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EP4 闇に溶ける懺悔4 後始末
別れ2
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「……帰らない」
「えっ?」
「帰らない。帰るのは今じゃないと思う、から」
しぃんと静まり返る。
瑞雪は呆れたような顔を、トツカは興味深そうな顔をそれぞれしていた。
夏輝はと言えば、目を見開き、泣きそうになりながらも頭をぶんぶんと横に振った。
「駄目だよ……!帰らなきゃ!だって、地球にいたら今回みたいに君を狙う奴も出てくるかもしれない。殺しあいだって……」
「帰らない!お前だって、俺が帰ったとしても羊飼いをどうせ続けるだろ?もう見て見ぬふりなんて出来ないんだから。お前はそういう性格じゃないか!」
「そ、それは……」
「それに!俺は……もっとお前と一緒にいたいって、そう言ってるんだ。だから、まだなんだ」
「ラテア……」
がるる、と喉の奥で軽く唸りながら叫ぶ。
「お前は……お前はどうなんだよっ。俺なんて厄介者は帰った方がいいのか?」
「そんなことないっ!」
俺の言葉を、夏輝は即座に否定する。
「俺だって、ラテアと一緒にいたいよ!……君が離れていくのは、心が張り裂けてしまいそうなんだ。ラテアが連れ去られてから、生きた心地がずっとしなかった。……笑顔で送り出してあげなきゃって思えば思うほど、無理だってわかっちゃった。ラテアの事が、好きなんだ。大好きなんだ」
夏輝が俺を抱きしめる。
強く強く、体が軋むほどに。
心がぽかぽかと、温かなもので満たされる。そしてそれは同時に、レイにとても残酷なことをしていた。
「答えは決まったみたいだな。それじゃあ……俺は行くよ。世話になったな。……出来れば、二度と会わないでいられるといい、な」
誰も何も声をかけられない。
軽く頭を下げ、レイは背中を向ける。
ロセにも帰れない理由があることを俺は知っている。しかし、俺の口からレイに伝えることはできない。
そんな資格は、部外者の俺にはない。
けれど、レイがこのままエデンに戻ったとして、彼に居場所はあるのだろうか。
弱った母親がいるとは言っていたけれど、レイとその母親に救いは果たしてあるのか……考えたところで偽善でしかなく、俺に出来ることもない時点で考えるだけ無駄だということはわかっている。
それでも、頭の片隅から追いやるには重すぎる事実だった。
『ラテアさん』
(お姉さんと話すか?)
『そうですね。出来れば……お願いしたいです』
(もちろん)
グリーゾスが心の中でそっと語り掛けてくる。
俺は頷き、グリーゾスに身体の操作権を譲る。彼女なら悪用はしないという確信があった。
俺は彼女を信じていた。俺だけじゃなく夏輝もそうだろう。
「お姉さま」
「……グリーゾス、なのか?」
「ええ」
一歩俺の身体を借りた彼女が前に出る。
カタマヴロスの燃える焔の瞳がグリーゾスを見つめる。
手がぴくりと動き、俺へ向かって手が伸びる。
伸ばそうとして、途中で止まる。
「……お前は、これからどうするんだ?」
しばしの沈黙の後、カタマヴロスが言葉を喉から絞り出す。
眉根を潜め、唇を噛む。
睫毛がふるりと震え、その瞳には深い悲哀が滲んでいた。
「わたくしは、残滓でしかありません。ですが、まだやることがあります。わたくしは、もうしばらくラテアさんと一緒に過ごしますわ。わたくしが出来ることを、して差し上げたいのです」
彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
履かなくて、優しくて、けれどとても強い。嵐にも負けない一凛の花のような、そんな笑みだろう。
グリーゾスの言葉にカタマヴロスは目を伏せる。
「そう、か。お前がその選択をするなら、俺は姉としてお前の選択を尊重する」
「お姉さまこそ、これからどうしますの?」
「俺か?お前がその狐小僧と一緒にいるなら、暫くは地球にいようかな。故郷ももう、ないし」
二人の竜たちの故郷は、既に勅使河原に滅ぼされている。
グリーゾスの記憶と共鳴したときに見た光景。
決して許せぬ侵略行為。地球人の大多数が知ることのない凶行だった。
「会いに来てくださいますか?」
「おう。勿論だ」
「カフェ”朱鷺”によくいますから……。お待ち、しておりますね」
僅かに甘えるようなグリーゾスの視線に、カタマヴロスは優し気な笑みを浮かべて頷いた。
そして翼をはためかせ、空へと消えていった。
まだ、永遠の別れではない。けれどいつか必ず、そう遠くない未来に来るのだろう。
それは、俺と夏輝も同じなのかもしれない。
俺は生きていればいつかエデンに帰る日がやってくるのだろう。
「俺達も支部に戻るぞ」
「報告しなくてはな」
