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104.悪役令嬢
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※バルナバ視点
「ひっ…」
リーダーたちから小さな悲鳴の声が聞こえる。
醜く腫れ上がり、無数の傷跡が残る痛々しいグレース様のご尊顔に僕は言葉が出なかった。だけど彼女が仮面を被ってる理由はこれだったのかと、分かった気がした。
「久しぶりね、カリーヌ」
「ふん。どこへ消えたかと思ってたら」
「島流しになったことは知ってるでしょう」
「まあね。でもまさか監獄に居たなんてね」
「十年ぶりに会えて嬉しいわ」
「あの頃より相当強くなってるでしょ?」
「あら、手加減してるって言いましたけど?」
「くっ…だからあ、そんなの無用だってばーー!」
カリーヌはふらついた足で正面から突撃していく。
「仕方ないわね」
あ、いかん。もう勝負あった!やめろーー!
『ゴキィィィィィーーッ!!』
「うげえぇぇっ!」
グレース様の回し蹴りが見事に決まった。カリーヌの鳩尾に食い込んでいる。カッっと見開いた彼女の目からは、うっすら悔し涙が滲んでいた。
そして、そのまま崩れ落ちていく…。
*
数日後、僕はカリーヌの怪我が癒えて元気になったことを報告した。
「殿下、囚人棟の体制を変えることにしました」
「そうか。…で?」
「グレース様とご相談して不在だった一階のボスにカリーヌを。二階はリンダ、三階にライラを配置しました。階の抗争もなくなった様で良かったです」
「それでカリーヌは大人しく過ごしてるのか?」
「はい。連日、グレース様の道場に通って腕を磨いてます。彼女は王女様の言うことは素直に聞く様ですよ。流石は元師匠ですね」
「更生は我が姉に任せば上手くいきそうだな」
「はい。あ、それと昨日…」
「うん、どうした?」
「僕の注意も足りなかったのですが、ブリスの護送中にカリーヌと鉢合わせしちゃいまして…」
「な、なに!?」
…
…
…
ブリスを連れて独房へ向かう途中のこと。廊下の窓から中庭でランニングしてるカリーヌの姿を見てしまった。
「あ…」
一瞬、マズいと思ったけど彼は「ふふん」と、鼻で笑ってやり過ごそうとした。でも彼女の方が気づき、物凄い勢いで突進して来た。
「ブリスーー!よくも私の人生を無茶苦茶にしたわねえ!許さないからあ!」
「お、おい、カリーヌ、まあ落ち着け」
「うるさいバルナバ!何でケヴィンを殺したのよ!アンタのせいで王妃になれなかったじゃない!」
慌てて警護の者が割って入る。ブリスは後ろ手を縄で括られ無防備なのだ。
「ふん。相変わらずおめでたいオンナだ」
「なっ!?どう言う意味よお?」
「死ぬ前に教えといてやる。ケヴィンはお前を捨てようとした。俺に殺すか島で監禁しろと命じたんだ。まあ、殺すのは面倒だからやらなかったがな」
「う、うそよ。馬鹿なこと言わないで!」
「本当の話だ」
「信じるものですか!」
「お前はどっちみち捨てられる運命だった。殿下は知ってるぞ…いつか聞いてみるがいい。じゃあな。悪役令嬢さん」
「う そ だ」
途方に暮れる彼女を置いてブリスと独房へ向かった。僕は途中、気になって振り返ってみたら…。
「うわーーーーーーん!!」
と、カリーヌはその場で泣き崩れていた。
…
…
…
「あ、あのな。何も私の名を出さなくても…凄く巻き込まれた気がしてならないが?」
「殿下、彼女はグレース様の元で改心しつつあります。どうか丁寧なご説明をなさってくださいね」
「う、うむ…そうだな。バルナバ、すまないが…」
「はいはい、『一人にしてくれ』ですね。では頼みましたよー!」
殿下はもう王都へ帰らないといけない。僕がしっかりしなきゃって思うけど、これが最後の甘えだから許してください。…ね!
