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自由奔放なハクとルナ
しおりを挟む「ここら辺だね」
私は今、ハクちゃんとルナちゃんと一緒にシンヤに言われた場所の近くにいた。
「でも、どこに穴があるかわからない」
シンヤは地面に穴がある、と言っていたが、多勢の人が入る穴があれば、ずっと前から見つけられていたはずだ。なのにあるってことは、隠されている可能性が高いということ。
「ルナちゃん、匂いでわからない?」
「多分大丈夫」
ルナちゃんは、地面に鼻を近づける。本当の姿は狼だったので、人間の姿でも、鼻は効くみたいだ。
クンクン、クンクン、と私とハクちゃんにはわからない匂いを辿っていき、ルナちゃんは止まった。
その止まった場所は、先程いた場所から、右に3m程進んだ場所だった。しかも、そこは周りと何も変わらない普通の場所。
「こんな場所じゃ、もっとわかりにくいよ」
普通の場所。しかし、 ここら一帯は通常よりも多く草が生い茂っているのだ。
それに、草で隠されているだけならば、簡単に見つけられる。だが、今回は多くの人が行き来できる場所に作られ、未だ見つかっていない穴だ。
私たち三人は、生い茂っている草の中を、道を作りながら歩いていく。
10数分間探し続けたが、流石と言うべきか、たったそれだけの時間で見つけることはできなかった。
今は思ったより道を作るのに体力を使ったので、少し休憩している。特に、ハクちゃんとルナちゃんは身長が低いので、私以上にしんどい筈なのに、まだ探していた。
そして数分後、ハクちゃんとルナちゃんも疲れたようで、地面に座り込む。
『おい、お前らなにをやっているんだ?』
『わっ!?』
頭に直接シンヤの声が響き、私は口をパクパクさせる。
『早くしないと、捕まっている人が殺されるぞ』
神夜はいつの間にか、新たなスキルを獲得していたようだ。
『でも、場所がわからないよ。ルナの鼻も効かなかったし、ネルはすぐに疲れて休憩してたし』
ぐっ!ハクちゃん、それは言わないで!
『なに?どういうことだネル』
『そ、それは……、その………』
『ネル、お前は今後、俺と一緒に修行だな』
『………』
シンヤの声が、やけに楽しそうに聞こえた。
『因みに、俺の修行は一つやる毎に気絶するぞ。そして最後には一週間は体が動かない』
その言葉を聞いて、嫌だあああああ!!と、叫びたくなった。
なにそれ!一週間動けなくなるの!?私魔法使いなんだけど、何するの!?ほんと、何するの!?
そんな疑問が頭の中で飛び交っている。
『それが嫌なら、頑張って』
シンヤの声から少し、面白そうに言ってるような気がした。
『まぁ、その話は置いといて。場所がわからないのか?』
『はいです、ご主人』
『ただ、周りに草が生い茂っているだけだろ?』
その通り、私たちはただ草が生い茂っている場所に、道を作りながら穴を探しているだけ。
だが、探しても探しても見つからないのだ。
『多分、闇魔法で隠されている』
『わかった、ちょっと待ってろ』
シンヤがそう言うと、いきなり強風が私たち三人に吹き、そして私たちの口の中に、何か赤いものが入った。
すると、休憩していた私たちの体は、何もしていないのにも関わらず、勝手に動きだす。
『ちょ、シンヤ、何やったの?』
『さっき、風にのせて俺の血をお前ら体内に入れた』
『血!?』
そう、先程神夜は、風魔法を使い自分の血を風にのせ、ネルたちのもとにその風を送り、血を飲ませたのだ。
そして今ネルたちの体を動かしているのは、神夜の血液魔法によってだ。その名は、【血の人形劇】
神夜の指先で、体内に入れた血を操り、ネルたちの体を強制的に動かしている。その精密な動きを可能にしているのは、【魔力操作】のスキルをMAXにまで上げ、スキルを進化させ、【全魔力操作】を扱えるようになった神夜だからこそできるのだ。
『ああ、それで体は俺が動かしている。だから穴まで連れて行ってやる』
シンヤの言葉に偽りはなく、自由の効かない私たちの体は、どんどん前に進まされていく。
そして、私、ハクちゃん、ルナちゃんが合流した。
そこは、周りと何も変わらない、草が生い茂っている場所だった。
『えっ?ここなの?』
『そうだ、そこの地面に穴がある』
シンヤが目的の場所に私たちの体を到着した時、私、ハクちゃん、ルナちゃんの体から、赤いものが飛び出した。
恐らく、シンヤが私たちに入れた血なのだろう。
