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07話 悪役令嬢現わる
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「魔法学園恒例のスポーツイベント、春の体育祭を開催します!」
あれから毎日必死で練習してきたのに、結局二人とも魔法が開花することもなく、とうとう当日を迎えてしまった。もう、どうにでもなれって感じだ。ぶっつけ本番で何が起こるかわからないけど、とにかく今は全力でやるしかない!
と、意気込んだものの……。
序盤の徒競走で見事にコケて失笑され、続く大玉転がしで、なんと、玉が行方不明になってビリケツに! などなど全ての競技において燦々たる結果だった。
「いよいよやな~。楽しみやで~」
ガレスが態とらしくベタな関西弁でエスコートしてくれるけど、あたしらの足取りは重い。銀髪の彼とは一度も練習してないのだ。
「ねえアリアナ、どうせならフォークダンスとかやりたかったわ~」
「うん。コケて笑われて傷だらけや。今日は人生最高の日やな~」
とりあえず口調を合わせながら、テクテクと行進する。立ち止まった入場門には、銀髪の騎士隊長が早々に準備体操しながら笑顔で待ち構えていた。
「やあ君たち。練習に付き合えなくて悪かった。でも魔法は使い放題だからね。期待してるよ」
そんなこと言われてもどうしていいのか答えが見つからない。気持ちの問題なのか、金髪のあたしの反応が薄かったのだ。
「先発はリンダにする。相手はエリザベスだ。いいね?」
「は、はい。頑張ります!」
それを聞いてあたしは正直、ホッとした。リンダに悪いけどレースの雰囲気など様子見できるのはありがたい。
そして、入場門に王太子が率いる相手チームが現れ、観客から一際大きな歓声が沸き起こる。クールな王太子に微笑みのお嬢が続き、その後ろには腕組みしている派手な女性がいる。あたしの対戦相手であろう彼女に思わず目が釘付けになった。ピンクカラーのロング縦ロールヘアにグリーンの瞳を持ち、スタイル抜群でお嬢にも引けを取らない美貌。
「あのお方がセシリア・ミラー様よ。いかにも悪役令嬢って感じね。気をつけて、アリアナ」
「う、うん」
はて、この人も何か縁を感じるな。曖昧だけど前世で一緒に過ごした記憶がある。リンダのような存在だった気がするんだ。
『悪役令嬢現わる。』でも、あたしは彼女に対して悪い印象は受けなかった。
「それでは、体育祭の最後を締めくくる、上級クラスによる二人三脚リレーを行います。なお、今回は特別に初級クラスの生徒もメンバーに入っており、アリアナとリンダには魔法の使用を許可しています。さあ始まります! 選手入場です! 拍手を──」
ああ、ついに始まった。皆んなが注目してる~。小っ恥ずかしいよ~。
俯き加減で、テクテクと行進する。でもリンダはしっかりと前を向いていた。メガネが少し曇っている。彼女は興奮してるようだ。そしてスタートラインで赤い紐を結び、身体を密着させた頃には、完全に前が見えないほどに曇っていた。
リンダはやる気だ。あたしもこの土壇場で何か吹っ切れた気持ちになった。やるぞ!
「よーい……バーン!」と、スタートの合図が切られる。王太子率いるチームは勢いよく飛び出し、お嬢も笑顔で走っている。それに対し、騎士隊長ことレオンハルトはリンダの歩調に合わせるしかなく、あっという間にその差が広がる展開となった。
「頑張れ~、リンダ~!」
あたしは声援を送ることしかできない。いや、あたしだけではなかった。ガレスも、そして敵であるセシリアもなぜかリンダを応援している。
「あーあ、あんなにトロいとエリザベスが余裕かまして王太子とイチャイチャするじゃないか! おい、リンダ! 魔法を使え!」
と、その鋭い眼光はあたしにも向けられた。
「あ、お前はトロくていいからな。まあ、大した魔法は使えないだろうから心配してないけど」
この時、初めてセシリアに話しかけられた。
「はい。ご心配には及びません!」
「ふふん。で、お前たちの目的は何なのだ?」
「え? えっと、目的は上級クラス同士の親睦を深めることです」
「わたくしとエリザベスの?」
「はい。学園は、二人が仲良くしてくれることを望んでいます」
「ふん。まあ無理だな。あざといエリザベスとは話もしたくないし、ありえない」
いやこのままでは貴女は暴れて粛清されるのです。気づいて欲しいよ。悪役令嬢たるもの、その運命を。
さて、レースは王太子チームが圧倒的にリードしていた。もう丘の中腹まで登っている。一方、リンダたちはほぼ歩いてるようにしか見えず、まだトラックを回っていた。
──だが、ここからリンダの覚醒が始まったのだ。
あれから毎日必死で練習してきたのに、結局二人とも魔法が開花することもなく、とうとう当日を迎えてしまった。もう、どうにでもなれって感じだ。ぶっつけ本番で何が起こるかわからないけど、とにかく今は全力でやるしかない!