「ひっ…」
リーダーたちから小さな悲鳴の声が聞こえる。
醜く腫れ上がり、無数の傷跡が残る痛々しいグレース様のご尊顔に僕は言葉が出なかった。だけど彼女が仮面を被ってる理由はこれだったのかと、分かった気がした。
「久しぶりね、カリーヌ」
「ふん。どこへ消えたかと思ってたら」
「島流しになったことは知ってるでしょう」
「まあね。でもまさか監獄に居たなんてね」
「十年ぶりに会えて嬉しいわ」
「あの頃より相当強くなってるでしょ?」
「あら、手加減してるって言いましたけど?」
「くっ…だからあ、そんなの無用だってばーー!」
カリーヌはふらついた足で正面から突撃していく。
「仕方ないわね」
あ、いかん。もう勝負あった!やめろーー!
『ゴキィィィィィーーッ!!』
「うげえぇぇっ!」
グレース様の回し蹴りが見事に決まった。カリーヌの鳩尾に食い込んでいる。カッっと見開いた彼女の目からは、うっすら悔し涙が滲んでいた。
そして、そのまま崩れ落ちていく…。
*
数日後、僕はカリーヌの怪我が癒えて元気になったことを報告した。
「殿下、囚人棟の体制を変えることにしました」
「そうか。…で?」
「グレース様とご相談して不在だった一階のボスにカリーヌを。二階はリンダ、三階にライラを配置しました。階の抗争もなくなった様で良かったです」
「それでカリーヌは大人しく過ごしてるのか?」
「はい。連日、グレース様の道場に通って腕を磨いてます。彼女は王女様の言うことは素直に聞く様ですよ。流石は元師匠ですね」
「更生は我が姉に任せば上手くいきそうだな」
「はい。あ、それと昨日…」
「うん、どうした?」
「僕の注意も足りなかったのですが、ブリスの護送中にカリーヌと鉢合わせしちゃいまして…」
「な、なに!?」
…
…
…
ブリスを連れて独房へ向かう途中のこと。廊下の窓から中庭でランニングしてるカリーヌの姿を見てしまった。
「あ…」
一瞬、マズいと思ったけど彼は「ふふん」と、鼻で笑ってやり過ごそうとした。でも彼女の方が気づき、物凄い勢いで突進して来た。
「ブリスーー!よくも私の人生を無茶苦茶にしたわねえ!許さないからあ!」
「お、おい、カリーヌ、まあ落ち着け」
「うるさいバルナバ!何でケヴィンを殺したのよ!アンタのせいで王妃になれなかったじゃない!」
慌てて警護の者が割って入る。ブリスは後ろ手を縄で括られ無防備なのだ。
「ふん。相変わらずおめでたいオンナだ」
「なっ!?どう言う意味よお?」
「死ぬ前に教えといてやる。ケヴィンはお前を捨てようとした。俺に殺すか島で監禁しろと命じたんだ。まあ、殺すのは面倒だからやらなかったがな」
「う、うそよ。馬鹿なこと言わないで!」
「本当の話だ」
「信じるものですか!」
「お前はどっちみち捨てられる運命だった。殿下は知ってるぞ…いつか聞いてみるがいい。じゃあな。悪役令嬢さん」
「う そ だ」
途方に暮れる彼女を置いてブリスと独房へ向かった。僕は途中、気になって振り返ってみたら…。
「うわーーーーーーん!!」
と、カリーヌはその場で泣き崩れていた。
…
…
…
「あ、あのな。何も私の名を出さなくても…凄く巻き込まれた気がしてならないが?」
「殿下、彼女はグレース様の元で改心しつつあります。どうか丁寧なご説明をなさってくださいね」
「う、うむ…そうだな。バルナバ、すまないが…」
「はいはい、『一人にしてくれ』ですね。では頼みましたよー!」
殿下はもう王都へ帰らないといけない。僕がしっかりしなきゃって思うけど、これが最後の甘えだから許してください。…ね!
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