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王国での一週間

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 コンコンッと木製のドアを叩く音が聞こえた。

 俺はベットの上で腕を天井に伸ばし口を大きく開け「ふわぁ~」という声を出しながら上半身を起こした。

「シンヤさん、朝ごはんですよ」

 ドアの向こうからミーヤの声が聞こえた。

 俺は半開きの目を擦りながらベットから降りた。そしてもう一つのベットで寝ているハクとルナを起こして、酒場に行った。
 この宿に来て一週間が経った。
 この一週間はクエストを受け続け、出てきた魔物を片っ端から殺し、試験で合格して俺たちは今Sランクまで上がっていた。

 最初、Cランクにいきなり上がり次の日にギルドに行くと周りの冒険者はヒソヒソとこちらを見て何かを話していた。
 だから獣人族で耳が良いルナに聞いてみると「一日でCランクまで上がるのが珍しかったらしく、ずるをしたんじゃないかとか、期待の新人とか言われてます」って言われた。他にもこんなことも言っていた。「あと、ボクとハクのことを可愛いとか言って気持ちの悪い目で見てきます」と。

 だが、そんな目も気にしなく一週間、毎日毎日クエストを受けていたのでいつの間にかAランクまで上がっていたというわけだ。
 それとCランクの時はパーティーを組んでいなかったので、テンプレでハクとルナにナンパしに来た奴らが結構いた。まぁそんな奴らはギルティなので叩き潰した。
 これからまたそんなことが起きないように、しっかりとパーティーを組みました。
 今はSランク、あと一つのクエストと試験に合格すればSSランクまで上がる。
 あと少しでSSランクか、合格したら情報集めに旅に出ようか。国だと、全然情報が入ってこないし。
 そんなことを考えながら俺はハクと、ルナと一緒に、酒場に続く木でできた階段をコツコツと音を立てながら降りている。

「あっ、やっと起きました。シンヤさん」

 酒場に降りると笑顔で出てきてくれたこの女の子は、ミーヤだ。
 茶色の髪に、猫耳がついている可愛い子だ。
 最初の頃は俺たちが人族だと知り、怯えていたけど、この一週間で少しずつ信頼してもらってきて震えが治まっている。

「今日の朝ごはんは、スープとパンです。しっかり食べてください」
「いつもありがとな」
「えへへ、いえ。これがお仕事ですから」

 ミーヤは俺が頭を撫でるといつも俯いて少しニマニマしている。まあ、そこも可愛いんだが。

「あ、あとまだ泊まりたければ、ちゃんと言ってくださいね。お金も支払うよう」
「ああ、わかってる」

 俺はそう言うと、ミーヤは安心した顔でキッチンに入っていった。

 そうそう、もうSランク冒険者なのでお金がいっぱいある。使ったのは、ハクとルナの服と俺たちの下着のお金だけだったから。

 手持ちのお金はこれだ。

 鉄貨287枚、銅貨263枚、銀貨244枚、金貨375枚、大金貨241枚、白金貨126枚、黒金貨17枚

 今まで、碌に何も買わずずっと貯め続けていたらなー。

 と、こんなことを考えている間にスープが冷めてしまう。
 ハクとルナはもう、勝手に食べているから俺も食べよう。

「いただきます」

 と、手を合わせ言った。

 俺はスープのお皿の横に置いてあったスプーンに手をかけ、スープを口に運んだ。
 意外に熱かった。それもそうだろうスープからはたくさんの湯気が出ている。
 俺は熱々でも大丈夫だが、二人はいけるだろうか?と思い前の椅子に座っているハクとルナを見た。
 二人は「ふーふー」と熱々のスープに息を吹きかけていた。その姿がすごく愛らしい。周りの異種族の人達もハクとルナを見て顔を緩めていた。

「そう言えばご主人?」
「どうした?」
「あの食べる前に言っていたのってなんですか?」
「それ私も気になるー」

 ルナの問いかけからハクも聞きたいと言ってきた。

「あれは、食材に、料理を作ってくれた人に、感謝を込めていう言葉だ。まぁ、これは俺の自己解釈だがな」

 俺は二人の質問に答えた。ついでにごちそうさまも教えといた。
 二人は俺の言葉を聞き、スプーンをお皿に置き、手を合わせ「「いただきます」」と俺の真似をしていた。
 その姿を見て可愛く思い俺は二人の頭を撫でた。
 二人は気持ち良さそうに目を細めていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「ごちそうさま」」」
「いやー、やっぱり美味いな、この宿のご飯は」
「うふふ、ありがとうございます。父と母にも伝えておきますね」
「おう、頼んだ」

 ミーヤの親は二人とも、獣人族であまり人と話さないから、基本キッチンか自室でいるみたいだ。
 因みにこの宿の食材は、ミーヤの両親が転移の魔法陣で飛び、自分たちで取ってきているらしい。

「んじゃ、ミーヤ行ってくる」
「はーい」

 ミーヤから笑顔で送り出され俺たちはいつもの薄暗い路地裏に出た。

「今日も朝から賑やかだなぁ」

 今は午前8時、そんな中大通りは多くの人で賑わっていた。

「ご主人様!私またあのお肉食べたい!」
「ぼ、ボクも食べたいです!ご主人!」

 二人が言っている食べ物とは、スノーラビットという、真っ白でもふもふした兎の串焼きだ。
 肉は柔らかく、少しさっぱりした感じだ。
 冬になると、スノーラビットは雪を食べ、その肉は脂が多くなり、焼くと雪のようにとろけるようになるのだ。
 この前、クエストに行く途中、ハクとルナの鼻がピクピクと動き、タタタタと人混みの中を走っていった。
 ついて行ってみると、そこに売っていたのがスノーラビットの串焼きだったのだ。
 そこで買って食べてみると、美味しくて二人はその時からずっとハマっている。

「おっちゃん、これ三つ」
「あいよ!いつもありがとな」
「ああ」

 スノーラビットの串焼きを売っている屋台のおっちゃんに、銅貨六枚を出し三本もらった。
 一本で銅貨二枚、つまり地球では一本200円だ。

「はい。ハク、ルナ」
「ありがと、ご主人様!」
「ありがとうです、ご主人」

 二人に串焼きを渡した。
 二人はすぐに口の中に入れると、ほっぺたがとろーんとしたようになっていた。
 俺も串焼きを食べると、美味しかった。
 串焼きを食っている間にギルドに入った。

「さーて、何があるかなー?」

 俺はギルドに入ると、クエストボードに向かった。
 どれにしようかクエストを見ていると、視線を感じる。
 一週間たっても、まだ俺達のことを見てくる人がいる。
 クエストボードには、ピンとくるものがない。
 はぁ、と俺は受けるクエストがないことと、視線のことで溜息を吐いた。
 そして受付嬢である、エミリさんのところに行った。

「エミリさーん。何かいいクエストある?」

 ギルドでは、二つクエストを受ける方法がある。

 一つ、クエストボードに貼ってある、クエストを受付嬢の人に受理してもらう。
 一つ、自分の専属受付嬢の人に、自分にあったクエストを受理してもらう。

 だ。

 俺達がCランクに一気に上がった時、エミリさんが俺達の専属受付嬢に立候補してくれたのだ。
 なので、専属受付嬢であるエミリさんにクエストを見せてもらうのだ。

「シンヤさん、ちょっと待ってくださいね」

 エミリさんはそう言うと、受付の引き出しに入っていた数枚を取り出し、机に上に置いた。

「皆さんに合うクエストはーーー」

『ゴォォォーン、ゴォォォーン、ゴォォォーン』

 エミリさんがクエストの説明をしようとした時、大きな鐘の音が王国中に響いた。

 その鐘は、この王国の中心部にある物だ。

 この鐘は、普段は鳴らさず、置いとくだけの物。それだけで人が寄ってくる程、綺麗な建物だ。
 だが、鐘が鳴った時、それは緊急事態を意味する。
 エミリさんに貰った説明書に書いてあった。
 この鐘を鳴らす意味は一つしかない。

魔物の大行進モンスターパレード』だ。
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