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復讐するは我にあり
五.
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「おはようございます、グィード様」
柔らかな男性の声。そしてシャッ、と言う音がしてカーテンが開けられ眩い朝の光が部屋に差し込む。
「う、ん・・・・・・ッ」
眩しさに顔を顰めながら、思わず手を顔の前に翳していた。もう朝か、と気だるげに寝返りを打つ。そうしてからはたと我に返ってガバッ、と起き上がった。
慌てて身体のあちこちとベッドの周りを確認して、それから愕然とする。昨夜の狂乱が嘘のように何もなかったからだ。ルシフェールに抱かれた後、更に三人の男が現れて。
ベルゼビュート、ベリアド、ダエーワと名乗った三人に頭の天辺から足のつま先まで丁寧に愛撫され、グィードは淫らな宴に酔いしれた。
しかし、今の自分の身体とベッドには昨夜の情交の跡など微塵もなく、傍目からは清らかに見えたかもしれない。こうなると自分でも昨夜の事は悪い夢だったのか、と考えていると左手の指先にコツン、と硬い物が当たった。
驚いて反射的に手を引き、其方に目をやると、ベッドの上には何時の間にか一冊の本が置かれていた。
赤黒い血を連想させる装丁が不気味なそれは、ルシフェールを召喚する為に手に入れたグリモワールであった。
タイトルや作者の名前すらないが、繊細な金の箔押しで模様が入った赤黒い表紙が恐ろしいが美しい本だ。
夢ではない、とわざわざ教える為に現れたのだろうか。そっ、と触れてみると血が通っているかのようにほんのりと暖かかった。
「グィード様?」
侍従のサムが不思議そうに此方を見ていた。
「ああ、いや。何でもない」
軽く手を振り、ふわりと微笑んだ。侍従に朝の手入れの用意をさせるとグィードは顔を洗い、髪を整えるとそれから着替えを選ぼうとクローゼットを開けた。
「・・・・・・」
ふと、今日は何日であったか、と考えているとサムが声を掛けてきた。
「今日は初めてお城に上がられる日ですよね?でしたらベージュのジャケットがよろしいのでは」
そうか、今日初めて登城する日だったのか、と気付いてから侍従の提案に素直に従い、ベージュのジャケットに袖を通した。
部屋を出て食堂へと向かう途中、背後から声を掛けられた。
「お兄様!」
ビクリ、と身体が震えた。
ああ・・・・・・。
グィードは泣きそうになるのを辛うじて堪えた。あの日、妹の亡骸とその前に心臓を抑えて蹲る父を、ただ見ているしか出来なかった。今度こそ、絶対に助ける。もう一度、心に誓った。
「おはよう、ラウラ」
ゆっくりと振り返る。其処には、自分と同じ艶やかな黒髪を持ち、サファイアを思わせる深く濃い青い瞳の少女が此方に向かって歩いていた。グィードは赤みの強い、濃いアメジストのような瞳をしている。ふたりの黒髪とラウラの濃い青い瞳は母親側の特徴であった。
「おはようございます、お兄様」
今日はお気に入りの小花柄の青いワンピースを着ていた。今回は彼女は留守番だからか、ややカジュアルな印象の服装だ。
軽やかに駆け寄り、兄の腕にするりと己の腕を絡ませた。
「今日はお城に行く日なのでしょう?」
「ああ、暫くここで暮らすことになるからな。一応顔出ししておかないと」
十二歳の頃に一度、受勲される為に城に上がった事があるだけだ。そう思うと結構久しぶりだな、と思った。
十歳の頃にバルディーニ領付近で起きた紛争にて初陣を飾り、二年続いた紛争はトレンティノ王国からも援軍を呼ぶ程で、色々あったが幼くして活躍した事で勲章を受けた。
その頃に一度王子達と顔を合わせたことがあるが、それ以来だ。
「お前もそのうち行く事になるからな」
そう言うと、ラウラはアーモンドの花を思わせる可憐なピンク色の唇を尖らせた。
「お城には怖い人達がいないと良いのだけれど・・・・・・」
「大丈夫さ、怖い人ばかりじゃない。それに、居たとしても父上や俺が追い払ってやるさ」
そう・・・・・・俺が必ず追い払ってやる。
ラウラの華奢な指に己の手を重ねる。こんなに華奢でか弱い彼女を一人で死なせてしまった。多分、復讐が終わっても永遠に悔やむ事だろう。