と、意気込んだものの……。
序盤の徒競走で見事にコケて失笑され、続く大玉転がしで、なんと、玉が行方不明になってビリケツに! などなど全ての競技において燦々たる結果だった。
「いよいよやな~。楽しみやで~」
ガレスが態とらしくベタな関西弁でエスコートしてくれるけど、あたしらの足取りは重い。銀髪の彼とは一度も練習してないのだ。
「ねえアリアナ、どうせならフォークダンスとかやりたかったわ~」
「うん。コケて笑われて傷だらけや。今日は人生最高の日やな~」
とりあえず口調を合わせながら、テクテクと行進する。立ち止まった入場門には、銀髪の騎士隊長が早々に準備体操しながら笑顔で待ち構えていた。
「やあ君たち。練習に付き合えなくて悪かった。でも魔法は使い放題だからね。期待してるよ」
そんなこと言われてもどうしていいのか答えが見つからない。気持ちの問題なのか、金髪のあたしの反応が薄かったのだ。
「先発はリンダにする。相手はエリザベスだ。いいね?」
「は、はい。頑張ります!」
それを聞いてあたしは正直、ホッとした。リンダに悪いけどレースの雰囲気など様子見できるのはありがたい。
そして、入場門に王太子が率いる相手チームが現れ、観客から一際大きな歓声が沸き起こる。クールな王太子に微笑みのお嬢が続き、その後ろには腕組みしている派手な女性がいる。あたしの対戦相手であろう彼女に思わず目が釘付けになった。ピンクカラーのロング縦ロールヘアにグリーンの瞳を持ち、スタイル抜群でお嬢にも引けを取らない美貌。
「あのお方がセシリア・ミラー様よ。いかにも悪役令嬢って感じね。気をつけて、アリアナ」
「う、うん」
はて、この人も何か縁を感じるな。曖昧だけど前世で一緒に過ごした記憶がある。リンダのような存在だった気がするんだ。
『悪役令嬢現わる。』でも、あたしは彼女に対して悪い印象は受けなかった。
「それでは、体育祭の最後を締めくくる、上級クラスによる二人三脚リレーを行います。なお、今回は特別に初級クラスの生徒もメンバーに入っており、アリアナとリンダには魔法の使用を許可しています。さあ始まります! 選手入場です! 拍手を──」
ああ、ついに始まった。皆んなが注目してる~。小っ恥ずかしいよ~。
俯き加減で、テクテクと行進する。でもリンダはしっかりと前を向いていた。メガネが少し曇っている。彼女は興奮してるようだ。そしてスタートラインで赤い紐を結び、身体を密着させた頃には、完全に前が見えないほどに曇っていた。
リンダはやる気だ。あたしもこの土壇場で何か吹っ切れた気持ちになった。やるぞ!
「よーい……バーン!」と、スタートの合図が切られる。王太子率いるチームは勢いよく飛び出し、お嬢も笑顔で走っている。それに対し、騎士隊長ことレオンハルトはリンダの歩調に合わせるしかなく、あっという間にその差が広がる展開となった。
「頑張れ~、リンダ~!」
あたしは声援を送ることしかできない。いや、あたしだけではなかった。ガレスも、そして敵であるセシリアもなぜかリンダを応援している。
「あーあ、あんなにトロいとエリザベスが余裕かまして王太子とイチャイチャするじゃないか! おい、リンダ! 魔法を使え!」
と、その鋭い眼光はあたしにも向けられた。
「あ、お前はトロくていいからな。まあ、大した魔法は使えないだろうから心配してないけど」
この時、初めてセシリアに話しかけられた。
「はい。ご心配には及びません!」
「ふふん。で、お前たちの目的は何なのだ?」
「え? えっと、目的は上級クラス同士の親睦を深めることです」
「わたくしとエリザベスの?」
「はい。学園は、二人が仲良くしてくれることを望んでいます」
「ふん。まあ無理だな。あざといエリザベスとは話もしたくないし、ありえない」
いやこのままでは貴女は暴れて粛清されるのです。気づいて欲しいよ。悪役令嬢たるもの、その運命を。
さて、レースは王太子チームが圧倒的にリードしていた。もう丘の中腹まで登っている。一方、リンダたちはほぼ歩いてるようにしか見えず、まだトラックを回っていた。
──だが、ここからリンダの覚醒が始まったのだ。
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