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松本絵梨は不貞腐れていた。人事の人が同席していることに不満や不安を抱いているのだろう。しかし、実際にダイアリーを拾ったのは高橋直人だ。そのことを説明すると、彼女の表情に少し安心が浮かんだ。
「さて、貴女に聞きたいことがあるわ。答えてくださいね」
「何のことよ?」
「ダイアリーに書かれたことが実際に起こるって知ってますよね?」
「はぁ?そんなことあるわけないじゃん」
「いいえ、貴女は知ってる。だから佐藤に状況を聞いていたんでしょう?」
そっぽを向く松本に対して、高橋直人が破ったダイアリーの用紙を取り出した。
「これを見てください。高野さんがモラハラに遭ってることが書かれています。松本さんの筆跡です」
「だから?それは私の願望を書いたまでよ。実際に起こるなんてありないし、罪に問われるとは思わないわ」
あくまでも惚けるつもりなのね。めんどくさいな。
「それでは質問を変えましょう。なぜ私をターゲットにしたの?恨まれる理由はありませんが」
「ただ、私は貴女が嫌いなだけ」
「私たちは研修で一緒でしたよね、何かあったかしら?」
「直接的な出来事はないけど、うーん、まぁ、私が貴女と比較されることに腹が立っていたかな。貴女の研修報告は完璧だったから。そのあと、私が報告するのが辛かったわ」
おいおい、そんな些細なことで『死ね』なんて願望がわくなんて、ちょっと信じられないわ。現実に起こるのよ?腹立たしいわ。これは奥の手を使わざるを得ないわね。
「高橋さん、私は彼女を処分することを望んでいません。ただ、事実を知りたいだけです。そのために、ダイアリーに書き込むことで納得したいのですが、それでよろしいでしょうか?」
「はい、高野さんにお任せします」
すると、彼女の表情が一変した。
「な、何を書くつもりなの?」
「そうね、『松本絵梨は自らの行為を反省し、全てを告白しました。』ってどうかしら?」
あのダイアリーの力を知ってるなら、恐怖を感じるはずだ。私はお前をどれだけ不幸にできるか、無限に可能なのよ。
彼女は黙り込み、しばらくの間沈黙が続いた。ダイアリーの持ち主にはどうしても逆らえないことを理解してるからだ。
「……分かった、言うから」
「その前に、謝ってもらえるかしら?」
「はい、すみませんでした……」
「そうそう、最初からその態度だったら良かったのにね。では、話してください」
松本絵梨は口ごもりながら真実を語り始める。やはり、私を利用してダイアリーの効果を確かめようとしていたのだ。ターゲットにされた私はいい迷惑だ。しかし、自分の利益を得るために書き込んだ内容は上手くいかず、人を不幸にする内容ばかりが受け入れられる法則があることに気づいたのだと言う。自分の好きな男性に振り向いてもらう願望を書いても直ぐに文字が消えてしまうのだとか。だから、どう書けば思い通りになるのか研究していたそうだ。
「私が実験の被験者だったのね。まったく、いまだに無意味な虐めが続いて困っているわ」
「実際に起こるとは思っていなかったの。ごめんなさい!」
ふん!くだらない理由だし、どうでもいいわ。それより──
「どこで手に入れたのよ?」
「知ってどうするのですか?」
「こんな不気味なダイアリーは燃やしてしまおうと思って。でも、元の持ち主が知りたい。真相を明らかにして処分したいの」
「処分?マジですか!」
「ええ。不幸には慣れてるけど、人を不幸にしたいとは思わないから」
「……はぁ、立派ですね。さすがです」
いや、つい聖人君子みたいなこと口走ってしまった。高橋直人の前だからか。だけど半分は本心だ。半分だけど。
「お褒めの言葉は不要よ。早く言いなさい」
「はい。話したくはないですけど無理ですよね?」
「そうよ、貴女は私に逆らえない」
「あの……白状しますので、このことは内緒にしていていただけますか?」
「それは内容次第だけど?まぁ、できるだけ考慮するわ」
「ありがとうございます。実は私のではなく、ある人の机の中にありました。それを拝借しました」
「だれの?」
「それは……山田係長のものです」
「山……」
ええっ?橘美咲がお熱を上げてる相手?何かめんどくさい人に繋がったな!
