12 / 83
復讐するは我にあり
十.
しおりを挟む
「そのせいで、殿下は最近あまり重要な案件を任されていないらしい」
「まあ・・・・・・でしょうね」
跡継ぎ云々以前に、 何か仕事を任されている訳でも無い者が執務室に入り浸れば、機密の漏洩を懸念して当然、そうなってくると言うものである。
しかし、そんな話初耳であった。会話の内容を少し替えただけで、こんな事を聞けるとは思わなかったグィードはどうしょうか、と思った。
この状況でダリオ殿下の話をすれば俺はとんだ野心家だな。
しかし言わない訳にはいかないので、ダリオの話をした。
ダリオにラウラとの出会いをセッティングしてやりたい、概ねそんな事を言った。
「・・・・・・ほう?お前は何時からそんな野心家になったのだ」
ほらやっぱり、とグィードは眉を寄せた。
「別にそんなつもりはありませんが・・・・・・見知らぬ国に嫁いで一生会えなくなるよりは良いでしょう?」
するとジュリオは黙った。本当なら婿入りしてくれる人間が居れば良いのだろうが、それも中々難しいだろう。
バルディーニ領は第二の王都と呼ばれる程土地も発展しているが、それは領地経営だけでなく、鉄道経営にも力を入れているからだ。
鉄道関係はこれからの国や、様々な技術の発展のためにも大きな影響を与える公共事業となるだろう。皆が現在手探りの中、父ジュリオを含め四代に渡って鉄道事業に力を入れた祖先の先見の妙は大したものである。
勿論、バルディーニ家だけで此処までは発展した訳では無い。沢山の事業提携を近隣の貴族王族から得られたからこそではあるのだけれど。
この兄妹ならとっくに婚約者が居てもおかしくは無いし、実際引く手数多だ。バルディーニ家と縁戚関係になって何かしら利権が欲しい所だろう王族貴族がどれ程居る事か。だから、グィードとラウラの結婚には慎重にならざる得ないのである。
「まあ、良いだろう。ラウラに伝えると良い」
「ありがとうございます」
許可を無事貰えたグィードは、先に帰る許可を得て執務室を出た。来た道を戻り、階段を下りる。
馬車乗り場へ向かう途中、柱の影にオルランドの姿が見えた。
「・・・・・・?」
グィードは咄嗟に少し離れた柱に隠れてオルランドを観察した。オルランドは如何やらひとりでは無く、誰かと会話していた。
オルランドより少し背の高い、髪の長い男であった。アッシュグレーの髪は背中まで届くくらいか。
騎士なのか、柔和な顔立ちをしているがチュニックの上からでも分かる逞しい身体つきをしていた。
会話の内容は聞き取りづらいものの、ふたりの距離がその親密さを示していた。人通りは少ないが、無い訳ではないのでその様な親密さを見せつけるのは如何なものか、とグィードは思った。
「・・・・・・ガブリエーレ・アルボルゲッティ。平民出の、下級騎士ですよ」
グィードは背後からいきなり囁かれ、心臓が飛び上がる程驚いた。
「・・・・・・ッ!ベ・・・・・・ベリアド卿っ」
振り返ると、精緻な刺繍の施されたダークグリーンのジャケットに身を包み、貴族然とした服装の悪魔が背後に立っていた。
金髪碧眼は高貴な出自を思わせるが、魁偉なその様はきっと上位の騎士に違いないと想像させる。目が合うと、ニッ、と唇を吊り上げ笑うその顔はとても魅力的で。男であれ女であれ、彼に誘われればそう断れないであろう、抗いがたい蠱惑的な笑顔であった。
「驚かさないで下さい・・・・・・」
「これはこれは・・・・・・失礼いたしました、グィード様」
つ、と背後からベリアドはグィードの腰を抱き寄せ、耳元で甘やかに囁いた。
「あ、誰か来たら・・・・・・」
「大丈夫ですよ、人払いの呪を掛けてますから暫くは誰も来ません」
悪魔の掛ける魔法は強力そうだな、と思わず目の前の事を忘れてそんな事を考えてしまった。
「グィード様?」
「ああ、いや・・・・・・あっ」
驚いた事に、オルランドはガブリエーレの首筋に腕を回すとキスをしたのだ。
おいおい、こんな所で、と呆れてグィードは言葉を失った。
「おや、まあ」
と、ベリアドの方は明らかに面白がっている声音だ。
「まあ・・・・・・でしょうね」
跡継ぎ云々以前に、 何か仕事を任されている訳でも無い者が執務室に入り浸れば、機密の漏洩を懸念して当然、そうなってくると言うものである。
しかし、そんな話初耳であった。会話の内容を少し替えただけで、こんな事を聞けるとは思わなかったグィードはどうしょうか、と思った。
この状況でダリオ殿下の話をすれば俺はとんだ野心家だな。
しかし言わない訳にはいかないので、ダリオの話をした。
ダリオにラウラとの出会いをセッティングしてやりたい、概ねそんな事を言った。
「・・・・・・ほう?お前は何時からそんな野心家になったのだ」
ほらやっぱり、とグィードは眉を寄せた。
「別にそんなつもりはありませんが・・・・・・見知らぬ国に嫁いで一生会えなくなるよりは良いでしょう?」
するとジュリオは黙った。本当なら婿入りしてくれる人間が居れば良いのだろうが、それも中々難しいだろう。
バルディーニ領は第二の王都と呼ばれる程土地も発展しているが、それは領地経営だけでなく、鉄道経営にも力を入れているからだ。
