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第一部

05. 侍女の巻⑤

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『馬小屋』と呼んでる侍女たちの宿舎は、一部屋に6人が共同で生活していた。狭くて蒸し暑い環境だが、私はぐっすりと爆睡している。この生活にも慣れ、隙間風や雨漏り、隣から聞こえる生活音など気にもならない。
それもそのはず──
朝早くから食事の準備、大浴場の清掃、侍女会の会合、食材の搬入とほぼ休む時間もなく働いているのだ。まるで召使いのようで、これでは姉の世話をする余裕が殆どないのです。

麗しのジョーめ、あなたはどこにいるの?必ず見つけ出してやる!でも探す時間がない……。

目が覚めると、私はいつもジョーのことを考えていた。処女を捧げる御方だ。彼がとっても素敵な男性だと勝手に想像してるけど不安もあった。ジョーだって選ぶ権利があるのだ。モテモテ(たぶんね?)の彼がはたして私を抱いてくれるでしょうか?
……などと考えている暇はない。
「ああ、もう時間だわ、急がなくっちゃ!」
慌てて身支度を整え、駆け足で朝食の準備のため、屋舎に向かった。

「おはよう、ポピー。今日も早いねー」
「おはようございます。あら、仕立て屋さんこそ、お早いのですね」
姉が住む屋舎のホールで荷物を整理していると、そこにいた仕立て屋さんに声をかけられた。彼は後宮に出入りすることができる商人で、婦人たちの階級に合わせた商売をしてる貴重な存在です。私たち貧しい者にとっては大変助かっています。
「姉のドレスの修繕が終わったのね。ありがとう。代金をお支払いするわね」
「いや、今回はサービスだよ。実はそれほど手の込んだ作業じゃなかったんだ」
「でも、お金を払わないのは気が引けるわ」
「いいんだよ。俺もここで商売してるわけだし、力になれるならそれでいいんだ」
「そうなの?ではお言葉に甘えて!」
お世辞にもハンサムとは言えないけれど、愛嬌があり気さくな彼は後宮に詳しく情報通なので、密かにジョーの素性を探るようにお願いしていた。
「……で、尋ね人なんだけど、謎に包まれ過ぎてるな。本当に存在してるのかって思っちゃうよ?」
「そうなんだ。仕立て屋さんですら分からないなんて、本当に謎の殿方ねえ」
「まあ、何か情報が入ったら教えるよ!」
「うん、ありがとう!じゃあね!」

***

朝食の後片付けが終わり、大浴場の掃除をしながら私は考え込んでいた。
もしかして、あの情報は作り話なのかな?そもそも調整役が必要なのか疑問だよね。派閥に入れるかどうかはトップが決めればいいだけの話だしー。
「ポピー、明日は休みなさい」
「えっ⁉︎」
突然、背後からボスに声をかけられた。
「皆で交代で休んでるのよ。半月に一度だけどね。明日はあなたの番にするわ」
「そ、そうですか!助かります!」
侍女にもお休みがあるなんて知らなかった。これは願ってもない機会だわ。よし!自分の足でジョーのことを調べてやる!
私はさっさとお掃除を済ませて、姉に報告する。
「お姉様、侍女会から明日はお休みをいただけることになりましたので、ジョーを探しに出かけようと思います」
「そう。……で、何か手がかりはあるの?」
「誰に聞いても分からないんです。なので後宮、いえ、宮廷を隅々まで歩いて、彼の居場所を探したいと思っています」
「分かったわ。これ、お小遣いとしてあげる」と、姉から銀貨を一枚渡された。
貧乏ながら、この姉はワインやドレス、そして銀貨など、随分と豊かな暮らしをしているようだ。きっとお父様から、なけなしの財産を託されているのでしょうね。でも、それだけ我が姉に賭けているとも言えます。

お父様、残り5ヶ月半となりましたが、私も全力を尽くします。姉のためだけでなく、私自身の人生のためにも……。



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