わたくしのこと“干物女”って言いましたよね？

6話 そういえば私、ノーブラだった。

「この様子だとお部屋に入ることは難しいですね」

コミュ障の私は初対面の彼を前にして物おじせず会話を続けた。敵のいないプライベートな環境がそうさせているのだと分析する。それと、業務で繋がっていた好印象の彼に“根暗で変なヤツ”と思われたくない心理が働いているのだろう。

「まぁ、早朝から捜査が行われてますが何も手掛かりは無いようなので、暫く待てば部屋に入れると思いますよ」
「あの、私はララさんに貸していた洋服など返して貰えればと……でも、大丈夫でしょうか？こんな状況で怪しいと思ってません？私のこと？」

奇怪な質問だったかな？と、一瞬思ったけど彼は微笑を浮かべながら首を横に振ってくれた。

「いえ、綾坂さんは業務上繋がりがあるので信頼してますよ。でもあなたが姉の友人とは意外でした」
「え、えっと、学生時代に知り合って……」
「そうですか。あ、立ち話も何ですからお茶でも如何ですか？」
「は、はい。では……」

まさかこんな展開になるとは。

恋愛放棄した面倒臭がりの“干物女”と揶揄され続けた私が、誰もが二度見するくらいの“素敵男子”と向かい合っている。自分でも信じられない。

でも彼はララ様の御遺族。我が姉が殺されたのだ。平静を装って見えるが内心は心を痛めてるに違いない。それに、これからお葬式や手続き上のことなど色々大変になると推測する。下着泥棒みたいな真似をしていいのだろうか……

「ララさんの友人として、私にも何かお手伝いさせてください」

罪悪感からなのか自然に言葉が生まれた。

「いいのですか？あぁ、それは大変助かります。両親は地方でしかも患ってまして、駆けつけるのは難しいのです。遺品整理や他にも色々悩んでて、是非相談させてください！」
「はい、私でよければ！」

ヤバい。不謹慎かもしれないけど嬉しい。でも怖いよ。これ以上お話するといつかボロが出そうだ。

そんな複雑な心境だったけど、ちょうど警察から連絡がきてララ様のお部屋へ入ることが可能となった。私たちはマンションへ向かう。


……にしても、安息の地とは大違いだ。

同世代とは思えない立派なマンションのお部屋に驚きを隠せない。豪華絢爛なインテリア、高級なアクセサリーや小物など、これでは遺品整理も大変だろう。　　

あまり部屋を乱してはいけないらしいけど、彼の好意でクローゼットの中を漁りまくった。私はララ様の指示で動いている。

『取り敢えず下着と化粧品だね。後はまた今度ってことで』
『ララ様、また今度って……これも貸してましたって頻繁に行けないですよ。怪しすぎます』
『大丈夫。どさくさに全部頂いちゃおう。全部わたくしの物なんだから』
いえ、ララ様の意思が働いてるとは説明不可ですので私の人間性が疑われます……いかん。つい心の中で思ってしまった。
『心配いらないわ。翔なら何とか丸め込めるから。それより下着を詰め込んで』
『はぁ……』
言われるがままチェストの引き出しを開け、下着を物色する。
随分派手な下着ばっかりだ。こんな際どいの一生履かないよう。でも花柄はいいかな？

『そこから選んでブラをつけて』
『は、はい』
ん？そういえば私、ノーブラだった。素敵男子の前で舞い上がって、すっかり忘れていた。

は、恥ずかしい……
これは恥ずかしいぞ。彼の前で無防備にぶるんぶるん揺らしてたんだ！

『うふふ、翔も男だねぇ。チラチラ見てたわよ』
そ、そ、そんなぁ。早く言ってよぉ。イカれた女だと思われたじゃないですかぁ──

私は下着を詰め込んだパンパンの紙袋を一杯持って、挨拶もそこそこにマンションから撤収した。