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04学校行事と探偵部
演劇大会事件01
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(二)演劇大会事件
生徒会選挙も終わり、渋山台高校旧棟3階1年5組の『探偵部』部室は、8人目の入会者を獲得するための議論でかまびすしかった。純架がハッカ味の飴玉を口腔で転がしている。
「やはりここは白石さんが適当な生徒に取り憑いてだね……」
寝転んだ姿勢で宙に浮かびつつ、まどかは大あくびをかました。
「あほか。あたしはこの部室から出られないって言うたやろ。そもそも他人に取り憑いたりせえへんわ」
「それは残念」
純架はパズル雑誌を広げ、凄まじい形相で数独を解きにかかった。「1……5……3……」などと、憎しみの炎にあぶられながらシャーペンを走らせる。
怖いからやめろ。
「そういえば昨日のホームルームで、今年から渋山台高校クラス演劇の大会を始めるぞ、とか先生が言ってたね。ええと、何て名前だったっけ」
英二が癖毛を掻き回し、話に乗ってきた。
「確か『百花祭』だったと思うが」
俺は熱いコーヒーの表面に息を吹きかけた。ぐびりと飲む。苦い液体が胃袋へと落下した。
「演劇祭ねえ。ま、俺はもちろん舞台には上がらないつもりだけどな」
英二はひどく同意した。大仰にうなずく。
「同感だな。みんなの前で演技だなんてこっ恥ずかし過ぎる」
奈緒がたしなめるように注意してきた。
「演劇部の人が怒るよ、朱雀君、三宮君。桐木君はどう? その美貌なら壇上で栄えないかしら?」
結城が冷静に、茶々を入れるようなツッコミをする。
「多分奇行癖を発症して滅茶苦茶になると予想されますが……」
「ああ、そうだね。桐木君に舞台は無理かな」
純架は「プンスカ! プンスカ!」と怒った。
ずいぶん古風な怒り方だ。
「失礼な。人を何だと思ってるんだい」
純架は立腹したが、さっきから鏡を見ながら歌舞伎の化粧に熱中している。鬢付け油を顔全体に塗り、今はおしろいを刷毛で上塗りしているところだった。もちろん歌舞伎の舞台を控えているわけでもない。
そういうところだ。
日向は演劇祭へ消極的な姿勢を示した。もとより気の小さい彼女だ。
「私は小道具でもちょこちょこ作っていたいです」
俺は窓際の机に頬杖をついて、紅葉が終わり色褪せる木々を見下ろした。
「俺も音響とかでいいかな。BGMと効果音をタイミングよく再生するって奴」
純架は顔面に紅で「隈取」を描き始めた。
本気で化粧するな。
「皆勝手なことを言ってるね。たまには舞台上でもう一つの人生を演じてみるのも悪くないと思うよ。人間という奴、皆どこかで自分のキャラを演じているものだからね。気分転換にどうだい、楼路君?」
「お断りだ」
そこでドアがノックされた。純架が「どうぞ」と声掛けすると、開いた扉から1人の男子生徒が現れた。まだ幼さの残る童顔ながら、その意志の強さは鋭い両眼に発揮されている。外見はツバメ、内面は鷹といった具合か。均整の取れた四肢はやや細身である。紺のブレザーという渋山台高校伝統の制服が、しなやかにまとわれていた。身長は160センチちょっとと小柄だ。
はきはきした声で尋ねてきた。覚悟を決めてきた男の気概が感じられる。
「ここは『探偵部』様の部室で間違いないでしょうか?」
純架は素早く立ち上がり、商売人のように揉み手でかしこまる。傍から見ていてこっちが恥ずかしくなるような卑屈な態度だった。
「ひょっとして入部希望者? はたまた何かのご依頼で?」
生徒は後半ですと主張した。
