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幼少期編

9.家族の絆

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「見つけた」

オブシディアンがそうボソリと呟くと先ほどまで鷲掴みにしていたメイルの頭をポイっとはなす。

「おっと、本当頼むから丁寧に扱って!」

「ふん、それより分かったぞ、このガキに呪いをかけたやつ。」

可哀想に、メイルがプルプル震えているじゃないか。

「んで?誰よそれ。」

「ゲスン伯爵とやらだな。どうする?」

「あー、呪い返しとかって出来る?」

そう俺が言うとニヤリとオブシディアンが笑い

「できるぞ」

と言った。

「やってやろうか?」

「頼むわー」

そんな軽いやり取りが行われると同時にオブシディアンから再び黒い影がブワッと広がりメイルを包み込む。

「ちょ、これ本当に大丈夫なの!?」

「ふん、誰にものを言っている。この悪魔公爵に出来ないものなどない。」

あ、そーですか。

そしてしばらく待つとメイルが黒い影から姿を現す。

「メイル様!髪の毛!髪の毛が元の金髪に戻ってるぞ!」

「え...?」

ポカンと口を開けたままのメイルに鏡を無理矢理持たせる。

「ほら!良く見てみろよメイル様っ!オブシディアンも、ありがとな!」

そう言ってにっこりと笑った。

「クヒヒッ、後はイズリルの魂を貰うだけだな、楽しみだ。そうだ、お前の腕の傷も治してやろう」

「え、治癒魔法も使えるの?悪魔なのに?」

そう言うとオブシディアンは俺の腕を取ると傷口を舐めた。

そう、舐めたのだ。

「ぎゃーっ!!何をする気持ち悪い!!」

「クヒヒッ、イズリル、お前の血は甘いな」

ゾワワっ

「あ、でも傷治ってる。凄い。」

「そんな事よりそこのガキは放っておいて良いのか?」

「あっ、そうだった。メイル様っ!良かったな!」

「あ、うぅっ、ヒック!イズリルーっ!」

そう言うとガバッと抱きついてきた。

「ははっ、泣き虫は相変わらずか!」

「わあぁぁーんっ!」

「沢山泣いておけ!もう涙が枯れるくらい泣いておけ!そして笑っとけ!な?」

「ゔんっ、へへっイズリル、ありがとゔっ!」

そう言って笑ったメイルはふと力尽きたかの様に俺に抱きつきながら眠った。

「このガキ、私のイズリルにベタベタ触りやがって。」

「誰がお前のだ。やめろ、鳥肌が立つ!でも流石にこのままにはできないからオブシディアン、メイルの部屋まで一緒に運んでくれない?」

「なぜ私がこんなガキを抱えなければいけない、お前ならまだしも。」

「いや、俺を抱えてどうするんだよ。良いからほら、早く!お父様にも状況を説明しないといけないからな。」

「ふん」

オブシディアンが鼻で笑うとメイルを肩に担いだ。

「だから丁寧に扱って!」

「これが私の精一杯の丁寧だ。文句を言うな」

運んでもらう以上文句は言えない。

むむむっとした表情を浮かべながらも一緒にメイルの部屋に運んだ。





ゴクリ。
今俺はお父様の執務室の前にいる。
きっと今回は本当に怒られると思う。

それはもう烈火の如く。

「入らないのか?イズリル」

「お前は呑気で良いねえオブシディアン」

はぁ、覚悟を決めるか。

コンコンッ

「お父様、イズリルです。入ってもよろしいでしょうか?」

「入りなさい」

ガチャッ

入った瞬間俺の顔を見てお父様の顔が驚愕しているのがわかる。

わかる!そうだよね!いきなり息子の左目が黒く染まってたらビックリするよね!ゴメン!

「イズ...っ、その瞳はどうしたのだっ」

「これはね、そのー、何と言うか、悪魔召喚の契約の証らしい...です。」

「あ、悪魔召喚だと!?正気かイズ!何を代償にした!?」

おや?悪魔召喚に代償がいる事を知っているのか?

「いいかイズ、悪魔召喚だなんて物には代償がつきものだ。そのくらいは俺とて分かるぞ」

ギロリと睨まれ言葉に詰まる。

「うっ、そうですね、寿命が尽きたら魂を渡すと...。」

「魂だと!?いったい何を願った!どの悪魔を召喚したのだ!!」

「クヒヒッ、必死だな、人間。そんなに我が子が大切か?残念だがこの子供はもう私のものだ。」

「貴様っ!」

「貴様だと?私にはオブシディアンという立派な名前がある。そちらの名前で呼んでもらおうか、人間。」

そう言うとオブシディアンがこの部屋に重圧をかけ始めた。

「ぐっ!...オブシディアンとやら、貴殿がイズが召喚した悪魔か」

「その通り、私の位は悪魔公爵。名前はオブシディアン、イズリルからもらった大切な名だ。イズリルの寿命が尽きた時、その時は私が魂を貰うと契約をした。寿命で命が尽きるその時までは守ってやる約束までした。本来なら呼び出したその時点で命は無いのだが今回は例外だ。イズリルの魂が欲しいからこの条件で契約をしてやったのだ。むしろありがたく思うが良い。まぁもう二度と輪廻転生の輪には帰れないがな、あ、ついでにあのガキの呪いも解いてついでに呪い返してやったぞ。」

