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秘密と正体
彩人の作戦 2
しおりを挟むほんの1,2時間目を離した隙にまたいいねとレスとメッセージの通知が届いていて、一つ一つ確認していく。
そして最後のメッセージの差出人を見た瞬間、俺は思わずスマホを取り落としてしまった。
「あだっ」
スマホの角が眉間に直撃し、あまりの痛みに思わず涙目になるが、正直それどころではない。
(そんな…まさか…本当に…?)
(いやでも、ハンドルネームが同じだけの別人って可能性も…。)
(むしろその可能性のほうが高いよな…よし、落ち着け、俺。)
大きくひとつ深呼吸をし、口から心臓が飛び出そうになりながらも、震える手でスマホを操作して該当のメッセージを開く。
そこに書かれていた文章に目を通した俺は余りの衝撃にまたスマホを落としかけた。
『ayaさん、初めまして。
いつも俺の筋肉画像にいいねして下さってありがとうございます。
今日初めてもち肌自慢のスレを見つけて、そこでayaさんが投稿されてた画像に一目惚れして飛んできちゃいました。
どの画像も最高でしたけど、今日のほっぺた画像がめちゃくちゃ好みすぎて…白さも透明感ももちもち加減もマジで堪んねぇっす。
…って、初めましてなのに熱く語ってすみません。
ayaさんは細マッチョがタイプなんですか?毎回いいねして下さるから、もし細マッチョ好きならお互いもち肌好き、細マッチョ好きでギブアンドテイクな関係を築けないかなと思いまして…。
まずはメッセージから仲良くなれたら嬉しいです。よろしくお願いします。
shin 』
…OMG。
やばい。
奇跡が起きた。
…マジでshinさんからメッセージきちゃったよどうすんのこれ…。
自分から送れないなら向こうから送ってもらえばいいじゃない作戦(仮)、なんていうなんとも自惚れた作戦を決行しておきながら、心のどこかで来るはずがないと思っていた俺は、いざこうして憧れの人からのメッセージを受け取ってしまった今、どうしていいか分からず脳内パニック状態だ。
とりあえずスマホを枕元に置いて布団の中に潜り込んでみたりベッドの上を転げ回ってみたり、ベッドから降りて部屋の中をウロウロしてみたり。
またベッドに戻って枕に顔を埋め、足をじたばたさせてみたり。
そうして漸くすこし冷静さを取り戻した俺は、差出人のハンドルネームをタップして相手のマイページに飛び、間違いなく俺が憧れているshinさんだということを確認すると、とりあえず送られてきたメッセージのスクショをとり、さてどう返信したものかと頭を悩ませる。
仕事のメールだったらこんなに頭を悩まさずともすぐに作成できるのに。
憧れの人からのまさかすぎるメッセージに、どう返せばいい印象を与えられるか、不快に思われないか、やり取りを続けたいと思ってもらえるか…。
散々考えに考え抜いた結果、やっぱり普通が一番だろうということで打ち込んだのは至ってシンプルな文章。
『shinさん
初めまして。
ずっとshinさんの筋肉画像を素敵だなと思って見ていたので、メッセージを頂けてとても嬉しいです。
その上俺の投稿画像まで褒めて下さってありがとうございます。
こちらこそ、是非仲良くしてやって下さい。
よろしくお願いします。
aya』
今までshinさん宛に一度も押されたことの無かった送信ボタン。
それを初めてタップした瞬間、とてつもない達成感に包まれた。
だけどそれは次の瞬間、途方もない不安へと変わる。
「…どうしよう、ちゃんと返事くるかな…ちょっとあっさりしすぎだったかな…冷たい奴って思われないかな…」
部下達を叱り付ける時には1ミリも感じたことの無いネガティブな感情が次から次へと湧き上がってきて、いてもたってもいられない。
まるで恋する乙女のようだ。
あながち間違ってないけど。
再びスマホを枕元に起き、ベッドから降りて部屋の中をウロウロしていると、ブーッというスマホのバイブ音が聞こえ慌ててベッドに飛び乗った。
『ayaさん、早速の返信ありがとうございます。嬉しいです。
プロフィール読ませて頂いたんですけど、ayaさんってMなんですね。
しかも甘やかされたいタイプとか。
俺Sで甘やかしたいタイプなんで、そんなところも相性良さそうで嬉しいです(笑)
あ、それから、年齢も俺27歳で一つしか変わらないみたいなので、もし良かったら敬語無しで話しませんか?シンって呼んで下さい。』
もう、shinさんからのメッセージを読みながら、顔がニヤけるのを止められない。
「相性良さそうとか…どうしよ…嬉しすぎる…」
熱くなった顔を手でパタパタと扇ぎながら返信文を打ち込んでいく。
『もちろん、敬語無しで大丈夫だよ。
俺のことはあやって呼んでね。
そうなの。沢山いじめられたいし沢山甘やかされたいんだけどもう何年も恋人なんていないから寂しくて 。』
『ありがとう。あやって名前すごくかわいいよね。
そうなんだ?寂しいとかかわいいなぁ。
そんなこと言われたらいっぱいいじめていっぱい甘やかしてあげたくなっちゃう(笑) 』
「…きゃあぁぁ!やばい…妊娠しそう…むり…好き…」
ずっと手の届かない存在だと思っていたshinさん…もといシンと、こんな急激に親しげな感じでやり取りできるようになっただけでも嬉しいのに、かわいい、とか、いじめたい、とか、甘やかしてあげたい、とか…。
そんなこと言われてしまったらもうニヤニヤを通り越して最早真顔だ。
『えー、嬉しい。
じゃあ、仲良くなったらいっぱいいじめていっぱい甘やかして欲しいなー…なんて。
ごめんね、こんなの恋人にバレたら怒られちゃうね』
『大丈夫だよ、俺も久しく恋人なんていないから。
仲良くなって、あやをいじめたり甘やかしたりできる日が待ち遠しいな。
今夜はもう遅いから、また連絡するよ。
それまでいい子で待っててね。おやすみ。』
『俺も待ち遠しい。
うん、分かった。いい子で待ってる。
おやすみなさい。』
送信ボタンをタップして、スマホを枕元に置く。
おやすみなさい、と送ったものの、とてもじゃないが寝つけそうになかった。
…シン、恋人いないんだ…仲良くなったらいっぱいいじめてくれるって、いっぱい甘やかしてくれるって言ってた…。
まるで夢のような展開にドキドキが収まらない。
それに興奮したせいで、下半身が疼いて仕方ない。
俺はいそいそと部屋着のズボンと下着を脱ぎ捨て、再びスマホを手に取り画像フォルダに保存したシンの筋肉画像を開くと、会ったこともないシンに言葉責めされているところを思い浮かべながら、膨れ上がったソコを慰めた。
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