「僕は演劇部の川勝雄之助と申します。1年2組所属です」
そこでいったん区切り、少しためらった。が、何かを振り切るかのように言葉を発する。
「実は『探偵部』の皆さんに解決してほしい問題がありまして……。ただ、今の時点で騒ぎ立てるのもどうかという、小さな出来事なんですが……」
純架は椅子を用意して雄之助を座らせた。
「どんな些細なことでも構わないよ、川勝君。むしろ初期段階で来てくれて助かるね。では川勝君、全員で聞くから話してみてくれたまえ」
雄之助は力強くうなずいて、組み合わせた両手を垂らし、ぽつぽつと語り始めた。
「ことの始まりは『百花祭』の開催決定です。僕の1年2組は『好きな人へ』という芝居を上演することになりました。これはプロの脚本家で漫画原作なども手がける高梨一成さんが、数年前に学校演劇用に書き下ろしたオリジナルのお話です」
英二が記憶巣を刺激されたようで、眉間に皺を寄せて唇に拳を当てた。
「ああ、名前は聞いたことあるな。どんな内容なんだ?」
「皆さん、あらすじは演劇の命です。公演が終わるそのときまで秘匿していてもらえますか?」
純架も俺たちも、もちろん深く点頭した。それを見渡して、雄之助は唇を舌で湿した。
「概要はこうです……」
うららかな春の午後。軽度の盲腸――急性虫垂炎で入院中の高校生・岡田幹久は、医者から院内を歩き回っても良いとされ、特に目的もなくぶらぶらほっつき歩いていた。しばらくして、目の前で話し合っている中年夫婦が持つ、一枚の絵画に視線がいく。それは油絵の見事な風景画だった。この病院の窓から外の景色を描いたものだろう。幹久は好奇心にかられ、それが誰の手によるものか尋ねる。
中年夫婦は実に嬉しそうに、「それなら描いた人に直接お会いしてください」と、すぐ側の病室――『藤波みなも』と室名札があった――へ幹久を招き入れる。そこにはベッドに半身を起こし、白いキャンバスへ筆を走らせる、痩せ気味の少女の姿があった。彼女こそは藤波みなもだ。幹久が彼女の絵を激賞すると、みなもは恥ずかしそうに照れて笑った。幹久は可愛い子だな、と思った。
みなもは高校の美術部に所属し、熱心に絵を描いていた。その理由は、人生や空間を自在に切り取ってキャンバスに収めるという、絵画の持つ魅力に取り憑かれたからだという。しかし一年前、重い病に侵されて入院。以後はだんだん弱りつつある心身を奮い立たせ、こうして手先が鈍らぬよう筆を取っているのだそうだ。幹久は感銘を受けた。そして同時に、自分の生涯を振り返って、彼女のように何かに全力を傾けてひたむきに頑張ったことなどなかったことに気づく。幹久は心からみなもを尊敬した。そして仲良しになり、色々なことを良く喋った。みなもの両親も加わって、それは楽しい一日となった。
やがて時が流れ、幹久の退院が決まる。彼は「今度はここの外で会いたいね」と語り、先に病院を後にした。
それからも幹久が見舞いに行くという形で、病室での逢瀬は続いた。しかしある日、みなもは医者から余命宣告を告げられる。長くて残り一ヶ月だという。彼女はそのことを隠し、見舞いに来た幹久に、彼をモデルとして絵を描きたいと告げる。喜んで快諾する幹久。みなもと幹久の、最後の一ヶ月がこうして始まった。みなもは生き生きとキャンバスに線を走らせる。彼女の両親はその光景をそっと見守りながら、神様が娘に最後の力を与えてくださっているのだと目頭を押さえた。
だが幹久の肖像画が完成するより早く、みなもは容態が急変。帰らぬ人となった。一報を聞きつけ駆けつけた幹久は、完成前に中断された彼女の絵画と、冷たくなって息絶えたみなもに号泣する。両親から真相を知らされ、みなもは幸せなまま逝ったと聞かされると、涙は止めどもなく流れた。そこでふと、幹久は絵画の端に書かれた『好きな人へ』という文章に気付く。彼は自分のことを、みなもが愛してくれていたのだと知った。
