復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

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復讐するは我にあり

十.

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「そのせいで、殿下は最近あまり重要な案件を任されていないらしい」
「まあ・・・・・・でしょうね」
 跡継ぎ云々以前に、 何か仕事を任されている訳でも無い者が執務室に入り浸れば、機密の漏洩を懸念して当然、そうなってくると言うものである。
 しかし、そんな話初耳であった。会話の内容を少し替えただけで、こんな事を聞けるとは思わなかったグィードはどうしょうか、と思った。
 この状況でダリオ殿下の話をすれば俺はとんだ野心家だな。
 しかし言わない訳にはいかないので、ダリオの話をした。
 ダリオにラウラとの出会いをセッティングしてやりたい、概ねそんな事を言った。
「・・・・・・ほう?お前は何時からそんな野心家になったのだ」
 ほらやっぱり、とグィードは眉を寄せた。
「別にそんなつもりはありませんが・・・・・・見知らぬ国に嫁いで一生会えなくなるよりは良いでしょう?」
 するとジュリオは黙った。本当なら婿入りしてくれる人間が居れば良いのだろうが、それも中々難しいだろう。
 バルディーニ領は第二の王都と呼ばれる程土地も発展しているが、それは領地経営だけでなく、鉄道経営にも力を入れているからだ。
 鉄道関係はこれからの国や、様々な技術の発展のためにも大きな影響を与える公共事業となるだろう。皆が現在手探りの中、父ジュリオを含め四代に渡って鉄道事業に力を入れた祖先の先見の妙は大したものである。
 勿論、バルディーニ家だけで此処までは発展した訳では無い。沢山の事業提携を近隣の貴族王族から得られたからこそではあるのだけれど。
 この兄妹ならとっくに婚約者が居てもおかしくは無いし、実際引く手数多だ。バルディーニ家と縁戚関係になって何かしら利権が欲しい所だろう王族貴族がどれ程居る事か。だから、グィードとラウラの結婚には慎重にならざる得ないのである。
「まあ、良いだろう。ラウラに伝えると良い」
「ありがとうございます」
 許可を無事貰えたグィードは、先に帰る許可を得て執務室を出た。来た道を戻り、階段を下りる。
 馬車乗り場へ向かう途中、柱の影にオルランドの姿が見えた。
「・・・・・・?」
 グィードは咄嗟に少し離れた柱に隠れてオルランドを観察した。オルランドは如何やらひとりでは無く、誰かと会話していた。
 オルランドより少し背の高い、髪の長い男であった。アッシュグレーの髪は背中まで届くくらいか。
 騎士なのか、柔和な顔立ちをしているがチュニックの上からでも分かる逞しい身体つきをしていた。
 会話の内容は聞き取りづらいものの、ふたりの距離がその親密さを示していた。人通りは少ないが、無い訳ではないのでその様な親密さを見せつけるのは如何なものか、とグィードは思った。
「・・・・・・ガブリエーレ・アルボルゲッティ。平民出の、下級騎士ですよ」
 グィードは背後からいきなり囁かれ、心臓が飛び上がる程驚いた。
「・・・・・・ッ!ベ・・・・・・ベリアド卿っ」
 振り返ると、精緻な刺繍の施されたダークグリーンのジャケットに身を包み、貴族然とした服装の悪魔ベリアドが背後に立っていた。
 金髪碧眼は高貴な出自を思わせるが、魁偉なその様はきっと上位の騎士に違いないと想像させる。目が合うと、ニッ、と唇を吊り上げ笑うその顔はとても魅力的で。男であれ女であれ、彼に誘われればそう断れないであろう、抗いがたい蠱惑的な笑顔であった。
「驚かさないで下さい・・・・・・」
「これはこれは・・・・・・失礼いたしました、グィード様」
 つ、と背後からベリアドはグィードの腰を抱き寄せ、耳元で甘やかに囁いた。
「あ、誰か来たら・・・・・・」
「大丈夫ですよ、人払いの呪を掛けてますから暫くは誰も来ません」
 悪魔の掛ける魔法は強力そうだな、と思わず目の前の事を忘れてそんな事を考えてしまった。
「グィード様?」
「ああ、いや・・・・・・あっ」
 驚いた事に、オルランドはガブリエーレの首筋に腕を回すとキスをしたのだ。
 おいおい、こんな所で、と呆れてグィードは言葉を失った。
「おや、まあ」
 と、ベリアドの方は明らかに面白がっている声音だ。 
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