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❤︎忘れられた婚約者
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「君は、僕の運命の番だ!初めて会った時から気づいてた・・・僕と結婚してくれないだろうか」
今日は、王妃様主催のガーデンパーティー。
一月に一度開かれ、招待されることは、名誉ある事とされています。
そして、その会場で王子様さながらに、令嬢の前で片膝をつき、求婚している馬鹿がいますわ。
彼の名前は、エンディミオン。この国の第三王子。御年十八歳になられる。
そして、求婚されている彼女は、有力貴族で公爵家のご令嬢。お名前は確か、シェリー様。
シェリー様は、私の方をチラリと盗み見られ、申し訳なさそうなお顔をされました。
───お気になさらなくても宜しいのに。あれは、最早ご病気のようなものなのですから
「・・・殿下。申し訳ございません。私は、殿下の番ではございません。先日、番である男性と婚約したばかりなのですわ」
シェリー様の言葉に、エンディミオン殿下は、態とらしく驚かれ立ち上がられます。
「なんと!僕の勘違いだったとは・・・すまない。婚約者と仲良く過ごしてくれ。おめでとう」
「・・・ありがとうございます」
殿下の言葉に、シェリー様は綺麗な所作でお礼を述べられている。
───よく出来た方。お相手の方もよき縁談でしたわね
目線の先で繰り広げられる茶番劇を小さなため息と共に眺めながら、国の行く末が少しだけ心配になる。
───第三王子とは言え、もう少しだけしゃんと出来ないものかしらね
この国・・・魔族と呼ばれる種族が納めるユグドラシル公国は、辺境の島国と言うこともあり、長年平和な国だ。
自然資源に限りはあるものの、上手く共存し今日まで存続している。
近隣大陸の国々とも友好的な関係を築けている。
国同士の略奪や戦争はここ数百年は起きていない。
───それとも、エンディミオン殿下のあれは、平和だからこその争い故なのかしらね・・・
ユグドラシル公国に多いのは魔族。
魔法や武器の扱いに長け、長寿。平均的な寿命は八百歳を超えると言われている。
しかし、幼少期の成長が遅いわけではない。一般的な魔族は、十八で成人を迎え、長い青年期に入る。五百を過ぎれば成熟期と言われている。そのため、成人後の婚期も長い。
そのためなのか、同時期に存在する個体数はさほど多くない。
近年では、多種族との混血も増え、純魔族といえるものはほぼいない。
───あら?シェリー様が此方にこられるわね
物思いに耽っていれば、先程まで殿下に絡まれていたシェリー様がこちらにいらっしゃいました。
「ごきげんよう。ミシェイラ様。先程は、申しわけありませんでした」
シェリー様は、私に丁寧な謝罪と共に頭を下げてくださいました。
「ごきげんよう。シェリー様。お顔をお上げになってください。家格は、侯爵である私の方が下なのですから。それに・・・」
シェリー様に頭を上げていただきつつ、殿下の方へと視線を巡らせば、有力貴族のご子息方と歓談していらっしゃるようでした。
「殿下のあれは、いつものことです。シェリー様がお気にされる必要はありませんわ」
そう返せば、小さく苦笑を漏らされたようです。
───直ぐに表情を取り繕う事が出来るのは流石ですわ
「それでも、謝罪は必要だと思いますから。でも、ありがとうございます」
シェリー様は、そうおっしゃりご自身の席へと戻られて行きましたわ。
其れを笑顔で見送りながら、私は過去へと思いをはせる。
・・・────
彼と出会ったのは、私が十歳。彼が八歳の時だった。
お父様とお母様と一緒に、一般公開されている王宮の薔薇園で、私は迷子になったのよね。
身長の低い私には、薔薇の生け垣が大きな壁の迷路のようだった。
不安で怖くて、泣きそうだったのを覚えているわ。
そこにひょっこりと彼が現れた。
「どうしたの?」
幼いながらも頭にある二本の角で魔族であること、服装から貴族であることは伺えた。
「・・・あなたは?」
「僕はね、エディ。君は?」
私の不躾な問に、気を悪くすることなく、少年は名乗り聞いてくる。
「ミシェイラ」
「ミシェイラ嬢は、ここで何していたの?」
エディの言葉に、不安を思い出して、眥に涙をが溜まるのを自覚しながら、何とか説明をする。
「お父様とお母様と一緒に来たんだけど、ここがどこかわからなくて・・・」
多分、支離滅裂だった。でも、エディは根気よく話を聞いてくれた。
「そっか。公開エリアから迷い込んだんだね。連れて行ってあげるよ」
そう言って、エディは私の手を取り迷いなく歩いていく。
「ありがとうございます。でも、どうして・・・」
「んー・・・君が僕の番だからかな」
エディの言葉に思わず足を止めれば、彼が振り返る。
「え?番?」
「うん。本能がそう告げてるし。君も僕に触られるの嫌じゃないでしょ?」
エディは、言葉と共に私の頬へと指先を滑らせ、耳を擽るように離れていく。
その動きに、ぼんっと顔が赤くなったのを自覚する。
「たぶん、僕も君もまだ、身体が出来ていないから、わかりにくいけど。僕は君を守りたいって思ったし、助けたいって思ったんだ」
赤くなるみゃるの頭を優しく撫で、「いこう?」と再度手を引き歩き出された。
そして、薔薇の生け垣の果てで警護していた兵士に、何か言ったあと暫くすれば、お父様とお母様が現れた。
「ミシェイラ」
「ミシェ」
心配したのだと母親に抱きしめられていれば、お父様がエディに臣下の礼をされていたわね。
「殿下、娘を助けて頂きありがとうございます」
「かまわないよ。たぶん、彼女は僕の番だからね」
エディの言葉に、お父様が驚いていらしたのようだけれど、その時はそれでお開きとなった。
───・・・
物思いから帰り、少し冷めた紅茶を一口飲む。
周りでは、綺麗なドレスを身に纏った令嬢や子息達が楽しそうにおしゃべりに興じている。
たまに振られるそれに、そつなく返事を返しながらも、思考は過去へと遡る。
・・・───
次にお会いしたのは、二年後。婚約の打診と顔合わせの場でしたわね。
お父様と共に登城すれば、紫陽花の咲き誇る庭園を一望できるテラスに通されたのだったわ。
そこには、王様と王妃様達がいらっしゃった。
緊張しながらも、お父様に続き挨拶をすれば、何故かお茶会が始まって、慌てたのよね。
「ミシェイラ嬢。そんなに、畏まらなくてよい」
「そうよ。もっと楽になさって」
王様と王妃様の言葉に、恐縮してしまって、お茶もお菓子も喉を通らなかった。
「ミシェイラ嬢、顔を上げて?」
どこか聞き覚えのある、幼さを残す声におずおずと顔を上げれば、エディがいた。
「え?・・・エディ?」
「うん。正確には、エンディミオンかな。一応、第三王子」
エディの言葉を聞きながら、その声と容姿に胸が苦しくなる感覚を味わう。
でも、それは、苦しいだけではなく、どこか甘やかな痛み。
「それに、うん。やっぱり、君は僕の番だったね」
その言葉と笑顔に、顔の火照りを自覚し、思わず俯けば、小さくけれど嬉しそうな笑い声が聞こえた気がした。
「父上、母上。少し、彼女と話してきても?」
「・・・かまわん」
「節度はたもつのよ」
王様と王妃様の言葉の意味を理解する前に、再度エディから声を掛けられる。
「ミシェイラ嬢。少し二人話しませんか?紫陽花が綺麗なので、案内します」
目の前に差し出された小さな手に、思わずお父様を振り仰げば、頷き返される。
おずおずと手を重ねれば、痺れたような感覚と共に立たされエスコートをされた。
案内された庭園の紫陽花は、とても綺麗で思わず見とれていれば、隣で小さく笑い声が聞こえる。
「ふ・・・あの時もそうやって薔薇に気をとられて迷子になったんだろうね」
「あっ・・・あの時は、エンディミオン殿下にお手数おかけして申しわけありませんでした」
慌てて、言葉と共に頭を下げようとすれば、片手で止められる。
「別に謝る必要はないよ。んー・・・公式の場以外は僕、君にはエディって呼んでほしいんだけど?二人の時は継承もいらないし」
「えっ・・・でも・・・失礼になるのでは・・・」
