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01桐木純架君
生徒連続突き落とし事件07
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張り込み。
映画やテレビドラマで刑事がよくやる奴だ。純架は今回『探偵同好会』全員に――といっても4人だけだけど――、張り込みにつくよう依頼した。俺と純架に関しては、過去に『折れたチョーク事件』で首尾よく成功させたことがある。
「突き落とし魔が被害者を出すには条件がある」
放課後すぐ、純架は全員を呼び寄せて講義に入った。俺たち3人を椅子に座らせ、チョークをつまんで黒板をつつく。
「まず、相手が下り階段を降りようとしている瞬間を捉えなければならない。つまり屋上から3階へ続く階段の最上部。3階から2階へ続く階段の最上部。2階から1階へ続く階段の最上部。そこにこそ犯行の好機があるというわけだね」
そういいながら、純架は三つの階段を書いた。奈緒が疑問を呈する。
「中間踊り場で待って突き落とすのは?」
「上から下りてくる被害者に姿をさらさねばならないのでありえないよ。逃げる際も他人に見つかる危険性が高い。これは除外だ」
純架は真剣に聞き入る俺たちを眺めた。
「それから屋上から3階へ続く階段、これも除外していいと思う。屋上へ通じる扉は開き戸だから、こっそり被害者の背後に忍び寄ることはできない。つまり犯行は3階から2階、2階から1階の両階段に限定される。実際今までの事件はこの二箇所のいずれかで起きた」
二つの階段に丸をつけた。
「ここまではいいね?」
俺たちはうなずいた。
「さて張り込みだ。残念ながら現状、僕たちは犯人を特定できる術を持たない。突き落としの現場を押さえる以外にはね。そこで階段へ通じる廊下を見張り、事件が起きたらすぐ急行できる態勢を取ることにする。二手に分かれてね」
純架はチョークを置き、手をはたいた。
「相手は危険な奴だ。女じゃ捕まえられない蓋然性が高い。男女ずつペアになろう。……辰野さん」
「はい」
「君は僕と。楼路君は飯田さんと組んでくれたまえ。いいね?」
特に反対する理由もなかったので、俺たちは賛成した。純架が念押しする。
「この新校舎の階段は防火シャッター壁を挟んで廊下と繋がっている。火災になったら大きいシャッターが下りるため、その際の通過には横にある小さい扉を開けなければいけない。つまり普段は上がっているシャッターの下の大きな空間こそが、廊下との行き来に使われているわけだ」
まるで教師然として純架は一同を見回す。
「犯人を現行犯逮捕するためには、シャッター壁の外側で待機するしかない。内側、つまり階段側で間抜け面をさらしても、犯人は警戒して凶行をやめてしまうからね。新たな被害者には悪いけど、犯人が突き落としをする場面を押さえなければ、今回の事件は終わらないんだ。気の毒だが仕方ないね」
教壇に両手を突いた。前のめりに俺たちをうながす。
「じゃ、かかろうか」
かくして3階の廊下で見張ることになった俺と奈緒は、先客の姿にはたと足を止めた。
「三宮、お前、こんなところで何してるんだ?」
英二が曲がり角に潜み、3階廊下の途中にある防火シャッター壁を注視していた。奥にあるのはもちろん階段だ。俺たちに気づいて身を起こす。明らかに背が小さいが、その態度は真逆の大きさだった。
「お前、名前何て言ったっけ」
「朱雀楼路だ」
「ああ、そうそう、そんなあほな名前だったな。……俺は見張ってるんだ、廊下をな」
「突き落とし魔か?」
「そうだ」
英二も純架と同じ結論に達したらしい。いつもかしずいている結城の姿が見えないが……
「結城なら下の階だ。今頃俺と同じく警戒に当たっているだろう」
明敏にも俺の目線から思考を辿り、英二は答えた。奈緒が俺に耳打ちする。
「犯人は私たちが捕まえるんだから」
「ああ、そのつもりだ」