しかし、触れてみても感触はただの地面。どうなっているのだろうか。
『何も無いよ?』
『そこら辺の石ころを見ろ』
私はシンヤに言われたので、周りの石ころを見る。
『あっ!』
そしてわかった。この石ころの置き場所は
『魔法陣の線と線が接触する場所に置かれている。つまり、その石ころを線で繋げていくと、闇魔法の隠蔽系の魔法陣の完成だ』
そうだ、シンヤの言う通り、これは魔法陣の線と線の繋ぎ目の場所に置いてある。
私も魔法使いだ。魔法陣は何度も見ている。
隠蔽はスキルにも存在するが、その隠蔽は自分のステータス欄に載っているものしか効果を発揮しない。
それとは逆に闇魔法で隠蔽するには、魔法陣を使わなければならないのだ。
『で、でも、魔法陣って描かなきゃ意味ないんじゃ……』
『ああ、そうだ。だから今回の敵は強いぞ。なんせ闇魔法で描かれた魔法陣のその上に、地魔法で土を被せ、魔法陣を消さないようにコントロールしてるんだからな。それほど【魔力操作】のスキルレベルを上げてるんだ』
つまり、神夜が言っているのは、描かれた魔法陣の線を消さないように、線の部分だけ空洞にして土を被せていると言うことだ。
『そ、そんなことが可能なの!?』
『ん?それぐらい簡単だぞ?【魔力操作】のスキルレベルを7に上げればいい』
『7!?それって冒険者ランクで言えばSSランク級じゃない!』
『そうなのか?まあそんなことより、今から内部のことを全て伝える。ハク、ルナ。二人も覚えろよ』
『はーい』
『はいです!』
ハクちゃんとルナちゃんの可愛い声が聞こえる。
『まず、その穴の下には何も無い。ただ、中は地下三階まで出来ている。だが、全ての階は一本道だ。最初の階は右側の扉の中に魔物がいる。恐らく、敵の中に魔物使いがいるのだろう』
魔物使い、それは魔物をテイムし、一緒に戦場に立つ者のことを言う。
簡単に言えば、魔物を従え戦わせると奴のことを言う。例えるなら、草原で私とハクちゃんとルナちゃんで戦った敵の人達、あの人達は魔物使いだ。
『次に、左側の扉の中には金銭、宝、金目の物などが置いてある。自分たちのいる場所はバレたことがないから大丈夫だと思ってそんな所に置いてあるのだろう。まあそれらの品は各々自由にしてくれ。
次の階には、敵の寝床だ。そこには、数人がまだ寝ている。呑気なもんだな。
そして、最後の階だ。その階の殆どが捕まっている人で埋まっている。奥の方には敵が集まっているから気をつけろ。
これで全部だな。ちゃんと覚えろよ』
『ま、まぁ、一応』
『よし、それじゃあ俺は動けないから、さっさと捕まっている人を助けに行って来い』
シンヤの声が頭に鳴り響き、会話が終わる。
私はすぐに、石ころの一つをどこかに蹴り飛ばす。すると、土の下から薄く光が放たれる。それは、紫色の光、闇魔法でできた魔法陣の特徴だ。
「わぁー」「綺麗ー」
ハクちゃんとルナちゃんは目をキラキラさせている。
確かに、魔法陣が放つ光は、現れる時も消える時も、いつも綺麗に輝いている。
魔法陣は線と線の繋ぎが大切だ。その繋ぎ目の役割をしていた石ころが一つ欠けたのだ。
繋ぎ目はなくなり、形は歪み、その光は消えていった。
「ハクちゃん、ルナちゃん。これで後はこの地面を攻撃すれば穴に入れるよ」
「わかった!」
「でも、できるだけ静かに行きましょう。バレると従魔に気づかれ厄介です」
ルナちゃんの意見を聞き、ハクちゃんと私は頷いた。
「それじゃあ、ここは私がやるね」
ハクちゃんとルナちゃんはどういう意味かわかっていない様子。
「バレないようにするには、こうしないと」
私は、地魔法を使い、穴に被せられた土を退かす。
相手はただ地魔法で土を被せただけ。だから、私は他に何もされていないので、退けるだけなら容易いものだ。
それに魔法を使ったのだ。これなら、音もなくバレることはない。
全ての土を退かすと、そこには直径3mの大きさの穴が現れた。
「よし、じゃあ行くよー」「「わぁぁぁぁぁい!!」」
私は、ハクちゃんとルナちゃんに声を掛けようとしたのと同時に、左右にいたはずの二人は、私の両脇を通り二つの影となって、飛び込んでいった。
私も二人に続き、穴に飛び込む。
すると、中は均等に壁に付いているランタンによって、薄暗くなっていた。
これなら、光球は必要ないかも。
っと、考えていると、ハクちゃんとルナちゃんの姿がないことに気づく。
(えっ!?どこいったの!?)
