復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

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地獄への道は美しく舗装されている

三十八.

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「・・・・・・ふう」
 グィードは軽く溜息を吐いた。返り血を、少し浴びてしまった。まあ良い、どうせ今日着た服は最初から捨てる気だった、と思いながら顔にも飛び散った血をシャツの袖で乱暴に拭った。
「し、勝者っ、グィード・バルディーニッ!」
 はたと我に返った審判役の騎士が慌てて声を張り上げ、グィードの勝利を告げた。
 グィードは軽く頭を下げて礼をすると、国王達に向き合った。
「・・・うむ、バルディーニ令息よご苦労であったな」
 国王から労いの言葉を賜り、グィードは頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下」
 三人が天幕に入ると、控えていたメイドがそれぞれにタオルを渡してきた。
「ああ、ありがとう」
 グィードはタオルを受け取り、顔や髪を拭きながらふと、外を見やる。すると先程の騎士達がオルランドを担架に乗せて何処かに行こうとしているのが見えた。
 黙々と、男達は手慣れた様子で運び出す。それは勿論、オルランドを手当てしてやる為ではなく、もうすぐ死にゆく彼を墓場へと運ぶ為であった。
 オルランドを隠す様に薄汚れた麻布を被せ、まるで重しの様に彼の剣をその上に乗せた。
 自身達も身分を隠す様にマントのフードを目深に被り、粛々と人目を憚る様に運び出されたオルランドは、幌の無い荷馬車に乗せられる。一度麻布を剥がすとドサッと放り出す様に随分と乱暴な扱い方で乗せられ、ゴロリと転がされるとまた麻布を被せられる。
 ちょっ!乱暴だなあ・・・・・・。
 そうのは、もう既に死んだ筈のオルランドであった。
 本当ならもう魂は身体から離れて冥府へと向かう準備をするのだが、により彼の魂は未だ肉体に繋ぎ止められたままであった。
 それにしても寒いな、早く医者に連れてってくれよ。
 肉体は死んでいる為、その声は発せられる事も聞こえる事も無い。騎士達はひとりは御者席に、もうひとりはオルランドを寝かせた荷台部分に乗った。
 ふたりが目配せで会話すると、御者席に乗っていた騎士が鞭を入れて馬を走らせた。
 雨降りなせいかまばらな人出の街中を、荷馬車は走り抜けていく。途中から下町へと入り、整備されていない道を、時には水溜りの水を跳ね上げながら走り抜けていった。
 それからとうとう王国を飛び出した荷馬車は雑木林を抜けてどれ程走らせたのか、突然視界が開けた。
 しかしそれからもう少し走らせた先、突然現れた何やら手作りらしき、木の枝を組み合わせたお粗末な柵のような物が立てられた出入口がある。その柵の向こう、やや小高くなった場所に教会を模したような建物が見えた。
 此処は、身元が不明の者や犯罪者、又は流れ者を埋葬する為の無縁墓地であった。
 荷馬車を柵の前に停め、そして御者席に居た男が荷台部分に移動して、ふたりで力を合わせてそれぞれオルランドの両手両足を持って勢いをつけると柵の前に放り投げた。
 バシャンッ!激しい水飛沫を上げてオルランドは水溜りの中に落ちた。まだ、血が流れているのか水溜りが徐々に紅く染まり始める。
 え、待って・・・・・・待ってくれよ!なんだよ此処!?なあ!
 オルランドの声を聞く者は此処には居ない。騎士達は無情にもオルランドを放り出し、それから思い出したように彼の剣をその上にポイッ、と投げ捨てまた来た道を戻って行った。
 さ、さ、さ、寒いっ・・・冷たいよ・・・・・・っ。
 腕を寄せて己を抱こうにも、身体はもう死んでいる為動かない。
 何で・・・・・・何でこんな・・・・・・・・・・・・。
 嘆くオルランドに近づく者があった。教会を模した建物からやたらと細長い人影が現れた。此処の墓守であった。
 長い髪の隙間から、ぎょろぎょろとした目玉で辺りを間断無く周囲を確認しながらオルランドに近づいて来る。
「・・・・・・」
 オルランドが死んでいるのを確認すると何とその場で、男はオルランドの身ぐるみを剥がし始めた。衣服は大分汚れてしまったが洗えば着れる。もう少し上等の衣服であれば剣と共に売りさばくのだけれど。
 お、おいっ!何すんだよっ!ギャーッ!バカ野郎ッ!ふざけんな!
 勿論、オルランドの叫びなぞ聞こえる筈も無い。男は粗方金目の物を物色して何もないのを確認すると、今度はオルランドの両脚を持って引き摺った。雨の中をズルズル引き摺りながら建物の裏手迄やって来た。
 そして、其処には既に先客が何体か並べられていた。筵のような物を被せられ、脚だけが出ている状態であった。
 筵を退け、適当に並べるとまた筵を被せ、男は建物へと戻って行った。 
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