エディの言葉に、しどろもどろに答えていれば、
「僕がお願いしてるから、大丈夫だよ。それに、僕もミシェって呼びたいし」
そう、仰られたので、小さく頷けば、嬉しそうな笑顔を向けられました。
「ねぇミシェ。僕は君が番だと感じているけど、君はどうかな?」
「・・・わからないです。どのように感じれば番なのか」
エディは、「そうだなぁ・・・」と、少し考え話し出されます。
それは、嬉しいと共に恥ずかしいもので・・・
「僕の場合は、君のことを考えたり、姿を見れば鼓動が逸る。守りたいと思うし、助けたいとも思う。何より愛おしく感じる。
抱きしめたいとも思うし、・・・口づけだってしたい。もちろん、その先の肌の触れ合い・・・」
「待って・・・待ってください」
恥ずかしさに、声を上げエディの言葉を止める。
言葉と共にあれやこれやを思い描きそうになり、思考も止める。
「・・・僕にそう思われるのは嫌?触れられるのは嫌?」
その言葉に、ゆるゆると首を横に振る。
「殿下に・・・」
「エディ」
「エディ様に・・・」
「ミシェ」
エディとの攻防に、見つめ合えば、彼の意思の強さと想いの深さを感じる気がする。
「・・・エディにそう思われるのも、触られるのも嫌じゃないって思って・・・でも、それに戸惑いもあるんです」
最後の言葉を告げようか迷い、けれど、何かにあと推されるように告げる。
「うん。今はそれでいいよ。僕の方が年下だしね。だからさ、僕たちはお互いをこれから知っていこう?そして、僕と共に生きてくれないかな」
「・・・ええ。私でよろしければ」
少しの戸惑いと共にそう返事をすれば、満面の笑みをエディは見せてくれた。
そして、エディと私は婚約者となった。、
それから、エディと私は互いを知るために、逢瀬を重ねた。
そう。なにがあるわけでもないけれど、確かにあれは逢瀬だった。
そして、数年が経って、エディが十三歳で私が十五歳の時に運命とも言える事件が起きた。
エディが毒に倒れ、三日三晩生死の境をさまよった出来事。
犯人は捕まらず、私はいても経ってもいられず、エディを見舞いに行ったわ。
そして、私の姿を認識したのか、手を握り魘されるように繰り返されていた。
「ご・・・めん。──守りたいんだ──だから・・・だから・・・待っていて──」
聞き取るのも難しいうわごと。意味もわからない。でも、私はこう答えるしかなかった。エディに生きてと願いを託しながら。
「ええ。何処にも行きません。ずっと、ずっと待っています。だから、生きて・・・エディ・・・」
そして、目覚めたエディは、私が番であることがわからなくなった。
婚約も危ぶまれたけれど、私はもう彼が番であると認識していたから・・・だから・・・
私は、一つの約束と共にエディ・・・殿下へと提案をした。
「エ・・・いえ、殿下・・・貴方に番があらわれたら、婚約を解消しましょう。
私の家は、侯爵家。貴方が生きやすいための後ろ盾になれます。
私は、殿下の幸せを心から願っているのです。だから、私を利用してください。婚約者という肩書きと共に」
───・・・
───あれからもう、五年経つのね。
あの出来事以降私は、『見向きもされない婚約者』そう囁かれている。
番でありながら、見向きもされないと。
幸い、殿下の耳には入っていなさそうだけれど。
───私も往生際が悪いのかしらね・・・でもそろそろ・・・疲れてしまったわ・・・
そう思いながら、殿下へと視線を向ければ、侍従が何か耳打ちしている所だった。
真剣に頷きながら、話を聞いたあと何故か殿下と視線があった。
───え・・・?
そして、私の方へ無言で歩いてこられています。
途中、王妃様と少し言葉を交わされていたようですが、再度近づいてこられます。
───何が・・・おきているの?
殿下は、私の傍まで来ると、私の手を取り連れ去られました。
「殿下?」
無言で歩かれる殿下に、声を掛ければ無言で速さを上げれます。
そして、庭園の最奥・・・人目につきにくい場所まで来られると、徐に抱きしめられました。
「・・・殿下?」
私の問いかけに、抱きしめる力が強くなる。
「ごめん。辛い思いをさせた。させるつもりも無かった悲しい思いもさせた。ごめん・・・」
「殿下?大丈夫で・・・」
「エディだ」
その言葉と共に、殿下は私を開放し目線をあわされます。
「また、エディって呼んでよ・・・ミシェ」
「・・・もう、エディと呼んで良いのですか?」
そう返せば、殿下・・・エディは、私の頬にかすめるような口づけを落とされ、再度抱きしめられる。
「ああ!」
エディの言葉におずおずと腕を回し抱きしめ返せば、抱きしめる力が強くなる。
しばらく、そうしていれば、腕の力が緩み開放される。
「説明する。ゆっくり話したい。部屋に行こう?」
戸惑いながらも、頷きを返せば、エディに手を取られ歩き出す。
軽く指を絡められているだけだけれど。離れることなく歩いていく。
───え・・・ここは・・・
てっきり、執務室かどこかに通されるものかと思っていれば、王族専用エリアのエディの私室へと連れてこられる。
「そこ、座ってて」
そう言ってエディは、一度部屋を出ていきます。
その間に、メイド達がお茶の用意をし、壁際へと下がって行きます。
しばらくお茶を頂きつつ待っていれば、エディが帰ってきました。
そして、何の迷いもなく私の傍に腰を下ろされ、人払いをされました。
それから、向に用意されている茶器を引き寄せ、お茶を一口含み一息つかれたようでした。
「君をここに招くのは、何時ぶりだろうか・・・さて、何から話そうか」
エディは、茶器を置き、足を組むと真っ直ぐ正面を見据えている。
「多分、始まりは僕が生まれるよりずっと前に種はまかれていたんだ・・・────
僕が気づいたのは、毒を盛られた十三の時だった。
本当はね、毒を盛った犯人は直ぐにわかっていたんだ。でも、黒幕がずっとわからなかったんだ。
だから、黒幕を探ることにした。
まず気づいたのは、兄上達も毒を盛られたり刺客が差し向けられたりしていたこと。そして、それらが王位継承権を付与される十三歳前後から始まっていること。
この時、王位継承権を保持していたのは、兄上達と僕。父上の弟・・・叔父上の二人の息子の五人だった。
皆等しく、狙われていると最初は思った。でも、注意深くみれば、少しずつ穴があることに気づいた。
・・・詳しいことは、話せないけど、犯人は叔父上の上の息子のだったよ。したの兄上と同じ年だったみたい。
動機は、王座だった。兄上達と僕が死ねば、継承順位的に彼が王になることになる。だから・・・殺そうとしたんだって。
・・・ここまでが、きっかけと顛末」
そこまで一気に話し終え、エディは少しだけ目線を落とす。
そこには、やりきれない陰りが見え隠れしているようだった。
「さて、次は僕の行動の理由・・・だね。
結論だけを言ってしまえば、君を護りたかったんだ・・・────
毒を盛られ生死をさまよいながら、考えていたんだ。
あの頃の僕は、力が無かった。後ろ盾も協力者も。
兄上達には番がいない。番がいるのは僕だけ。そう考えて、あることに気づいた。君が狙われる可能性に。
番に出会ったものは、番が天寿を全うする以外で死んでしまったら、狂うと言われている。
僕はそれが真実だと思う。僕は君が死んでしまったら生きていけない。そう思った。
だから、離れようと思ったんだ。
まぁ、君に阻まれてしまったけれど。だけど、僕はそれすらも利用した。
君が嫌な思いをするだろう事も、これから僕がしようとしていることで、君が悲しい思いをするだろう事も承知で・・・だから・・・ごめん・・・」
それきり、殿下は口を噤まれ、俯かれてしまった。
私は、お茶を一口口に含み飲み干す。そして、ゆっくりと口を開く。
「私は、目覚められた殿下に婚約の解消とエディの番ではないと告げられ、酷く傷つきましたわ」
そう告げれば、エディは今にも泣き出しそうな顔で、顔を上げられ私をみてこられます。
ですが、私は正面を向いたまま話を続ける。
「でも、殿下は覚えていらっしゃらないのですね。
生死の境を彷徨われていたエディは、私の手を握り・・・そして、瞳に強い意志をのせて告げられたのですよ?
