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柏木 雛汰

自己紹介

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そんなこんなで始まった自己紹介。
このスクールでは本名は名乗らない決まりなのでニックネームと、タチかネコか、このスクールに通おうと決めた理由などを簡単に、との事だった。
全員にしっかり顔が見えるように、端の人から順番に前に出て自己紹介をしていく。

正直、小太りで不潔っぽいオジサンとかいたら嫌だな…なんてちょっと思ったりもしていたけれど、不思議なことに、ここにいる人達でアイドルグループでも結成できるんじゃないかっていうぐらい皆、顔面偏差値が高い。
それに、皆の自己紹介を聞いていると、通うと決めた理由が結構様々で面白い。
中には、このレーベルからデビューすることが決まっているAV男優で、経験値を積む為に入校するように社長から言われた、とか、元々ノンケ寄りだったけど興味があって、なんとなく面白そうだったから、なんていうなんとも薄っぺらい理由の人もいる。

付き合ってた彼女が怪しい宗教にハマって高価な壺を買わされそうになったりして、女性不信に陥っちゃったっていう、じゅんって人の話には、申し訳ないけど思わずちょっと笑ってしまった。

それから、おれ以外のネコ二人もバックバージンらしくて、なんとなく親近感がわく。
次はいよいよ、おれの番。


「えっと、名前は、ひな、って呼んでください。ネコです。ちょっと言いにくいんですけど、初恋をずっと引きずってて今まで恋人がいたことがなかったので、あの…、キス、とか、えっち…とかの経験はないです。ここで新しい経験をして、初恋を吹っ切って、次の一歩に繋げたらいいなと思って入りました。あと、ゲイってことが理由でイジメられたことがあって友達もいないので、ここで友達もできたらいいなと思ってます。よろしくお願いします」


──うん。途中ちょっと恥ずかしくて口ごもっちゃったけど、人見知りなおれにしてはなかなかうまく自己紹介できたんじゃない?


そんな満足感に浸りつつ、ぺこりと下げていた頭を上げると、なんだか皆がニコニコしながらこちらを見ている…ような気がする。
なんだろう、なんと言うか…お遊戯会を見守る保護者達、みたいな。


──おれの自己紹介、そんな幼稚だったかな…?


なんとなく恥ずかしくなっていそいそと席に戻る。

次がいよいよ、最後の生徒さんの自己紹介。

おれと入れ替わりで席を立った彼からなんとも言えないセクシーな香りがして、ちょっとドキッとしてしまった。


「はじめまして。なおっていいます。タチです。女性とも男性とも交際経験があるのでバイです。セックスの経験もどちらともあります。ただ、俺もひなさんと同じで初恋引きずってて…誰と付き合ってもなかなか上手くいかないので、現状を変えるきっかけにしたいと思ってここに来ました。タチさんもネコさんも仲良くして貰えたら嬉しいっす。よろしくお願いします」


──なおさんも初恋引きずってるんだ…。なんかちょっと仲良くなれそうかも…。


白い歯がちらりと覗く彼の爽やかな笑顔に、思わず見蕩れてしまう。
そしてまた、セクシーな香りを振り撒きながらおれの横を通り過ぎたなおさんが自分の席についたころで、次は二手に分かれて建物の中を見て回ることになった。

おれは、レイさんが案内をしてくれるグループに振り分けられた。
同じグループには、なおさんや、壺のじゅんさんもいる。
なおさんと行動を共にできることに内心ガッツポーズをしながら部屋を出ると、忘れていたあの濃厚な甘い香りが漂ってきて、今度は耐えられずにふらついてしまった。
そのまま膝から力が抜けてしまい、あ、だめだ、転んじゃう、そう思った時。
横からすっと逞しい腕がのびてきて、ガッシリと抱きとめられた。


「大丈夫?」

「あ…!だ、だいじょうぶです!ありがとうございます!」


転びそうになったおれを抱きとめてくれたのは、なおさんだった。


──やばい、ちかい…!


顔から火が出そうな程赤面しているであろうおれを見て心配してくれたのか、


「どこか具合悪い?」


なんて言いながら顔を覗き込んでくる。


──これ以上寄られるとドキドキでしんじゃう…!


おれは慌てて彼の腕の中から抜け出し、

「な、なんともないです!ほんとに!あの、おれ、ちょっとこのにおいニガテで…なんかこのにおい嗅ぐとクラっときちゃって…」


なんて、ちょっとどもりながら告げる。


「そう?それならいいけど…無理しちゃダメだよ」

「あー、わかるわー、オレもこのにおい苦手だわ。なんつーか、頭がブヨブヨするよなー」


挙動不審なおれに優しい言葉をかけてくれるなおさん。
そんななおさんの後ろから、突然ひょっこり顔を出してちょっとよく分からない事を言ってきたのはじゅんさんだ。
なおさんも、じゅんさんの意味不明な言葉に、


「ブヨブヨ…?」


と眉を寄せ、首を傾げている。


「ブヨブヨわかんねーかー。まあ、いいや!あ、オレ、じゅん!多分オレのが年上だけどじゅんくんでいいぜ!なお、ひな、改めてよろしく!」


彼は、人の懐に入り込む天才なんだと思う。
こんなにもグイグイ来るし、自分の事はくん付で呼ばせようとする割におれ達のことはちゃっかり呼び捨てしているのに、全然嫌な感じがしなくて、むしろ、昔から友達だったっけ?と錯覚するほどすんなり受け入れてしまう。
だから、人見知りで、仕事以外で他人と接する事が苦手なおれでも、


「うん。こちらこそよろしくね、じゅんくん」


なんて自然と返せたし、なおさんも楽しそうに笑いながら握手を交わしていた。
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