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第二章〜ご主人様をワタワタさせます〜
10. ご主人様は恥ずかしがり屋
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※ブルクハルト視点
「伯爵様。面倒臭かったけどご指示通り三度目の婚姻を国王様へご報告して参りました。もーう、恥ずかしいったらありゃしないぃ」
……エルク秘書官。面倒とか三度目とか恥ずかしいとか相変わらず君は失礼な男だ。
まぁいい。この執務室は君しかいない。無礼は許そう。人見知りな僕が、唯一気を許してる希少な男だしな。あ、もう一人いたか。この城は彼だが邸宅では執事のドミニクもそうだ。この二人だけは僕に遠慮なく耳の痛いことも進言してくれるありがたい存在だと思ってる。
それに君の言う通り。三度目は僕も恥ずかしい。
「それはご苦労だった。で、何か仰っていたか」
「ええ、そしたらね『逃げられないうちに三度目の妻に会わせろ』って。半笑いで!」
ふん。からかっておいでか。だが国王様へ婚姻届をお見せしただけのご報告では、王宮のみならず領民にも認知されないだろうな。
「どうします? お祝い品も頂いてますし、奥様を王宮へ連れて行かれますか? あ、三度目の」
三度目、三度目とうるさいヤツだ。それにしてもお披露目を考えると頭が痛いな。できればそっとして欲しいが、男色の噂は払拭したいし……
少々イラつきながら思案してると、つい僕はデスクの引き出しから『安息玉』を取り出し齧る癖が始まってしまう。気持ちを落ち着かせたいのだ。だがその生薬は残り僅かであり、とても不安に感じていた。
「また食べてるんですか。それ薬ですよ。おやつじゃないんだから」
同じ趣旨のことドミニクにも言われたよ。だがやめられない。これは僕の精神安定剤なのだから。
「とにかく、国王様には御礼状を書いておこう」
さて、いつもより仕事を早く切り上げ邸宅へ戻らねば。生薬の生産が気になって仕方ない。
☀︎☀︎☀︎
「おかえりなさいませ。ご主人様」
……ん、セリアか。
エントランスホールで出迎えられてしまったが僕は目を合わさず軽く頷く。
いつしか彼女には心を閉ざしてしまった。だが四十を超えて膨よかになったセリアを苦手な女性の対象だと本人に勘繰られるのは恥ずかしい。
本当の気持ちは、物心ついた頃からいつも側にいた彼女を今でも美しい女性だと思っている。いつまでもこの気持ちは変わらないだろう。
「ご主人様、今日はお早いご帰宅で」
「あぁドミニク。ちょっとこっちへ」
セリアの前では話しにくいので邸宅の執務室へ彼を引き寄せた。
「御坊ちゃま?」
二人きりになるとドミニクは昔ながらの通称に変わる。あえて僕も咎めないが。
「うむ。あの生薬はまだなのか?」
「はい。三日前、セリアからディアナ様へ至急の生産を依頼したところでございます。もう暫くお待ち頂ければと」
「もう三日も経ってるじゃないか。一つくらいはできてるだろう?」
「はて、進捗は把握してませんので何とも」
「いいか、一つづつでもでき次第、納める様に伝えといてくれ」
だがドミニクは返答を渋った。大体言いたいことは分かっている。
「お坊ちゃま。一日一粒以上は召し上がってはなりません。その様なお約束では?」
また始まったか。だがこれは僕に非がある。
「分かってるよ。ちゃんと守る。だがな、残り少ないと不安になるんだ。どんな状況なのか確認してくれないか?」
「かしこまりました。では私が明日別邸へ参りましょう」
うむ。本当は僕が会いに行けばいいが、恥ずかしくて無理だ。それこそ乱用してしまうからな。
「伯爵様。面倒臭かったけどご指示通り三度目の婚姻を国王様へご報告して参りました。もーう、恥ずかしいったらありゃしないぃ」
……エルク秘書官。面倒とか三度目とか恥ずかしいとか相変わらず君は失礼な男だ。
まぁいい。この執務室は君しかいない。無礼は許そう。人見知りな僕が、唯一気を許してる希少な男だしな。あ、もう一人いたか。この城は彼だが邸宅では執事のドミニクもそうだ。この二人だけは僕に遠慮なく耳の痛いことも進言してくれるありがたい存在だと思ってる。
それに君の言う通り。三度目は僕も恥ずかしい。
「それはご苦労だった。で、何か仰っていたか」
「ええ、そしたらね『逃げられないうちに三度目の妻に会わせろ』って。半笑いで!」
ふん。からかっておいでか。だが国王様へ婚姻届をお見せしただけのご報告では、王宮のみならず領民にも認知されないだろうな。
「どうします? お祝い品も頂いてますし、奥様を王宮へ連れて行かれますか? あ、三度目の」
三度目、三度目とうるさいヤツだ。それにしてもお披露目を考えると頭が痛いな。できればそっとして欲しいが、男色の噂は払拭したいし……
少々イラつきながら思案してると、つい僕はデスクの引き出しから『安息玉』を取り出し齧る癖が始まってしまう。気持ちを落ち着かせたいのだ。だがその生薬は残り僅かであり、とても不安に感じていた。
「また食べてるんですか。それ薬ですよ。おやつじゃないんだから」
同じ趣旨のことドミニクにも言われたよ。だがやめられない。これは僕の精神安定剤なのだから。
「とにかく、国王様には御礼状を書いておこう」
さて、いつもより仕事を早く切り上げ邸宅へ戻らねば。生薬の生産が気になって仕方ない。
☀︎☀︎☀︎
「おかえりなさいませ。ご主人様」
……ん、セリアか。
エントランスホールで出迎えられてしまったが僕は目を合わさず軽く頷く。
いつしか彼女には心を閉ざしてしまった。だが四十を超えて膨よかになったセリアを苦手な女性の対象だと本人に勘繰られるのは恥ずかしい。
本当の気持ちは、物心ついた頃からいつも側にいた彼女を今でも美しい女性だと思っている。いつまでもこの気持ちは変わらないだろう。
「ご主人様、今日はお早いご帰宅で」
「あぁドミニク。ちょっとこっちへ」
セリアの前では話しにくいので邸宅の執務室へ彼を引き寄せた。
「御坊ちゃま?」
二人きりになるとドミニクは昔ながらの通称に変わる。あえて僕も咎めないが。
「うむ。あの生薬はまだなのか?」
「はい。三日前、セリアからディアナ様へ至急の生産を依頼したところでございます。もう暫くお待ち頂ければと」
「もう三日も経ってるじゃないか。一つくらいはできてるだろう?」
「はて、進捗は把握してませんので何とも」
「いいか、一つづつでもでき次第、納める様に伝えといてくれ」
だがドミニクは返答を渋った。大体言いたいことは分かっている。
「お坊ちゃま。一日一粒以上は召し上がってはなりません。その様なお約束では?」
また始まったか。だがこれは僕に非がある。
「分かってるよ。ちゃんと守る。だがな、残り少ないと不安になるんだ。どんな状況なのか確認してくれないか?」
「かしこまりました。では私が明日別邸へ参りましょう」
うむ。本当は僕が会いに行けばいいが、恥ずかしくて無理だ。それこそ乱用してしまうからな。
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