『ご・・・めん。君を守りたいんだ。ゆるして。だから・・・だから・・・待っていてほしいんだ』
確かにそう告げられたのです」
「え・・・」
エディは、目を見開き信じられない。そんな表情に変わっていました。
私は、そんなエディへと向き直り、目を見つめながら続ける。
「だから、何か理由があるのだろうとはずっとわかっていました。
傷つかないわけでも、悲しくないわけでもなかったですけれど。
それでも、私は繋がりが欲しかった。だから、あんな提案をしたのです。
エディの番が他に見つからないのを知っていながら。
破棄がされるわけもない条件で、あなたを縛ったのです。私のために」
私も大概酷い女のだと告げれば、エディはゆるゆると左右に首を振っている。
そして、躊躇いながらも私へと手を伸ばし、抱きしめられました。
肩口へと頭を預け、少し震える声で「ごめん。ありがとう」と、繰り返されています。
私は、彼の背へと手を回し、ぽんぽんと軽く叩いたあとに、背をさすります。
「ふふ。エディは、大きくなってからの方が泣き虫ですね」
そう、告げて少しだけ意地悪をすれば、抱きしめる腕に力が入る。
「・・・ミシェは少し意地悪になった」
「そうですか」
エディは、「そうだよ」と言いながら、肩口から顔を上げ私を見下ろしてきます。
少し赤くなった、エディの眥に手を伸ばそうとすれば、その手をつかまれ、指先をからめらる。
それから、こつんとおでこを私のおでこにくっつけられた。
「・・・もう少し君に触れてもいいかな?」
エディのその言葉の意味を理解する前に、何かに導かれるように小さく同意を紡ぐ。
「うん・・・」
くっついたおでこが少しだけ離れ、ふにっと唇に何かが触れ、直ぐに離れていく。
数度それが繰り返され、今度は長く触れられた。
───え?!きっキスされてる?!
その時になって、やっと私の唇に触れているのが、エディの唇であることに気づく。
驚きはするものの、嫌悪感はない。むしろ、もっと・・・そんな思いがあふれてくる。
エディは、そんな私の思いを知っているかのように、はむっと下唇をはみ、舌を這わせ離れていく。
「ミシェ・・・あーってして?」
その言葉に導かれるように、小さく口を開けば再度唇を重ねられる。
口を閉じる間もなく、口づけられれば、ぬるりと生暖かなものが侵入してきた。
───なっなに??
驚きにびくりと身を震わせれば、大丈夫だと言うように、絡めた指先に力が込められる。
そして、エディの空いた片手は、安心させるように背を昇っていく。
その間、侵入した暖かなものは、私の歯列をはい、口腔を縦横無尽にはい回る。
背を昇った手が、髪を梳き、後ろ頭へと到達したころ、重ねられた唇が少しだけ離される。
触れるか触れないかの距離でエディが口を開けば、その吐息が唇をかすめ背を震えさせる。
「大丈夫。・・・大丈夫だから、あーってして舌を少しだけのぞかせて?」
エディの「大丈夫」に、背を押されるように、おずおずと小さく口を開け小さくしたを突き出す。
そうすれば、私の舌をざらりと舐め上げられ、再度唇を重ねられる。
驚きに、舌を引っ込めれば、舌先をちょんちょんと刺激される。
───しっ舌を舐められ・・・舐め?え??これは、エディの舌なの?
そこまで理解をすれば、未知なものに対する恐怖は薄れてきた。
だから、おずおずとエディの舌へと私の舌を伸ばせば、絡め取られる。
頭に添えられていた手にぐっと力を込められたと思えば、更に口づけが深くなる。
舌を絡める合間に、上顎や歯列を舐め上げられ、そして軽く吸われる。
「ふっ・・・ふぁ・・・」
くちゅくちゅと言う水音の合間に、私の甘い声が混ざる。
それは、自分の声では無いような、艶やかで甘い響きを感じ、無性に恥ずかしい。
けれど、抑えることは許さないというように、深く長い口づけが続けられ、声をがまする事が出来ずにいる。
思考は蕩け、エディに与えられる刺激にのまれていく。
長い口づけの末、重ねられた唇から、つぅ・・・と溢れるように唾液が伝う。
エディの唾液なのか、私の唾液のか最早わからない。
口腔に溢れる唾液を思わず飲み込めば、唇が離れていく。
私の名残惜しいと言う気持ちを代弁するかのように、エディとの間に銀糸が伝う。
それは、彼がぺろりと唇を舐めると、ぷつりと切れた。
「ミシェの表情・・・想像よりもずっとそそられるな・・・」
言葉と共に、絡められていた手がほどかれ、両手で髪を梳かれる。
「このまま、最後までしてしまいたいけど・・・君のお父上に殺されるだろうな・・・」
思考の纏まらない頭で、殿下の言葉に首をかしげれば、ちゅっと言う音共に、触れるだけの口づけが落とされる。
「でも、僕は触れたいし・・・君が・・・君だけなら大丈夫かな?」
エディの言葉の意味がわからずにいれば、再度唇が重ねられ深い口づけを与えられる。
くちゅくちゅ・・・ちゅうぅ・・・
「ふぁ・・・んっ・・・ふっ・・・」
先程の余韻が抜けきらない私は、それに答えるように舌を絡め、甘い吐息を漏らしはじめる。
エディの手は、私の頭を支えなが、片手を背中へと回される。
時おり、ぷちぷちと言う音が聞こえるが、それが何の音であるかはわからない。
続けられる口づけに答えていれば、しゅるりという音共に小さな開放感を感じた。
頭からエディの手が離されたのを感じ、思わず彼へと腕を伸ばせば、少し笑われた。
エディは、私の手を首へと回し、自分の両手を私の背へと回し指を這わせてくる。
1本づの指が、背筋から首筋を這うように肩口に回され、肩を軽く滑らせる。
そこで、口づけをやめ、エディは私の頭を彼の肩口に押し付けるように固定させる。
「大丈夫。僕に身体預けて?」
耳元で囁かれるエディの声。
昔よりも低くなり、私の心を震わせる落ち着きを感じる。
鼻先には、彼の香水だろうか。麝香の香りが品よく香っている。
そんな事をふわふわと考えていれば、エディが耳をはんでくる。
はむはむとさる合間に、ぺろりと舌がはわされる。
それに、身体を震わせていれば、片方ずつ腕に指を這わされる。
「んっ・・・はぁ・・・」
声と共に落ちる吐息に、エディの肩がときおり揺れるけれど、手は止まることなく素肌の上を這わされている。
脇の下へとエディは腕を入れ、私を抱きしめるように腰へと回される。
それなのに、エディと私の間には絶妙な隙間があり触れることはない。
それに、少しだけ不安と不満を感じたところで、「よっ」という掛け声と共に抱き上げられた。
するりと肌を統べる何かを感じながら、不安定さに恐怖を感じエディへと腕を回し身を寄せる。
素肌に触れる彼の服の感触を感じながら、彼が少しずつ足を進めているのがわかる。
足元で、小さなことんという音がする。素肌に触れる彼の手は優しくて、もっと・・・
───ん?素肌・・・?