「ガキ...まさかっ、メイル様の事っ...か!」

「そう、そのガキだ。今は部屋で寝ている」

フッと重圧が解けてお父様は椅子に深く座るとはぁ、とため息をつく。

「イズ、メイル様は、髪の毛は...」

「も、勿論元の金髪に戻りましたよ!大丈夫です!あと、メイル様を呪った張本人はゲスン伯爵です。オブシディアンが調べてくれました。後は呪い返しをしてもらったのでゲスン伯爵は髪が黒くなっているかと!」

「そうか...分かった。こちらへ来なさい、イズ」

「は、はい、お父様」

トトトっとお父様のところへ行くとギュッと抱きしめられた

「お、お父様!?」

「お前がある日突然性格がガラリと変わって俺は混乱した。もちろんリリアンもだ。だが元気になったと、二人で喜んでいたのだ。もちろんセバスもだ。屋敷のみんなも元気すぎるお前を見てこれからの成長が楽しみだと。だがこんな危険な事、もう二度としないでくれ。悪魔召喚なんて、自分の魂を代償にするなど、正気の沙汰じゃない。自分の命をかえりみないお前を見ていると怖いのだ。」

何とお父様が泣いてしまった

ど、どうしよう!

「お、お父様っ、申し訳ありませんでした。危ないことはもうこれきりです。それに考え方を変えれば寿命以外で死ぬことはありません!」

「だが輪廻転生の輪にはもう二度と戻れないとオブシディアン殿が言っていた。次の輪廻転生ができないと言うことはもう二度と私たちには会えないと言うことだ!」

「お父様...」

「頼むから、もう大人しくして言う事を聞いてくれ。俺はお前を失うのが怖いのだ。」

「はい、お父様」

コンコン

「あなた、先ほどの膨大な魔力はいったい?」

ガチャリと空いた扉にはお母様が心配そうにこちらを覗いていた

「お母様」

そう言ってお母様の方を見るとお母様の目が見開かれた。

「イズ、その目は一体...?」

先ほどお父様にした説明をもう一度するとお父様と一緒にお母様まで俺を抱きしめてきた。

「イズ、イズ、そんなのあんまりだわ!!何とかならないの!?」

「お母様、これは俺が望んでやった行動の結果です。後悔はしていません。公爵家の顔に泥を塗らぬ様左目は常に眼帯をつけて過ごす様にはしますが...」

「そんなことどうでも良いのよ!!貴方が魂をかけてまで成し遂げなければならなかったことなの!?」

「ある程度覚悟はできてましたし、友達が苦しんでるのを見て見ぬふりはできませんでした。」

「イズ...貴方のそう言った優しい性格は変わってないのですね。分かりました。イズにはメイル様の事をきちんと話さなければなりませんね、あなたも、イズにきちんと話しましょう」

「ああ、そうだな、イズ、そこの椅子に座りなさい。」

それからメイルがこの国の第一王子だと言うことや第二王妃派の過激派が今活発的になっていること、あのメイドの賊はゲスン伯爵家の間者だった事、色々と教わった。

「分かりました。お父様の友達の王様にはこの事丸っと全部伝えてもらって構いません。信用しているので。」

後は俺の出る幕はない様だな

後はメイルの心の回復次第か

「後もう一つ、オブシディアン、人の記憶って弄れる?」

「何だ、記憶の改竄か、簡単だぞ?誰かにして欲しいのか?」

「ああ、メイル様に」

「なんだ、あのガキか」

「ちょっと待て、イズ、何故殿下にそんな事を?」

「きっと俺が魂を代償にメイル様を助けた事、負い目に感じると思うんだ。だからメイル様がこの屋敷に来た記憶を曖昧にしたい。どこかの貴族の屋敷に行ったら呪い解いてくれた人がいたーくらいにぼんやりとさ!」

「...イズはそれでいいのか?友達ができたと喜んでいただろ?」

「俺が覚えておけばそれはもうずっと友達だから大丈夫!残された時間を使ってたくさん思い出作るよ、俺がね!」

「何故私があのガキのためにそこまでしなければならないのだ」

「何でそんなにメイル様のこと嫌いなんだよ」

「イズリル以外はどうでも良いだけだ」

「何なのお前、本当に疲れる!」
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