それから数年後。幹久は美術大学に進み、油絵の技術を獲得する。そうして、みなもが生前残した笑顔の写真を元に肖像画を描き始めた。数ヶ月の後完成させた彼は、その隅に一言『好きな人へ』と書き記し、彼女との想い出を振り返って慟哭するのだった――
純架は思わず、といったていで拍手を惜しまなかった。
「へえ、とても良い話じゃないか。川勝君、君は役者をやるのかい、それとも裏方をやるのかい?」
「実は、主人公の岡田幹久を舞台上で演じることになりました」
奈緒が両の手の平を合わせる。惜しげもなく賛辞を送った。
「素敵ね! うん、ぴったりだと思うよ」
雄之助は美人の同級生に褒められ少し照れたものの、すぐ真面目な顔つきに戻った。
「うちのクラスは早くて、昨日の『百花祭』開催決定の報せの後すぐに原作と役割分担が決まりました。僕は大役を任されて、張り切って稽古に臨もうと奮い立ちました」
話の内容とは裏腹に、その表情に暗雲が立ち込める。
「ところが、今日の朝、僕の机にこんな切れ端が入っていたんです……」
そう言って雄之助が鞄から取り出したのは、白紙のノートを千切ったと思われる一枚の紙だった。
「見てください、皆さん」
純架が代表して受け取り、俺やみんなが横や背後から覗き込む。そこにはこう書かれていた。
『幹久役を降りなければ天罰が下る』――
英二が差出人への怒りを込めて叫んだ。
「ほう、脅迫状か!」
結城が謎の執筆者を手酷く侮蔑した。
「下手な字ですね。まるで小学校低学年です」
純架がその文筆の意味を看破する。
「筆跡でばれないように利き腕じゃない側でしたためたんだ。たとえ拙い文字でも、これは立派な脅しだね。……なるほど、川勝君はこいつを自分の机に投函してきた犯人を突き止めてもらいたいわけだね」
生徒会選挙も終わり、渋山台高校旧棟3階1年5組の『探偵部』部室は、8人目の入会者を獲得するための議論でかまびすしかった。純架がハッカ味の飴玉を口腔で転がしている。
「やはりここは白石さんが適当な生徒に取り憑いてだね……」
寝転んだ姿勢で宙に浮かびつつ、まどかは大あくびをかました。
「あほか。あたしはこの部室から出られないって言うたやろ。そもそも他人に取り憑いたりせえへんわ」
「それは残念」
純架はパズル雑誌を広げ、凄まじい形相で数独を解きにかかった。「1……5……3……」などと、憎しみの炎にあぶられながらシャーペンを走らせる。
怖いからやめろ。
「そういえば昨日のホームルームで、今年から渋山台高校クラス演劇の大会を始めるぞ、とか先生が言ってたね。ええと、何て名前だったっけ」
英二が癖毛を掻き回し、話に乗ってきた。
「確か『百花祭』だったと思うが」
俺は熱いコーヒーの表面に息を吹きかけた。ぐびりと飲む。苦い液体が胃袋へと落下した。
「演劇祭ねえ。ま、俺はもちろん舞台には上がらないつもりだけどな」
英二はひどく同意した。大仰にうなずく。
「同感だな。みんなの前で演技だなんてこっ恥ずかし過ぎる」
奈緒がたしなめるように注意してきた。
「演劇部の人が怒るよ、朱雀君、三宮君。桐木君はどう? その美貌なら壇上で栄えないかしら?」
結城が冷静に、茶々を入れるようなツッコミをする。
「多分奇行癖を発症して滅茶苦茶になると予想されますが……」
「ああ、そうだね。桐木君に舞台は無理かな」
純架は「プンスカ! プンスカ!」と怒った。
ずいぶん古風な怒り方だ。
「失礼な。人を何だと思ってるんだい」
