5 / 26
第1章〜ご主人様のプロファイリング〜
5. ご主人様は喜怒哀楽が薄い
しおりを挟む
「奥様、お食事の準備が整いました。です」
年少の侍女ウラリーから呼ばれダイニングルームへ参りました。何故かわたくしの背中には子猿がしがみついておりますが。
「すっかり懐かれてしまいましたわ」
露天風呂でカトリーヌから紹介された「ジョニー」と言う名のお猿さん。母親を亡くし森を彷徨っていたところを保護したとか。実は彼女らは孤児院の出だそうで同じ境遇の子猿に情が湧き、侍女長に内緒で時々面倒をみていた様です。
「奥様に母親を感じてるのかもしれません」
「そう?」
少しばかりか笑顔で接する様になったカトリーヌに言われると満更でもない気分になります。まさか嫁いで早々別居の挙句、野性の子猿に好かれるとは全くの想定外だったのですが。
「じゃあ、飼おうかな」
「えっ、良いのですか」
「皆んなでお世話しましょうね」
「わーい、やったー!」
勿論、あのツンケンドンな侍女長には内緒です。滅多にここに来ないらしいので別邸組の秘密事項と言うことで。
さて、それはそうと給仕されたお料理は見事なものです。山菜スープに手作りパン、チーズとバターを仕上げに加えた魚介のムニエル、アボガドやトマトなど彩り鮮やかなサラダ、それに今まで頂いたことのない高級ワイン等々。
「美味しいっ!」
「お口に合って良かったです」
本当にこの娘たちが調理したのでしょうか? だとしたら天才では?
「ねぇ、皆んなで食べましょうよ」
その言葉に彼女らが固まってしまいました。
そんなに驚くこと言ったかしら。わたくしとしては侍女とは言えども少女らに見守られてのお食事に違和感を感じてしまうのです。
「その様なこと仰られたのは初めてです」
「うん。今までの奥様とは全然違います」
「アタシも食べたーい。です……」
どうやら気品高い前妻の公爵令嬢や伯爵令嬢はこの別居生活にプライドが傷つけられ、また伯爵夫人としてのお役目もなく暇な日常に心が荒み、お食事抜きなど彼女らに辛く当たっていた様です。
「いい? これからはお食事もお風呂も皆んなと一緒よ。わたくしも手伝うからね。分かった?」
するとアンナとウラリーの目から涙が溢れ落ちたのです。
「お、奥さまは……折檻しないの?」
「する訳ないでしょう」
「ほ、ほんとに? あーん、嬉しいよぉ」
「二人とも泣かないの!」
カトリーヌが嗜めます。ですが「わーーんっ!」と本泣きされてしまいました。
「おー、よしよし。おいで」
二人がギュッと抱きつきます。そしてカトリーヌも耐えきれず、シクシクと泣きながら寄り添ってきました。わたくしは子猿と三人の少女にしがみつかれたのです。
うーん。何でしょうか、この状態は。けれども別邸の主人として皆んなを守っていかねば! とよく分からない決意を致しました。
「ところでね。ご主人様のことよく知らないんだけど、どんな御方なのか教えてくれるかな」
思いがけずお通夜みたいになってしまったので雰囲気を変えようと質問してみました。
「え、ご主人様ですか。そうですね……お笑いにならない御方かと。あ、でもお怒りにもなりませんが」
「ん? つまり感情の起伏が少ないってこと?」
「はい。いつも冷静沈着で聡明な御方です」
ふむ。言い換えれば喜怒哀楽が薄く冷酷で機械の様な御方ってことかしら?
し、少々残念な気が。
年少の侍女ウラリーから呼ばれダイニングルームへ参りました。何故かわたくしの背中には子猿がしがみついておりますが。
「すっかり懐かれてしまいましたわ」
露天風呂でカトリーヌから紹介された「ジョニー」と言う名のお猿さん。母親を亡くし森を彷徨っていたところを保護したとか。実は彼女らは孤児院の出だそうで同じ境遇の子猿に情が湧き、侍女長に内緒で時々面倒をみていた様です。
「奥様に母親を感じてるのかもしれません」
「そう?」
少しばかりか笑顔で接する様になったカトリーヌに言われると満更でもない気分になります。まさか嫁いで早々別居の挙句、野性の子猿に好かれるとは全くの想定外だったのですが。
「じゃあ、飼おうかな」
「えっ、良いのですか」
「皆んなでお世話しましょうね」
「わーい、やったー!」
勿論、あのツンケンドンな侍女長には内緒です。滅多にここに来ないらしいので別邸組の秘密事項と言うことで。
さて、それはそうと給仕されたお料理は見事なものです。山菜スープに手作りパン、チーズとバターを仕上げに加えた魚介のムニエル、アボガドやトマトなど彩り鮮やかなサラダ、それに今まで頂いたことのない高級ワイン等々。
「美味しいっ!」
「お口に合って良かったです」
本当にこの娘たちが調理したのでしょうか? だとしたら天才では?
