3 / 3
怪しい
しおりを挟む
名前を尋ねられた私はいったん口を閉ざして思考に耽る。
私はこれから、この脳みそに下半身が詰まった性欲の権化を地獄に叩き落とす。
具体的な案はまだ出てこないけど、まあ適当に誑かして口外厳禁な情報でも口走ってもらおうか。
信頼を失えば現王の後継者争いからは外されるだろうし、私を裏切った罰としてはちょうどいい。
その分慎重に名乗らないとなあ。バレたらマジの打首モノだ。
「もしかして警戒してる?」
「別に、そういうわけでは……」
「いいよいいよ。こんな出会い方じゃちょっとは怖いよね」
「そんな、怖いわけじゃないんです……」
私はわざと身をすくませて上目遣いをエドモンドにくれてやった。この人の好みは嫌というほど知っている。
芯のある強い女ではなく、簡単に言うことを聞いてくれそうな、自分より明確に弱そうな女が好きなのだ。
「ほら怖がってるじゃん」
案の定、エドモンドは喜色を含む笑みを浮かべてきた。にこにこと、その内面を知らなければ絆されてしまいそうな表情。
「ま、気にしなくていいよ。むしろ疑い深い人で安心したかな」
こちらに一切の非を背負わせないイケメンコメント。けどむかつくなあこいつ。ナンパ男が女側にまともな貞操観念求めんなや引っこ抜くぞ。
「そうですか」
「うん。名前はまた今度でもいいや。あ、これどうぞ」
しれっと次も会うことをほのめかしつつ、コースターやカトラリー類をこちらに渡してくるエドモンド。やはりイケメンで紳士的だ。
渡されたそれを左手で受け取ると、脳みそチンチンははっとして口を開いた。
「へえ、左利きなんだ」
「珍しいですよね」
「うん。そっか、左利きか。隣同士で座る時は僕が右側に行かなきゃだね。忘れないようにメモしておかないと」
「ッ!!」
私はコロっと落ちそうになる心を死にものぐるいで食い止める。顔には万力のような力がこもっていることだろう。そうしなければきっとニヤニヤが止まらない。
いくらうざいとはいえ、裏切られたとはいえ、ついさっきまで大好きで好みど真ん中だったエドモンドに優しくされれば、やっぱり嬉しくないわけがないのだ。
ひっっじょーーーにムカつくけど。クソが、もっといい男見つけて吹っ切ってやる。
どうせこうやって数多の女を引っ掛けてきたに違いない。
こいつ、私とデートしてた時は一度もこんな優しさ見せなかったくせに、ワンナイトの女にはするのか、、。
「そういえばーー」
エドモンドが優しく話しかけてくる。私はにやけるものかと全神経を表情筋に寄せてそれを受けーーこうしてナンパ男VS復讐女のバトルは始まった。
◯
エドモンドの誘いを断りつつ会話をするのは、意外と簡単なことであった。何せ私は何年も彼だけを見てきた訳で、彼が好むものは当然全て知っている。
なのでそれを実践するだけで、気持ちよさそうに色々と話してくれた。
勿論、彼が王族であると分かる証拠を話すようなボロはないが、こんなにも口が軽いのかと驚いてしまったものだ。
「そうだなぁ、好きな女性か」
今はお互いの異性の好みについて話している。男女の会話としては定番中の定番だけど、この脳みそチンチン男が何をいうかは気になるところだ。
ちなみに私は誠実な人と答えた。いや本当に。顔とかお金とか地位、それらはあればあるだけ素敵だとは思うけど、一番は誠実さだと思います。
誠実な王子様とかいないかな。
話がずれた。
「自我のある女性がいいかな。僕の言う事をなんでもはいはい聞いたり、一緒にいて主張をしてこない人はお人形さんみたいで嫌だね」
それを言うエドモンドの表情は、間違いなく本心を語る時のそれであった。そしてたぶん、というかほぼ間違いなく、お人形さんとは私のことなのだろう。
確かに次期国王候補を立てるために、私は影のように振る舞うことが多かったけど。それがエドモンドにとっては苦痛だったのかもしれない。
ーーまあ、全ては過去の話だ。
あの婚約破棄に私の落ち度があったとして、それと現状、つまりエドモンドの女癖の悪さは繋がらない。
ふうん。エドモンドはそういう人も好きなんだ。じゃあ少しは見返してやろうかな。好みの女に寄せて、好意を持たせて、それで思い切り振ってやりたい。
「今まで付き合った中にそういう人がいたんですか?」
「そうだね。あんまり自己主張をしない人だったかな。まあ最近別れられたんだけど」
「……ならよかったじゃないですか」
「よかったけど、ホント別れるのが大変でさ。ちょっと色々としがらみがあったから簡単に別れられなくてね」
「へえ、そうなんですね。しがらみって?」
「まあ色んな人付き合いかな。その人と別れると色々と大変になるって感じ。だからそのへんの根回しは友達に協力してもらったんだよね」
ーーへえ。友達かあ。
エドモンドの周りも調べたほうがいいのかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
面白い、続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや感想をお願いします!やる気に繋がりますので!!