少しの違和感に自身の身体へと意識を向ける。
肌寒さと素肌に触れる彼の体と手を感じる。
不思議に思い、彼の肩口から顔を上げれば、彼が通ったであろう場所にドレスとコルセットが落ちているのが見えた。
「え?!」
「ああ、やっと気づいた?」
エディの少し揶揄うような声音に、少しだけ身体を起こしエディを確認すれば、視界の隅に何も纏わぬ己の胸元が見えた。
それは、エディへとぴったりくっつけられ、形を変えてはいたものの素肌を晒す自身の胸で・・・
「なっ!!」
自身の姿に思わず顔を赤らめ、身体を強ばらせれば、エディが宥めるように優しい声で告げてくる。
「大丈夫。最後までしないし、君のお父上に怒られることはしないよ。少し僕が君に触れるだけだ」
「でっでも・・・」
彼の言葉に、戸惑いを伝えれている間に、部屋が移りベッドへ一度座らされる。
それは、ふわふわと私のお尻を包み、普段の私であれば密かにそれを堪能するのだけれど、今はそれどころではなかった。
エディは、己の足をベッドへとかけると、私の背を支え、膝裏へと手を入れ、私をベッドへと引き入れる。
そして、そっと私を寝かせると、腰の辺りへと跨がってきた。
「エディ・・・?」
「ん?」
不安から名を呼べば、優しく返事をされる。
けれど、その目にはみたことも無い感情が燻っているように見えて、少し怖い。
エディが知らない誰かのようで・・・
「大丈夫だから。僕は僕だよ」
そう言いながら、エディは深い口づけを与えてくる。
片手は絡め取られ、ベッドへと縫い止められている。
エディの片手は、頭の方へと伸びていき、私の角の付け根をするりと撫でられた。
「ふぁっ」
身体を小さく跳ねさせ、口づけの合間から声が漏れる。
エディは、口づけをやめ、角の付け根を撫で続けている。
「ふぁ・・・ふっ・・・やぁ」
「ふふ。気持ちいいでしょ?ここは、ちょっとした性感帯なんだよ?」
楽しそうにエディは、撫で続けている。
───んっ・・・確かに、角の付け根は他人に触らさせては駄目だと言われていたけれど・・・
「因みに、番以外の異性が触れるとすっごく気持ち悪いらしいんだけど・・・知ってた?」
その言葉にふるふると首を振れば、エディは嬉しそうな笑顔を見せる。
「そっか・・・」
───そもそも、触られたのはエディが初めて・・・
エディは、指先を首筋へと這わし、それを追うように唇がふってくる。
ちゅっ
小さな音がしたあと、ぺろりと首筋へと舌がはわされる。
「ここに、証を残したいけど・・・バレるのは嫌だからね」
そう、小さく吐息と共につぶやかれ、舌は首筋から鎖骨へと滑り落ちていく。
「んっ・・・」
吐息をこぼせば、ちゅっと唇へと口づけられる。
「触れるね・・・」
その言葉と共に、絡められた指先が離れ、両の乳房に自分とは違う体温を感じる。
「あっ」
「大丈夫」
エディの手によって、やわやわと揉み込まれ、円を描くように触られる。
ときおり、彼の掌によって与えられる、ぴりりとし刺激に、小さく声を上げれば、片側の手が離される。
頂が硬く主張をはじめていた。
「きもちいい?」
「ひゃっ」
エディは、親指と中指で頂を掴み、人差し指で擦るように、搔くように刺激を与えてくる。
それは、私によくわからない疼きを感じる。
しばらく、私の反応を見るように、顔を伺っていたエディだけれど、身体をかがめ唇へと口づけを落とす。
そして間を置かずに、やわやわと触れていた手を離し、主張を始める頂を乳輪ごと齧りつくように口に含める。
今までとは違う、ぬるりとした暖かな感触に、背を震わせ声を漏らす。
「ひぁ・・・んっ・・・はぁ・・・んぅ」
舌先で舐め上げ、突くように。時に唇ではみ、優しく歯をたてられる。
反対の乳房は、揉みしだかれながらも、頂きを指で刺激される。挟まれながら擦るように、搔くように。時には、ひっぱられて優しく捻られる。
「あっ・・・あん・・・んぅ」
空いた片手は、気づけば腰や足を這い回っていた。
掌で撫でるように、指先で触れるか触れないかの距離で。
与えられる刺激に、素直に甘い声を上げていれば、思考は蕩け与えられる刺激とエディの事しか考えられなくなる。
腰は無意識に揺れ、足をすりあわせれば、内腿へと指を這わされる。
ゆるゆると撫でていた手は、次第に足の付け根へと伸びていく。
くちゅり
「ふふ。もうこんなに溢れてる」
胸元から顔を上げ、エディは妖艶に微笑んで見える。
先ほどまで、舐められていた乳房の頂は、硬く熟れ唾液で濡れそぼっている。
足の着けに這わされたては、ゆるゆると下着の上から撫で続けているようだ。
くちゅくちゅ
「あっんっ・・・ひゃぁ・・・」
微かに響いていた水音は、次第に存在感を増していく。
それに呼応するように、私の甘やかな声も大きくなっていると感じる。
「本当は、直接見たいけれど・・・我慢できなくなるから・・・」
エディはそう言って、下着の脇から指を滑り込ませ、私の秘所へと直接指を這わせてくる。
濡れそぼる蜜壷を数度優しく円を描くように撫で、花芯へと指を滑らせる。
指先で押すように、撫でるように触られれば、刺激に腰が引ける。
「ひゃっ」
「逃げちゃ駄目だよ?」
エディによって、身体を固定された私は、与えられる刺激から逃れることが出来ない。
だから・・・甘い甘美な刺激に身を委ねるしかなかった。
私の反応を確かめるように、花芯へと触れる動きが早まっていく。
くちゅくちゅくちゅりくちゅくちゅ
「はっ・・・あっんっ・・・ふぁっ・・・んぅ」
「はぁ・・・かわいい・・・」
それに合わせるように、聞こえる水音が大きくなり、私の甘やかな声も早く切羽詰まったものになっていく。
自分の意思とは別に、何かにはやしたてられる不安に手を伸ばせば、エディが指を絡め握ってくれた。
「えっ・・・エディ・・・んっ・・・な・・・何か・・・へんっなの」
「うん。大丈夫だよ。そのまま達って?」
エディの言葉に意味も無く安心感を感じれば、目の前に小さく星がまたたく。
意思とは関係なく、指先に力が入り腰が浮いた。
「あぁぁ・・・っ」
小さいけれど、一際艶やかで甘い声をあげれば、息が上がり浅い呼吸を繰り返す。
眥には淡く涙が浮かび、唇は怪しく開いたままだ。
エディは、それを満足げに見つめ、くちゅっと言う音共に、下着から指を引き抜いたようだ。
「はぁ・・・かわいい・・・」
そう呟けば、ぺろりと妖しく濡れた指先を舐めとっている。
「これが、ミシェの味・・・」
一通り舐め終われば、エディは私の身体をシーツで包み込み抱き上げた。
「このまま、最後まで・・・と言いたいけど、大事にしたいからね」
そう言い、入ったときとは違う扉へと向かい、部屋へと入っていく。
「ここは?」
「ん?シャワー浴びておいで」
そう言い、タオルを置いて、部屋を出て行く。
残された私は、奥にある磨りガラスで出来た戸をすっと開き、シャワーを浴びることにした。
その頃エディは、ミシェから脱がしたドレスを前に、真剣に考えていた。
───紅茶・・・は、シミになってしまうな。水でいいか
ドレスを長椅子へと座っているかのように立てかける。
そして、水差しを片手に、ドレスへと水をぶちまけた。
胸元から下着までが、濡れるように計算したかのように。
───あとは、これを運んで・・・
磨りガラスの向こうで、ミシェがシャワーを浴びているのを確認しながら、ドレスと下着を回収ボックスへと投げ込む。
そして、再度私室の今へと戻り、呼び鈴をならす。
「お呼びでしょうか」
「ミシェに水をぶちまけてしまったから、着替えとメイドを」
やってきた侍従へと告げれば、侍従が下がっていく。
暫くすれば、王妃付きの侍女がドレス片手に現れた。
「ミシェイラ様はどちらに」
「奥でシャワー浴びてるから、手伝ってあげて」
そう告げれば、眉間に皺を寄せ「ほどほどになさいませ」と苦言を呈して、奥へと足早に消えていく。
───いや、だいぶ我慢しているけどな?