「ねぇ、皆んなで食べましょうよ」
その言葉に彼女らが固まってしまいました。
そんなに驚くこと言ったかしら。わたくしとしては侍女とは言えども少女らに見守られてのお食事に違和感を感じてしまうのです。
「その様なこと仰られたのは初めてです」
「うん。今までの奥様とは全然違います」
「アタシも食べたーい。です……」
どうやら気品高い前妻の公爵令嬢や伯爵令嬢はこの別居生活にプライドが傷つけられ、また伯爵夫人としてのお役目もなく暇な日常に心が荒み、お食事抜きなど彼女らに辛く当たっていた様です。
「いい? これからはお食事もお風呂も皆んなと一緒よ。わたくしも手伝うからね。分かった?」
するとアンナとウラリーの目から涙が溢れ落ちたのです。
「お、奥さまは……折檻しないの?」
「する訳ないでしょう」
「ほ、ほんとに? あーん、嬉しいよぉ」
「二人とも泣かないの!」
カトリーヌが嗜めます。ですが「わーーんっ!」と本泣きされてしまいました。
「おー、よしよし。おいで」
二人がギュッと抱きつきます。そしてカトリーヌも耐えきれず、シクシクと泣きながら寄り添ってきました。わたくしは子猿と三人の少女にしがみつかれたのです。
うーん。何でしょうか、この状態は。けれども別邸の主人として皆んなを守っていかねば! とよく分からない決意を致しました。
「ところでね。ご主人様のことよく知らないんだけど、どんな御方なのか教えてくれるかな」
思いがけずお通夜みたいになってしまったので雰囲気を変えようと質問してみました。
「え、ご主人様ですか。そうですね……お笑いにならない御方かと。あ、でもお怒りにもなりませんが」
「ん? つまり感情の起伏が少ないってこと?」
「はい。いつも冷静沈着で聡明な御方です」
ふむ。言い換えれば喜怒哀楽が薄く冷酷で機械の様な御方ってことかしら?
し、少々残念な気が。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
それでも愛されたい
salt
恋愛
共感して頂けたらと思ってます
実体験を基盤に書いてます。宜しくお願いします。
恋に疲れた訳ありメンヘラ男子が、恋を重ねていく上で
成長していく物語です。アイコンは(ぷに)様から
お借りしています。この小説を通して
恋愛にネガティブになっている方に寄り添い、力になれたらと思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
DIVA LORE-伝承の歌姫-
Corvus corax
恋愛
たとえ世界が終わっても…最後まであなたと共に
恋愛×現代ファンタジー×魔法少女×魔法男子×学園
魔物が出没するようになってから300年後の世界。
祖母や初恋の人との約束を果たすために桜川姫歌は国立聖歌騎士育成学園へ入学する。
そこで待っていたのは学園内Sクラス第1位の初恋の人だった。
しかし彼には現在彼女がいて…
触れたくても触れられない彼の謎と、凶暴化する魔物の群れ。
魔物に立ち向かうため、姫歌は歌と変身を駆使して皆で戦う。
自分自身の中にあるトラウマや次々に起こる事件。
何度も心折れそうになりながらも、周りの人に助けられながら成長していく。
そしてそんな姫歌を支え続けるのは、今も変わらない彼の言葉だった。
「俺はどんな時も味方だから。」
お隣さんに雇われました
蓮
恋愛
大学進学を期に一人暮らしを始めた進藤海斗。
引越し直後、隣の部屋の人に挨拶に行くと、小柄で長い髪の海斗よりも年上に見える女性が出て来た。
彼女の名前は桜庭智絵里。アンニュイな雰囲気でどことなく猫を彷彿とさせる女性だ。
海斗と智絵里の関係は単なるお隣さんだったが、偶然マンションのエレベーターで一緒になった時、何と智絵里が熱で倒れてしまってから関係は変わる。
放っておくことが出来ず、海斗は智絵里を看病する為に彼女の部屋に入ったら、何とそこは散らかりまくった汚部屋だった!
おまけに智絵里は料理も出来ないことが判明!
世話焼きで家事上手な海斗はこれも放っておけず、看病だけでなく智絵里の部屋を簡単に片付け始めた。
そして回復した智絵里からこう持ちかけられる。
「あの、私専属の家事代行バイトとかしませんか?」
これは十八歳男子大学生と二十六歳社会人女性の、家事代行バイトから始まる恋物語。
たとえ神様に嫌われても
らいち
恋愛
放課後の教室。
忘れ物を取りに行った倉橋いづみは、同級生の大石佑と富良野沙良がキスをしている所を目撃してしまう。
慌ててその場から離れようとした時、いづみはキスの最中の大石と目が合ってしまった。
その時の大石の表情があまりにも強烈で、いづみは転がるようにそこから逃げ出した。
それなのに、その日を境に大石はいづみにちょっかいを掛けてくる。
そしてある事件をきっかけに大石の本性を知ってしまうのだが……。
悪魔と人間の、甘くて切ないラブファンタジーです。
※レーティングを入れるほどではないですが、少し残酷な表現を含みます。
※他サイトにも掲載しています
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる