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70.冠

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※ジェラール視点

伝統的な即位の儀式は、華燭の盛典かしょくのせいでんとはほど遠い質素なものだった。宮殿の小さなホールでロイヤルファミリーと一部の貴族、それに隣国の大使が見守る中で私は冠を授かった。

最も、質素に執り行うのは正解だ。戴冠式に莫大な費用をかけてはいられない。この国の財政は想像以上にひっ迫していたのだ。

「国王陛下、若輩者の私にお導きを!」
「あくまでも儂は繋ぎ…だからな!」

あれほど政治に関与したがらなかったルーク様は、ブリスの告発で求心力を失った議会と、ケヴィンが亡くなったことで重い腰を上げてくれた。勿論、ビソンの説得も功を奏している。

「ジェラールよ、我が兄をどうするのだ?」
「正式な裁判を…と思っていましたが、手配中の男が未だ見つからず…」
「今、我が国は不安定な状態だ。全ての貴族が儂を支持してるわけではないし、兵隊と警護隊の衝突も起きている。大きな内乱には至ってないが、とても心配だ」

私はそのことで、ある重大な決断をしていた。

「このまま、あの御仁を王都へ留めるのは正に内乱の火を灯すようなもの。現に不審な動きも捉えております。陛下、速やかにペチェア島へ送るべきです!」
「何と!?」
「勅命により、監獄の特別室へ移って頂きたく!」
「儂と入れ替えるのか?」

その発言に皆が驚いた。つい先日まで国王だった御方だ。数々の暗殺を指示していた可能性は高いが、正式な審判は下っていない。勇足ではないのか?…と、思われても仕方ない。

「恐れながら…!申し上げます!」

ホールの入口前で待機していたビソンが、ロイヤルファミリーの前で思わぬ発言をした。

「ここにおられます隣国の大使は、緊急事態の支援をお考えになられています。兵力を持って、あの御方を移送すると言うのは如何でしょうか?」

隣国の大使?全く馴染みがないが、この儀式に一人だけ他国から招いてるのは不自然だと思っていた。これもビソンやルーク派の“仕込み”なのか…?

「それこそ、危険だろう?」
「いえ、今は強引になすべきかと。このままブリスが見つからず、時が経つ方が危険です!」
「…ふーむ。ちと、考えさせてくれ」

私は少し、この男ビソンの正体が見えてきた様に思える。ルーク派のボス的存在だったエマール公爵の親戚とは聞いていたが、ブリスを巡って兵隊と警備隊の衝突など、本来あり得ないことが起こっているのだ。影でビソンや大使が操っていたとすれば…。

「ところで、ジェラール。こんな時分に何だが、お前も王太子になったのだ。その冠に相応しい嫁を見つけてきてはどうだ?」

き、急だな。今までの緊迫した雰囲気は何だったんだ?ま、まあ、準備はしていた。呼ぼう。

アニエスを──。










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