カタマヴロスが見えなくなったところで瑞雪が俺達に声をかけ、トツカが同意する。
戦いはようやく終わったのだ。
「えっ?」
「帰らない。帰るのは今じゃないと思う、から」
しぃんと静まり返る。
瑞雪は呆れたような顔を、トツカは興味深そうな顔をそれぞれしていた。
夏輝はと言えば、目を見開き、泣きそうになりながらも頭をぶんぶんと横に振った。
「駄目だよ……!帰らなきゃ!だって、地球にいたら今回みたいに君を狙う奴も出てくるかもしれない。殺しあいだって……」
「帰らない!お前だって、俺が帰ったとしても羊飼いをどうせ続けるだろ?もう見て見ぬふりなんて出来ないんだから。お前はそういう性格じゃないか!」
「そ、それは……」
「それに!俺は……もっとお前と一緒にいたいって、そう言ってるんだ。だから、まだなんだ」
「ラテア……」
がるる、と喉の奥で軽く唸りながら叫ぶ。
「お前は……お前はどうなんだよっ。俺なんて厄介者は帰った方がいいのか?」
「そんなことないっ!」
俺の言葉を、夏輝は即座に否定する。
「俺だって、ラテアと一緒にいたいよ!……君が離れていくのは、心が張り裂けてしまいそうなんだ。ラテアが連れ去られてから、生きた心地がずっとしなかった。……笑顔で送り出してあげなきゃって思えば思うほど、無理だってわかっちゃった。ラテアの事が、好きなんだ。大好きなんだ」
夏輝が俺を抱きしめる。
強く強く、体が軋むほどに。
心がぽかぽかと、温かなもので満たされる。そしてそれは同時に、レイにとても残酷なことをしていた。
「答えは決まったみたいだな。それじゃあ……俺は行くよ。世話になったな。……出来れば、二度と会わないでいられるといい、な」
誰も何も声をかけられない。
軽く頭を下げ、レイは背中を向ける。
ロセにも帰れない理由があることを俺は知っている。しかし、俺の口からレイに伝えることはできない。
そんな資格は、部外者の俺にはない。
けれど、レイがこのままエデンに戻ったとして、彼に居場所はあるのだろうか。
弱った母親がいるとは言っていたけれど、レイとその母親に救いは果たしてあるのか……考えたところで偽善でしかなく、俺に出来ることもない時点で考えるだけ無駄だということはわかっている。
それでも、頭の片隅から追いやるには重すぎる事実だった。
『ラテアさん』
(お姉さんと話すか?)
『そうですね。出来れば……お願いしたいです』
(もちろん)
グリーゾスが心の中でそっと語り掛けてくる。
俺は頷き、グリーゾスに身体の操作権を譲る。彼女なら悪用はしないという確信があった。
俺は彼女を信じていた。俺だけじゃなく夏輝もそうだろう。
「お姉さま」
「……グリーゾス、なのか?」
「ええ」
一歩俺の身体を借りた彼女が前に出る。
カタマヴロスの燃える焔の瞳がグリーゾスを見つめる。
手がぴくりと動き、俺へ向かって手が伸びる。
伸ばそうとして、途中で止まる。
「……お前は、これからどうするんだ?」
しばしの沈黙の後、カタマヴロスが言葉を喉から絞り出す。
眉根を潜め、唇を噛む。
睫毛がふるりと震え、その瞳には深い悲哀が滲んでいた。
「わたくしは、残滓でしかありません。ですが、まだやることがあります。わたくしは、もうしばらくラテアさんと一緒に過ごしますわ。わたくしが出来ることを、して差し上げたいのです」
彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
履かなくて、優しくて、けれどとても強い。嵐にも負けない一凛の花のような、そんな笑みだろう。
グリーゾスの言葉にカタマヴロスは目を伏せる。
「そう、か。お前がその選択をするなら、俺は姉としてお前の選択を尊重する」
「お姉さまこそ、これからどうしますの?」
「俺か?お前がその狐小僧と一緒にいるなら、暫くは地球にいようかな。故郷ももう、ないし」
二人の竜たちの故郷は、既に勅使河原に滅ぼされている。
グリーゾスの記憶と共鳴したときに見た光景。
決して許せぬ侵略行為。地球人の大多数が知ることのない凶行だった。
「会いに来てくださいますか?」
「おう。勿論だ」
「カフェ”朱鷺”によくいますから……。お待ち、しておりますね」
僅かに甘えるようなグリーゾスの視線に、カタマヴロスは優し気な笑みを浮かべて頷いた。
そして翼をはためかせ、空へと消えていった。
まだ、永遠の別れではない。けれどいつか必ず、そう遠くない未来に来るのだろう。
それは、俺と夏輝も同じなのかもしれない。
俺は生きていればいつかエデンに帰る日がやってくるのだろう。
「俺達も支部に戻るぞ」
「報告しなくてはな」
カタマヴロスが見えなくなったところで瑞雪が俺達に声をかけ、トツカが同意する。
戦いはようやく終わったのだ。
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