椅子に座り、足を組んで目立たないように注意をして入るが、エディ自身のそれは、硬く首をもたげ、苦しそうだ。
───ミシェが出てくるまでに落ち着けばいいが・・・
そんな事を考えながら、ミシェとの未来に思いをはせていた。
侯爵令嬢ミシェイラとユグドラシル公国の第三王子エンディミオン。
ユグドラシル公国の記録には、彼らの記載は多く残っていない。
しかし、彼らの物語を知らぬものはいない。
彼らの半生は、恋物語として市井に今なお溢れている。
そして、それらはかならず、二人は幸せに将来を共にしたと記されていた。
晩年それを知った彼らは、お互いに頬を染め、手を繋ぎ眠りに着いたと言われている。
今日は、王妃様主催のガーデンパーティー。
一月に一度開かれ、招待されることは、名誉ある事とされています。
そして、その会場で王子様さながらに、令嬢の前で片膝をつき、求婚している馬鹿がいますわ。
彼の名前は、エンディミオン。この国の第三王子。御年十八歳になられる。
そして、求婚されている彼女は、有力貴族で公爵家のご令嬢。お名前は確か、シェリー様。
シェリー様は、私の方をチラリと盗み見られ、申し訳なさそうなお顔をされました。
───お気になさらなくても宜しいのに。あれは、最早ご病気のようなものなのですから
「・・・殿下。申し訳ございません。私は、殿下の番ではございません。先日、番である男性と婚約したばかりなのですわ」
シェリー様の言葉に、エンディミオン殿下は、態とらしく驚かれ立ち上がられます。
「なんと!僕の勘違いだったとは・・・すまない。婚約者と仲良く過ごしてくれ。おめでとう」
「・・・ありがとうございます」
殿下の言葉に、シェリー様は綺麗な所作でお礼を述べられている。
───よく出来た方。お相手の方もよき縁談でしたわね
目線の先で繰り広げられる茶番劇を小さなため息と共に眺めながら、国の行く末が少しだけ心配になる。
───第三王子とは言え、もう少しだけしゃんと出来ないものかしらね
この国・・・魔族と呼ばれる種族が納めるユグドラシル公国は、辺境の島国と言うこともあり、長年平和な国だ。
自然資源に限りはあるものの、上手く共存し今日まで存続している。
近隣大陸の国々とも友好的な関係を築けている。
国同士の略奪や戦争はここ数百年は起きていない。
───それとも、エンディミオン殿下のあれは、平和だからこその争い故なのかしらね・・・
ユグドラシル公国に多いのは魔族。
魔法や武器の扱いに長け、長寿。平均的な寿命は八百歳を超えると言われている。
しかし、幼少期の成長が遅いわけではない。一般的な魔族は、十八で成人を迎え、長い青年期に入る。五百を過ぎれば成熟期と言われている。そのため、成人後の婚期も長い。
そのためなのか、同時期に存在する個体数はさほど多くない。
近年では、多種族との混血も増え、純魔族といえるものはほぼいない。
───あら?シェリー様が此方にこられるわね
物思いに耽っていれば、先程まで殿下に絡まれていたシェリー様がこちらにいらっしゃいました。
「ごきげんよう。ミシェイラ様。先程は、申しわけありませんでした」
シェリー様は、私に丁寧な謝罪と共に頭を下げてくださいました。
「ごきげんよう。シェリー様。お顔をお上げになってください。家格は、侯爵である私の方が下なのですから。それに・・・」
シェリー様に頭を上げていただきつつ、殿下の方へと視線を巡らせば、有力貴族のご子息方と歓談していらっしゃるようでした。
「殿下のあれは、いつものことです。シェリー様がお気にされる必要はありませんわ」
そう返せば、小さく苦笑を漏らされたようです。
───直ぐに表情を取り繕う事が出来るのは流石ですわ
「それでも、謝罪は必要だと思いますから。でも、ありがとうございます」
シェリー様は、そうおっしゃりご自身の席へと戻られて行きましたわ。
其れを笑顔で見送りながら、私は過去へと思いをはせる。
・・・────
彼と出会ったのは、私が十歳。彼が八歳の時だった。
お父様とお母様と一緒に、一般公開されている王宮の薔薇園で、私は迷子になったのよね。
身長の低い私には、薔薇の生け垣が大きな壁の迷路のようだった。
不安で怖くて、泣きそうだったのを覚えているわ。
そこにひょっこりと彼が現れた。
「どうしたの?」
幼いながらも頭にある二本の角で魔族であること、服装から貴族であることは伺えた。
「・・・あなたは?」
「僕はね、エディ。君は?」
私の不躾な問に、気を悪くすることなく、少年は名乗り聞いてくる。
「ミシェイラ」
「ミシェイラ嬢は、ここで何していたの?」
エディの言葉に、不安を思い出して、眥に涙をが溜まるのを自覚しながら、何とか説明をする。
「お父様とお母様と一緒に来たんだけど、ここがどこかわからなくて・・・」
多分、支離滅裂だった。でも、エディは根気よく話を聞いてくれた。
「そっか。公開エリアから迷い込んだんだね。連れて行ってあげるよ」
そう言って、エディは私の手を取り迷いなく歩いていく。
「ありがとうございます。でも、どうして・・・」
「んー・・・君が僕の番だからかな」
エディの言葉に思わず足を止めれば、彼が振り返る。
「え?番?」
「うん。本能がそう告げてるし。君も僕に触られるの嫌じゃないでしょ?」
エディは、言葉と共に私の頬へと指先を滑らせ、耳を擽るように離れていく。
その動きに、ぼんっと顔が赤くなったのを自覚する。
「たぶん、僕も君もまだ、身体が出来ていないから、わかりにくいけど。僕は君を守りたいって思ったし、助けたいって思ったんだ」
赤くなるみゃるの頭を優しく撫で、「いこう?」と再度手を引き歩き出された。
そして、薔薇の生け垣の果てで警護していた兵士に、何か言ったあと暫くすれば、お父様とお母様が現れた。
「ミシェイラ」
「ミシェ」
心配したのだと母親に抱きしめられていれば、お父様がエディに臣下の礼をされていたわね。
「殿下、娘を助けて頂きありがとうございます」
「かまわないよ。たぶん、彼女は僕の番だからね」
エディの言葉に、お父様が驚いていらしたのようだけれど、その時はそれでお開きとなった。
───・・・
物思いから帰り、少し冷めた紅茶を一口飲む。
周りでは、綺麗なドレスを身に纏った令嬢や子息達が楽しそうにおしゃべりに興じている。
たまに振られるそれに、そつなく返事を返しながらも、思考は過去へと遡る。
・・・───
次にお会いしたのは、二年後。婚約の打診と顔合わせの場でしたわね。
お父様と共に登城すれば、紫陽花の咲き誇る庭園を一望できるテラスに通されたのだったわ。
そこには、王様と王妃様達がいらっしゃった。
緊張しながらも、お父様に続き挨拶をすれば、何故かお茶会が始まって、慌てたのよね。
「ミシェイラ嬢。そんなに、畏まらなくてよい」
「そうよ。もっと楽になさって」
王様と王妃様の言葉に、恐縮してしまって、お茶もお菓子も喉を通らなかった。
「ミシェイラ嬢、顔を上げて?」
どこか聞き覚えのある、幼さを残す声におずおずと顔を上げれば、エディがいた。
「え?・・・エディ?」
「うん。正確には、エンディミオンかな。一応、第三王子」
エディの言葉を聞きながら、その声と容姿に胸が苦しくなる感覚を味わう。
でも、それは、苦しいだけではなく、どこか甘やかな痛み。
「それに、うん。やっぱり、君は僕の番だったね」
その言葉と笑顔に、顔の火照りを自覚し、思わず俯けば、小さくけれど嬉しそうな笑い声が聞こえた気がした。
「父上、母上。少し、彼女と話してきても?」
「・・・かまわん」
「節度はたもつのよ」
王様と王妃様の言葉の意味を理解する前に、再度エディから声を掛けられる。
「ミシェイラ嬢。少し二人話しませんか?紫陽花が綺麗なので、案内します」
目の前に差し出された小さな手に、思わずお父様を振り仰げば、頷き返される。
おずおずと手を重ねれば、痺れたような感覚と共に立たされエスコートをされた。
案内された庭園の紫陽花は、とても綺麗で思わず見とれていれば、隣で小さく笑い声が聞こえる。
「ふ・・・あの時もそうやって薔薇に気をとられて迷子になったんだろうね」
「あっ・・・あの時は、エンディミオン殿下にお手数おかけして申しわけありませんでした」
慌てて、言葉と共に頭を下げようとすれば、片手で止められる。
