上 下
7 / 36

7話 お、おっぱい大っきいでしょう!

しおりを挟む
カツンコツンと慣れないヒールの音を立てながら職場に向かって歩く。私はララ様の指導で、やりたくもない“美しい歩き方”の特訓をさせられていた。

『背筋を伸ばして! 丹田を意識する!』

えっと、何でこうなっているかと言えば……

『花、今日からと攻めていくわよ』
『攻め……ですか?』
『反撃よ。と言ってもまずは歩き方からだけどね』

はい、反転攻勢には賛同します。でも歩き方との相関が分かりません。確かに私は俯き加減で歩く癖がある。ネガティブな性格が猫背に現れているのです。ましてや巨乳の重みと、それを恥じる気持ちが相重なって、ますますその傾向が強くなっていくのでしょうね。

『美しさは武器って言ったでしょう。ちょっとした振る舞いで男は花の味方になるわ。まぁ、わたくしの言う通りにしなさい』

容姿端麗、才色兼備か……。辛うじては絵梨花やお局より優れていると自負してますけど、それ以外は私には無縁の言葉だと思っていたわ。

でも、それは私らしさではない。美貌を備えたからと色気で男性を味方になど……ん?

『ララ様、一つ疑問が』
『ファッションやメイクのこと?美しさと言いながら薄いファンデのみ。ダザい眼鏡と黒色の枝毛ちらりヘアーもいつも通りでスーツも着たきり雀ね。強いて言うならセクシーランジェリーを身に纏っているだけで、劇的な変貌を遂げていない』

酷いですね。当たってるけど。

『花の衝撃デビューは謝恩会よ』
『謝恩会……っ!』

思い出した。凄く憂鬱なイベントが迫っている。裏方だろうけどコミュ症の私にとっては地獄だ。

『それまで美貌は小出しにするの。でも、歩き方や仕草は練習しないと無理だからね。お分かり?』

ま、まぁ納得はしてないけど、謝恩会を巡ってこれから嫌な思いや傷つくことが容易に想像できるし、どなたか味方がいれば心強い。

『分かったなら今日から歩く特訓をするわよー』
『はぁ……』

──で、今に至る。

だけど、ララ様の指導は的確だった。頭から吊られてる感覚、重心を丹田に。足はクロスさせるようにテンポよく。……とてもイメージしやすいのだ。そして何より自信を持つことが姿勢に影響するのだと自覚した。その洗脳方法が凄く恥ずかしいけど……

『さぁ、心の中で声高らかに唱えなさい!』
『ホ、ホントに言うのですか?』
『自信をつけるためよ。自己暗示だから』
『はい、では……みんなー、見て見てー、私、綺麗でしょう~』
『いいよ、しっかり前を見ながら続けて』
『私のおっぱい大きいでしょう。見て見てー』
『もっと声出して!』
『お、おっぱい大きいでしょう!』
『もっと胸張って!』
『お、おっぱい……』

ぶるんぶるんと歩くたびに揺れる私の胸。恥ずかしいと思ってはダメ。これは武器なのだ。まさしく魔剣や妖刀に匹敵するものよ。女性からは嫉妬されるけど男性を虜にするには効果絶大──

「はぁはぁ……ぜいぜい……」

地獄の特訓が終わり、更衣室の扉にもたれかかって呼吸を整えた。頬から汗がしたたり落ちる。

これ毎日続けるの? 
ホントに男性社員の味方が増えるのかな? 
姿勢良く歩いておっぱいを揺らすだけで? 
私に興味など誰も持ってないと思うけど。

頭の中は疑問だらけだ。

『花、職場でも美しく歩くのよ。胸は隠しようがないから堂々と見せびらかしなさい。必ず風向きが変わってくるわ』

そんなものでしょうか。だったら、それはそれで悲しい気がします。胸の大きさは遺伝です。本人の努力が足りないとかではありません。

セクシーランジェリーを露わにして、巨乳を押し込むように制服のボタンを留めた。きっつきつだ。

『で、敵は誰が出勤してるの?』
『あ、はい。後輩モブ男子とお局の二人です』
『よし、早速お局に仕掛けるわよ』
『えっ……仕掛けるって何を?』
『宣戦布告よ。地味にねー』

思わず脚が震えた。いきなり言われても心の準備が整ってない。でも、そう悠長にもしてられない。謝恩会が近いのだ。

もうやるしかないわ。
その一歩を踏み出そう。ララ様を信じて……

さぁ、いよいよ私の闘いが始まるのだ。

反撃です!




しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

バカンス、Nのこと

犬束
現代文学
私のために用意された別荘で過ごした一夏の思い出。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

処理中です...