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第三章〜ご主人様を攻略致しますので〜

22. ご主人様は受け入れますか

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「生薬をお届けに参りました。急いでおりますのでお通しください」
「なりませんっ。それなら私が預かりましょう」
「いえ。執事殿から直接届ける様にと依頼されているのです」
「なに、ドミニク様が? い、いえいえ、何かの間違いです。生薬は私が……」

 彼女は一ミリたりとも譲る気はない様です。

「侍女長、本当でございます」 

 カトリーヌがわたくしを庇う様に前へ立ちました。そして両手を広げ侍女長を制したのです。

「お前は私に歯向かうのか。お退きなさいっ!」
「あっ」

 凄い力でカトリーヌのか細い腕を掴んで強引に払い退けます。彼女は体勢を崩され転げてしまいました。

「わたくしの侍女に何をするのですか!」
「……ふん。いいから生薬を渡しなさい」

 仕方がない。作戦を少々変更致します。

 元々ご主人様に侍女長との間に何があったのかを尋問しながら女性が苦手となった原因を探り、解決への道を示すのが作戦でした。勿論本音を聞かせるため、隠れた場所に彼女を待機させて。

 ですが。その前に彼女の本意を探るのも悪くありません。

「侍女長。お聞きしたいことがございます」
「何ですか。そんなことより早く生薬を!」
「若い女性が苦手になられた原因をご存知でしょうか?」
「なっ、何を言ってる?」
「母親を亡くした十歳の頃です。貴女に懐いていたご主人様が急にお変わりになられた」
「あ、あれは……いわゆる思春期で」
「そうではありません。貴女が急変したのです」

 侍女長は暫く沈黙しておりました。けれどやがて不気味な笑みを浮かべながら告白したのです。

「……ふ、お前に何が分かる。薬剤師の分際で」
「わたくしは薬剤師の前にです。いい加減無礼は許しませんよ!」
「おほほほほほ。何が夫人だ。笑わすな! 私はこの二十年間、伯爵邸に仕えてるんだ。誰よりもご主人様を大切に想っておる。それに私が奥様と呼べるのは亡き御方のみだ」
「なるほど。深い愛情の様ですね。良かったです。貴女に悪意はないことが分かりました。後はわたくしにお任せを。では」
「ああ? ち、ちょっと待て」

 そこから先は侍女長と追いかけっこです。ご主人様がお待ちするダイニングルームに我先へと急ぎます。けれども本邸に疎いわたくしは迷い、一足先にお部屋へ入られてしまいました。

「ご、ご主人様。ディアナ様が……その」

 さあここからは賭けです。ご主人様がわたくしを拒否されれば、そこでお終い。その場合、執事殿が上手く取り計らってくれることを祈るのみ。

「どうした、セリア!」
「お止めしたのですが、生薬を持参してここまで来てしまって……如何致しましょう。私が受け取って追い返しても宜しいのですが」

 ご主人様。どうかわたくしを受け入れて!

「い、いや。ちょうど良い。ここへ呼ぶのだ」
「ご、ご主人様……?」

 よしっ、承諾された。やります。やりますとも。カウンセリングします!

「失礼致します。ご主人様、遅くなりました」









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