復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

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天国への階段を下りる

五十二.

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「ふふ、本当は俺が 君達を罠に嵌めて破滅させたんだけどね」
 悪戯っぽく笑っているが、その笑みは狂気じみていた。ラウルは矢張り自分達は罠に嵌められていたのだ、と気付かされて愕然とした。
 そう、何度も疑っていたのだ。まるで何かに追い込まれているかのような違和感がずっと付き纏っていた。
 しかしそれ以上に、グィードが憎くて憎くて堪らない、と言う感情に支配されていたのだ。殆ど何も知らないような相手を何故こんなにも憎めたのか、もしかしたら彼は何か知っているのかもしれない。
 ラウルはその答えを知りたくて、思わず聞いていた。
「ど、どうして・・・こんな事を・・・・・・」
「そうだねえ、言っても君は信じられないだろうし、別に信じられなくても良いんだけど・・・・・・」
 グィードのその顔は何かを思い出す様に遠くを見ていた。
「そう遠くは無い未来・・・・・・シエナ学園に入学して君達はその一年後現れる魔女に操られて、バルディーニ家を潰すんだ」
「何だって・・・・・・っ!?」
 俄かには信じ難い話に、ラウルは唖然としたような表情で、更に血の気が引いたような顔色になっていた。
「魔力に耐性の無い君達は魔女に操られて、カルロ殿下の婚約者であったラウラに暴力を揮い、散々貶めた挙句罪をでっちあげて大勢の人達の前で婚約破棄をしたんだ」
「・・・・・・っ!」
 信じられない。ラウルは失血のせいだけでは無い青い顔色で首をゆるゆると左右に振っていた。
「馬鹿な・・・・・・有り得ない」
「そう・・・やっぱり信じられないよね。 でも、君たちはその有り得ない事をやってくれたんだ」
 ショックで俯くラウルの背後に、何者かが立って濃い影を作り出す。覆い被さる様な圧迫感にラウルは恐る恐る振り返ると、深く濃い闇を纏った魁偉な男が立っていた。
「・・・・・・ヒィッ」
 病んだ様な青白い顔の大男に見下ろされ、喉の奥から引き攣れる様な声が漏れた。ラウルの、怯えた間抜けな顔を鼻で笑い、ベルゼビュートはラウルから離れてグィードの側へと向かった。
 グィードの側迄来ると、ベルゼビュートはその黒衣でグィードを包み込むように抱き込んでそっ、と屈みこむとグィードの額にキスを落とした。
「お疲れ様です、ベルゼビュート卿」
 グィードは労わる様に男の頬にそっ、と手を置いてするりと撫でた。
「ああ、そうそう。 君がどうしてこんなに俺の事を憎く思っていたのか教えてあげるよ、が君にずっと囁いていたのさ。 ”グィード・バルディーニ憎め”、ってね」
 事情が呑み込めず、混乱して頭の中にクエスチョンが飛び回るラウルに、グィードは苦笑した。
「魔女が出て来るなら此方は悪魔と手を組むしかないよね」
「は・・・・・・? 其処の男が悪魔だとでも言うのかい」
 とても信じられない事を言うグィードに半ば呆れた様にラウルは口を開いた。
 馬鹿馬鹿しい、僕はこんなヤツの罠に嵌まってこんな目に合っていると言うのか、と落ち込みかけたが今はそんな場合では無い事に今更ながら気が付いた。
「あ、ふふふ・・・気が付いたみたいだね?」
 はたと我に返ったラウルの足元が血の海になっていた。否、血の海と言うとやや大袈裟な表現になってしまうが、しかしラウルの下肢は完全に血塗れになっていた。
「あ、ああ・・・・・・」
 頭がフラフラする。立ち上がる事もままならない。ふらつく頭を何とか其方へと向け、グィードを見やる。
「早く立って何とかしないと食べられてしまうよ?」
 グィードがそう言った瞬間、雑木林から沢山の光る眼と荒い息遣いが聞こえ、そして獣臭が漂い始めた。
「・・・・・・っ!!」
 どうして今迄気付かなかったのか不思議なくらい集まっていた。低い唸り声、興奮しきった吠え声等、沢山の野犬の群れにラウルはガクガクと大きく震え出した。
 野犬所か野良犬すらまともに見た事が無いラウルは沢山の獰猛な野犬の前にすっかり怯えていた。
「あ、あ、・・・ど、どうしよ・・・・・・っ!」
 助けを求める様にグィード達が居た場所を見る。しかし、驚いた事に其処には誰も居なかった。
「え、え? な、何で・・・・・・」
 唖然とするラウルの頭に直接響き渡る様なグィードの声が聞こえた。
『ほら、早く立って逃げないと。 さあ、早く早く!』
 そうだ、逃げるんだ。
 ラウルはふらつく脚で何とか立ち上がり、よろよろと歩き出していた。 
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