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みのる

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第12話 車椅子の少女と義足【後編】

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それを見た店主が、

『よし、それじゃあお嬢ちゃん。立ってごらん?』

娘に優しく言う。
父親はいきなりの店主の言葉に、

『え?何を言ってるのですか、暫く歩いてないしリハビリも無くいきなり立てる訳無いでしょう?』

と反論する。

リハビリも無く立てるのか不安な美々子だが、不思議な義足を用意してくれた店主の言う事だし…
その言葉を信じてショーケースを支えに恐る恐る立ち上がる。すると、不思議な事に!何の苦労も無く自然に立ち上がれる娘。
そう、まるで事故など無く、ずっと足が有ったかのようにごく自然と……。

夫婦が手を取り合って、

『立った、美々子が立った!!』

と涙を流して喜んでいる。
店主は続いて、

『じゃあ次は歩いてみようか?』

と話しかける。

不安に思う美々子が、いつでもショーケースに掴まれるように手を広げながら…恐る恐る歩き出す。その必要も無く、歩き初めてすぐに手も引っ込めて…自然な形で歩きだす。
ごく自然に歩ける事に驚き、目を見開いている美々子。

店主は商品の使い心地を聞く。

『お嬢ちゃんどうだい?何か違和感は有るかい?』

美々子は実に満足そうに、

『ありません。まるで私の足の様に違和感無く自由に動きます…』

涙目に笑顔で答える美々子。

が、直ぐに顔を曇らせ、

『おじさん、この義足で今直ぐにでも練習を再開し、全国大会へ出る事は· · ·出来ま· · ·いいえ、将来陸上選手を目指す事は出来ますか?』

返ってくる言葉が怖いのか伏せ目がちに聞く美々子。
店主はしたり顔で、

『もちろん出来るよ、今までと同じ様に何も変わらずにね。そしてもちろん陸上選手も目指せるぞ』

と言い切った。

その言葉を聞いた美々子の目が大きく見開かれ、大粒の涙がボロボロと溢れ出した。

『おじさん…こんな良い義足をありがとう、そして最初は酷いこと言ってごめんなさい…』

泣きながらガバッと頭を下げ、謝罪する美々子。


『ハッハッハ、別に構わんよ。私は何もしとらんし。ただ商品を売ってるだけだ』

と店主は返した。
店主、今更付け足して、

『ただその義足にも欠点が有ってね、1度馴染んでしまうと完全にくっ付いて取り外せなくなるんだ(笑)』

と他人事。

『こんなに良い義足なのに、それは欠点になるのでしょうか· · ·』

と父親は困惑顔。
店主は言う。

『取り外せなくなるから、嫌でも購入する事になるんだよ』

父親はハッとして、

 『あっ· · ·、確か値段が· · ·』

したり顔で店主が、

『そういう事さ』


店主の奥さんが、美々子に話しかける。

『良かったね、お嬢ちゃん』

そして母親に向かって

『とりあえず義足の状態を確認をしてくれるかい?』

『はい!』

と涙ながらに返事する母親。

母親は娘と店主から見えない角へと移動していく。着いてこようとする父親に、

『あんたは来なくて良いの!!』

厳しいお言葉。…まぁ当然ですが(笑)
母親が義足を確認しながら、

『え?これって美々子の足· · ·だよね?本当の足と義足の見分けがつかないんだけど· · ·足の付け根に有った傷跡も消えてるし、何より触り心地にも違和感ないし:…体温や肌の弾力も有る!何これ?本当に義足?』

と困惑しながらこちらへ戻ってくる。

店主はニヤニヤしながら、

『満足してくれたかい?』

父親が、

『はい!本来なら歩く事が出来る様になるだけでもと思い、藁にも縋る思いでここに来ましたが、私達が望んでいた以上の物を頂き…ありがとうございます』

と言い頭を下げる3人。

『それと代金の方ですが流石に1千万もの大金は持ち合わせていなくて、小切手でも大丈夫でしょうか?』

と問う父親。
店主は、

『大丈夫ですよ』

の一言。

支払いを終え父親が、

『ではこれで失礼します』

母親が、

『本当に何とお礼を言ったら良いか· · ·ありがとうございました!!』

娘が、

『おじさん!本当にありがとう』

と口々に言い残し笑顔で3人は立ち去る。

その後ろ姿を見送る店主夫婦。

『お嬢ちゃんがあんなに喜んでくれるとはねぇ。良い事をしたね、あんた。でも本当はあの義足を売るつもりは無かったんでしょう?』

と奥さんが笑う。

『あぁ、人生を大きく変えるものは本来なら売りたくは無いんだがね、普通の義足ですむなら良かったが…そうもいかないし困りはてたんだ。でもなぁお前、あのお嬢ちゃんを見てたらな、何とも言えなくてな· · ·』

と返す涙脆い店主。

奥さんは、

『まぁそんなそんなお前さんだから、好きになったんだけどね』

と言い残し、鼻歌を歌いながら奥さんは奥へと戻る。

ふんふーん、ふふふふふーん、ふん♪ふふー、ふふふふふー♪


一方車中では、

『あっ、美々子も普通に歩いて店から出てきたから…車椅子持ってくるの忘れた』

と父親の台詞。

『まあ良いでは有りませんか、もう必要有りませんし…』

と笑顔の奥さん。

『会長さんのお陰で私の足も元に戻ったようなもんだし、何かお返ししないといけないねお父さん』

と笑う娘。

『そうだね、何にするかね』

と、笑顔で返す父親。

何でも屋へと向かう時の重苦しい車中とは違い、帰りの車中は笑い声が聞こえていた。

後日、何でも屋に写真と手紙が入った封筒が届いた。
写真には優勝トロフィーと盾を持った笑顔の美々子の姿が写っていた。
手紙には、

”おじさん、その節は本当にありがとうございました。おじさんのお陰で優勝する事が出来ました。諦めていた夢にもまたチャレンジ出来るようになり感謝しきれません。もしおじさんに出会えて居なければと思うとゾッとします· · ·。これからも夢に向かい精一杯頑張ります!美々子より
p.s.また店に行くね、そして好きだよおじさん♡“

手紙を読み終えた店主から、冷や汗がダラダラと流れ落ちる。

奥さんは冷やかしの意を込めて、

『旦那様はおモテになりますね』

とにた~っと笑う。
顔を青ざめながら店主は、

『な、何を言ってるんだ!私が愛してるのはお前だけだよ』

と慌てて言う。

奥さんは何かを思い出すように遠い目をしながら、

『そんな事は昔から知ってますよ、痛いくらいにね』

と言い残し、店の奥へと入っていく、この時奥さんの目には涙が滲んでいた事は誰も知らない。
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