結局俺たちは雁首揃えて、物陰から廊下を睨みつけることとなった。階段へと去り行く男子生徒、女子生徒を見送り続ける。
最初こそ与えられた任務に緊張していた俺だが、15分も経つとすっかり飽きた。通行する人間は5分前を最後にぱったり途絶えている。小声なら別に喋っていても良かろうと自分を許し、英二にかねての疑念をぶつけてみた。
「なあ三宮、お前元はどこの学校にいて、どうして転校してきたんだ?」
「何だ、その質問は。俺に興味があるのか?」
「いや、何となく」
怒られるかと思ったが、英二も無言の行に退屈していたようだ。俺と同じく低い声で答えた。
「元は東京の私立煙ヶ峰高校に通っていた。進学校だった。だが父から『もっと空気の清浄な場所で学ぶべきだ。お前が勉学にしっかりした姿勢を抱いていれば、どこの高校でもよかろう』との意見をいただいてな。それで全国各地の高校を調査し、今回この渋山台高校へ転校してきたというわけだ。先に入学していた結城の太鼓判もあったしな」
なんか凄い一家だな。
「いつも豪華な弁当を食べてるようだけど、あれいくらするんだ?」
「下々の者が買えない値段だ。健康には人一倍気を使えと教えられている」
「三宮って金持ちなのか?」
「祖父が興した造船業が成功し、賢明な父が更に会社を大きくした。莫大な財産があるとだけ言っておこう」
「友達はいるのか?」
この何気ない問いに、英二は痛いところを突かれたとばかりに押し黙った。ややあって口を開く。
「まだ転校したばかりだからな」
要するにいないってことか。俺は別に馬鹿にするでもなく、次の質問を発した。
「前の学校では?」
「何名かいたぞ」
本当か?
「俺を英二様と呼び、金を払うと喜んで付き合ってくれたな」
それ、友達じゃないような気がするが……
その後、張り込みは空振りに終わった。午後6時、実に3時間近くの苦労は水の泡と消える。
「桐木君と日向ちゃんに合流して帰ろうよ、朱雀君」
「そうだな。そうしよう」
英二も頃合いと見たか、無言で鞄を提げて歩き出した。
もし英二が犯人だとしたら、成果なしは当たり前となる。俺は心中密かにこの背の低い同級生への疑いを濃くした。もっとも、真犯人が成算のないと知れている張り込みに一生懸命になれるかどうかは、また別の問題だったが……
翌週放課後もまた、俺たち『探偵同好会』は英二と結城のコンビと共に張り込みをした。今度は俺と日向、結城の3人で2階に陣取る。3階は純架、奈緒、英二が見ていることだろう。
やっぱり暇になったので、俺は度胸試しとばかりに結城へ話しかけた。グラマラスな肢体が青いセーラー服に収まっている。本当に高校一年生か?
「菅野さんって三宮のメイドなのか?」
結城はこちらへ振り向き、銀縁眼鏡の中央を押し上げた。滝のような栗色の髪の毛が美しい。
「はい。英二様の召し使いです」
何のためらいもなく言い放つ。そこに濁りはなかった。
「私は三宮造船に雇われた高校生です。といっても私の代からではなく、祖母からしてすでにそうでした。私たち菅野家は代々三宮家に仕え、その身の回りのお世話を仰せつかってきたのです」
なんちゅう家庭だ。
「でも三宮英二の相手って疲れるだろ」
「といいますと?」
「あんな気の強いちび、さすがに持て余すだろってことさ」
次の瞬間、俺は左頬に強烈な張り手をもらっていた。鋭い痛みの波紋と共に乾いた衝撃音が廊下に反響する。痛え。
「何すんだよ!」
俺は頬を押さえて結城に抗議した。結城は憤怒の塊と化して俺を睨みつける。
「英二様への誹謗中傷は断じて許しません!」
そして廊下に正対すると、もう何も言わずに監視を再開した。俺は彼女の背中に非難の視線を向けるしか出来なかった。
「大丈夫ですか? 凄い音でしたが……」
日向がいたわりの声をかけてくれる。俺は首肯すると、改めて張り込みを再開した。ガムテープを貼って一辺に引き剥がしたような頬のうずきだ。何でこんな目に遭わないといけないんだ?
