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12話 猛毒ウロボロス

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 ウロボロスの大群が鱗の光沢を放ちながら押し寄せてくる。その数はあまりにも多く、周囲の風景を覆い隠し、迫りくる姿はまるで嵐のようだった。そして、大きな口を開け、毒を含んだ舌を伸ばし、ガレスに襲い掛かってくる。

「さあ、大蛇よ、俺の魔法剣の力を見よ!」

 ガレスは目の前に現れた魔物に立ち向かう。ウロボロスは恐ろしい咆哮をあげ、その大きな口から毒液を吐きかけた。しかし、攻撃をかわしながら一気に距離を詰め、魔法剣を一振りする。

──ザァクーーンッ!

 その刃から魔物を切り裂く音が響いた。その一撃で、多くのウロボロスは悲鳴を上げながら倒れ伏す。剣の切っ先からは、魔物の血液が飛び散っている。ガレスは息を整え、高速で動きながらさらに魔法剣を振り回した。周囲に響く剣の音は、まるで凱歌のように響きわたる。

「すごいって、ガレスさん!」
 リンダがメガネを曇らせ興奮している。ぽっちゃり騎士の動きは思いがけなく敏捷だったのだ。
「おいガレス、一人でやりすぎだ。この馬鹿、早く戻れ!」
 ヒス女史は彼の活躍を褒めるどころかけなし、中級クラスの生徒を見て「次、行け!」と指示を出した。
「うわ、ひょっとして一人ひとりがやらされるの?  猛毒の大蛇にやられたら即死だよ~。できれば見学しときたいな~」と思っていると、五人の生徒はそれぞれの特性を活かした攻撃で魔物を倒し、あっという間に残りはあたしたち二人になった。
「よし、お前たちは一組で倒してみろ。アリアナは前衛、リンダは後衛に回れ。行け!」

 ひぃっ、石の棒でどうしろって言うのよ! あたしは一歩も前に進めない。すると、リンダがブーメランを二つに分裂させ、「アリアナ、危ないっ!」と魔物に投げつける。ブーメランは回転しながら鋭い刃先で魔物を次々と切り裂いた。その武器の威力に驚いた上に、間一髪であたしは毒を浴びずに済んだのだ。
「アリアナ、何してる! 死にたいのか!」と、ヒス女史から檄が飛ぶ。
 う~っ、こうなったらやるしかない! でも猛毒ウロボロスだ。どう攻撃すればいい? 落ち着け、落ち着け! と、あたしは意識を集中させる。

 あ、毒なら燃やせばいいんだ。そうよね、金髪のあたし!
 咄嗟に石の棒をしまい、両手を突き出す。そして勝手に呪文の言葉が出てきた。

「炎よ、我が意に従い、周囲を焼き尽くせ! 呪文魔法、ファイヤー・インフェルノ!」

 すると、ピカッと手のひらから虹のような輝きが発生し、やがて真っ赤な炎が吹き出した。瞬く間に周囲を包み込み、魔物がその熱に耐えきれず燃え盛る炎の中に消えていく。その光景はまるで地獄のようだった。

「やるじゃないか。地獄の炎で汚染された土壌までリセットするなんてな」
「アリアナ、すごーい! ねえアリアナ?」
 ガレスとリンダの弾けたような会話は聞こえず、あたしは笑みを浮かべたまま動かない。戦いはこれからだ。まだ潜んでいる魔物がいる。心の底からワクワクするこの思いは、前世の自分が乗り移っているに違いない。しかし、僅かだが今の自分も存在している。もうやめよう──そう言ってみるが、聞いてくれそうにない。

「山中の……」と王太子が言いかける。その言葉を遮るように「ええ」とお嬢が答えた。「そうだな。ちょうどいい教材だ」と今度はヒス女史がうなずいた。

「大地よ、汝の力を解き放て! 実態魔法、アースズ・ディスラプション。大地の断絶!」

 王太子が呪文を唱え、山の中心を突き抜ける光を放った。その後、轟音とともに地面が揺れ、山が崩れ始める。煙や塵が立ち込める中、巨大な石の塊が現れた。その石塊から、先ほどまで山の内部に潜んでいた何かが、徐々に姿を現し始める。それは、ガーゴイルと呼ばれる、蝙蝠のような翼と爪を持つ醜悪な魔物だ。ガーゴイルは、石の塊のようにぎゅっと折り重なったような姿勢で、巨大な口を開けて空気を吸い込んでいる。

「ひえっ、あの怪物は何なの!?」とリンダや中級クラスの生徒たちが怯えている。
「皆、後ろに下がってくださいね。これは上級魔法師が相手をするものです」
 お嬢が両手で下がるようにと促した。

 やはりガーゴイルか。面白い。まずは上級クラスの実力を見ようじゃないか……。
 あたしは退くことなく、その場で見物を決め込んだ。もちろん、降りかかる火の粉は払うつもりだ。


















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