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ドスケベ祓魔師

胸騒ぎ

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俺達が出会ってから、三ヶ月程が経ったある日。
夜仕事から帰宅すると、いつも出迎えてくれる筈のルカの姿がどこにも無く、代わりにテーブルの上に、魔界の文字で記されたルカからの伝言メモが置いてあった。
祓魔師である俺は、魔界の文字も一通り読むことができる。

ルカのメモには、

【▢▢通りの××さんの家にお手伝いに呼ばれたので行ってきます。ごはん冷めちゃってたら温め直して食べてね。】

とだけ書かれていて、それを見た俺は胸騒ぎを覚え、急いで家を飛び出した。

××という名前には聞き覚えがある。
その男は、相手が女だろうと男だろうと気に入った相手には手を出さないと気が済まないタチで、言葉巧みに自宅に招き、口外されぬよう脅しては手酷く抱くというゲス野郎なのだとクオンから聞いた事があったからだ。
実際、クオンの知人も被害に遭ったらしい。

そんな男の家にこんな夜遅い時間にルカが招かれたということは、そこで何が起きるのかなんて、火を見るより明らかだ。

▢▢通りは幸い、俺の自宅からそう遠くない。
だが困ったことに、正確な番地が分からない。

息を切らして街中を駆け抜けながら、自らの手の甲につけた契約の印を通してルカに呼び掛けた。

契約を結んだ悪魔とその主は、契約時につけた印に指を触れさせることで、離れたところにいても、声を出さなくても、意思を通い合わせることができる。

何度も何度も呼び掛けているとやがて、ルカの声が脳に響いてきた。

番地等の詳細な居住地を告げられた後、涙に濡れた声で、


『りひと、たすけて…』


と。

ルカはいくら戦闘が苦手とはいえ一応魔力を持つ悪魔なのだから、俺と出会った時のように弾き飛ばして逃げることだってできる筈なのにどうしてそれをしないのか。
というか、淫魔のくせしてなんで人間なんかに襲われてるんだ。

なんで。どうして。

ひたすらそればかりを繰り返し漸く目的地に辿り着くと、勢いに任せて木製のドアを蹴破った。


「ルカ!」


室内に入り目に飛び込んできたのは予想通り、下着一枚の姿でソファに押し倒されたルカと、そこに覆いかぶさりその甘い肌をベロベロと舐め回す男の姿。

突然ドアを蹴破り飛び込んできた俺に2人は驚き、こちらを見つめて固まっている。


「りひと…たすけて…っ」


先に硬直が解けたルカが弱々しい声で俺を呼ぶと、男も自分が置かれている状況に気付いたらしい。


「なんだお前…教会の神父じゃねぇか」


やや焦ったような表情を浮かべながらも、ルカを押さえ付ける手を離さないのはきっと、俺が聖職者だから。
この男は、この行いも全て許されるとでも思っているのだろう。

その上、


「聖職者が人の家のドアを蹴破って侵入してくるなんて、そんな手荒な真似していいのかよ?」


などと、まるで俺が悪者かのような口振りでほざいている。

…なんて愚かな。


「…そうですね。人様の御自宅の玄関を破壊し勝手に侵入するのは、あまり褒められた行為ではありませんね。通報しますか?…恐らく捕まるのは私ではなくあなたですが、それでもよろしければ…」


努めて淡々と言ってやれば、男はうぐっと言葉に詰まっている。
相手が何も返せないのをいい事に、俺はさらに続けた。


「神父としての私は、正しきものを助け、悪しきものは正しい道へ導き、全てを許します。ですが今は生憎勤務時間外。服も私服に着替えてしまっていますので…今はただの一人の男として申し上げます。
…ルカは俺の恋人だ。今すぐにその薄汚れた手を離せ。そして二度と俺達の前に姿を現すな」


あまりに冷たい俺の表情と声色に恐れを成したのか、男は怯えた表情で大人しくルカから身体を離し、悪かったよ、と詫びてくる。

まぁ、詫びられたところで許せる筈もないのだが。

床に落ちていたルカの服はビリビリに引き裂かれ、とても着られる状態では無かった為、俺は羽織っていたロングコートを脱いで彼の身体を包み込み、そっと腕に抱き上げる。

そのまま男の家を出ようとした時、ちょうどサイレンの音が近付いて来ていて。
去り際にとっておきの台詞を吐いてやった。

「あ、それから。御心配なさらずとも既に然るべき機関には通報済みですので…しっかりと法の裁きを受けて下さいね」
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