「別に謝る必要はないよ。んー・・・公式の場以外は僕、君にはエディって呼んでほしいんだけど?二人の時は継承もいらないし」
「えっ・・・でも・・・失礼になるのでは・・・」
エディの言葉に、しどろもどろに答えていれば、
「僕がお願いしてるから、大丈夫だよ。それに、僕もミシェって呼びたいし」
そう、仰られたので、小さく頷けば、嬉しそうな笑顔を向けられました。
「ねぇミシェ。僕は君が番だと感じているけど、君はどうかな?」
「・・・わからないです。どのように感じれば番なのか」
エディは、「そうだなぁ・・・」と、少し考え話し出されます。
それは、嬉しいと共に恥ずかしいもので・・・
「僕の場合は、君のことを考えたり、姿を見れば鼓動が逸る。守りたいと思うし、助けたいとも思う。何より愛おしく感じる。
抱きしめたいとも思うし、・・・口づけだってしたい。もちろん、その先の肌の触れ合い・・・」
「待って・・・待ってください」
恥ずかしさに、声を上げエディの言葉を止める。
言葉と共にあれやこれやを思い描きそうになり、思考も止める。
「・・・僕にそう思われるのは嫌?触れられるのは嫌?」
その言葉に、ゆるゆると首を横に振る。
「殿下に・・・」
「エディ」
「エディ様に・・・」
「ミシェ」
エディとの攻防に、見つめ合えば、彼の意思の強さと想いの深さを感じる気がする。
「・・・エディにそう思われるのも、触られるのも嫌じゃないって思って・・・でも、それに戸惑いもあるんです」
最後の言葉を告げようか迷い、けれど、何かにあと推されるように告げる。
「うん。今はそれでいいよ。僕の方が年下だしね。だからさ、僕たちはお互いをこれから知っていこう?そして、僕と共に生きてくれないかな」
「・・・ええ。私でよろしければ」
少しの戸惑いと共にそう返事をすれば、満面の笑みをエディは見せてくれた。
そして、エディと私は婚約者となった。、
それから、エディと私は互いを知るために、逢瀬を重ねた。
そう。なにがあるわけでもないけれど、確かにあれは逢瀬だった。
そして、数年が経って、エディが十三歳で私が十五歳の時に運命とも言える事件が起きた。
エディが毒に倒れ、三日三晩生死の境をさまよった出来事。
犯人は捕まらず、私はいても経ってもいられず、エディを見舞いに行ったわ。
そして、私の姿を認識したのか、手を握り魘されるように繰り返されていた。
「ご・・・めん。──守りたいんだ──だから・・・だから・・・待っていて──」
聞き取るのも難しいうわごと。意味もわからない。でも、私はこう答えるしかなかった。エディに生きてと願いを託しながら。
「ええ。何処にも行きません。ずっと、ずっと待っています。だから、生きて・・・エディ・・・」
そして、目覚めたエディは、私が番であることがわからなくなった。
婚約も危ぶまれたけれど、私はもう彼が番であると認識していたから・・・だから・・・
私は、一つの約束と共にエディ・・・殿下へと提案をした。
「エ・・・いえ、殿下・・・貴方に番があらわれたら、婚約を解消しましょう。
私の家は、侯爵家。貴方が生きやすいための後ろ盾になれます。
私は、殿下の幸せを心から願っているのです。だから、私を利用してください。婚約者という肩書きと共に」
───・・・
───あれからもう、五年経つのね。
あの出来事以降私は、『見向きもされない婚約者』そう囁かれている。
番でありながら、見向きもされないと。
幸い、殿下の耳には入っていなさそうだけれど。
───私も往生際が悪いのかしらね・・・でもそろそろ・・・疲れてしまったわ・・・
そう思いながら、殿下へと視線を向ければ、侍従が何か耳打ちしている所だった。
真剣に頷きながら、話を聞いたあと何故か殿下と視線があった。
───え・・・?
そして、私の方へ無言で歩いてこられています。
途中、王妃様と少し言葉を交わされていたようですが、再度近づいてこられます。
───何が・・・おきているの?
殿下は、私の傍まで来ると、私の手を取り連れ去られました。
「殿下?」
無言で歩かれる殿下に、声を掛ければ無言で速さを上げれます。
そして、庭園の最奥・・・人目につきにくい場所まで来られると、徐に抱きしめられました。
「・・・殿下?」
私の問いかけに、抱きしめる力が強くなる。
「ごめん。辛い思いをさせた。させるつもりも無かった悲しい思いもさせた。ごめん・・・」
「殿下?大丈夫で・・・」
「エディだ」
その言葉と共に、殿下は私を開放し目線をあわされます。
「また、エディって呼んでよ・・・ミシェ」
「・・・もう、エディと呼んで良いのですか?」
そう返せば、殿下・・・エディは、私の頬にかすめるような口づけを落とされ、再度抱きしめられる。
「ああ!」
エディの言葉におずおずと腕を回し抱きしめ返せば、抱きしめる力が強くなる。
しばらく、そうしていれば、腕の力が緩み開放される。
「説明する。ゆっくり話したい。部屋に行こう?」
戸惑いながらも、頷きを返せば、エディに手を取られ歩き出す。
軽く指を絡められているだけだけれど。離れることなく歩いていく。
───え・・・ここは・・・
てっきり、執務室かどこかに通されるものかと思っていれば、王族専用エリアのエディの私室へと連れてこられる。
「そこ、座ってて」
そう言ってエディは、一度部屋を出ていきます。
その間に、メイド達がお茶の用意をし、壁際へと下がって行きます。
しばらくお茶を頂きつつ待っていれば、エディが帰ってきました。
そして、何の迷いもなく私の傍に腰を下ろされ、人払いをされました。
それから、向に用意されている茶器を引き寄せ、お茶を一口含み一息つかれたようでした。
「君をここに招くのは、何時ぶりだろうか・・・さて、何から話そうか」
エディは、茶器を置き、足を組むと真っ直ぐ正面を見据えている。
「多分、始まりは僕が生まれるよりずっと前に種はまかれていたんだ・・・────
僕が気づいたのは、毒を盛られた十三の時だった。
本当はね、毒を盛った犯人は直ぐにわかっていたんだ。でも、黒幕がずっとわからなかったんだ。
だから、黒幕を探ることにした。
まず気づいたのは、兄上達も毒を盛られたり刺客が差し向けられたりしていたこと。そして、それらが王位継承権を付与される十三歳前後から始まっていること。
この時、王位継承権を保持していたのは、兄上達と僕。父上の弟・・・叔父上の二人の息子の五人だった。
皆等しく、狙われていると最初は思った。でも、注意深くみれば、少しずつ穴があることに気づいた。
・・・詳しいことは、話せないけど、犯人は叔父上の上の息子のだったよ。したの兄上と同じ年だったみたい。
動機は、王座だった。兄上達と僕が死ねば、継承順位的に彼が王になることになる。だから・・・殺そうとしたんだって。
・・・ここまでが、きっかけと顛末」
そこまで一気に話し終え、エディは少しだけ目線を落とす。
そこには、やりきれない陰りが見え隠れしているようだった。
「さて、次は僕の行動の理由・・・だね。
結論だけを言ってしまえば、君を護りたかったんだ・・・────
毒を盛られ生死をさまよいながら、考えていたんだ。
あの頃の僕は、力が無かった。後ろ盾も協力者も。
兄上達には番がいない。番がいるのは僕だけ。そう考えて、あることに気づいた。君が狙われる可能性に。
番に出会ったものは、番が天寿を全うする以外で死んでしまったら、狂うと言われている。
僕はそれが真実だと思う。僕は君が死んでしまったら生きていけない。そう思った。
だから、離れようと思ったんだ。
まぁ、君に阻まれてしまったけれど。だけど、僕はそれすらも利用した。
君が嫌な思いをするだろう事も、これから僕がしようとしていることで、君が悲しい思いをするだろう事も承知で・・・だから・・・ごめん・・・」
それきり、殿下は口を噤まれ、俯かれてしまった。
私は、お茶を一口口に含み飲み干す。そして、ゆっくりと口を開く。
「私は、目覚められた殿下に婚約の解消とエディの番ではないと告げられ、酷く傷つきましたわ」
そう告げれば、エディは今にも泣き出しそうな顔で、顔を上げられ私をみてこられます。
ですが、私は正面を向いたまま話を続ける。
「でも、殿下は覚えていらっしゃらないのですね。
生死の境を彷徨われていたエディは、私の手を握り・・・そして、瞳に強い意志をのせて告げられたのですよ?
