上 下
22 / 26
第三章〜ご主人様を攻略致しますので〜

22. ご主人様は受け入れますか

しおりを挟む
「生薬をお届けに参りました。急いでおりますのでお通しください」
「なりませんっ。それなら私が預かりましょう」
「いえ。執事殿から直接届ける様にと依頼されているのです」
「なに、ドミニク様が? い、いえいえ、何かの間違いです。生薬は私が……」

 彼女は一ミリたりとも譲る気はない様です。

「侍女長、本当でございます」 

 カトリーヌがわたくしを庇う様に前へ立ちました。そして両手を広げ侍女長を制したのです。

「お前は私に歯向かうのか。お退きなさいっ!」
「あっ」

 凄い力でカトリーヌのか細い腕を掴んで強引に払い退けます。彼女は体勢を崩され転げてしまいました。

「わたくしの侍女に何をするのですか!」
「……ふん。いいから生薬を渡しなさい」

 仕方がない。作戦を少々変更致します。

 元々ご主人様に侍女長との間に何があったのかを尋問しながら女性が苦手となった原因を探り、解決への道を示すのが作戦でした。勿論本音を聞かせるため、隠れた場所に彼女を待機させて。

 ですが。その前に彼女の本意を探るのも悪くありません。

「侍女長。お聞きしたいことがございます」
「何ですか。そんなことより早く生薬を!」
「若い女性が苦手になられた原因をご存知でしょうか?」
「なっ、何を言ってる?」
「母親を亡くした十歳の頃です。貴女に懐いていたご主人様が急にお変わりになられた」
「あ、あれは……いわゆる思春期で」
「そうではありません。貴女が急変したのです」

 侍女長は暫く沈黙しておりました。けれどやがて不気味な笑みを浮かべながら告白したのです。

「……ふ、お前に何が分かる。薬剤師の分際で」
「わたくしは薬剤師の前にです。いい加減無礼は許しませんよ!」
「おほほほほほ。何が夫人だ。笑わすな! 私はこの二十年間、伯爵邸に仕えてるんだ。誰よりもご主人様を大切に想っておる。それに私が奥様と呼べるのは亡き御方のみだ」
「なるほど。深い愛情の様ですね。良かったです。貴女に悪意はないことが分かりました。後はわたくしにお任せを。では」
「ああ? ち、ちょっと待て」

 そこから先は侍女長と追いかけっこです。ご主人様がお待ちするダイニングルームに我先へと急ぎます。けれども本邸に疎いわたくしは迷い、一足先にお部屋へ入られてしまいました。

「ご、ご主人様。ディアナ様が……その」

 さあここからは賭けです。ご主人様がわたくしを拒否されれば、そこでお終い。その場合、執事殿が上手く取り計らってくれることを祈るのみ。

「どうした、セリア!」
「お止めしたのですが、生薬を持参してここまで来てしまって……如何致しましょう。私が受け取って追い返しても宜しいのですが」

 ご主人様。どうかわたくしを受け入れて!

「い、いや。ちょうど良い。ここへ呼ぶのだ」
「ご、ご主人様……?」

 よしっ、承諾された。やります。やりますとも。カウンセリングします!

「失礼致します。ご主人様、遅くなりました」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

俺様幼馴染の溺愛包囲網

吉岡ミホ
恋愛
枚岡結衣子 (ひらおか ゆいこ) 25歳 養護教諭 世話焼きで断れない性格 無自覚癒やし系 長女 × 藤田亮平 (ふじた りょうへい) 25歳 研修医 俺様で人たらしで潔癖症 トラウマ持ち 末っ子 「お前、俺専用な!」 「結衣子、俺に食われろ」 「お前が俺のものだって、感じたい」 私たちって家が隣同士の幼馴染で…………セフレ⁇ この先、2人はどうなる? 俺様亮平と癒し系結衣子の、ほっこり・じんわり、心温まるラブコメディをお楽しみください! ※『ほっこりじんわり大賞』エントリー作品です。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

愛していたのは昨日まで

豆狸
恋愛
婚約破棄された侯爵令嬢は聖術師に頼んで魅了の可能性を確認したのだが── 「彼らは魅了されていませんでした」 「嘘でしょう?」 「本当です。魅了されていたのは……」 「嘘でしょう?」 なろう様でも公開中です。

【完結】エロ運動会

雑煮
恋愛
エロ競技を行う高校の話。

処理中です...