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終章
とても可愛く見えるのです
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「クリスは、メリオンのことを『可愛い』と思うことはありますか?」
場所はクリスの秘密基地。もぐもぐとチョコレートを食みながら、ゼータが訊いた。
「普通にあるよ。何でそんなこと訊くの?」
「別に深い意味もないんですけれどね。どうなのかなと思って。私にとって、メリオンは悪魔以外の何物でもないものですから」
ゼータの指先は、本日4つ目となるチョコレートの包み紙を開ける。本日のお夜食は、クリスがポトスの街中で購入してきた期間限定のチョコレート。甘党のゼータにとっては堪らない代物だ。
「じゃあ逆に尋ねるけどさ。ゼータはレイさんのこと、可愛いと思うことはないの?」
「レイは結構可愛いですよ。秘密基地でごろごろ転がっているのなんて、動物みたいで愛らしいじゃないですか」
「動物と言ってもレイさんはドラゴンだからなぁ。可愛い、という気持ちは僕には分からないや」
「ドラゴンは見慣れると結構可愛いんですよ。目がくりくりしていて。レイは竜体になると途端に行動が動物っぽくなるんです。ギャップが良いんですよね。餌を仕留めたら、褒めて欲しそうにやってくるし」
「……それ殺戮直後ってことでしょ。血みどろのドラゴンって可愛いかなぁ」
「餌を仕留めたことが可愛いんじゃなくて、仕留めた後の仕草が可愛いんです。頭を撫でたら喜ぶんですよ」
「殺戮直後のドラゴンの仕草が可愛いというのなら、メリオンさんなんて子猫みたいなもんじゃん」
「メリオンは悪魔です」
「待って、ちょっと聞いて。今日の夕方の話なんだけどね。僕が菓子箱を持って歩いていたら、メリオンさんが寄って来たんだよ。興味がない風を装いながらも、なんだかんだ僕の買う菓子に期待しているんだよメリオンさんは。今日の菓子が好みじゃないとわかると、舌打ちして去って行ったけど」
「恋人に向けて舌打ちする人物を、可愛いとは言わないでしょう」
「舌打ちが可愛いんじゃなくて、その前のいそいそと菓子箱を覗き込む様が可愛いんだってば。わかんないかなぁ?」
チョコレートをつまみながら話をするうちに、会話は段々とヒートアップ。仕舞いにはゼータもクリスもぜぇぜぇと息を切らせる始末である。レイは世界で一番愛らしい存在なのに、なぜその愛らしさが分からないんですか? メリオンさんは見た目よりずっと可愛いのに、何で伝わんないかなぁ? 傍から見れば究極不毛な争いである。
「…ゼータ。レイさんの可愛いところを10個言ってみてよ」
「10個でいいんですか?レイの愛らしいところなら30は言えますよ」
「僕だってメリオンさんの可愛いところなら50は言えるけどさ。キリがないでしょ。厳選10個」
「良いでしょう」
突如勃発した謎の勝負を前に、部屋の中には緊張が走る。試合開始の合図は、沈黙の後のゼータの声であった。
「朝髪を整えても夕方には跳ね回っている!公務中の変顔は眠気の合図!クリスとの身長差を気にして最近靴底が厚くなった!」
国内最強と称されるレイバックの意外な可愛らしさに、クリスの表情が緩む。
「レイさん、僕との身長差を気にしてたんだ。確かに結構あるもんね、10㎝くらい?」
「そのくらいはあると思いますよ。最近珍しく靴を買い換えたと思ったら、以前の靴よりも2㎝くらい靴底が厚くなっていて」
笑い声の後に、部屋の中には再び沈黙が落ちた。続いて攻撃を繰り出した者は後攻のクリスである。
「寝るときは毛布に丸々とくるまる!通りすがりに尻を撫でるのは欲求不満の合図!好き嫌いはないけど人参の甘露煮だけは苦手で、僕の皿に弾き飛ばしてくる!」
悪魔と称されるメリオンの思いもよらぬ愛らしさに、ゼータは顔を俯かせた。
「…人参の甘露煮かぁ。私もあまり好きではないですね」
「僕は結構好きだよ。ふと目を逸らしたら、皿の人参が増えているんだよね」
くすくすと笑い声を零す2人の耳に、ぎぃと扉を開く音が届く。来訪者だろうかと部屋の扉を見れば、そこには気まずそうな表情を浮かべたザトが立っていた。
「…クリス、ゼータ。部屋の扉が閉まりきっていなかったぞ」
「え?」
「惚気るのは構わんが、戸締りはきちんとしてくれ。廊下まで声が聞こえている。…先ほどメリオンとすれ違ったんだがな。人を射殺しそうな目をしていた。まぁ、何というか、お前たちの無事を祈っている」
言葉を終えたザトは、そそくさと扉の向こう側に消えた。残されたゼータとクリスは揃ってがたがたと身を震わせる。どんなに愛らしいところを知っていても悪魔は悪魔。怖いものは怖い。
***
クリス「…」
メリオン「…」
クリス「メリオンさん。僕人参食べますよ」
メリオン「…」
クリス「メリオンさん。その皿に残る哀れな人参を僕に恵んでください」
メリオン「…(宙を舞う人参)」