『ご・・・めん。君を守りたいんだ。ゆるして。だから・・・だから・・・待っていてほしいんだ』
確かにそう告げられたのです」
「え・・・」
エディは、目を見開き信じられない。そんな表情に変わっていました。
私は、そんなエディへと向き直り、目を見つめながら続ける。
「だから、何か理由があるのだろうとはずっとわかっていました。
傷つかないわけでも、悲しくないわけでもなかったですけれど。
それでも、私は繋がりが欲しかった。だから、あんな提案をしたのです。
エディの番が他に見つからないのを知っていながら。
破棄がされるわけもない条件で、あなたを縛ったのです。私のために」
私も大概酷い女のだと告げれば、エディはゆるゆると左右に首を振っている。
そして、躊躇いながらも私へと手を伸ばし、抱きしめられました。
肩口へと頭を預け、少し震える声で「ごめん。ありがとう」と、繰り返されています。
私は、彼の背へと手を回し、ぽんぽんと軽く叩いたあとに、背をさすります。
「ふふ。エディは、大きくなってからの方が泣き虫ですね」
そう、告げて少しだけ意地悪をすれば、抱きしめる腕に力が入る。
「・・・ミシェは少し意地悪になった」
「そうですか」
エディは、「そうだよ」と言いながら、肩口から顔を上げ私を見下ろしてきます。
少し赤くなった、エディの眥に手を伸ばそうとすれば、その手をつかまれ、指先をからめらる。
それから、こつんとおでこを私のおでこにくっつけられた。
「・・・もう少し君に触れてもいいかな?」
エディのその言葉の意味を理解する前に、何かに導かれるように小さく同意を紡ぐ。
「うん・・・」
くっついたおでこが少しだけ離れ、ふにっと唇に何かが触れ、直ぐに離れていく。
数度それが繰り返され、今度は長く触れられた。
───え?!きっキスされてる?!
その時になって、やっと私の唇に触れているのが、エディの唇であることに気づく。
驚きはするものの、嫌悪感はない。むしろ、もっと・・・そんな思いがあふれてくる。
エディは、そんな私の思いを知っているかのように、はむっと下唇をはみ、舌を這わせ離れていく。
「ミシェ・・・あーってして?」
その言葉に導かれるように、小さく口を開けば再度唇を重ねられる。
口を閉じる間もなく、口づけられれば、ぬるりと生暖かなものが侵入してきた。
───なっなに??
驚きにびくりと身を震わせれば、大丈夫だと言うように、絡めた指先に力が込められる。
そして、エディの空いた片手は、安心させるように背を昇っていく。
その間、侵入した暖かなものは、私の歯列をはい、口腔を縦横無尽にはい回る。
背を昇った手が、髪を梳き、後ろ頭へと到達したころ、重ねられた唇が少しだけ離される。
触れるか触れないかの距離でエディが口を開けば、その吐息が唇をかすめ背を震えさせる。
「大丈夫。・・・大丈夫だから、あーってして舌を少しだけのぞかせて?」
エディの「大丈夫」に、背を押されるように、おずおずと小さく口を開け小さくしたを突き出す。
そうすれば、私の舌をざらりと舐め上げられ、再度唇を重ねられる。
驚きに、舌を引っ込めれば、舌先をちょんちょんと刺激される。
───しっ舌を舐められ・・・舐め?え??これは、エディの舌なの?
そこまで理解をすれば、未知なものに対する恐怖は薄れてきた。
だから、おずおずとエディの舌へと私の舌を伸ばせば、絡め取られる。
頭に添えられていた手にぐっと力を込められたと思えば、更に口づけが深くなる。
舌を絡める合間に、上顎や歯列を舐め上げられ、そして軽く吸われる。
「ふっ・・・ふぁ・・・」
くちゅくちゅと言う水音の合間に、私の甘い声が混ざる。
それは、自分の声では無いような、艶やかで甘い響きを感じ、無性に恥ずかしい。
けれど、抑えることは許さないというように、深く長い口づけが続けられ、声をがまする事が出来ずにいる。
思考は蕩け、エディに与えられる刺激にのまれていく。
長い口づけの末、重ねられた唇から、つぅ・・・と溢れるように唾液が伝う。
エディの唾液なのか、私の唾液のか最早わからない。
口腔に溢れる唾液を思わず飲み込めば、唇が離れていく。
私の名残惜しいと言う気持ちを代弁するかのように、エディとの間に銀糸が伝う。
それは、彼がぺろりと唇を舐めると、ぷつりと切れた。
「ミシェの表情・・・想像よりもずっとそそられるな・・・」
言葉と共に、絡められていた手がほどかれ、両手で髪を梳かれる。
「このまま、最後までしてしまいたいけど・・・君のお父上に殺されるだろうな・・・」
思考の纏まらない頭で、殿下の言葉に首をかしげれば、ちゅっと言う音共に、触れるだけの口づけが落とされる。
「でも、僕は触れたいし・・・君が・・・君だけなら大丈夫かな?」
エディの言葉の意味がわからずにいれば、再度唇が重ねられ深い口づけを与えられる。
くちゅくちゅ・・・ちゅうぅ・・・
「ふぁ・・・んっ・・・ふっ・・・」
先程の余韻が抜けきらない私は、それに答えるように舌を絡め、甘い吐息を漏らしはじめる。
エディの手は、私の頭を支えなが、片手を背中へと回される。
時おり、ぷちぷちと言う音が聞こえるが、それが何の音であるかはわからない。
続けられる口づけに答えていれば、しゅるりという音共に小さな開放感を感じた。
頭からエディの手が離されたのを感じ、思わず彼へと腕を伸ばせば、少し笑われた。
エディは、私の手を首へと回し、自分の両手を私の背へと回し指を這わせてくる。
1本づの指が、背筋から首筋を這うように肩口に回され、肩を軽く滑らせる。
そこで、口づけをやめ、エディは私の頭を彼の肩口に押し付けるように固定させる。
「大丈夫。僕に身体預けて?」
耳元で囁かれるエディの声。
昔よりも低くなり、私の心を震わせる落ち着きを感じる。
鼻先には、彼の香水だろうか。麝香の香りが品よく香っている。
そんな事をふわふわと考えていれば、エディが耳をはんでくる。
はむはむとさる合間に、ぺろりと舌がはわされる。
それに、身体を震わせていれば、片方ずつ腕に指を這わされる。
「んっ・・・はぁ・・・」
声と共に落ちる吐息に、エディの肩がときおり揺れるけれど、手は止まることなく素肌の上を這わされている。
脇の下へとエディは腕を入れ、私を抱きしめるように腰へと回される。
それなのに、エディと私の間には絶妙な隙間があり触れることはない。
それに、少しだけ不安と不満を感じたところで、「よっ」という掛け声と共に抱き上げられた。
するりと肌を統べる何かを感じながら、不安定さに恐怖を感じエディへと腕を回し身を寄せる。
素肌に触れる彼の服の感触を感じながら、彼が少しずつ足を進めているのがわかる。
足元で、小さなことんという音がする。素肌に触れる彼の手は優しくて、もっと・・・
───ん?素肌・・・?
