復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

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地獄への道は美しく舗装されている

三十三.

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 話し合いの日前日────。
 朝早くからラウラは風呂に入って念入りに身体の手入れをしたりと忙しそうにしていた。そんなものだから彼女の朝食兼、昼食は一口サイズに作ったキューカンバーのサンドウィッチを二三切れ、紅茶で流し込んだだけだ。
 外は梅雨の晴れ間で良い天気であったが、何時急変してもおかしくないため念の為室内でのお茶会だとグィードは聞いている。
 俺よりよっぽど忙しいよな・・・・・・。
 引っ越してから数日後にはトレンティノ王国に住まう令嬢達からお茶会の招待場が引っ切り無しに届けられ、彼方此方へと飛び交う姿は蝶の様に優雅でも、内情は戦場の如き忙しさである。
 しかし、今日は何時ものお茶会とは訳が違う。そう、トレンティノ王国第二王子、ダリオ・ベンティチェンティからの招待である。
 だから今回の身体の手入れは特に入念に施され、ドレスやアクセサリーもかなり前から厳選して選んでいた。身体に塗り込むオイルだってとっておきのローズオイルで肌を磨き、髪も何時もより丁寧に梳る。
 ドレスやアクセサリーは季節感を大事にしつつトレンドを抑えるのも怠らないし、相手に不快感を与えない事も大事だ。
 コンコンッ。グィードの執務室のドアがノックされる。
「・・・・・・はい」
 応えると、ラウラのメイドが失礼しますと静かに入って来た。
「どうしたの?」
「はい、ラウラ様のコルセットの装着するのをお手伝いしていただきたくて・・・・・・」
「ん? 何時もの娘はどうしたの?」
 そう、ラウラのドレスを着つける時、コルセットを締めるのがとても上手なメイドがいるのだが、特に気合がいる今日のような日こそ必要な人材だろうにどうしたと言うのか。
「それが・・・・・・」
 メイドの説明で、そのメイドは如何やら風邪をひいてダウンしているらしい事が分かった。
「ああ、そうなのか。分かった、直ぐ行くよ」
 と、グィードは立ち上がった。
 メイドと共にラウラが着替えている部屋へ向かうと、まさに戦場もかくやとメイド達が忙しそうに立ち回っていた。そしてその中心でラウラがコルセットを半ば身に着けた状態で待っていた。
「お兄様、早く早くっ!」
「・・・・・・はいはい」
 兄相手に恥じらう必要なし、と潔いのか肝が太いのか。此方に背を向けて催促する妹に兄は苦笑いするしかなかった。
 コルセットを装着せずともこんなに華奢な身体をこれ以上細く見せなければいけないなんて、大変だなあ、と紐を手に取り準備をする。
「・・・・・・引っ張るぞ」
「・・・・・・どうぞっ!」
 ラウラが覚悟したような声で応えた。グィードはコルセットの紐をグイッ、と引いた。紐を力任せに引くのではなく、ある程度の加減を見ながら引かないといけないので中々難しい。
「・・・よっ、と・・・・・・これでオッケー?」
「ええ、ありがとう! お兄様」
 ラウラがそう言うので、紐を結んで纏めた。
 これ以上此処に居るのは良くないので早々に退室して執務室に戻ると、暫くしてラウラが顔を出してきた。
「お兄様、どうかしら?」
 くるりと一回転して見せたラウラは白地に、爽やかなペールブルーのストライプのドレスを着ていた。
 ストライプと同色のサテンリボンを通したラッセルの梯子レースや共布のたっぷりとしたフリルで飾られ、甘いだけでなく爽やかなイメージも崩さないそれはラウラに良く似合っていた。
「ああ、良いんじゃないか」
 目を細めて、にっこり笑う。耳元や首を飾るアクセサリーの石は小ぶりで涼やかな色合いのブルートパーズだ。
 そう言えば、ダリオ殿下の瞳も碧眼だがブルートパーズの様に淡い青ではなかったか。
「それじゃあ、行ってきますお兄様」
「ああ、気を付けて行っておいで」
 そう言って見送ってから、ふと思った。ダリオ殿下とくっ付けようと思ったは良いが、自分の今迄の行動がもしかしたらネックになってしまわないかと考えたのだ。
 トラブルメーカーな兄が居ると思われるのはラウラやジュリオに申し訳が立たない。
 そう考えてからふと、隣を見ればベリアドが立っていた。目が合うとベリアドがにっ、と笑って。
「ご安心めされよ、そう言う時こそ我らの出番」
 頼もし気な言葉に、グィードは静かに頷き微笑んだ。
 
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