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第2章〜芸州編(其の壱)
第12話
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「とぅりややややあああああっ!!」
ブゥンブゥンと下から上へ竹刀を振ってくる。
「ひゃああああああああああっ!!」
縦に振ったかと思うと横に振る。行くぞと1歩前へ出ると見せかけ右斜め前に廻り込み、渾身の斜め振りを見せた。
俺はあっさり避けて、スッと辰三郎の横に出る。
「うるさいな、お前」
「な、なんじゃ!?」
ちょこまかと変速的に攻撃しながら動き回る、何の流派もない田舎剣法か。大したことはない。
辰三郎は慌てて1歩下がりながら縦に竹刀を振る。俺は竹刀を払いのけ「バシン!!」と横腹を叩いてみせた。
「あっ!?」
道場に居る一同が驚きの声を上げた。
「い、いやいや……」
辰三郎は信じられないと言う表情を見せる。
「やるじゃねえか、手加減は無用じゃのう」
「お前、もう死んでるぞ。まだやるのか?」
「うっせい! 手加減しとるって言ったろ!」
「手加減してるのは俺だが……な」
「ほぅわわわああああああああっ!!」
ブゥンブゥン振り回す竹刀で、軽快に動く辰三郎の攻撃を避けながら「バシッ、バシッ、バシン!」と横腹、肩、太腿を叩いて「うわぁ」と片膝ついた辰三郎の首元に竹刀の先を当てた。
「もう、良いだろ」
「はぁはぁはぁはぁ……お前、何者か!?」
「国宗家の居候って言ったろ」
「あははははは……辰三郎、勝負あったわね。アンタの負けだよ」
「姐御!」
道場の入口で腕組みしながら、お雪が言い放つ。
「居候さん、アンタ強いね。でも富盛にも意地があんだよ。辰二郎、相手してやんな!」
「はい。国宗の方……続けてお相手つかまつるが宜しいか?」
「ああ、良いよ。で、師範かい、辰二郎さん?」
「師範代でござる」
「ふーん」
師範は嫡男か当主ってとこか。まあ、いいか。今この道場で1番強いコイツも倒しとこう。
「では、いざっ」
「まいる」
落ち着いた構えの辰二郎は、ジリジリと間合いを詰めてくる。ピクンと竹刀の先を動かすと「ドッ」と床を踏む足音とともに正面から突いてきた。ぎりぎりの所でこれをかわすと、すかさず「エイ、エイ」と縦に振る竹刀を「ガシッ、ガシッ」と受けてみた。なかなかの怪力だ。すると、ふいに足元を狙って竹刀を横に振る。俺は咄嗟に飛んだ。「ブゥン」と空を切る音が聞こえる。
「やるのう、国宗の方……」
道場の端で忠次郎がビクビクしながら対決を見ている。側に六郎が居て「大丈夫じゃ」などと話してる声が聞こえた。
「はぁーーーーっ!!」
辰二郎が突進しながら竹刀を突き出す。それと同時に俺も竹刀を突き出した。
「!?」
辰二郎の竹刀は俺の首元を微かに外した。だが俺の竹刀は辰二郎の喉元寸前まで達している。
道場が静まり返った。俺たちはその姿勢のまま動かない。
「くっ、参り…ました……」
「す、凄いっ、大助さま!!」
忠次郎が思わず声を荒げた。
辰二郎はゆっくりと竹刀を下げる。
「お主の名は?」
「真田大助だ」
「真田殿。貴殿程のお方が何故、国宗家に?」
「大助さまは、国宗家の客人です!」
忠次郎が口を挟む。
「ほう、客人とな。いつまで居るのですか?」
「うーん、暫くは居候するつもりだ。いや、もしかして永住するかもな」
そこへ、お雪が近寄って来た。
「アンタ気に入ったわ。ねぇ、富盛の道場破りをしたからには何か褒美が欲しいんじゃないのかい?」
「褒美? そうだな、二郷川へ入りたい」
「あははははは、なんだいそりゃ。勝手に入れば良いだろ。富盛の川じゃないんだからね」
「あ、姐御!」