純架は立腹したが、さっきから鏡を見ながら歌舞伎の化粧に熱中している。鬢付け油を顔全体に塗り、今はおしろいを刷毛で上塗りしているところだった。もちろん歌舞伎の舞台を控えているわけでもない。
そういうところだ。
日向は演劇祭へ消極的な姿勢を示した。もとより気の小さい彼女だ。
「私は小道具でもちょこちょこ作っていたいです」
俺は窓際の机に頬杖をついて、紅葉が終わり色褪せる木々を見下ろした。
「俺も音響とかでいいかな。BGMと効果音をタイミングよく再生するって奴」
純架は顔面に紅で「隈取」を描き始めた。
本気で化粧するな。
「皆勝手なことを言ってるね。たまには舞台上でもう一つの人生を演じてみるのも悪くないと思うよ。人間という奴、皆どこかで自分のキャラを演じているものだからね。気分転換にどうだい、楼路君?」
「お断りだ」
そこでドアがノックされた。純架が「どうぞ」と声掛けすると、開いた扉から1人の男子生徒が現れた。まだ幼さの残る童顔ながら、その意志の強さは鋭い両眼に発揮されている。外見はツバメ、内面は鷹といった具合か。均整の取れた四肢はやや細身である。紺のブレザーという渋山台高校伝統の制服が、しなやかにまとわれていた。身長は160センチちょっとと小柄だ。
はきはきした声で尋ねてきた。覚悟を決めてきた男の気概が感じられる。
「ここは『探偵部』様の部室で間違いないでしょうか?」
純架は素早く立ち上がり、商売人のように揉み手でかしこまる。傍から見ていてこっちが恥ずかしくなるような卑屈な態度だった。
「ひょっとして入部希望者? はたまた何かのご依頼で?」
生徒は後半ですと主張した。
「僕は演劇部の川勝雄之助と申します。1年2組所属です」
そこでいったん区切り、少しためらった。が、何かを振り切るかのように言葉を発する。
「実は『探偵部』の皆さんに解決してほしい問題がありまして……。ただ、今の時点で騒ぎ立てるのもどうかという、小さな出来事なんですが……」
純架は椅子を用意して雄之助を座らせた。
「どんな些細なことでも構わないよ、川勝君。むしろ初期段階で来てくれて助かるね。では川勝君、全員で聞くから話してみてくれたまえ」
雄之助は力強くうなずいて、組み合わせた両手を垂らし、ぽつぽつと語り始めた。
「ことの始まりは『百花祭』の開催決定です。僕の1年2組は『好きな人へ』という芝居を上演することになりました。これはプロの脚本家で漫画原作なども手がける高梨一成さんが、数年前に学校演劇用に書き下ろしたオリジナルのお話です」
英二が記憶巣を刺激されたようで、眉間に皺を寄せて唇に拳を当てた。
「ああ、名前は聞いたことあるな。どんな内容なんだ?」
「皆さん、あらすじは演劇の命です。公演が終わるそのときまで秘匿していてもらえますか?」
純架も俺たちも、もちろん深く点頭した。それを見渡して、雄之助は唇を舌で湿した。
「概要はこうです……」
うららかな春の午後。軽度の盲腸――急性虫垂炎で入院中の高校生・岡田幹久は、医者から院内を歩き回っても良いとされ、特に目的もなくぶらぶらほっつき歩いていた。しばらくして、目の前で話し合っている中年夫婦が持つ、一枚の絵画に視線がいく。それは油絵の見事な風景画だった。この病院の窓から外の景色を描いたものだろう。幹久は好奇心にかられ、それが誰の手によるものか尋ねる。
中年夫婦は実に嬉しそうに、「それなら描いた人に直接お会いしてください」と、すぐ側の病室――『藤波みなも』と室名札があった――へ幹久を招き入れる。そこにはベッドに半身を起こし、白いキャンバスへ筆を走らせる、痩せ気味の少女の姿があった。彼女こそは藤波みなもだ。幹久が彼女の絵を激賞すると、みなもは恥ずかしそうに照れて笑った。幹久は可愛い子だな、と思った。