そして数時間後。今日も突き落とし魔の犯行はなかった。或いは俺たちの監視に気づいて、危険を冒さず控えているのかもしれない。そんな推測を純架に打ち明けると、彼は『サザエさん』の次回予告として、「我が家焼失」がもっとも興味深いと語った。
そんな『サザエさん』ねえよ。つか、人の話を聞け。
翌日放課後、純架は集結した俺たちに最初に言い渡した。
「もうすぐ中間テストだし、張り込みは今日までにしよう。僕らは『探偵同好会』だけど、その前に渋山台高校1年生だ。できることは限度がある」
俺の体内で不満が踊る。今回の事件は『探偵同好会』の存続を賭けた勝負なのだ。
「そんなことしてたら三宮に負けるぞ」
「犯人捕獲は彼らに任そう。もちろん僕らも捜査は続行するけど、張り込みの方はとりあえずもう終わりにしよう」
かくして最後の監視が始まった。俺は奈緒、英二と共に3階廊下を見張っていた。純架、日向、結城は下の階だ。
「ほう、張り込みをやめるのか」
英二は馬鹿にしたように鼻で笑った。余裕に満ちた声をばらまく。
「ならもう90パーセント以上の確率で俺の勝ちだな。現行犯で抑えられる機会をみすみす手放すなんて、気が狂ったとしか思えん」
完全に勝ち誇っている。何も言い返せず、俺は貝のように口をつぐんだ。
時間は無為に過ぎていった。5月とは思えぬ暑気をまともに受けて、俺たちは若干掻いた汗を拭う。
映画やテレビドラマで刑事がよくやる奴だ。純架は今回『探偵同好会』全員に――といっても4人だけだけど――、張り込みにつくよう依頼した。俺と純架に関しては、過去に『折れたチョーク事件』で首尾よく成功させたことがある。
「突き落とし魔が被害者を出すには条件がある」
放課後すぐ、純架は全員を呼び寄せて講義に入った。俺たち3人を椅子に座らせ、チョークをつまんで黒板をつつく。
「まず、相手が下り階段を降りようとしている瞬間を捉えなければならない。つまり屋上から3階へ続く階段の最上部。3階から2階へ続く階段の最上部。2階から1階へ続く階段の最上部。そこにこそ犯行の好機があるというわけだね」
そういいながら、純架は三つの階段を書いた。奈緒が疑問を呈する。
「中間踊り場で待って突き落とすのは?」
「上から下りてくる被害者に姿をさらさねばならないのでありえないよ。逃げる際も他人に見つかる危険性が高い。これは除外だ」
純架は真剣に聞き入る俺たちを眺めた。
「それから屋上から3階へ続く階段、これも除外していいと思う。屋上へ通じる扉は開き戸だから、こっそり被害者の背後に忍び寄ることはできない。つまり犯行は3階から2階、2階から1階の両階段に限定される。実際今までの事件はこの二箇所のいずれかで起きた」
二つの階段に丸をつけた。
「ここまではいいね?」
俺たちはうなずいた。
「さて張り込みだ。残念ながら現状、僕たちは犯人を特定できる術を持たない。突き落としの現場を押さえる以外にはね。そこで階段へ通じる廊下を見張り、事件が起きたらすぐ急行できる態勢を取ることにする。二手に分かれてね」
純架はチョークを置き、手をはたいた。
「相手は危険な奴だ。女じゃ捕まえられない蓋然性が高い。男女ずつペアになろう。……辰野さん」
「はい」
「君は僕と。楼路君は飯田さんと組んでくれたまえ。いいね?」
特に反対する理由もなかったので、俺たちは賛成した。純架が念押しする。