「なんだい、辰三郎。文句あんのかい?」
「い、いや、何でもないわ」
「そうか、国宗家と富盛家は近すぎて、水争いが起きてるんじゃないかと思って言ったまでだが?」
「そうなのか、辰三郎?」
「ちょっと揉めただけじゃろ!」
「この馬鹿! あたいらには溜池があんだろうが! それに二郷川だって決められた場所があることくらい知ってんだろ。いちいち揉ますんじゃないよ!」
「……チッ、わかったよお」
「ねぇ大助、そう言うことだから。国宗家の縄張りはアンタの自由にしな」
大助って馴れ馴れしいな。この娘……。
「俺は家主と話がしたいんだが」
「親父と兄者は暫く居ないよ。今はアタイが家主みたいなもんだ。辰二郎、一族郎党にしっかりと伝えるんだよ。水争いすんじゃねぇってよ」
「は、はい、しかと。でも、兄者らには?」
「ああ、わかってるよ。兄者に話すんのは、ちと骨が折れそうだからね。あ、そうだ。条件として大助、うちの道場に通ってくれないかしら?」
「何でだ?」
「何でって、アンタの願いを叶えてやろうってんだ。親父や兄者を説くのは大変なんだから!」
「お雪さん、そもそも川の縄張りを守らないのはそっちじゃないですか!? 条件っておかしくないですか?」
忠次郎が正論を言う。
「それだけじゃないよ。大助に稽古つけてもらいたいんだよ。うちの馬鹿どもを鍛えておくれ」
「でも……」
「まあ待て、忠次郎。たまにで良いなら道場へお邪魔するよ。お嬢さん」
「ほ、本当かい、大助!」
「ああ、俺も身体がなまるからな」
「よっしゃ、大助。……あとね「お嬢さん」じゃなくて「お雪」とお呼び!」
「ああ、分かったよ。お雪」
忠次郎を見ると少し不満げだったが、ここは俺に従うしかない。
「そうだ、忠次郎。二郷川へ連れてってくれ。見てみたい」
「!!」
「ん、どした?」
「はいっ。喜んで案内します!」
二郷川へ行くと言った途端、機嫌の良くなった忠次郎は、俺の手を引っ張って道場から出て行った。
ブゥンブゥンと下から上へ竹刀を振ってくる。
「ひゃああああああああああっ!!」
縦に振ったかと思うと横に振る。行くぞと1歩前へ出ると見せかけ右斜め前に廻り込み、渾身の斜め振りを見せた。
俺はあっさり避けて、スッと辰三郎の横に出る。
「うるさいな、お前」
「な、なんじゃ!?」
ちょこまかと変速的に攻撃しながら動き回る、何の流派もない田舎剣法か。大したことはない。
辰三郎は慌てて1歩下がりながら縦に竹刀を振る。俺は竹刀を払いのけ「バシン!!」と横腹を叩いてみせた。
「あっ!?」
道場に居る一同が驚きの声を上げた。
「い、いやいや……」
辰三郎は信じられないと言う表情を見せる。
「やるじゃねえか、手加減は無用じゃのう」
「お前、もう死んでるぞ。まだやるのか?」
「うっせい! 手加減しとるって言ったろ!」
「手加減してるのは俺だが……な」
「ほぅわわわああああああああっ!!」
ブゥンブゥン振り回す竹刀で、軽快に動く辰三郎の攻撃を避けながら「バシッ、バシッ、バシン!」と横腹、肩、太腿を叩いて「うわぁ」と片膝ついた辰三郎の首元に竹刀の先を当てた。
「もう、良いだろ」
「はぁはぁはぁはぁ……お前、何者か!?」
「国宗家の居候って言ったろ」
「あははははは……辰三郎、勝負あったわね。アンタの負けだよ」
「姐御!」
道場の入口で腕組みしながら、お雪が言い放つ。
「居候さん、アンタ強いね。でも富盛にも意地があんだよ。辰二郎、相手してやんな!」
「はい。国宗の方……続けてお相手つかまつるが宜しいか?」
「ああ、良いよ。で、師範かい、辰二郎さん?」
「師範代でござる」
「ふーん」
師範は嫡男か当主ってとこか。まあ、いいか。今この道場で1番強いコイツも倒しとこう。
「では、いざっ」
