奴隷少年♡助左衛門

鼻血の親分

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助左よ、ええ値つけられたやんけー⁈

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 戦の終わった川原では、あちこちに兵士の死体が転がっている。彼らの首は無く武具も剥ぎ取られていた。カラスがその死骸へ群がり、坊主が経を唱えている。
 萱津の合戦は信長の圧勝に終わった。柴田勝家の奮闘もあり清洲勢の50騎が討死、また松葉城、深田城とも上総介かずさのすけ(信長)勢が押し寄せると、持ちこたえられず城を明け渡して退却した。上総介勢は余勢を駆って清洲の田畑を薙ぎ払ったという。ここで乱捕りしたと思われる。
 以後信長は数年に渡り、一族と泥沼の争いを繰り広げながら尾張において勢力を拡大していったのである。

 奴隷が列を作り歩いていた。その中に首に縄をくくられ暗くうつむき加減で歩いている少年、助左衛門がいる。
──ま、また、捕まってしもうた……なんやねん。所詮ワイは奴隷なんやな……ううっ……。

「天海様、妙でございます。中村の領民が見当たりません。松葉城は上総介勢が抑えたというのに」
「なに? 夜逃げか? いや、逃げれるとは思えんがの……それより」
 前方から上総介勢が行進してきた。天海は合図して道を開け、荒れた田畑の上に立つ。すると後方より1人の男が馬上の信長に近づいて来る。その男は首級しるしを何体も身体に巻きつけており、その異様ないでたちに旗本たちは驚いた。助左衛門もビビった。
 男は信長に対し片膝をつく。
「お、おい、何者じゃ! 殿の御前であるぞ!」
「……よい。藤吉郎、ようやった。何か褒美を取らせるが何がよい?」
「されば、上総介様の家来になりとうございまする!」
「よかろう、生駒に寄宿するがよい」
「恐れながら、もう一つ……」
「なんだ」
「殿に敵対行為をとった中村の領民を、それがしの配下が捕らえておりますが、これらを帰農させるお許しを頂きたい!」
 思わず近侍が口を挟む。
「こらっ、何を言うか!」
「もともと、中村の百姓は松葉方に監視され、半手の機会すら与えられず強制的に協力しただけの事。戦のたびに村を潰してはなりませぬ!」
 信長は藤吉郎を睨んでいる。
「これは、上中村(木下村)の百姓より預かった物、今更ではございますがお受取り下さいませ」

 藤吉郎は築阿弥が持っていた茶器を信長に差し出す。助左衛門はすぐ側の田畑に立ってその光景を見ていた。
「……ワシは茶器の価値がわからん」
 信長は茶器を持った藤吉郎の手を払いのけた。信長の表情は厳しい。藤吉郎に冷や汗が出る。その茶器が助左衛門の前に飛んできた。反射的に茶器を受け取った助左衛門は驚く。

「おおぅ! こ、これは見事な美濃焼やァ! 色艶といい、さぞかし価値があるやろうなァ!」

 信長ら一行がみすぼらしい助左衛門に注目する。
 天海がほくそ笑む。
「……ボクめ、いらんことを」
 信長の近侍が助左衛門に近寄った。
「こらーっ、小僧、ええ加減な事言うなっ!」
「ほ、ほんまですがな、ワイは陶器屋で丁稚をしてまんねん。目利きくらい出来ますわー!」
 そこへ1人の武将が助左衛門から茶器を取り上げた。尾張きっての茶人で吏僚の松井友閑である。
 友閑は茶器を眺め、信秀公がご愛用していた美濃焼だと確信し信長に目で合図する。
 藤吉郎は、それを見て言葉を発した。
「なお、上中村(木下村)の有力者、築阿弥なる人物は此度の責任を取り自害致しておりまする。どうかお許しを!!」

 信長は田畑にいる、傷だらけで首に縄がくくられた奴隷たちをぼんやり眺めていた。
「……藤吉郎、そちの故郷はどこじゃ?」
「木下村で……ござる」
「……で、あるか」
 信長は何事もなかったように馬を進める。
 そして藤吉郎とすれ違いざまに言い放つ。
「今日より、木下藤吉郎と名乗るがよい」
「はっ⁈  ははっー!!」
 上総介勢が去って行った。

 ホッとした藤吉郎が助左衛門の肩に手をかける。
「小僧、お前を買ってやろう」
「へっ?」
「お前のおかげで助かった……おい、小僧一匹、3貫でどうだ⁈ 」
「さ、3貫だぁ⁈ 」
 手下らが信じられない値段に驚いていた。
「そのガキは売りもんじゃない」
「ええーーーーーーーーーっ⁈ 」
 天海の言葉に助左衛門はびっくらこいた!!
「ボクよ、お前は一生マロの奴隷として生きるのじゃ!」
「い、いやや! いやや! ワイはあんたらの生き方が、むちゃむちゃ嫌やねん! 頼むわー、ワイを売ってぇなーっ!! 3貫やでー!!」
 天海がロザリオを外し、助左衛門に投げた。
「ボクよ、マロのもとで貿易に携わり、もっと精進するのじゃ。お前には才能がある! ……のような気がする。かもしれん」
「どっちやねん!!」
「コスメ・デ・トルレスに会わせてやる」
「なにっ⁈ トルレスさま⁈」
「周防(山口県)におる。年末には日本最初のケェリスマァースが行われるぞ!」

──ちっ! な、なんかムカつくわー! 南蛮言葉何ぞ使いやがって。キモいんじゃ、クソじじいが!

 と、思いながらも助左衛門は戸惑っていた。











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