今度は奴らが悔やむ番だ。その為には手段を選ぶつもりはない。そう、その為に悪魔の王に全てを捧げたのだから。
柔らかな男性の声。そしてシャッ、と言う音がしてカーテンが開けられ眩い朝の光が部屋に差し込む。
「う、ん・・・・・・ッ」
眩しさに顔を顰めながら、思わず手を顔の前に翳していた。もう朝か、と気だるげに寝返りを打つ。そうしてからはたと我に返ってガバッ、と起き上がった。
慌てて身体のあちこちとベッドの周りを確認して、それから愕然とする。昨夜の狂乱が嘘のように何もなかったからだ。ルシフェールに抱かれた後、更に三人の男が現れて。
ベルゼビュート、ベリアド、ダエーワと名乗った三人に頭の天辺から足のつま先まで丁寧に愛撫され、グィードは淫らな宴に酔いしれた。
しかし、今の自分の身体とベッドには昨夜の情交の跡など微塵もなく、傍目からは清らかに見えたかもしれない。こうなると自分でも昨夜の事は悪い夢だったのか、と考えていると左手の指先にコツン、と硬い物が当たった。
驚いて反射的に手を引き、其方に目をやると、ベッドの上には何時の間にか一冊の本が置かれていた。
赤黒い血を連想させる装丁が不気味なそれは、ルシフェールを召喚する為に手に入れたグリモワールであった。
タイトルや作者の名前すらないが、繊細な金の箔押しで模様が入った赤黒い表紙が恐ろしいが美しい本だ。
夢ではない、とわざわざ教える為に現れたのだろうか。そっ、と触れてみると血が通っているかのようにほんのりと暖かかった。
「グィード様?」
侍従のサムが不思議そうに此方を見ていた。
「ああ、いや。何でもない」
軽く手を振り、ふわりと微笑んだ。侍従に朝の手入れの用意をさせるとグィードは顔を洗い、髪を整えるとそれから着替えを選ぼうとクローゼットを開けた。
「・・・・・・」
ふと、今日は何日であったか、と考えているとサムが声を掛けてきた。
「今日は初めてお城に上がられる日ですよね?でしたらベージュのジャケットがよろしいのでは」
そうか、今日初めて登城する日だったのか、と気付いてから侍従の提案に素直に従い、ベージュのジャケットに袖を通した。
部屋を出て食堂へと向かう途中、背後から声を掛けられた。
「お兄様!」
ビクリ、と身体が震えた。
ああ・・・・・・。
グィードは泣きそうになるのを辛うじて堪えた。あの日、妹の亡骸とその前に心臓を抑えて蹲る父を、ただ見ているしか出来なかった。今度こそ、絶対に助ける。もう一度、心に誓った。
「おはよう、ラウラ」
ゆっくりと振り返る。其処には、自分と同じ艶やかな黒髪を持ち、サファイアを思わせる深く濃い青い瞳の少女が此方に向かって歩いていた。グィードは赤みの強い、濃いアメジストのような瞳をしている。ふたりの黒髪とラウラの濃い青い瞳は母親側の特徴であった。
「おはようございます、お兄様」
今日はお気に入りの小花柄の青いワンピースを着ていた。今回は彼女は留守番だからか、ややカジュアルな印象の服装だ。
軽やかに駆け寄り、兄の腕にするりと己の腕を絡ませた。
「今日はお城に行く日なのでしょう?」
「ああ、暫くここで暮らすことになるからな。一応顔出ししておかないと」
十二歳の頃に一度、受勲される為に城に上がった事があるだけだ。そう思うと結構久しぶりだな、と思った。
十歳の頃にバルディーニ領付近で起きた紛争にて初陣を飾り、二年続いた紛争はトレンティノ王国からも援軍を呼ぶ程で、色々あったが幼くして活躍した事で勲章を受けた。
その頃に一度王子達と顔を合わせたことがあるが、それ以来だ。
「お前もそのうち行く事になるからな」
そう言うと、ラウラはアーモンドの花を思わせる可憐なピンク色の唇を尖らせた。
「お城には怖い人達がいないと良いのだけれど・・・・・・」
「大丈夫さ、怖い人ばかりじゃない。それに、居たとしても父上や俺が追い払ってやるさ」
そう・・・・・・俺が必ず追い払ってやる。
ラウラの華奢な指に己の手を重ねる。こんなに華奢でか弱い彼女を一人で死なせてしまった。多分、復讐が終わっても永遠に悔やむ事だろう。
今度は奴らが悔やむ番だ。その為には手段を選ぶつもりはない。そう、その為に悪魔の王に全てを捧げたのだから。
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