「く、詳しく教えなさい」
「はい……」
厚かましくて生意気だった松本絵梨は私の軍門に下った。従うしかないのだ。そして、ダイアリーを手に入れた経緯が明らかになっていく。
「さて、貴女に聞きたいことがあるわ。答えてくださいね」
「何のことよ?」
「ダイアリーに書かれたことが実際に起こるって知ってますよね?」
「はぁ?そんなことあるわけないじゃん」
「いいえ、貴女は知ってる。だから佐藤に状況を聞いていたんでしょう?」
そっぽを向く松本に対して、高橋直人が破ったダイアリーの用紙を取り出した。
「これを見てください。高野さんがモラハラに遭ってることが書かれています。松本さんの筆跡です」
「だから?それは私の願望を書いたまでよ。実際に起こるなんてありないし、罪に問われるとは思わないわ」
あくまでも惚けるつもりなのね。めんどくさいな。
「それでは質問を変えましょう。なぜ私をターゲットにしたの?恨まれる理由はありませんが」
「ただ、私は貴女が嫌いなだけ」
「私たちは研修で一緒でしたよね、何かあったかしら?」
「直接的な出来事はないけど、うーん、まぁ、私が貴女と比較されることに腹が立っていたかな。貴女の研修報告は完璧だったから。そのあと、私が報告するのが辛かったわ」
おいおい、そんな些細なことで『死ね』なんて願望がわくなんて、ちょっと信じられないわ。現実に起こるのよ?腹立たしいわ。これは奥の手を使わざるを得ないわね。
「高橋さん、私は彼女を処分することを望んでいません。ただ、事実を知りたいだけです。そのために、ダイアリーに書き込むことで納得したいのですが、それでよろしいでしょうか?」
「はい、高野さんにお任せします」
すると、彼女の表情が一変した。
「な、何を書くつもりなの?」
「そうね、『松本絵梨は自らの行為を反省し、全てを告白しました。』ってどうかしら?」
あのダイアリーの力を知ってるなら、恐怖を感じるはずだ。私はお前をどれだけ不幸にできるか、無限に可能なのよ。
彼女は黙り込み、しばらくの間沈黙が続いた。ダイアリーの持ち主にはどうしても逆らえないことを理解してるからだ。
「……分かった、言うから」
「その前に、謝ってもらえるかしら?」
「はい、すみませんでした……」
「そうそう、最初からその態度だったら良かったのにね。では、話してください」
松本絵梨は口ごもりながら真実を語り始める。やはり、私を利用してダイアリーの効果を確かめようとしていたのだ。ターゲットにされた私はいい迷惑だ。しかし、自分の利益を得るために書き込んだ内容は上手くいかず、人を不幸にする内容ばかりが受け入れられる法則があることに気づいたのだと言う。自分の好きな男性に振り向いてもらう願望を書いても直ぐに文字が消えてしまうのだとか。だから、どう書けば思い通りになるのか研究していたそうだ。
「私が実験の被験者だったのね。まったく、いまだに無意味な虐めが続いて困っているわ」
「実際に起こるとは思っていなかったの。ごめんなさい!」
ふん!くだらない理由だし、どうでもいいわ。それより──
「どこで手に入れたのよ?」
「知ってどうするのですか?」
「こんな不気味なダイアリーは燃やしてしまおうと思って。でも、元の持ち主が知りたい。真相を明らかにして処分したいの」
「処分?マジですか!」
「ええ。不幸には慣れてるけど、人を不幸にしたいとは思わないから」
「……はぁ、立派ですね。さすがです」
いや、つい聖人君子みたいなこと口走ってしまった。高橋直人の前だからか。だけど半分は本心だ。半分だけど。
「お褒めの言葉は不要よ。早く言いなさい」
「はい。話したくはないですけど無理ですよね?」
「そうよ、貴女は私に逆らえない」
「あの……白状しますので、このことは内緒にしていていただけますか?」
「それは内容次第だけど?まぁ、できるだけ考慮するわ」
「ありがとうございます。実は私のではなく、ある人の机の中にありました。それを拝借しました」
「だれの?」
「それは……山田係長のものです」
「山……」
ええっ?橘美咲がお熱を上げてる相手?何かめんどくさい人に繋がったな!
「く、詳しく教えなさい」
「はい……」
厚かましくて生意気だった松本絵梨は私の軍門に下った。従うしかないのだ。そして、ダイアリーを手に入れた経緯が明らかになっていく。
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