私はこれから、この脳みそに下半身が詰まった性欲の権化を地獄に叩き落とす。
具体的な案はまだ出てこないけど、まあ適当に誑かして口外厳禁な情報でも口走ってもらおうか。
信頼を失えば現王の後継者争いからは外されるだろうし、私を裏切った罰としてはちょうどいい。
その分慎重に名乗らないとなあ。バレたらマジの打首モノだ。
「もしかして警戒してる?」
「別に、そういうわけでは……」
「いいよいいよ。こんな出会い方じゃちょっとは怖いよね」
「そんな、怖いわけじゃないんです……」
私はわざと身をすくませて上目遣いをエドモンドにくれてやった。この人の好みは嫌というほど知っている。
芯のある強い女ではなく、簡単に言うことを聞いてくれそうな、自分より明確に弱そうな女が好きなのだ。
「ほら怖がってるじゃん」
案の定、エドモンドは喜色を含む笑みを浮かべてきた。にこにこと、その内面を知らなければ絆されてしまいそうな表情。
「ま、気にしなくていいよ。むしろ疑い深い人で安心したかな」
こちらに一切の非を背負わせないイケメンコメント。けどむかつくなあこいつ。ナンパ男が女側にまともな貞操観念求めんなや引っこ抜くぞ。
「そうですか」
「うん。名前はまた今度でもいいや。あ、これどうぞ」
しれっと次も会うことをほのめかしつつ、コースターやカトラリー類をこちらに渡してくるエドモンド。やはりイケメンで紳士的だ。
渡されたそれを左手で受け取ると、脳みそチンチンははっとして口を開いた。
「へえ、左利きなんだ」
「珍しいですよね」
「うん。そっか、左利きか。隣同士で座る時は僕が右側に行かなきゃだね。忘れないようにメモしておかないと」
「ッ!!」
私はコロっと落ちそうになる心を死にものぐるいで食い止める。顔には万力のような力がこもっていることだろう。そうしなければきっとニヤニヤが止まらない。
いくらうざいとはいえ、裏切られたとはいえ、ついさっきまで大好きで好みど真ん中だったエドモンドに優しくされれば、やっぱり嬉しくないわけがないのだ。
ひっっじょーーーにムカつくけど。クソが、もっといい男見つけて吹っ切ってやる。
どうせこうやって数多の女を引っ掛けてきたに違いない。
こいつ、私とデートしてた時は一度もこんな優しさ見せなかったくせに、ワンナイトの女にはするのか、、。
「そういえばーー」
エドモンドが優しく話しかけてくる。私はにやけるものかと全神経を表情筋に寄せてそれを受けーーこうしてナンパ男VS復讐女のバトルは始まった。
◯
エドモンドの誘いを断りつつ会話をするのは、意外と簡単なことであった。何せ私は何年も彼だけを見てきた訳で、彼が好むものは当然全て知っている。
なのでそれを実践するだけで、気持ちよさそうに色々と話してくれた。
勿論、彼が王族であると分かる証拠を話すようなボロはないが、こんなにも口が軽いのかと驚いてしまったものだ。
「そうだなぁ、好きな女性か」
今はお互いの異性の好みについて話している。男女の会話としては定番中の定番だけど、この脳みそチンチン男が何をいうかは気になるところだ。
ちなみに私は誠実な人と答えた。いや本当に。顔とかお金とか地位、それらはあればあるだけ素敵だとは思うけど、一番は誠実さだと思います。
誠実な王子様とかいないかな。
話がずれた。
「自我のある女性がいいかな。僕の言う事をなんでもはいはい聞いたり、一緒にいて主張をしてこない人はお人形さんみたいで嫌だね」
それを言うエドモンドの表情は、間違いなく本心を語る時のそれであった。そしてたぶん、というかほぼ間違いなく、お人形さんとは私のことなのだろう。
確かに次期国王候補を立てるために、私は影のように振る舞うことが多かったけど。それがエドモンドにとっては苦痛だったのかもしれない。
ーーまあ、全ては過去の話だ。
あの婚約破棄に私の落ち度があったとして、それと現状、つまりエドモンドの女癖の悪さは繋がらない。
ふうん。エドモンドはそういう人も好きなんだ。じゃあ少しは見返してやろうかな。好みの女に寄せて、好意を持たせて、それで思い切り振ってやりたい。
「今まで付き合った中にそういう人がいたんですか?」
「そうだね。あんまり自己主張をしない人だったかな。まあ最近別れられたんだけど」
「……ならよかったじゃないですか」
「よかったけど、ホント別れるのが大変でさ。ちょっと色々としがらみがあったから簡単に別れられなくてね」
「へえ、そうなんですね。しがらみって?」
「まあ色んな人付き合いかな。その人と別れると色々と大変になるって感じ。だからそのへんの根回しは友達に協力してもらったんだよね」
ーーへえ。友達かあ。
エドモンドの周りも調べたほうがいいのかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
面白い、続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや感想をお願いします!やる気に繋がりますので!!