私は周りを警戒しながら進むでいく。
周りにはただ、ランタンが付いた壁のみ。もう少し進んでいくと、シンヤが言っていた通り、左右に二つの扉が見えてきた。
「ハクちゃーん、ルナちゃーん」
私はできるだけ小さな声で名前を呼ぶ。洞窟内なので、ちょっと反響した。
「「はーい」」
私とは逆に、ハクちゃんとルナちゃんは大きな声を出して、返事をする。
私は慌てて止めようとするが、場所がわからないので、また、小さな声で言う。
「ハクちゃんルナちゃん、近くに魔物がいる扉があるから静かに。っていうか、今どこ?」
「「ここだよ(ですよ)」」
ハクちゃんとルナちゃんがひょこっと出てきたのは、シンヤが言って魔物がいる部屋からだった。
そして、二人が近づく度に、ハクちゃんとルナちゃんの武器や脚は、緑に染まり、魔物の緑色の血が滴る。
「えっ!?その部屋で、何やってたの!?」
「みんな眠ってたから魔物倒してたー」
「少し起きていた魔物もいたけど、簡単に倒せる魔物ばかりでした」
ハクちゃんは、にぱっと笑い、ルナちゃんは、てへっ、とした様子でそう言った。
しかし、二人の言葉に疑問が浮かんだ。
この子達は、魔物を倒したと言った。確か二人は近接戦闘型だったはず。ならば、必ず飛び散る鮮血が体に付着しているはず。
だが、付着しているのは武器のみで、体には何も付着していない。
それはつまり、倒していった魔物から飛んでくる緑色の血を全て避けていた、ということだ。
私はその事がわかった時、背中がぞわりとした。
この子達二人の成長の速さは凄まじい。そして、その小さな体から感じられる存在感、強い、とハッキリと思わせる気配。子供からは感じることは有り得ないと思える程のものだった。
「じゃ、じゃあ、進もっか」
「うん!」「はい」
私たちは金目の物等が置いてある左側の扉を無視して、一本道を進んでいく。途中、魔物と言われていた右側の扉の中を覗いて見た。
そして、視界に飛び込んで来たのは、魔物の体にめり込んだ殴る蹴るの跡。首を綺麗に落とされて、頭部と体が離れている状態。このような死体が沢山あり、壁には鮮血が飛び散ってある。
私は魔物が全滅しているを見て、下に続く階段を降りていった。
二階もまた一階と同じで、光はランタンのみ。
「ハクちゃん、ルナちゃん。シンヤが言っていたには、まだ寝ているらしいけど、慎重に行こうね」「「いぇぇぇぇぇいい!!」」
また、私が話しかけると同時に、二人は走っていく。なので、私は驚き早歩きで進んでいく。しかし、進んでも進んでもハクちゃんとルナちゃんの姿はなく、下に続く階段に着いてしまった。
「ハクちゃーん、ルナちゃーん」
下の階には捕まっている人と敵が多数。
私は気づかれないように小さな声を出す。
だが、ハクちゃんとルナちゃんは現れず私は一度壁にもたれかかる。
もしかして、先に下の階に降りてしまったんじゃないだろうか。私はそう思うが、首を左右に振る。もしそうだったら、また、シンヤに怒られるかもしれない。
私は小さなため息を吐き、もたれていた壁にあったとんがったりの部分を触ってみた。すると、ガコンッと音が鳴りとんがりがめり込む。そして、目の前の壁が消えて小さな部屋が現れた。そして、その部屋にはいくつものベットがあり、誰もいないもの家のカラだった。
もしかすると、この小さな部屋が寝ていたはずの敵がいた場所なんじゃないだろうか。
私はそう思い、急いで部屋を出る。
もし私の考えが当たっていると、もう敵は眠から冷めて、全員でいるかもしれない。