鉄道関係はこれからの国や、様々な技術の発展のためにも大きな影響を与える公共事業となるだろう。皆が現在手探りの中、父ジュリオを含め四代に渡って鉄道事業に力を入れた祖先の先見の妙は大したものである。
勿論、バルディーニ家だけで此処までは発展した訳では無い。沢山の事業提携を近隣の貴族王族から得られたからこそではあるのだけれど。
この兄妹ならとっくに婚約者が居てもおかしくは無いし、実際引く手数多だ。バルディーニ家と縁戚関係になって何かしら利権が欲しい所だろう王族貴族がどれ程居る事か。だから、グィードとラウラの結婚には慎重にならざる得ないのである。
「まあ、良いだろう。ラウラに伝えると良い」
「ありがとうございます」
許可を無事貰えたグィードは、先に帰る許可を得て執務室を出た。来た道を戻り、階段を下りる。
馬車乗り場へ向かう途中、柱の影にオルランドの姿が見えた。
「・・・・・・?」
グィードは咄嗟に少し離れた柱に隠れてオルランドを観察した。オルランドは如何やらひとりでは無く、誰かと会話していた。
オルランドより少し背の高い、髪の長い男であった。アッシュグレーの髪は背中まで届くくらいか。
騎士なのか、柔和な顔立ちをしているがチュニックの上からでも分かる逞しい身体つきをしていた。
会話の内容は聞き取りづらいものの、ふたりの距離がその親密さを示していた。人通りは少ないが、無い訳ではないのでその様な親密さを見せつけるのは如何なものか、とグィードは思った。
「・・・・・・ガブリエーレ・アルボルゲッティ。平民出の、下級騎士ですよ」
グィードは背後からいきなり囁かれ、心臓が飛び上がる程驚いた。
「・・・・・・ッ!ベ・・・・・・ベリアド卿っ」
振り返ると、精緻な刺繍の施されたダークグリーンのジャケットに身を包み、貴族然とした服装の悪魔が背後に立っていた。
金髪碧眼は高貴な出自を思わせるが、魁偉なその様はきっと上位の騎士に違いないと想像させる。目が合うと、ニッ、と唇を吊り上げ笑うその顔はとても魅力的で。男であれ女であれ、彼に誘われればそう断れないであろう、抗いがたい蠱惑的な笑顔であった。
「驚かさないで下さい・・・・・・」
「これはこれは・・・・・・失礼いたしました、グィード様」
つ、と背後からベリアドはグィードの腰を抱き寄せ、耳元で甘やかに囁いた。
「あ、誰か来たら・・・・・・」
「大丈夫ですよ、人払いの呪を掛けてますから暫くは誰も来ません」
悪魔の掛ける魔法は強力そうだな、と思わず目の前の事を忘れてそんな事を考えてしまった。
「グィード様?」
「ああ、いや・・・・・・あっ」
驚いた事に、オルランドはガブリエーレの首筋に腕を回すとキスをしたのだ。
おいおい、こんな所で、と呆れてグィードは言葉を失った。
「おや、まあ」
と、ベリアドの方は明らかに面白がっている声音だ。
3
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話
真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。
ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。
確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。
絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。
そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。
「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」
冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。
※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編
「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です
【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜
有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)
甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。
ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。
しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。
佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて……
※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる