43 / 52
第3章〜芸州編(其の肆)〜
第43話
しおりを挟む
怪しげな百姓風の男らは、神田本家が所有している高台の畑へ侵入していく。ここは然程野分の被害を被っていない唯一の畑だ。かぼちゃ、葛西菘、さやいんげんなどが奇跡的に育ち、秋の収穫を迎えていた。
彼らは見張りを立たせ、主犯格の男がサッと作物を刈り取り、手際よく籠へ入れていく。
「やはり盗人か」
俺は畑近くの作業小屋へ隠れ様子を伺っていた。
そこへ畑の手入れをするためだろうか、神田の郎党が現れた。
「真田さま……ですか? 如何されました?」
「あの畑に居る男らは神田の者か?」
「はて、存じませぬ。あ、あれは盗人でございますよ! 真田さま、捕らえましよう!」
「よし、俺に任せろ」
小屋からクワを手に取る。普段から秀頼公の刀を所持しているが、不逞の輩如きに使うのは勿体ない。クワで充分だ。
「おい、お前らそこまでだ!」
「あっ!」
3人の男らが驚き、逃げるか戦うか迷っている様子が伺えた。相手は俺は1人。しかもクワを持った侍風の若い男だからだ。その沈黙の隙を狙って見張りの男を、クワの柄で素早く突く。
「うっ……」と男は倒れた。それを見て百姓風の男らは逃げ出す素振りを見せる。
「もう観念しろ! さ、盗んだ作物を置くんだ」
「く、くそっ」
籠を投げ出し、見張りの男を置き去りにして彼らは逃走していく。俺は追わずに残った男へ尋問した。
「お前らはどこから来た?」
「……か、勘弁してください。村の食料も底をつき……つい」
「食料が乏しいのは何処も同じだ。このままでは我らも冬を越せれないくらいにな」
いつの間にか、神田の郎党らが続々と集まってきた。
「てめえ、不逞野郎だ! 代官さまに突き出してやる!」
「そうじゃ、そうじゃ! ねえ、真田さま!」
「……残念だが、ひっ捕らえよ」
「ははっ」
男は郎党に連れられていく。いずれ逃げ出した男らも御用となるだろう。
ただ、このままではマズイ。普通の領民が盗っ人になるくらい状況は逼迫しているのだ。復興で人手は足りてないが見廻りを強化するしかない。俺は忠次郎に会うため、国宗家へ戻ることにした。
国宗の縄張りでは忠兵衛らご隠居たちが、領内の整備とともに畑や蔵を監視している。
俺は見廻り組を三役で結成しようと考えていたが、山村を隈なく監視する程、人材の余裕はない。どうしたものかと忠次郎に相談しようと思っていた。だが直ぐに答えが見つかった。
「なるほど、神田も子供の面倒見ている爺らで見廻りすれば良いんだ」
そのことを忠次郎へ伝え、各縄張り毎にご隠居らによる見廻りを強化していった。
***
国宗家へ来たついでに「離れ」へ戻り、食材の確認をしていた時のことだった。
「おーい、大助ちゃーん」
裏の畑から女性の声が聞こえる。
「あ、お前はお紺!?」
「入るよお」
お紺は裸で俺を温めてくれた「くノ一」だ。彼女を見るとどうしてもそのことを思い出し、妙な気分になる。ただ、今は忍び装束ではなく地域へ溶け込む農婦の装いだった。
「どうした?」
「はんぞーからの伝言だよ。明日には旗本が接見命令を下すために此処へ訪れるってさ」
「……い、いよいよか。で、他には?」
「うーん、福島正則に敵意は無さそうだけど断言できない。行ってみなければ分からないかな。こりゃ博打だねー。だから “行くか逃げるか” 聞いといてくれって」
「俺は逃げない。そう半蔵に伝えてくれ」
「うん、分かった。じゃ、あたいらも警護するからね。最悪、戦だよー」
「……そうなれば、戦って逃げるまで……か」
「犬死はやだよ、大助ちゃん?」
「ああ、そうだな。お紺」
さて、どうなるんだろう。福島正則は今更なぜ俺に会おうとしてるのか、その意図がわからない。だが考えても仕方ない。此処まで生き延びて来たんだ。運に身を任せるしかない……。
その後、国宗家の郎等に手伝ってもらいアワなど食材を馬に乗せて一旦、廃城跡へ戻ることにした。俺が居なくてもひと月は持つくらいの食材を運んでおきたかった。そして何よりも六郎に接見のことを伝えなければならない。
彼らは見張りを立たせ、主犯格の男がサッと作物を刈り取り、手際よく籠へ入れていく。
「やはり盗人か」
俺は畑近くの作業小屋へ隠れ様子を伺っていた。
そこへ畑の手入れをするためだろうか、神田の郎党が現れた。
「真田さま……ですか? 如何されました?」
「あの畑に居る男らは神田の者か?」
「はて、存じませぬ。あ、あれは盗人でございますよ! 真田さま、捕らえましよう!」
「よし、俺に任せろ」
小屋からクワを手に取る。普段から秀頼公の刀を所持しているが、不逞の輩如きに使うのは勿体ない。クワで充分だ。
「おい、お前らそこまでだ!」
「あっ!」
3人の男らが驚き、逃げるか戦うか迷っている様子が伺えた。相手は俺は1人。しかもクワを持った侍風の若い男だからだ。その沈黙の隙を狙って見張りの男を、クワの柄で素早く突く。
「うっ……」と男は倒れた。それを見て百姓風の男らは逃げ出す素振りを見せる。
「もう観念しろ! さ、盗んだ作物を置くんだ」
「く、くそっ」
籠を投げ出し、見張りの男を置き去りにして彼らは逃走していく。俺は追わずに残った男へ尋問した。
「お前らはどこから来た?」
「……か、勘弁してください。村の食料も底をつき……つい」
「食料が乏しいのは何処も同じだ。このままでは我らも冬を越せれないくらいにな」
いつの間にか、神田の郎党らが続々と集まってきた。
「てめえ、不逞野郎だ! 代官さまに突き出してやる!」
「そうじゃ、そうじゃ! ねえ、真田さま!」
「……残念だが、ひっ捕らえよ」
「ははっ」
男は郎党に連れられていく。いずれ逃げ出した男らも御用となるだろう。
