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第1章〜逃走編〜

第2話

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「若、追っ手が来ますぞ」
「早いな」

 一刻(2時間)の休息だったが少し体力が回復したようだ。俺たちは追討の兵よりも一段高い場所へ登り、その動きを観察しながら道なき道を歩いた。
 たまにはぐれた足軽を見つけては下山し、不意をついた形で急襲を試みる。

 ザクッ! ザクッ! ザクッ……!

 そして逃げる。それを繰り返していった。敵は足軽中隊(150名)相当だと思うが、囲まれない限りは戦える自信があった。だが、いつまでも続ける訳にはいかない。

「奴らは小隊へ分かれつつありますな」

 追討の兵が割れていくのが見えた。分散して山へ登る足軽隊、山間の畦道あぜみちを東側へ駆ける足軽隊。挟み撃ちにでもしようとしているのか? いずれにせよ、この小さな山を拠点にして争うのは不利だ。

「六郎、戻るようになるが、敵の裏をかいて西の山へ移動しよう。あそこは手薄になるはず。途中出会でくわした小隊は撃退するんだ」
「良策でございます。それにしても若、中々やりますな」
「俺も九度山で忍術・剣術を学んでいたからね」

──それに秀頼公の刀で随分と強くなってる気がするんだ。負ける気がしない。

 暫く山間を西へ向かって歩くと敵の姿が見えてきた。15人くらいの小隊だ。これ位なら何とかなる。静かに大木へ登り、足軽との間合いを詰めていく。敵は気づいていない。
「今だ」大木から飛び降りた。急に現れた俺と六郎に足軽小隊は動揺している。

「おまえら、しつこいぞ!」
 ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ……!

 残す敵はあと1人。組頭だろうか? 身なりが少々高貴に見える。
「若、ここは六郎が」
「……いや待て、俺が仕留める」
「な、何じゃ! こ、こやつ子供じゃねえか!」

 ザクンッ……!

「だからどうした?」
 バタッと組頭が倒れた。
「若、お見事です。さ、急ぎましょう」

 それから西の山へ向かって走り続けた。だがもう夕暮れだ。山間にある沢で野宿するのが適当だろう。幸い敵の気配はない。
「六郎、火焚いても大丈夫かね」
「うーん、まあええじゃろ」
 川を見ると魚が沢山泳いでいる。俺は短刀を構えながら渓流に足を踏み入れ「アマゴ」を突き刺しては陸に投げた。あっという間に10匹くらい獲る。

※アマゴ(サケ科タイヘイヨウサケ属)
日本の固有亜種。体長25センチ前後の川魚で非常に美味である。

「凄いですな」
「うん、上出来だ」

 さて、魚をさばかなければならない。まずはお腹に短刀を入れ内蔵を取り出し、水洗い後に暫く干す。なるべく水気を切っておきたい。その間、小枝を加工して串を作製する。その串をアマゴの背骨の上から通し、次は逆の背骨の下側に通して串刺しをする。これは、焼き目を返す時に魚がぐるぐると回ってしまうのを防ぐためだ。
 そして、いよいよ魚を焼くとしよう。川魚は背中側から焼く。最初は強火で皮をこんがり焼いたら、次は弱火でじっくりと火を通す。頃合いを見て裏返す。そうすると腹から水分が落ちてくる。その水分がなくなってきたら食べごろなのだ。丁度ホクホクの仕上がりになる。

「若、こりあええ!!」
「うん、美味い!!」

 俺たちはアマゴを口いっぱい頬張ほおばった。
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