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第4章 幸せになっていいの!?
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「シェリー、牧場の家畜はどうだった?」
「ワンちゃんがお利口さんだから全然大丈夫! 一頭も残さず小屋へ帰ったよー、うふふ」
あれから私たちシュルケン一族は隣国へ亡命していた。国境沿いある土地を父が密かに隠し持っていたのだ。財産も皇室の目を盗んで、できる限り移した。平民ではあるが、何の不自由もない平穏な暮らしを営んでいる。
「お兄様、ポピーはまだ帰ってないの?」
「ああ、もう直ぐ帰るだろう」
小さな牧場の世話をするシェリーとは別に、ポピーは街中でダンス教室を運営していた。彼女のダンスはここ隣国でも有名だ。あっという間に貴族の間で評判となり、忙しい日々を送っていたのだ。
「ポピーが帰るまでダンスでもしようか?」
「うん、その言葉を待っていた。よおし、やろうか!」
私は最近、シェリーとよくダンスをしている。実は彼女は意外にも上手だった。いつか王子と踊る時に備えて「秘密のお部屋」で練習していたらしい。
私たちはリズムに合わせてステップを踏んだ。オーケストラなど贅沢な存在は居ない。お互い心の中で音楽をイメージするのだ。
「なあ、シェリー」
「なに? お兄様」
「気になる殿方は居ないのか?」
「えっ⁈ な、なにを急に!」
亡命して一年、私は素人ながら牧場の経営をしているが、軌道に乗ったのは隣接する広大な土地を持つ牧場主である、ティラー家のサポートがあったからこそだった。その息子、ジョーは中々のハンサムで且つシェリーには殊の外、優しく接してくる。二人で仲慎ましく過ごしている光景を何度も見ていた。
彼なら安心出来る。
「ジョーはお前に気があるんじゃないのか?」
「お、お兄様の意地悪!!」
シェリーは真っ赤な顔で怒り出す。
「私は二人を応援するぞ」
「…あのね、わたくし恋愛が怖いの」
「大丈夫。彼は誠実で真っ直ぐな男だ。何よりもお前をいつも気にかけている」
「いいのかな? わたくしで…。それに、幸せになってもいいの?」
「ああ。自信を持て。何も遠慮する事はない」
そこへポピーが帰って来た。
「ただいま…あら、またダンス? あー、わたくしは朝から晩までダンスに囲まれているわ」
「あ、ポピーおかえり。ね、新鮮な牛乳を飲んでみて! 今日ね、ジョーと絞ったんだ。とても美味しいわよー!」
「うん、ありがとう…って、またジョーと言うキーワードが出たな?」
「もー、ポピーッ!!」
二人は笑いながらはしゃいでいた。どうやらポピーはとっくにシェリーの恋を知ってた様だ。
二人はまるで本当の姉妹だな…。
***
一年後、シェリーはジョーと結婚して幸せになった。ポピーもとある貴族に見初められ嫁いだ。
余談だが、エリオット王子の居る隣国は経営破綻して、豊かなこの国に頼ってるそうだ。属国になるとの事で、いずれ皇族は追放されるだろう。
そんな情勢の中、多くの人々がシュルケン家の貴族復活を願っていると聞く。私は皇族に楯突いた英雄になっているのだ。
さて、どうしたものだろう。今の生活が心地よいのだ。今さら貴族に戻る気などさらさらない。
私は悪戯な運命に翻弄された姉妹の幸せを、ここで見守りたい。いつまでも…だ。
── 完 ──
「ワンちゃんがお利口さんだから全然大丈夫! 一頭も残さず小屋へ帰ったよー、うふふ」
あれから私たちシュルケン一族は隣国へ亡命していた。国境沿いある土地を父が密かに隠し持っていたのだ。財産も皇室の目を盗んで、できる限り移した。平民ではあるが、何の不自由もない平穏な暮らしを営んでいる。
「お兄様、ポピーはまだ帰ってないの?」
「ああ、もう直ぐ帰るだろう」
小さな牧場の世話をするシェリーとは別に、ポピーは街中でダンス教室を運営していた。彼女のダンスはここ隣国でも有名だ。あっという間に貴族の間で評判となり、忙しい日々を送っていたのだ。
「ポピーが帰るまでダンスでもしようか?」
「うん、その言葉を待っていた。よおし、やろうか!」
私は最近、シェリーとよくダンスをしている。実は彼女は意外にも上手だった。いつか王子と踊る時に備えて「秘密のお部屋」で練習していたらしい。
私たちはリズムに合わせてステップを踏んだ。オーケストラなど贅沢な存在は居ない。お互い心の中で音楽をイメージするのだ。
「なあ、シェリー」
「なに? お兄様」
「気になる殿方は居ないのか?」
「えっ⁈ な、なにを急に!」
亡命して一年、私は素人ながら牧場の経営をしているが、軌道に乗ったのは隣接する広大な土地を持つ牧場主である、ティラー家のサポートがあったからこそだった。その息子、ジョーは中々のハンサムで且つシェリーには殊の外、優しく接してくる。二人で仲慎ましく過ごしている光景を何度も見ていた。
彼なら安心出来る。
「ジョーはお前に気があるんじゃないのか?」
「お、お兄様の意地悪!!」
シェリーは真っ赤な顔で怒り出す。
「私は二人を応援するぞ」
「…あのね、わたくし恋愛が怖いの」
「大丈夫。彼は誠実で真っ直ぐな男だ。何よりもお前をいつも気にかけている」
「いいのかな? わたくしで…。それに、幸せになってもいいの?」
「ああ。自信を持て。何も遠慮する事はない」
そこへポピーが帰って来た。
「ただいま…あら、またダンス? あー、わたくしは朝から晩までダンスに囲まれているわ」
「あ、ポピーおかえり。ね、新鮮な牛乳を飲んでみて! 今日ね、ジョーと絞ったんだ。とても美味しいわよー!」
「うん、ありがとう…って、またジョーと言うキーワードが出たな?」
「もー、ポピーッ!!」
二人は笑いながらはしゃいでいた。どうやらポピーはとっくにシェリーの恋を知ってた様だ。
二人はまるで本当の姉妹だな…。
***
一年後、シェリーはジョーと結婚して幸せになった。ポピーもとある貴族に見初められ嫁いだ。
余談だが、エリオット王子の居る隣国は経営破綻して、豊かなこの国に頼ってるそうだ。属国になるとの事で、いずれ皇族は追放されるだろう。
そんな情勢の中、多くの人々がシュルケン家の貴族復活を願っていると聞く。私は皇族に楯突いた英雄になっているのだ。
さて、どうしたものだろう。今の生活が心地よいのだ。今さら貴族に戻る気などさらさらない。
私は悪戯な運命に翻弄された姉妹の幸せを、ここで見守りたい。いつまでも…だ。
── 完 ──
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