絶望的な事を言われてしまった。
「おお、そうだ。 午前の会議でダリオ殿下とバルディーニ侯爵令嬢の婚約発表は、来年の春花祭の頃に決まりましたぞ」
「・・・・・・はっ!?」
婚約発表だと、とアルバーノは目を剥いた。
「ま、待って下さい、まだ正式に婚約していないのに何故もう婚約発表が決まったのです?」
「まあ確かに慌ただしいですが、婚約は年明け頃にしてそのまま春花祭に発表しようと決まったのですよ」
アルバーノは啞然とした。それはそのまま、本来であればカテリーナとの婚約でそうしようと思っていた事であったからだ。
何故だ・・・・・・何故・・・・・・。
そう考えた所で答えなぞ出る筈も無く、アルバーノは通り過ぎる大臣達を呆然と見送るしかなかった。
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