少しの違和感に自身の身体へと意識を向ける。
肌寒さと素肌に触れる彼の体と手を感じる。
不思議に思い、彼の肩口から顔を上げれば、彼が通ったであろう場所にドレスとコルセットが落ちているのが見えた。
「え?!」
「ああ、やっと気づいた?」
エディの少し揶揄うような声音に、少しだけ身体を起こしエディを確認すれば、視界の隅に何も纏わぬ己の胸元が見えた。
それは、エディへとぴったりくっつけられ、形を変えてはいたものの素肌を晒す自身の胸で・・・
「なっ!!」
自身の姿に思わず顔を赤らめ、身体を強ばらせれば、エディが宥めるように優しい声で告げてくる。
「大丈夫。最後までしないし、君のお父上に怒られることはしないよ。少し僕が君に触れるだけだ」
「でっでも・・・」
彼の言葉に、戸惑いを伝えれている間に、部屋が移りベッドへ一度座らされる。
それは、ふわふわと私のお尻を包み、普段の私であれば密かにそれを堪能するのだけれど、今はそれどころではなかった。
エディは、己の足をベッドへとかけると、私の背を支え、膝裏へと手を入れ、私をベッドへと引き入れる。
そして、そっと私を寝かせると、腰の辺りへと跨がってきた。
「エディ・・・?」
「ん?」
不安から名を呼べば、優しく返事をされる。
けれど、その目にはみたことも無い感情が燻っているように見えて、少し怖い。
エディが知らない誰かのようで・・・
「大丈夫だから。僕は僕だよ」
そう言いながら、エディは深い口づけを与えてくる。
片手は絡め取られ、ベッドへと縫い止められている。
エディの片手は、頭の方へと伸びていき、私の角の付け根をするりと撫でられた。
「ふぁっ」
身体を小さく跳ねさせ、口づけの合間から声が漏れる。
エディは、口づけをやめ、角の付け根を撫で続けている。
「ふぁ・・・ふっ・・・やぁ」
「ふふ。気持ちいいでしょ?ここは、ちょっとした性感帯なんだよ?」
楽しそうにエディは、撫で続けている。
───んっ・・・確かに、角の付け根は他人に触らさせては駄目だと言われていたけれど・・・
「因みに、番以外の異性が触れるとすっごく気持ち悪いらしいんだけど・・・知ってた?」
その言葉にふるふると首を振れば、エディは嬉しそうな笑顔を見せる。
「そっか・・・」
───そもそも、触られたのはエディが初めて・・・
エディは、指先を首筋へと這わし、それを追うように唇がふってくる。
ちゅっ
小さな音がしたあと、ぺろりと首筋へと舌がはわされる。
「ここに、証を残したいけど・・・バレるのは嫌だからね」
そう、小さく吐息と共につぶやかれ、舌は首筋から鎖骨へと滑り落ちていく。
「んっ・・・」
吐息をこぼせば、ちゅっと唇へと口づけられる。
「触れるね・・・」
その言葉と共に、絡められた指先が離れ、両の乳房に自分とは違う体温を感じる。
「あっ」
「大丈夫」
エディの手によって、やわやわと揉み込まれ、円を描くように触られる。
ときおり、彼の掌によって与えられる、ぴりりとし刺激に、小さく声を上げれば、片側の手が離される。
頂が硬く主張をはじめていた。
「きもちいい?」
「ひゃっ」
エディは、親指と中指で頂を掴み、人差し指で擦るように、搔くように刺激を与えてくる。
それは、私によくわからない疼きを感じる。
しばらく、私の反応を見るように、顔を伺っていたエディだけれど、身体をかがめ唇へと口づけを落とす。
そして間を置かずに、やわやわと触れていた手を離し、主張を始める頂を乳輪ごと齧りつくように口に含める。
今までとは違う、ぬるりとした暖かな感触に、背を震わせ声を漏らす。
「ひぁ・・・んっ・・・はぁ・・・んぅ」
舌先で舐め上げ、突くように。時に唇ではみ、優しく歯をたてられる。
反対の乳房は、揉みしだかれながらも、頂きを指で刺激される。挟まれながら擦るように、搔くように。時には、ひっぱられて優しく捻られる。
「あっ・・・あん・・・んぅ」
空いた片手は、気づけば腰や足を這い回っていた。
掌で撫でるように、指先で触れるか触れないかの距離で。
与えられる刺激に、素直に甘い声を上げていれば、思考は蕩け与えられる刺激とエディの事しか考えられなくなる。
腰は無意識に揺れ、足をすりあわせれば、内腿へと指を這わされる。
ゆるゆると撫でていた手は、次第に足の付け根へと伸びていく。
くちゅり
「ふふ。もうこんなに溢れてる」
胸元から顔を上げ、エディは妖艶に微笑んで見える。
先ほどまで、舐められていた乳房の頂は、硬く熟れ唾液で濡れそぼっている。
足の着けに這わされたては、ゆるゆると下着の上から撫で続けているようだ。
くちゅくちゅ
「あっんっ・・・ひゃぁ・・・」
微かに響いていた水音は、次第に存在感を増していく。
それに呼応するように、私の甘やかな声も大きくなっていると感じる。
「本当は、直接見たいけれど・・・我慢できなくなるから・・・」
エディはそう言って、下着の脇から指を滑り込ませ、私の秘所へと直接指を這わせてくる。
濡れそぼる蜜壷を数度優しく円を描くように撫で、花芯へと指を滑らせる。
指先で押すように、撫でるように触られれば、刺激に腰が引ける。
「ひゃっ」
「逃げちゃ駄目だよ?」
エディによって、身体を固定された私は、与えられる刺激から逃れることが出来ない。
だから・・・甘い甘美な刺激に身を委ねるしかなかった。
私の反応を確かめるように、花芯へと触れる動きが早まっていく。
くちゅくちゅくちゅりくちゅくちゅ
「はっ・・・あっんっ・・・ふぁっ・・・んぅ」
「はぁ・・・かわいい・・・」
それに合わせるように、聞こえる水音が大きくなり、私の甘やかな声も早く切羽詰まったものになっていく。
自分の意思とは別に、何かにはやしたてられる不安に手を伸ばせば、エディが指を絡め握ってくれた。
「えっ・・・エディ・・・んっ・・・な・・・何か・・・へんっなの」
「うん。大丈夫だよ。そのまま達って?」
エディの言葉に意味も無く安心感を感じれば、目の前に小さく星がまたたく。
意思とは関係なく、指先に力が入り腰が浮いた。
「あぁぁ・・・っ」
小さいけれど、一際艶やかで甘い声をあげれば、息が上がり浅い呼吸を繰り返す。
眥には淡く涙が浮かび、唇は怪しく開いたままだ。
エディは、それを満足げに見つめ、くちゅっと言う音共に、下着から指を引き抜いたようだ。
「はぁ・・・かわいい・・・」
そう呟けば、ぺろりと妖しく濡れた指先を舐めとっている。
「これが、ミシェの味・・・」
一通り舐め終われば、エディは私の身体をシーツで包み込み抱き上げた。
「このまま、最後まで・・・と言いたいけど、大事にしたいからね」
そう言い、入ったときとは違う扉へと向かい、部屋へと入っていく。
「ここは?」
「ん?シャワー浴びておいで」
そう言い、タオルを置いて、部屋を出て行く。
残された私は、奥にある磨りガラスで出来た戸をすっと開き、シャワーを浴びることにした。
その頃エディは、ミシェから脱がしたドレスを前に、真剣に考えていた。
───紅茶・・・は、シミになってしまうな。水でいいか
ドレスを長椅子へと座っているかのように立てかける。
そして、水差しを片手に、ドレスへと水をぶちまけた。
胸元から下着までが、濡れるように計算したかのように。
───あとは、これを運んで・・・
磨りガラスの向こうで、ミシェがシャワーを浴びているのを確認しながら、ドレスと下着を回収ボックスへと投げ込む。
そして、再度私室の今へと戻り、呼び鈴をならす。
「お呼びでしょうか」
「ミシェに水をぶちまけてしまったから、着替えとメイドを」
やってきた侍従へと告げれば、侍従が下がっていく。
暫くすれば、王妃付きの侍女がドレス片手に現れた。
「ミシェイラ様はどちらに」
「奥でシャワー浴びてるから、手伝ってあげて」
そう告げれば、眉間に皺を寄せ「ほどほどになさいませ」と苦言を呈して、奥へと足早に消えていく。
───いや、だいぶ我慢しているけどな?
椅子に座り、足を組んで目立たないように注意をして入るが、エディ自身のそれは、硬く首をもたげ、苦しそうだ。
───ミシェが出てくるまでに落ち着けばいいが・・・
そんな事を考えながら、ミシェとの未来に思いをはせていた。
侯爵令嬢ミシェイラとユグドラシル公国の第三王子エンディミオン。
ユグドラシル公国の記録には、彼らの記載は多く残っていない。
しかし、彼らの物語を知らぬものはいない。
彼らの半生は、恋物語として市井に今なお溢れている。
そして、それらはかならず、二人は幸せに将来を共にしたと記されていた。
晩年それを知った彼らは、お互いに頬を染め、手を繋ぎ眠りに着いたと言われている。
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