「まいる」
落ち着いた構えの辰二郎は、ジリジリと間合いを詰めてくる。ピクンと竹刀の先を動かすと「ドッ」と床を踏む足音とともに正面から突いてきた。ぎりぎりの所でこれをかわすと、すかさず「エイ、エイ」と縦に振る竹刀を「ガシッ、ガシッ」と受けてみた。なかなかの怪力だ。すると、ふいに足元を狙って竹刀を横に振る。俺は咄嗟に飛んだ。「ブゥン」と空を切る音が聞こえる。
「やるのう、国宗の方……」
道場の端で忠次郎がビクビクしながら対決を見ている。側に六郎が居て「大丈夫じゃ」などと話してる声が聞こえた。
「はぁーーーーっ!!」
辰二郎が突進しながら竹刀を突き出す。それと同時に俺も竹刀を突き出した。
「!?」
辰二郎の竹刀は俺の首元を微かに外した。だが俺の竹刀は辰二郎の喉元寸前まで達している。
道場が静まり返った。俺たちはその姿勢のまま動かない。
「くっ、参り…ました……」
「す、凄いっ、大助さま!!」
忠次郎が思わず声を荒げた。
辰二郎はゆっくりと竹刀を下げる。
「お主の名は?」
「真田大助だ」
「真田殿。貴殿程のお方が何故、国宗家に?」
「大助さまは、国宗家の客人です!」
忠次郎が口を挟む。
「ほう、客人とな。いつまで居るのですか?」
「うーん、暫くは居候するつもりだ。いや、もしかして永住するかもな」
そこへ、お雪が近寄って来た。
「アンタ気に入ったわ。ねぇ、富盛の道場破りをしたからには何か褒美が欲しいんじゃないのかい?」
「褒美? そうだな、二郷川へ入りたい」
「あははははは、なんだいそりゃ。勝手に入れば良いだろ。富盛の川じゃないんだからね」
「あ、姐御!」
「なんだい、辰三郎。文句あんのかい?」
「い、いや、何でもないわ」
「そうか、国宗家と富盛家は近すぎて、水争いが起きてるんじゃないかと思って言ったまでだが?」
「そうなのか、辰三郎?」
「ちょっと揉めただけじゃろ!」
「この馬鹿! あたいらには溜池があんだろうが! それに二郷川だって決められた場所があることくらい知ってんだろ。いちいち揉ますんじゃないよ!」
「……チッ、わかったよお」
「ねぇ大助、そう言うことだから。国宗家の縄張りはアンタの自由にしな」
大助って馴れ馴れしいな。この娘……。
「俺は家主と話がしたいんだが」
「親父と兄者は暫く居ないよ。今はアタイが家主みたいなもんだ。辰二郎、一族郎党にしっかりと伝えるんだよ。水争いすんじゃねぇってよ」
「は、はい、しかと。でも、兄者らには?」
「ああ、わかってるよ。兄者に話すんのは、ちと骨が折れそうだからね。あ、そうだ。条件として大助、うちの道場に通ってくれないかしら?」
「何でだ?」
「何でって、アンタの願いを叶えてやろうってんだ。親父や兄者を説くのは大変なんだから!」
「お雪さん、そもそも川の縄張りを守らないのはそっちじゃないですか!? 条件っておかしくないですか?」
忠次郎が正論を言う。
「それだけじゃないよ。大助に稽古つけてもらいたいんだよ。うちの馬鹿どもを鍛えておくれ」
「でも……」
「まあ待て、忠次郎。たまにで良いなら道場へお邪魔するよ。お嬢さん」
「ほ、本当かい、大助!」
「ああ、俺も身体がなまるからな」
「よっしゃ、大助。……あとね「お嬢さん」じゃなくて「お雪」とお呼び!」
「ああ、分かったよ。お雪」
忠次郎を見ると少し不満げだったが、ここは俺に従うしかない。
「そうだ、忠次郎。二郷川へ連れてってくれ。見てみたい」
「!!」
「ん、どした?」
「はいっ。喜んで案内します!」
二郷川へ行くと言った途端、機嫌の良くなった忠次郎は、俺の手を引っ張って道場から出て行った。
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