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第三部

18. お手つきの巻①

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お食事の準備がほぼほぼ整い、お手つき候補の皆さんがダイニングへ集まってきた頃、私はお毒味と称してつまみ食いに夢中になっていた。
と、その時です。
ドタドタドターッと慌ただしい足音とともに、バアンと扉が勢いよく開く。そこには「ぜいぜい」と息の上がったエミリーがいた。
「何ですの、騒々しい」
ご婦人たちが一斉にエミリーに注目します。
「ポ、ポ、ポ……」
「はあ?なに、ポって?」
「ポ、ポピー様はいらっしゃいますか?」
「あ、どうしたの、エミリー?」
キッチンから顔を覗かせた私は、つまみ食いの真っ最中です。
「たたた大変です。ポピー様、呑気に食べてる場合ではございません!」
「ん?」
リンダがイラついてエミリーへ問いただす。
「だから、何ごと?」
我が姉ハリエットも私を睨んでおいでだ。
「アンタ、何やらかしたの?」
「……別にーー?」
「とにかく、総取締役がお呼びです。直ぐに参りましょう!」 
「え?は、はい」
「ねえ、待って。何があったの⁉︎」
ただ事ではないと感じたリンダが呼び止めた。エミリーはダイニングから出ようとしたが、立ち止まって暫く沈黙する。そして意を決した様に振り返り、大声で叫んだのです。

「ポピー様は本日より、お手つきです!殿下に見初められましたあ!」

「はあーー⁉︎」
お屋敷の中が静まり返った。が、やがてご婦人たちに笑みが溢れる。
「オホホホホ……面白いご冗談だこと!」
ダイニングが笑いに包まれた。でもハリエットは笑っていない。
「ポピー、身に覚えがあるの?」
「……私がお手つき?」
一瞬、何の事だか理解出来なかった。でも、思い当たるフシが一つある。股間がまだ痛いのです。
「そう言えばアンタこの間、総取締役から特別休暇を頂いてたわね?何があったのよ⁉︎」
「キース様と……」
「キース?キースって誰?」
「護衛兵のお偉いさんだと思います」
「ポピー様、キースと言うのは白馬の名前です」
「えっ?」
「ア、アンタ……まさか、う、馬と⁉︎」
「そんなわけないでしょう!」
バッカじゃないの?つか、キース様が白馬って?じ、じゃあ、あの人は誰なの?何者なのよー⁉︎

「ポピー様、まさか知らずにご関係を結んだのですか?」
「……うん。いえ、結んだと言うか……その、痛くてね、血が出て途中で」
「ああっ、そんな生々しいお話はいいです!これは前代未聞のできごとですよ!」
「ねえ、エミリー。あの人……だれ⁉︎」
「あの御方は、エリオット皇太子様ですっ!」
「こ……皇太子!」
頭がこんがらがってる。えーと、整理するわよ。キース様と偽ったあの御方は実は皇太子だった。で、事もあろうか後宮婦人の侍女である私を抱いた?えーっ、100人もいる婦人たちを差し置いてー⁉︎
流石にご婦人たちに笑顔はない。どうやら本当の事らしいと認識した様です。でも、そんなことってあるのか懐疑的な表情を浮かべていた。
「ポピー、先ずは総取締役のところへ行きましょう。私たちもついて行くから」
私とエミリーに、ライラ組3号館のメンバー全員が総取締役の執務室へ向かった。

お、お父様、ちょっと足が震えちゃってます。とんでもない事をしでかした様です。キース様、いえ、なんちゃら皇太子に騙された気がするし、なんか複雑です!
















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