ただ、このままではマズイ。普通の領民が盗っ人になるくらい状況は逼迫しているのだ。復興で人手は足りてないが見廻りを強化するしかない。俺は忠次郎に会うため、国宗家へ戻ることにした。
国宗の縄張りでは忠兵衛らご隠居たちが、領内の整備とともに畑や蔵を監視している。
俺は見廻り組を三役で結成しようと考えていたが、山村を隈なく監視する程、人材の余裕はない。どうしたものかと忠次郎に相談しようと思っていた。だが直ぐに答えが見つかった。
「なるほど、神田も子供の面倒見ている爺らで見廻りすれば良いんだ」
そのことを忠次郎へ伝え、各縄張り毎にご隠居らによる見廻りを強化していった。
***
国宗家へ来たついでに「離れ」へ戻り、食材の確認をしていた時のことだった。
「おーい、大助ちゃーん」
裏の畑から女性の声が聞こえる。
「あ、お前はお紺!?」
「入るよお」
お紺は裸で俺を温めてくれた「くノ一」だ。彼女を見るとどうしてもそのことを思い出し、妙な気分になる。ただ、今は忍び装束ではなく地域へ溶け込む農婦の装いだった。
「どうした?」
「はんぞーからの伝言だよ。明日には旗本が接見命令を下すために此処へ訪れるってさ」
「……い、いよいよか。で、他には?」
「うーん、福島正則に敵意は無さそうだけど断言できない。行ってみなければ分からないかな。こりゃ博打だねー。だから “行くか逃げるか” 聞いといてくれって」
「俺は逃げない。そう半蔵に伝えてくれ」
「うん、分かった。じゃ、あたいらも警護するからね。最悪、戦だよー」
「……そうなれば、戦って逃げるまで……か」
「犬死はやだよ、大助ちゃん?」
「ああ、そうだな。お紺」
さて、どうなるんだろう。福島正則は今更なぜ俺に会おうとしてるのか、その意図がわからない。だが考えても仕方ない。此処まで生き延びて来たんだ。運に身を任せるしかない……。
その後、国宗家の郎等に手伝ってもらいアワなど食材を馬に乗せて一旦、廃城跡へ戻ることにした。俺が居なくてもひと月は持つくらいの食材を運んでおきたかった。そして何よりも六郎に接見のことを伝えなければならない。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。
貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや……
脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。
齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された——
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
富嶽を駆けよ
有馬桓次郎
歴史・時代
★☆★ 第10回歴史・時代小説大賞〈あの時代の名脇役賞〉受賞作 ★☆★
https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/853000200
天保三年。
尾張藩江戸屋敷の奥女中を勤めていた辰は、身長五尺七寸の大女。
嫁入りが決まって奉公も明けていたが、女人禁足の山・富士の山頂に立つという夢のため、養父と衝突しつつもなお深川で一人暮らしを続けている。
許婚の万次郎の口利きで富士講の大先達・小谷三志と面会した辰は、小谷翁の手引きで遂に富士山への登拝を決行する。
しかし人目を避けるために選ばれたその日程は、閉山から一ヶ月が経った長月二十六日。人跡の絶えた富士山は、五合目から上が完全に真冬となっていた。
逆巻く暴風、身を切る寒気、そして高山病……数多の試練を乗り越え、無事に富士山頂へ辿りつくことができた辰であったが──。
江戸後期、史上初の富士山女性登頂者「高山たつ」の挑戦を描く冒険記。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
源氏物語異聞~或いは頭中将の優雅な日常
朱童章絵
歴史・時代
桐壺帝の御代。左大臣の嫡男として生まれ、恵まれた人生を謳歌する、若き日の頭中将こと藤原喬顕は、宴の松原で起こった猟奇殺人事件への関与を疑われる。自らの名誉の回復をかけて、調査に乗り出した頭中将が出会ったのは、一人の少年だった――。
あらゆる才能に恵まれながら、『源氏物語』の作中人物として、この世に生み出された瞬間から「永遠のナンバー2」を宿命づけられた男の、世に知られざる冒険譚。
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
※第10回歴史・時代小説大賞で奨励賞をいただきました☆
※源氏物語に詳しくなくても大丈夫!
転娘忍法帖
あきらつかさ
歴史・時代
時は江戸、四代将軍家綱の頃。
小国に仕える忍の息子・巽丸(たつみまる)はある時、侵入した曲者を追った先で、老忍者に謎の秘術を受ける。
どうにか生還したものの、目覚めた時には女の体になっていた。
国に渦巻く陰謀と、師となった忍に預けられた書を狙う者との戦いに翻弄される、ひとりの若忍者の運命は――――
ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す
矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。
はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき……
メイドと主の織りなす官能の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる