上 下
32 / 53

クラスメイトは2

しおりを挟む

「なぁなぁ、聞いたかあの話」
「あぁ、あれだろ?魔物の大行進モンスターパレードを一瞬で終わらせたっていう」
「それマジだったらすごくね!」

 私たちは今日は珍しく訓練が休みになり、帝国の街を歩いていた。
 隣には雫ちゃんと花蓮先生がいる。何でも、花蓮先生は神夜と特に仲が良かった私たちが悲しんでいるんじゃないかと思って、少しでも悲しませないためにと最近一緒にいることが多い。

「さっきから何か話してるけど、どうしたのかな?」
「わからないけど、他所の国ですごく強い人が現れたって言っている気がする」
「どこで聞いたんですか、雫さん!」
「いや、ただ周りの人が言っていることを繋げただけですよ、先生」

 そう言えば歩いている最中、同じ話を耳にする。

「まぁ、ちゃんとしたことはお城に戻ってから騎士さんに聞こ?」
「そうだね、愛菜」

 それから3人でいろいろな店に行った。この国の人は私たちが召喚された勇者だと知っている。ついこの間、皇帝様が公にしたからだ。
 そのおかけでどんな店に行っても何かが無料でついてきたり、いろんな人が話しかけてくる。

「勇者様ー、頑張ってくださいー」
「勇者様は容姿まで優れているなー」

 街を歩くだけで、そんな声が飛んでくる。流石に私たちは少し照れくさくなった。でも、そんな中視線を感じることも増えた。時々じゃない。ずっと、まるで監視されてるかのように思える。
 まっ、そんなことはいいかっ。神夜くんは見守っているって言っていた。神夜くんの言葉なら信じれる。
 そう考えて、頭を切り替えて雫ちゃんと先生と街を楽しむことにした。

「おおー勇者様、ちょっとこっちに寄ってくれー」

 一人のおじさんが私たちを呼んだ。なので行ってみたら、アイテム売り場だろうか。色々な物が置いてある。

「勇者様、うちのアイテムを見ていってください」
「アイテム?」
「アイテムってのは、今勇者様たちが腕に付けているやつとかの事だよ。それを付けていると何かしらの効果があるものを言うんだ」

 おじさんは「例えば」と、呟いて店に置いてある一つの物を手に取った。
 それは周りにキラキラした宝石を埋め込んだブローチだった。

「このブローチは一度だけ致命傷を代わりに受けてくれるんだよ」

 おじさんの言葉に私たちはへぇ~、と言って返した。ここは異世界、魔法があるんだからそれぐらいのことができる道具はあるだろう。それに神夜くんはもっとすごい魔法を使っていたからあまり驚かない。
 それは雫ちゃんも同じの様子。先生は子供のように目を輝かせている。

「これを無料でやるよ、勇者様」
「む、無料だなんて!ダメです、頂けません!!」

 先生は無料という言葉に動揺しながら、必死に断っている。
 私も無料という言葉に欲しいという感情が現れたが、何故か胸の奥がモヤモヤしてダメだ、と思ってしまった。
 隣を見ると、雫ちゃんは胸を抑え嫌そうな顔をしている。

「ごめんなさい、おじさん。私たち行く場所あるから」
「そうかぁ、また寄ってきてくれよな」

 そう言っておじさんは笑顔で手を振ってるくれた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 勇者が去った後、店主のふりをしていた俺は奥の部屋に向かった。

「すみません、勇者にブローチを渡すことに失敗しました」
『よい、今度は別の勇者を狙うのじゃ』
「了解しました、皇帝様」

 鏡に写っていたこの帝国のトップ、ローゼス様の前で跪き頭を下げる。そしてローゼス様が写っていた鏡は黒くなっていき、皇帝様の姿は消えた。

「む~!む~!」
「うるさいなぁ、店主」

 目の前でこの店の店主の男が、腕を柱に結ばれ口に布を巻かれ喋れない状態でもがいている。
 なにか喋りたがっているようなので口の布を取ってやった。

「貴様、何をする!これが騎士のやることか!それにさっき勇者に渡そうとしたのは【アイテム効果補正】のブローチで、腕に付けているのは【隷属の腕輪】でわないか!」

 そう、俺は騎士だ。普通騎士は民を守り、国を守る存在。だが、この際仕方がない、何故なら……

「わりぃな、これは皇帝様の命令なんでな。それに腕輪のことがバレたらあんまり良くねぇなぁ。これは秘密の案件なんだ」

 そう言って俺はニヤリと顔を歪め店主にこう言った。

「二階にいるあんたの奥さんって、美人だよなぁ」
「そ、それがどうした………。まっ、まさか……」

 店主の顔が青白くなってく。俺の考えていることがわかったようだ。

「あんたの奥さんを、俺が食って俺専用のとのにしてもいいよなぁ」
「ふっ、ふざけるな!!」
「この国では、皇帝様が絶対。俺はその皇帝様の命令でやってきて、内容は勇者にあのブローチを渡すこと。民に手を出してはいけないが、バレなければいい話だ」

 店主の顔は怒りに染まり、フー、フー、と息が荒れている。

「おっ、勇者だ。ちょっと黙ってろよ、ちゃんとあんたの奥さんは可愛がってあげるからよ」

 俺はまた店主の口に布を巻き付け、店のカウンターに立った。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 昼食を3人で食べ終え、少し国を出て魔法の練習や、剣の練習をしてるうちに夕方になったので城に戻った。
 なので、街で噂になっていた話を近くにいた二人の騎士さんに聞いてみた。

「あっ、勇者パーティーの方ですか」

 騎士さんはそう言った。
 勇者パーティーとは、勇者に続く強者が集められたパーティーだ。その中には、聖女である私、姫宮愛菜と剣姫の星乃雫ちゃん、秋山くんの友達で、重戦士の田中龍也くん、そして双剣士で、少し気弱な男の子の木村賢也くん、この五人が勇者パーティーだ。

「ああ、あれは本当らしいですよ」
「なんかすごい二つ名がついてたし」
「どんなんですか?」
「たしか、『覇王』」

 その理由を聞いてみると、|魔物の大行進(モンスターパレード)を終わらすとき、一歩も動かず威圧に近いもので倒し、その後ろ姿がそのように見えたかららしい。

「しかもその人、全身黒の装備で結構イケメンらしいし」
「それと、|魔物の大行進(モンスターパレード)を終わらしたから、王様が推薦状だしてEX冒険者になったらしい」

 私たちは話を聞き終わり、騎士さんに「ありがとうございます」と手を振って去った。
 そして練習をした為、汗をかいたので風呂場に向かおうとした。
すると、ある声が聞こえた。

「いやぁ~、今日もちゃんと動けたな!」
「ああ、ちょっと傷ついたがこの調子でレベルアップして強くならないとな」

 その声は、勇者の称号を持つ秋山光輝とその友達の田中くんだった。その体には少し血が流れていた。
 それを見た先生が急いで秋山くん達に駆け寄った。

「あなた達!どこに行っていたんですか!」
「いや、ただダンジョンに行ってレベル上げを」
「騎士さんと一緒に行かず、自分たちだけでですか!」
「はい」

 二人は先生が怒っている姿を見て、少し呆然としている。それもそうだろう、いつもぽわぽわした空気を纏っていた先生が大きな声を上げ、怒っているのだ。
 先生の説教の声が城に響き、中にいたクラスメイトが集まってくる。
 先生は私の方を向き「治癒魔法をかけてください」と言ってきたので、秋山くんと田中くんに治癒魔法をかける。
 訓練で練習していたため、今は治癒魔法がレベル2に上がっている。そのため、少しの傷だった二人の傷はすぐに癒えた。
 その後、数分間の間二人は先生に叱られていた。そして説教が終わったあと、最後に先生は一言いっていた。

「あなた達、これからダンジョンに行く時はちゃんと騎士さんと一緒に行ってください。もう自分の生徒が死ぬなんて事は嫌ですから。それに秋山くんは勇者なんですから、もっと自分を大切にしてください。あなた達は……大事な……生徒なんですから……」

 そう言うと、私たちの方に戻ってきて「さぁ、お風呂に行きましょう」と私と雫ちゃんの手を引き歩き出した。
 あの時の先生の目には、涙が薄らと浮かんでいた。たぶん、「もう自分の生徒が死ぬなんて」のことは、神夜くんのことだったんだろう。

 そしてお風呂が終わり、私たちは自分の部屋に戻って、眠りに着くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

処理中です...