若干未筆部分があるため、4話程度隔日更新とさせていただきます。次更新は2/14バレンタインデー。
場所はクリスの秘密基地。もぐもぐとチョコレートを食みながら、ゼータが訊いた。
「普通にあるよ。何でそんなこと訊くの?」
「別に深い意味もないんですけれどね。どうなのかなと思って。私にとって、メリオンは悪魔以外の何物でもないものですから」
ゼータの指先は、本日4つ目となるチョコレートの包み紙を開ける。本日のお夜食は、クリスがポトスの街中で購入してきた期間限定のチョコレート。甘党のゼータにとっては堪らない代物だ。
「じゃあ逆に尋ねるけどさ。ゼータはレイさんのこと、可愛いと思うことはないの?」
「レイは結構可愛いですよ。秘密基地でごろごろ転がっているのなんて、動物みたいで愛らしいじゃないですか」
「動物と言ってもレイさんはドラゴンだからなぁ。可愛い、という気持ちは僕には分からないや」
「ドラゴンは見慣れると結構可愛いんですよ。目がくりくりしていて。レイは竜体になると途端に行動が動物っぽくなるんです。ギャップが良いんですよね。餌を仕留めたら、褒めて欲しそうにやってくるし」
「……それ殺戮直後ってことでしょ。血みどろのドラゴンって可愛いかなぁ」
「餌を仕留めたことが可愛いんじゃなくて、仕留めた後の仕草が可愛いんです。頭を撫でたら喜ぶんですよ」
「殺戮直後のドラゴンの仕草が可愛いというのなら、メリオンさんなんて子猫みたいなもんじゃん」
「メリオンは悪魔です」
「待って、ちょっと聞いて。今日の夕方の話なんだけどね。僕が菓子箱を持って歩いていたら、メリオンさんが寄って来たんだよ。興味がない風を装いながらも、なんだかんだ僕の買う菓子に期待しているんだよメリオンさんは。今日の菓子が好みじゃないとわかると、舌打ちして去って行ったけど」
「恋人に向けて舌打ちする人物を、可愛いとは言わないでしょう」
「舌打ちが可愛いんじゃなくて、その前のいそいそと菓子箱を覗き込む様が可愛いんだってば。わかんないかなぁ?」
チョコレートをつまみながら話をするうちに、会話は段々とヒートアップ。仕舞いにはゼータもクリスもぜぇぜぇと息を切らせる始末である。レイは世界で一番愛らしい存在なのに、なぜその愛らしさが分からないんですか? メリオンさんは見た目よりずっと可愛いのに、何で伝わんないかなぁ? 傍から見れば究極不毛な争いである。
「…ゼータ。レイさんの可愛いところを10個言ってみてよ」
「10個でいいんですか?レイの愛らしいところなら30は言えますよ」
「僕だってメリオンさんの可愛いところなら50は言えるけどさ。キリがないでしょ。厳選10個」
「良いでしょう」
突如勃発した謎の勝負を前に、部屋の中には緊張が走る。試合開始の合図は、沈黙の後のゼータの声であった。
「朝髪を整えても夕方には跳ね回っている!公務中の変顔は眠気の合図!クリスとの身長差を気にして最近靴底が厚くなった!」
国内最強と称されるレイバックの意外な可愛らしさに、クリスの表情が緩む。
「レイさん、僕との身長差を気にしてたんだ。確かに結構あるもんね、10㎝くらい?」
「そのくらいはあると思いますよ。最近珍しく靴を買い換えたと思ったら、以前の靴よりも2㎝くらい靴底が厚くなっていて」
笑い声の後に、部屋の中には再び沈黙が落ちた。続いて攻撃を繰り出した者は後攻のクリスである。
「寝るときは毛布に丸々とくるまる!通りすがりに尻を撫でるのは欲求不満の合図!好き嫌いはないけど人参の甘露煮だけは苦手で、僕の皿に弾き飛ばしてくる!」
悪魔と称されるメリオンの思いもよらぬ愛らしさに、ゼータは顔を俯かせた。
「…人参の甘露煮かぁ。私もあまり好きではないですね」
「僕は結構好きだよ。ふと目を逸らしたら、皿の人参が増えているんだよね」
くすくすと笑い声を零す2人の耳に、ぎぃと扉を開く音が届く。来訪者だろうかと部屋の扉を見れば、そこには気まずそうな表情を浮かべたザトが立っていた。
「…クリス、ゼータ。部屋の扉が閉まりきっていなかったぞ」
「え?」
「惚気るのは構わんが、戸締りはきちんとしてくれ。廊下まで声が聞こえている。…先ほどメリオンとすれ違ったんだがな。人を射殺しそうな目をしていた。まぁ、何というか、お前たちの無事を祈っている」
言葉を終えたザトは、そそくさと扉の向こう側に消えた。残されたゼータとクリスは揃ってがたがたと身を震わせる。どんなに愛らしいところを知っていても悪魔は悪魔。怖いものは怖い。
***
クリス「…」
メリオン「…」
クリス「メリオンさん。僕人参食べますよ」
メリオン「…」
クリス「メリオンさん。その皿に残る哀れな人参を僕に恵んでください」
メリオン「…(宙を舞う人参)」
若干未筆部分があるため、4話程度隔日更新とさせていただきます。次更新は2/14バレンタインデー。
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