「この新校舎の階段は防火シャッター壁を挟んで廊下と繋がっている。火災になったら大きいシャッターが下りるため、その際の通過には横にある小さい扉を開けなければいけない。つまり普段は上がっているシャッターの下の大きな空間こそが、廊下との行き来に使われているわけだ」
まるで教師然として純架は一同を見回す。
「犯人を現行犯逮捕するためには、シャッター壁の外側で待機するしかない。内側、つまり階段側で間抜け面をさらしても、犯人は警戒して凶行をやめてしまうからね。新たな被害者には悪いけど、犯人が突き落としをする場面を押さえなければ、今回の事件は終わらないんだ。気の毒だが仕方ないね」
教壇に両手を突いた。前のめりに俺たちをうながす。
「じゃ、かかろうか」
かくして3階の廊下で見張ることになった俺と奈緒は、先客の姿にはたと足を止めた。
「三宮、お前、こんなところで何してるんだ?」
英二が曲がり角に潜み、3階廊下の途中にある防火シャッター壁を注視していた。奥にあるのはもちろん階段だ。俺たちに気づいて身を起こす。明らかに背が小さいが、その態度は真逆の大きさだった。
「お前、名前何て言ったっけ」
「朱雀楼路だ」
「ああ、そうそう、そんなあほな名前だったな。……俺は見張ってるんだ、廊下をな」
「突き落とし魔か?」
「そうだ」
英二も純架と同じ結論に達したらしい。いつもかしずいている結城の姿が見えないが……
「結城なら下の階だ。今頃俺と同じく警戒に当たっているだろう」
明敏にも俺の目線から思考を辿り、英二は答えた。奈緒が俺に耳打ちする。
「犯人は私たちが捕まえるんだから」
「ああ、そのつもりだ」
結局俺たちは雁首揃えて、物陰から廊下を睨みつけることとなった。階段へと去り行く男子生徒、女子生徒を見送り続ける。
最初こそ与えられた任務に緊張していた俺だが、15分も経つとすっかり飽きた。通行する人間は5分前を最後にぱったり途絶えている。小声なら別に喋っていても良かろうと自分を許し、英二にかねての疑念をぶつけてみた。
「なあ三宮、お前元はどこの学校にいて、どうして転校してきたんだ?」
「何だ、その質問は。俺に興味があるのか?」
「いや、何となく」
怒られるかと思ったが、英二も無言の行に退屈していたようだ。俺と同じく低い声で答えた。
「元は東京の私立煙ヶ峰高校に通っていた。進学校だった。だが父から『もっと空気の清浄な場所で学ぶべきだ。お前が勉学にしっかりした姿勢を抱いていれば、どこの高校でもよかろう』との意見をいただいてな。それで全国各地の高校を調査し、今回この渋山台高校へ転校してきたというわけだ。先に入学していた結城の太鼓判もあったしな」
なんか凄い一家だな。
「いつも豪華な弁当を食べてるようだけど、あれいくらするんだ?」
「下々の者が買えない値段だ。健康には人一倍気を使えと教えられている」
「三宮って金持ちなのか?」
「祖父が興した造船業が成功し、賢明な父が更に会社を大きくした。莫大な財産があるとだけ言っておこう」
「友達はいるのか?」
この何気ない問いに、英二は痛いところを突かれたとばかりに押し黙った。ややあって口を開く。
「まだ転校したばかりだからな」
要するにいないってことか。俺は別に馬鹿にするでもなく、次の質問を発した。
「前の学校では?」
「何名かいたぞ」
本当か?