23
お気に入りに追加
36
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。
理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。
あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。
逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。
しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。
それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。
アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【本編完結】婚約者には愛する人がいるのでツギハギ令嬢は身を引きます!
ユウ
恋愛
公爵令嬢のアドリアーナは血筋だけは国一番であるが平凡な令嬢だった。
魔力はなく、スキルは縫合という地味な物だった。
優しい父に優しい兄がいて幸せだった。
ただ一つの悩みごとは婚約者には愛する人がいることを知らされる。
世間では二人のロマンスが涙を誘い、アドリア―ナは悪役令嬢として噂を流されてしまう。
婚約者で幼馴染でもあるエイミールには友人以上の感情はないので潔く身を引く事を宣言するも激怒した第一皇女が王宮に召し上げ傍付きに命じるようになる。
公爵令嬢が侍女をするなど前代未聞と思いきや、アドリア―ナにとっては楽園だった。
幼い頃から皇女殿下の侍女になるのが夢だったからだ。
皇女殿下の紹介で素敵な友人を紹介され幸せな日々を送る最中、婚約者のエイミールが乗り込んで来るのだったが…。
婚約破棄された公爵令嬢は監禁されました
oro
恋愛
「リリー・アークライト。すまないが私には他に愛する人が出来た。だから婚約破棄してくれ。」
本日、学園の会場で行われていたパーティを静止させた私の婚約者、ディオン国第2王子シーザー・コリンの言葉に、私は意識が遠のくのを感じたー。
婚約破棄された公爵令嬢が幼馴染に監禁されて溺愛されるお話です。
すべてが嫌になったので死んだふりをしたら、いつの間にか全部解決していました
小倉みち
恋愛
公爵令嬢へテーゼは、苦労人だった。
周囲の人々は、なぜか彼女にひたすら迷惑をかけまくる。
婚約者の第二王子は数々の問題を引き起こし、挙句の果てに彼女の妹のフィリアと浮気をする。
家族は家族で、せっかく祖父の遺してくれた遺産を湯水のように使い、豪遊する。
どう考えても彼らが悪いのに、へテーゼの味方はゼロ。
代わりに、彼らの味方をする者は大勢。
へテーゼは、彼らの尻拭いをするために毎日奔走していた。
そんなある日、ふと思った。
もう嫌だ。
すべてが嫌になった。
何もかも投げ出したくなった彼女は、仲の良い妖精たちの力を使って、身体から魂を抜き取ってもらう。
表向き、へテーゼが「死んだ」ことにしようと考えたのだ。
当然そんなことは露知らず、完全にへテーゼが死んでしまったと慌てる人々。
誰が悪い、これからどうするのか揉めるうちに、自爆していく連中もいれば、人知れず彼女を想っていた者の復讐によって失脚していく連中も現れる。
こうして彼女が手を出すまでもなく、すべての問題は綺麗さっぱり解決していき――。
安息を求めた婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある同窓の晴れ舞台の場で、突然に王子から婚約破棄を言い渡された。
そして新たな婚約者は私の妹。
衝撃的な事実に周りがざわめく中、二人が寄り添う姿を眺めながらに、私は一人小さくほくそ笑んだのだった。
そう全ては計画通り。
これで全てから解放される。
……けれども事はそう上手くいかなくて。
そんな令嬢のとあるお話です。
※なろうでも投稿しております。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる