貴方様と私の計略

羽柴 玲

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Ⅲ.貴方様と私の計略 ~ 婚約者 ~

125.精霊魔族と子竜による閑話

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青々とした緑があふれる森の中。ここは、豊穣の森と呼ばれるシュトラウス領にある森の一つだ。
そこに、1人の子供が切り株に座っていた。

―――魔の森の精霊魔族さん。今日もおじゃまします

子供は、空を仰ぐと姿が揺らめき消えていた。いや、正確には子供の姿消え、小さな竜が現れていた。

―――なんだ。今日はこっちに来たのか。

―――うん。魔の森は少しだけ騒がしかったから

小さな竜は、空を仰いでいたと思えば、何もない呼吸を凝視していた。

―――あぁ。魔獣と魔族が何か動いているな。…あやつらは、何をしているんだ?

その時森の木々が何かにおびえるように、ざわざわと揺れ始めた。
まるで、何かに怯えていると感じるようなそんな変化だった。

―――少しおちつて。森が怯えてるよ?

竜は首を傾げるような動作をしたかと思うとふわりと宙に浮き、切り株をくるくると回り始めた。

―――すまない。そんなつもりでは…

その時、触りと風がある方向へと流れ、小さな竜がそちらへと顔を向けた。

―――え。母様?

―――シュトラウス邸か?

風はざわざわと何かの不安を伝えるように、木々を揺らし一定の方向へのみ流れている。
小さな竜は「きゅうきゅう」と小さく切なそうに鳴いていた。

―――母様に何かあったよね?

―――ああ。彼女の気配が一瞬で消えた。何があったかは、出向いてみなければわからないが…

風はいつしか渦を巻き、小さな竜の側にとどまっていた。
小さな竜は不安そうに頭を動かしている。

―――僕はまだ帰れないから、先に行って。この姿のままだと騒ぎになっちゃう

―――ああ。先に向かうとする。あれの側には、あれだけ手練れがそろっているというのに…

渦を巻いていた風は、空高く舞い上がり先ほど風が流れていた方向へと移動していった。
小さな竜は、切り株の側に降り立ち、頭を切り株へともたげていた。

―――母様に何もなければいいのだけど。彼らに何かあった?でも、一筋縄でいくような人たちではないのに

落ち着き下げに頭を動かしながら、小さな竜はそこに居続けた。
そして、一刻過ぎたあと、竜の姿は消え、豊穣の森から子供が出てくる姿を目撃された。
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