27 / 60
ドスケベ祓魔師
胸騒ぎ
しおりを挟む俺達が出会ってから、三ヶ月程が経ったある日。
夜仕事から帰宅すると、いつも出迎えてくれる筈のルカの姿がどこにも無く、代わりにテーブルの上に、魔界の文字で記されたルカからの伝言メモが置いてあった。
祓魔師である俺は、魔界の文字も一通り読むことができる。
ルカのメモには、
【▢▢通りの××さんの家にお手伝いに呼ばれたので行ってきます。ごはん冷めちゃってたら温め直して食べてね。】
とだけ書かれていて、それを見た俺は胸騒ぎを覚え、急いで家を飛び出した。
××という名前には聞き覚えがある。
その男は、相手が女だろうと男だろうと気に入った相手には手を出さないと気が済まないタチで、言葉巧みに自宅に招き、口外されぬよう脅しては手酷く抱くというゲス野郎なのだとクオンから聞いた事があったからだ。
実際、クオンの知人も被害に遭ったらしい。
そんな男の家にこんな夜遅い時間にルカが招かれたということは、そこで何が起きるのかなんて、火を見るより明らかだ。
▢▢通りは幸い、俺の自宅からそう遠くない。
だが困ったことに、正確な番地が分からない。
息を切らして街中を駆け抜けながら、自らの手の甲につけた契約の印を通してルカに呼び掛けた。
契約を結んだ悪魔とその主は、契約時につけた印に指を触れさせることで、離れたところにいても、声を出さなくても、意思を通い合わせることができる。
何度も何度も呼び掛けているとやがて、ルカの声が脳に響いてきた。
番地等の詳細な居住地を告げられた後、涙に濡れた声で、
『りひと、たすけて…』
と。
ルカはいくら戦闘が苦手とはいえ一応魔力を持つ悪魔なのだから、俺と出会った時のように弾き飛ばして逃げることだってできる筈なのにどうしてそれをしないのか。
というか、淫魔のくせしてなんで人間なんかに襲われてるんだ。
なんで。どうして。
ひたすらそればかりを繰り返し漸く目的地に辿り着くと、勢いに任せて木製のドアを蹴破った。
「ルカ!」
室内に入り目に飛び込んできたのは予想通り、下着一枚の姿でソファに押し倒されたルカと、そこに覆いかぶさりその甘い肌をベロベロと舐め回す男の姿。
突然ドアを蹴破り飛び込んできた俺に2人は驚き、こちらを見つめて固まっている。
「りひと…たすけて…っ」
先に硬直が解けたルカが弱々しい声で俺を呼ぶと、男も自分が置かれている状況に気付いたらしい。
「なんだお前…教会の神父じゃねぇか」
やや焦ったような表情を浮かべながらも、ルカを押さえ付ける手を離さないのはきっと、俺が聖職者だから。
この男は、この行いも全て許されるとでも思っているのだろう。
その上、
「聖職者が人の家のドアを蹴破って侵入してくるなんて、そんな手荒な真似していいのかよ?」
などと、まるで俺が悪者かのような口振りでほざいている。
…なんて愚かな。
「…そうですね。人様の御自宅の玄関を破壊し勝手に侵入するのは、あまり褒められた行為ではありませんね。通報しますか?…恐らく捕まるのは私ではなくあなたですが、それでもよろしければ…」
努めて淡々と言ってやれば、男はうぐっと言葉に詰まっている。
相手が何も返せないのをいい事に、俺はさらに続けた。
「神父としての私は、正しきものを助け、悪しきものは正しい道へ導き、全てを許します。ですが今は生憎勤務時間外。服も私服に着替えてしまっていますので…今はただの一人の男として申し上げます。
…ルカは俺の恋人だ。今すぐにその薄汚れた手を離せ。そして二度と俺達の前に姿を現すな」
あまりに冷たい俺の表情と声色に恐れを成したのか、男は怯えた表情で大人しくルカから身体を離し、悪かったよ、と詫びてくる。
まぁ、詫びられたところで許せる筈もないのだが。
床に落ちていたルカの服はビリビリに引き裂かれ、とても着られる状態では無かった為、俺は羽織っていたロングコートを脱いで彼の身体を包み込み、そっと腕に抱き上げる。
そのまま男の家を出ようとした時、ちょうどサイレンの音が近付いて来ていて。
去り際にとっておきの台詞を吐いてやった。
「あ、それから。御心配なさらずとも既に然るべき機関には通報済みですので…しっかりと法の裁きを受けて下さいね」
3
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?
通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。
王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。
周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。
※以前他のサイトで掲載していた作品です
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。
Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。
そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。
二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。
自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる