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第1章〜ご主人様のプロファイリング〜

5. ご主人様は喜怒哀楽が薄い

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「奥様、お食事の準備が整いました。です」

 年少の侍女ウラリーから呼ばれダイニングルームへ参りました。何故かわたくしの背中には子猿がしがみついておりますが。

「すっかり懐かれてしまいましたわ」

 露天風呂でカトリーヌから紹介された「ジョニー」と言う名のお猿さん。母親を亡くし森を彷徨っていたところを保護したとか。実は彼女らは孤児院の出だそうで同じ境遇の子猿に情が湧き、侍女長に内緒で時々面倒をみていた様です。

「奥様に母親を感じてるのかもしれません」
「そう?」

 少しばかりか笑顔で接する様になったカトリーヌに言われると満更でもない気分になります。まさか嫁いで早々別居の挙句、野性の子猿に好かれるとは全くの想定外だったのですが。

「じゃあ、飼おうかな」
「えっ、良いのですか」
「皆んなでお世話しましょうね」
「わーい、やったー!」

 勿論、あのツンケンドンな侍女長には内緒です。滅多にここに来ないらしいので別邸組の秘密事項と言うことで。

 さて、それはそうと給仕されたお料理は見事なものです。山菜スープに手作りパン、チーズとバターを仕上げに加えた魚介のムニエル、アボガドやトマトなど彩り鮮やかなサラダ、それに今まで頂いたことのない高級ワイン等々。

「美味しいっ!」
「お口に合って良かったです」

 本当にこの娘たちが調理したのでしょうか? だとしたら天才では?

「ねぇ、皆んなで食べましょうよ」

 その言葉に彼女らが固まってしまいました。

 そんなに驚くこと言ったかしら。わたくしとしては侍女とは言えども少女らに見守られてのお食事に違和感を感じてしまうのです。

「その様なこと仰られたのは初めてです」
「うん。今までの奥様とは全然違います」
「アタシも食べたーい。です……」

 どうやら気品高い前妻の公爵令嬢や伯爵令嬢はこの別居生活にプライドが傷つけられ、また伯爵夫人としてのお役目もなく暇な日常に心が荒み、お食事抜きなど彼女らに辛く当たっていた様です。

「いい? これからはお食事もお風呂も皆んなと一緒よ。わたくしも手伝うからね。分かった?」

 するとアンナとウラリーの目から涙が溢れ落ちたのです。

「お、奥さまは……折檻しないの?」
「する訳ないでしょう」
「ほ、ほんとに? あーん、嬉しいよぉ」
「二人とも泣かないの!」

 カトリーヌが嗜めます。ですが「わーーんっ!」と本泣きされてしまいました。
 
「おー、よしよし。おいで」

 二人がギュッと抱きつきます。そしてカトリーヌも耐えきれず、シクシクと泣きながら寄り添ってきました。わたくしは子猿と三人の少女にしがみつかれたのです。

 うーん。何でしょうか、この状態は。けれども別邸の主人として皆んなを守っていかねば! とよく分からない決意を致しました。

「ところでね。ご主人様のことよく知らないんだけど、どんな御方なのか教えてくれるかな」

 思いがけずお通夜みたいになってしまったので雰囲気を変えようと質問してみました。

「え、ご主人様ですか。そうですね……お笑いにならない御方かと。あ、でもお怒りにもなりませんが」
「ん? つまり感情の起伏が少ないってこと?」
「はい。いつも冷静沈着で聡明な御方です」

 ふむ。言い換えれば喜怒哀楽が薄く冷酷で機械の様な御方ってことかしら? 

 し、少々残念な気が。
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