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大きな木の下で

初めてのキス

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「…かんざき…?」

「…ねぇ、キス、してもいい?」


……あ、そっか。


最後までシて欲しいってことばっかり考えてて忘れてたけど、俺達、キスもまだしたことないんだった。


「…うん、いいよ」


両想いだって分かった大好きな相手とのキスを断る理由なんて無いし、俺だってしたいし。

だから二つ返事で頷いて目を閉じればすぐに、神崎の少しカサついた唇が俺の唇に触れるだけのキスを落として離れていった。

本当に一瞬触れただけの、軽いキス。

それなのに全身の血が沸騰したみたいに熱くなって、脈が速くなって、脳みそがとろけてしまいそうになるんだから、恋ってすごい。


(……もっと、して欲しい…。)


触れるだけのキス一回では物足りなくて、伏せていた瞼を持ち上げねだるように見上げると、俺の気持ちを的確に汲み取ってくれた神崎は俺の髪をサラサラと梳きながら、もう一度優しいキスをくれた。

今度は、唇同士が離れる時にちゅっと音を立てて吸われて。
離れたと思ったら角度を変えてまた重なって、音を立てて吸い上げながら離れていく。

そんな啄むようなキスを何度か繰り返して、てっきりもっとえっちなキスまで発展するのかと思ったのに、何度目かで完全に顔を離した神崎は、俺の唇を親指でふにふにと押しながら困ったように笑っていた。


「…そんな物欲しそうな顔しないで?これ以上したら、俺、我慢出来なくなっちゃうから」

「…我慢とか、しなくていいじゃん…」

「場所が駄目でしょ。あんまりここにいると2人とも風邪ひいちゃうよ?続きは、宿に戻ってから…ね?」


確かに、神崎が持って来てくれた毛布のお陰でだいぶ寒さを凌げているもののまだ普通に寒いし、神崎の唇も冷えきっていて、想いが通じ合った今、これ以上ここにいるのは得策ではないだろう。


……べ、別に、早く続きして欲しいとかじゃないんだからな!

……風邪ひくのはヨクナイネ!って意味だからな!


と誰に聞かせるでも無く心の中で言い訳をして、歩き出そうとしたのに、神崎は俺を抱き締めたまま。


……というか、どっちかっていうとしがみついてる…?


「…神崎?戻んねぇの?」

「あの……」

「…なんだよ」


いつになく緊張感漂う声色に、こちらにまで緊張感が走る。

しかし続いた言葉は、俺が全く予想していないものだった。


「俺、めっちゃ怖いんですけどぉ!!どぉしたらいいですかぁっ?!」

「はぁっ?お前ここまで普通に一人で来れたんじゃねぇのかよっ?!」

「いや、あんたを助けなきゃと思ったら妙なアドレナリンみたいなの出て、来る時は気にならなかったんですよ!でもあんた見つけて、告白も成功してほっとしたら急に…ひゃわっ?!なんすか今の音ぉ!もぉやだおうち帰るぅ!!」


……嘘やん。


さっきまでバチバチにかっこよく決めてたのと同一人物だとは思えないぐらい、情けない顔をして聞いたことない情けない声を上げてぎゅうぎゅうとしがみついてくる神崎。

少しでもカサッとかパキッとか音がしようものならきゃあきゃあ甲高い声を上げてビビりまくっている。


「…俺のときめき返せ」

「ふえぇっ?なんか言いましたぁっ?」

「なんでもない!ほら!手ぇ握ってやるから!さっさと帰んぞ!」


…まさかこいつに、こんな一面があったなんて。

ぶっちゃけ、めちゃくちゃかっこわるいし頼りない。
でもじゃあそれで引いたり呆れたりするかと言われたら全然そんなことは無くて、むしろ、ギャップ萌えってやつ?

好きって伝えただけで真っ赤になっちゃったり、ビビりだったり、今まで知らなかった神崎の可愛いところを知ることができて、今までよりももっともっと彼のことが好きになった。
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