「俺を英二様と呼び、金を払うと喜んで付き合ってくれたな」
それ、友達じゃないような気がするが……
その後、張り込みは空振りに終わった。午後6時、実に3時間近くの苦労は水の泡と消える。
「桐木君と日向ちゃんに合流して帰ろうよ、朱雀君」
「そうだな。そうしよう」
英二も頃合いと見たか、無言で鞄を提げて歩き出した。
もし英二が犯人だとしたら、成果なしは当たり前となる。俺は心中密かにこの背の低い同級生への疑いを濃くした。もっとも、真犯人が成算のないと知れている張り込みに一生懸命になれるかどうかは、また別の問題だったが……
翌週放課後もまた、俺たち『探偵同好会』は英二と結城のコンビと共に張り込みをした。今度は俺と日向、結城の3人で2階に陣取る。3階は純架、奈緒、英二が見ていることだろう。
やっぱり暇になったので、俺は度胸試しとばかりに結城へ話しかけた。グラマラスな肢体が青いセーラー服に収まっている。本当に高校一年生か?
「菅野さんって三宮のメイドなのか?」
結城はこちらへ振り向き、銀縁眼鏡の中央を押し上げた。滝のような栗色の髪の毛が美しい。
「はい。英二様の召し使いです」
何のためらいもなく言い放つ。そこに濁りはなかった。
「私は三宮造船に雇われた高校生です。といっても私の代からではなく、祖母からしてすでにそうでした。私たち菅野家は代々三宮家に仕え、その身の回りのお世話を仰せつかってきたのです」
なんちゅう家庭だ。
「でも三宮英二の相手って疲れるだろ」
「といいますと?」
「あんな気の強いちび、さすがに持て余すだろってことさ」
次の瞬間、俺は左頬に強烈な張り手をもらっていた。鋭い痛みの波紋と共に乾いた衝撃音が廊下に反響する。痛え。
「何すんだよ!」
俺は頬を押さえて結城に抗議した。結城は憤怒の塊と化して俺を睨みつける。
「英二様への誹謗中傷は断じて許しません!」
そして廊下に正対すると、もう何も言わずに監視を再開した。俺は彼女の背中に非難の視線を向けるしか出来なかった。
「大丈夫ですか? 凄い音でしたが……」
日向がいたわりの声をかけてくれる。俺は首肯すると、改めて張り込みを再開した。ガムテープを貼って一辺に引き剥がしたような頬のうずきだ。何でこんな目に遭わないといけないんだ?
そして数時間後。今日も突き落とし魔の犯行はなかった。或いは俺たちの監視に気づいて、危険を冒さず控えているのかもしれない。そんな推測を純架に打ち明けると、彼は『サザエさん』の次回予告として、「我が家焼失」がもっとも興味深いと語った。
そんな『サザエさん』ねえよ。つか、人の話を聞け。
翌日放課後、純架は集結した俺たちに最初に言い渡した。
「もうすぐ中間テストだし、張り込みは今日までにしよう。僕らは『探偵同好会』だけど、その前に渋山台高校1年生だ。できることは限度がある」
俺の体内で不満が踊る。今回の事件は『探偵同好会』の存続を賭けた勝負なのだ。
「そんなことしてたら三宮に負けるぞ」
「犯人捕獲は彼らに任そう。もちろん僕らも捜査は続行するけど、張り込みの方はとりあえずもう終わりにしよう」
かくして最後の監視が始まった。俺は奈緒、英二と共に3階廊下を見張っていた。純架、日向、結城は下の階だ。
「ほう、張り込みをやめるのか」
英二は馬鹿にしたように鼻で笑った。余裕に満ちた声をばらまく。
「ならもう90パーセント以上の確率で俺の勝ちだな。現行犯で抑えられる機会をみすみす手放すなんて、気が狂ったとしか思えん」
完全に勝ち誇っている。何も言い返せず、俺は貝のように口をつぐんだ。
時間は無為に過ぎていった。5月とは思えぬ暑気をまともに受けて、俺たちは若干掻いた汗を拭う。
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