みなもは高校の美術部に所属し、熱心に絵を描いていた。その理由は、人生や空間を自在に切り取ってキャンバスに収めるという、絵画の持つ魅力に取り憑かれたからだという。しかし一年前、重い病に侵されて入院。以後はだんだん弱りつつある心身を奮い立たせ、こうして手先が鈍らぬよう筆を取っているのだそうだ。幹久は感銘を受けた。そして同時に、自分の生涯を振り返って、彼女のように何かに全力を傾けてひたむきに頑張ったことなどなかったことに気づく。幹久は心からみなもを尊敬した。そして仲良しになり、色々なことを良く喋った。みなもの両親も加わって、それは楽しい一日となった。
やがて時が流れ、幹久の退院が決まる。彼は「今度はここの外で会いたいね」と語り、先に病院を後にした。
それからも幹久が見舞いに行くという形で、病室での逢瀬は続いた。しかしある日、みなもは医者から余命宣告を告げられる。長くて残り一ヶ月だという。彼女はそのことを隠し、見舞いに来た幹久に、彼をモデルとして絵を描きたいと告げる。喜んで快諾する幹久。みなもと幹久の、最後の一ヶ月がこうして始まった。みなもは生き生きとキャンバスに線を走らせる。彼女の両親はその光景をそっと見守りながら、神様が娘に最後の力を与えてくださっているのだと目頭を押さえた。
だが幹久の肖像画が完成するより早く、みなもは容態が急変。帰らぬ人となった。一報を聞きつけ駆けつけた幹久は、完成前に中断された彼女の絵画と、冷たくなって息絶えたみなもに号泣する。両親から真相を知らされ、みなもは幸せなまま逝ったと聞かされると、涙は止めどもなく流れた。そこでふと、幹久は絵画の端に書かれた『好きな人へ』という文章に気付く。彼は自分のことを、みなもが愛してくれていたのだと知った。
それから数年後。幹久は美術大学に進み、油絵の技術を獲得する。そうして、みなもが生前残した笑顔の写真を元に肖像画を描き始めた。数ヶ月の後完成させた彼は、その隅に一言『好きな人へ』と書き記し、彼女との想い出を振り返って慟哭するのだった――
純架は思わず、といったていで拍手を惜しまなかった。
「へえ、とても良い話じゃないか。川勝君、君は役者をやるのかい、それとも裏方をやるのかい?」
「実は、主人公の岡田幹久を舞台上で演じることになりました」
奈緒が両の手の平を合わせる。惜しげもなく賛辞を送った。
「素敵ね! うん、ぴったりだと思うよ」
雄之助は美人の同級生に褒められ少し照れたものの、すぐ真面目な顔つきに戻った。
「うちのクラスは早くて、昨日の『百花祭』開催決定の報せの後すぐに原作と役割分担が決まりました。僕は大役を任されて、張り切って稽古に臨もうと奮い立ちました」
話の内容とは裏腹に、その表情に暗雲が立ち込める。
「ところが、今日の朝、僕の机にこんな切れ端が入っていたんです……」
そう言って雄之助が鞄から取り出したのは、白紙のノートを千切ったと思われる一枚の紙だった。
「見てください、皆さん」
純架が代表して受け取り、俺やみんなが横や背後から覗き込む。そこにはこう書かれていた。
『幹久役を降りなければ天罰が下る』――
英二が差出人への怒りを込めて叫んだ。
「ほう、脅迫状か!」
結城が謎の執筆者を手酷く侮蔑した。
「下手な字ですね。まるで小学校低学年です」
純架がその文筆の意味を看破する。
「筆跡でばれないように利き腕じゃない側でしたためたんだ。たとえ拙い文字でも、これは立派な脅しだね。……なるほど、川勝君はこいつを自分の机に投函してきた犯人を突き止めてもらいたいわけだね」
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