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荒城の夜半に龍が啼く

快楽に沈む

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***エロ有(やんわりめ)***


 茹だるような暑さの部屋だ。細微な装飾が施された壁に窓はなく、広い部屋を照らす物は壁にぶら下がるいくつもの古びた燭台だけ。壁と同様に細かな絵様が刻まれた天井は、目が眩むほどに高い。紅と黒を基調とした室内に目立った家具はなく、あるのは緋色の天蓋が備えられた豪華絢爛のベッドのみだ。

 温水から掬い上げられるような感覚と共に、レイバックは目を覚ました。目を覚ましたとはいえ、まともに機能する感覚は視覚だけ。聴覚も触覚も嗅覚も味覚も、そして思考までもが麻痺している。ここはどこだ。何をしている。朦朧とする意識を晴らすべく、レイバックはかろうじて自由に動く頭部を左右に振る。
 白く滑らかな指先がレイバックの頬を撫でた。かすむ眼で白魚の指先を辿り、やがてその指の主の面貌に辿り着く。腰まで伸びた藍色の髪に、揃いの藍色の両眼、白い肌に色づく紅の唇、上気した頬。暗闇に浮き上がる白肌の裸体だ。一糸まとわぬ姿のフィビアスがそこにいる。

「何を、している」

 絞り出した声は掠れていた。発声により身体の感覚は徐々に戻り、朦朧としていた思考は晴れてゆく。ベッドに寝ている。緋色の天蓋に覆われた巨大なベッドだ。仰向けに倒された身体の上に、裸のフィビアスが馬乗りになっている。レイバックが意識を取り戻したことに気を良くしたのか、フィビアスは裸の肢体を揺すった。同時にレイバックの全身には強烈な快感が突き抜ける。口端から漏れ出しそうになる声を抑え、必死で顔をもたげた先には、フィビアス同様裸となった自らの身体。そして深く繋がった陰部があった。

「止めろ」

 レイバックはフィビアスを突き飛ばすべく両腕を動かす。しかし頭上に掲げられた両腕は、鈍い金属音を立てただけで動かすことは叶わなかった。鎖で繋がれている。絶望とともに脚を動かせば、やはり鈍い音が耳に届くだけで脚を持ち上げる事は叶わなかった。巨大なベッドの上に仰向けに寝かされ、四肢を鎖で繋がれている。
 鎖を引き千切るべく両腕を動かすレイバックの胸元を、女の手のひらが撫でた。ただ肌を撫でられているだけなのに、身体の内側に触れられるような快感が全身を支配する。

「気持ち良いでしょう。魔法を掛けた者と繋がるのは」

 フィビアスは恍惚と笑う。止めろ、吐き出そうとした言葉は言葉にならない。フィビアスが腰を揺らすたび、脳髄を溶かすような快楽がレイバックの全身を駆け抜ける。強姦紛いの行為で快楽を感じるなど、レイバックの顔面は屈辱に歪む。

「先に言っておくけれど攻撃は許さないわよ。抵抗はしても良いけれど。最強と名高い神獣の王を快楽に沈めるというのは、さぞかし楽しいでしょうね」

 フィビアスが上気した顔でうっとりと語る。裸の肢体を惜しげもなく晒すフィビアスは、傍から見れば扇情的でいて美しい。しかし男を鎖に繋ぎ、自らの下僕に下すべく強引に身体を繋げるなどと、性に寛容な魔族であっても嫌悪の対象にしか成り得ぬ行為だ。

「心配なさらずとも、貴方を城に閉じ込めたりはしない。民の掌握に協力してもらったら、国にお帰りいただいて結構よ。貴方には今まで通り、大国の国王としていて貰わねば困るの。王であると共に忠実なる私の僕として、陰ながら治世を支えてほしいのよ」
「断る」
「断っても無駄。惑わしの術の発動条件はご存じでしょう?私の中に精を吐き出せば、その瞬間貴方は私の可愛い下僕となる。主の命令には決して逆らえない愛玩人形よ」

 甲高い声で笑い、フィビアスはレイバックに擦り付ける腰の動きを早くする。レイバックは快楽に抗うべく身体を動かすが、腕と脚に巻き付けられた鎖ががちゃがちゃと鈍い金属音を響かせるだけだ。

「妃に別れは済ませて来たかしら。惑わしの術を2重にかけることはできない。私が貴方に口づけをした瞬間に、あの女の術は効力が途切れているのよ。愛していると信じて疑わなかった妃が、突然ただの女に成り下がった気分はどう?」
「俺はゼータに魔法を掛けられてはいない」

 凛として返されたレイバックの答えに、フィビアスははたと下肢の動きを止めた。熱を帯びた指先はレイバックの頬を愛しむように撫で、藍色の両眼は喜悦の中に哀れみの色を帯びる。

「そう思い込んでいるだけよ。惑わしの術に掛けられても、掛けられた本人は魔法の支配下にいると気が付かない。現に貴方も私に伝えられるまで、自分が魔法の支配下にいるなどと信じなかったでしょう」
「そうだな。お前の魔法には気が付かなかった。しかしゼータは魔法を使っていない」
「なぜ言い切れるの?」
「身体を重ねる何百年も前から、俺は彼を想っていたからだ」

 レイバックの声は緋色の天蓋を超え、広々とした豪華絢爛の室内に響き渡った。耳に残る反響音、レイバックの脳裏に浮かぶのは屈託なく笑うゼータの顔だ。彼が人をそそのかし誑かすなどとどの口が言う。数百年の時を掛けて大切に育て上げようやく繋げた想いを、魔法の力だなどと貶めるな。
 フィビアスは緋色の前髪を手遊びに梳きながら、レイバックの言葉に耳を傾けていた。しばしの沈黙の後にそう、と呟く。

「ならば精々従順に振る舞い、私の機嫌を取ることね。愛しい妃であっても、私が一言『殺せよ』と命じれば貴方はその言葉に逆らうことはできない。数百年来の想い人を手に掛けたくなければ、御主人様と言って私の指先に口付けなさい。今すぐよ」

 白魚の指先がレイバックの口元に差し出される。考えるよりも先にレイバックは口を開き、唇に宛がわれた指先に噛み付いた。攻撃は許さない。先の命令が行動を縛り、レイバックの向歯がフィビアスの指先を嚙み切ることはない。
 レイバックの口内から指先を引き抜いたフィビアスは、噛み跡の付いた指先を愛しげに舐めた。

「残念ね」

 呟き、フィビアスは下肢の動きを再開する。裸の肢体を艶めかしく仰け反らせ、繋がる陰部でレイバックの精を蹂躙する。熱気に満ちた室内に高らかな嬌声が木霊する。

「うう…」

 レイバックは頭を振り必死の抵抗を試みるが、かつて数多の男の精を奪った女の行為に抗うことなどできるはずもない。淫らな水音とともに、フィビアスの体内に飲み込まれる性器は体積を増す。やがて脳天を突き抜けるような強烈な快楽が、レイバックの全身を支配した。
 吐き出した精とともに体中の魔力を根こそぎ奪われ、レイバックの意識は暗闇に沈んで行く。どん底へと落ちる最中に、快楽に酔いしれる女の声を聞く。

「貴方は私の物。永遠に」
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