「なんだてめぇら!」
「餓鬼がっ!どうやってここに入ってこれた!」
「侵入者だ!!」
男のいくつもの怒号が鳴り響く。
私は走って階段を降りていく………が、急ぎすぎたせいか階段から転げ落ちてしまった。
「いっ!うっ!ごっ!けっ!あっ!」
頭から落ちたせいで、一段一段体にぶつかっていき、間抜けな声が出てしまった。
そして私はお尻で地面に着地する。
「痛たたた」
私は階段にぶつけた頭に手を当てた。
すると、何か丸いものがこちらに飛んでくる。何かわからないが私はそれをキャッチした。
そして、飛んできたものを確認する。
「キャャャャャャャァァァアア!!」
私は驚きのあまり、キャッチしたものを別の方向に投げつける。
ハァハァハァ、そんな荒い呼吸を整えるため深呼吸して投げたものを見た。
そこにゴロリと転がっていたのは、男の頭だったのだ。
「っ!」
息を呑む。
冒険者とは通常、魔物を狩る、または護衛、その他に、盗賊や山賊を捕まえるということをしている。つまり、冒険者は人間の死に耐性があまりないのだ。
私はもう一度深呼吸する。
そして、またもおかしなことに気づいた。
あれ?私が座っている場所、地面じゃない。
そう、地面じゃないのだ。私はゆっくりと座っている場所に視線を下ろす。
そこにあったのは、首から上が無い体だった。
思わず吐きそうになってしまうが、それを抑えて周りを見渡す。
壁には鉄格子とボロボロの異種族や人間。前にはハクちゃんとルナちゃん、その他に敵と思われる男の二十人と、死亡していると思われる敵が数名。
「あっ、ネルお姉ちゃんやっと来た!」
「遅いですよ」
「ご、ごめんね」
私は立ち上がる。
「じゃっ、残りの敵も倒しちゃおっか!」
ハクちゃんはそう言い、ルナちゃんと一緒に敵の方を向く。
「くっ、また来るぞ!」
男達は各々の武器を構える。
「行くよっ!」
「うんっ!」
ハクちゃんとルナちゃんは速攻で駆け出していった。
前の敵から順にバタバタと倒れていく。
あっ、後ろからハクちゃんとルナちゃんを狙って魔法を放とうとしている敵がいる。
私は火魔法の詠唱を唱え、後方の魔法使いを撃退。また後方から攻撃しようとしている敵がいれば、魔法の詠唱を唱え撃退。その繰り返し。
そうしているうちに、驚くべきことがわかった。それは、ハクちゃんとルナちゃんの行動が、後方にいる私が攻撃しやすいように動いていたと言うことだ。
そのおかげで、敵の魔法使いは全滅し、前衛で戦っていた敵も、ハクちゃんとルナちゃんに全て倒された。
「お疲れ様。ネルお姉ちゃん」
「ネルお姉ちゃん、お疲れ様です」
「二人もお疲れ様」
「おう、三人ともお疲れ」
戦いが終わったので、お互いに声をかけあっていく。
私は、ハクちゃんとルナちゃんに付いた血を水魔法で洗い流す。
「ふぅ、私今回何も出来なかったよ」
「違うよ!ネルお姉ちゃんの後方支援のおかげで戦い楽だったし!」
「そうですね、流石Aランク冒険者ですね」
「そうだな、何も出来なかったな」
あれ?可愛いハクちゃんとルナちゃんの優しい言葉とは違うし、それに私の声でもない、男性の声が聞こえる。
「あっ!ご主人様!」
「ご主人!」
「シンヤ!?」
「よう」
そう、そこに居たのは、私の方を見て恐らく修行のことを考えて、マフラー越しでもニヤリと笑っていることがわかるシンヤだった。
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